事件です 「高揚感」
やばいです。あんな事件が起こるなんて・・・
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「お誕生日おめでとう!!」
今日は8歳の誕生日を迎える事が出来ました。天気が良かったので外の敷地内で行われた。
お礼の言葉を言わないといけないので年相応に言ってみる。小学校の学芸会のような棒読みチックな言い方で。
「ほんじつは、わたしのおたんじょうびに、おあつまりくださり、ありがとうございます。きょうはいっぱいたのしんでね。」
ロシュフォール家は王国の中の五大貴族の1つだけあってかこんな私の・・・5人兄弟の末っ子でどうでも良い立場の人間の誕生日でも集まってきてた。プラチナお母さまが事前に手配をしていてくれたようだ。とは言っても誕生日にかこつけた貴族、名家、有力な商人の顔合わせ、面通し、情報交換の意味合いが強い。そして用意された料理がほとんど減ってない。作ったコックさんがかわいそうになる。少しでも食べておこう。
8歳児言いそうなの無難な挨拶を一通りこなしたら横に立っていたオスミウムお父さまが続けて要約して言ってくれた。
「本日はロシュフォール侯爵家、三女セレンの誕生日に集まってくれてありがとう!」
「今日は普段の喧騒を忘れて楽しんでいってくれ!今後ともセレンをよろしく頼む!」
簡潔に挨拶をしてその後に各家と挨拶をする
最初に挨拶するのは五大貴族の方々や国王の代理の方、代理といっても国王家の血筋の方である。
「シメイ国王の代理の・・・」
「オルヴァル侯爵家の・・・」
「ウエストマール侯爵家の・・・」
「ウエストフレテレン侯爵家の・・・」
「アヘル侯爵家の・・・」
今日の為に新調したドレスの端と端を摘み、少しだけ足を曲げて挨拶をした。テンプレ通りの挨拶をしたらほとんど親同士の会話なので緊張しつつも退屈ではある。値踏みされてる感があるし将来の親族の結婚の相手になるかどうかも見ているのだろう。しかし今は気にしても仕方が無いから気にしないでおこう。
一通り挨拶をしたら父の元から一端離れて隅でジュースを飲んで休憩。同世代の子供達と一緒にお話しをしてるのが一番気が楽。とは言っても魂は20歳ではあるが。子供同士でキャッキャウフフしているところを親が遠くで見ているが、話しに夢中で子供を見失ってる親もいる。子供達の周りを護衛の騎士がいるのだから迷子になる事は絶対無いのではあるが。
パーティーの中ほどで守護霊アズラエル様が耳元で声を掛けてきた。聞えるのは自分だけだが・・・
「ここに悪意が近づいているわよ。気が付いている?5つだけど注意してね。」
自分は気が付かなかったので守護霊アズラエル様直伝の探知探索の結界魔法を張った。半径500m位しか張れない。守護霊アズラエル様は半径100km位は張れると言っていた。嘘を言っている感じもないし嘘をつく理由も無いから本当なんだろう、だって大天使だし。
5体の空飛ぶ巨大な何かが急速に近づいていた。一直線に高速で移動できるという事は空から来るのが予想できる。私はテーブルの上の食器、銀器のミートナイフを隠し持ちローソクの炎から力をミートナイフに寄与させて不測の事態に備えた。
「来た!!」
家の塀の外から3つ巨大な影を落とす。出席者の全てが巨大な影の先に視線を向けた。
護衛の騎士の一人が叫ぶ。
「ワイバーンだ!!迎撃しろ!」
「ギャギャギャギャギャギャ!!!」
ワイバーンは叫び声をあげ、その声に呼応するように辺りの出席者は混乱を極め、助けを求め泣き叫ぶ者、恐怖で動けぬ者、走って建物に逃げ込もうとする者様々だった。
号令と共に護衛の騎士が臨戦態勢に入った。ただ、パーティーの護衛で来ているのでその装備はほとんど軽装に近いものでワイバーンを相手するには少し心許ない。護衛総数は騎士と魔法使いを合わせて約50~60人3体相手では厳しいようだ。そして気になる・・・
「探知では5体だったはず・・・3体しか現れていない。後2体は!?」
違和感を感じて自分一人だけ周りを確認しつつ探知探索魔法に集中した。
「居た!!」
3体のワイバーンの見つめている人たちの背中側から残りの2体現れた。しかも自分の居る場所の真上だった。誕生日会の会場は挟まれた形。私の周りには泣き出しているさっきまで遊んでた子供達と子供を抱き抱え座り込み身震えているドレスのご婦人方。
5体のワイバーンに挟まれて絶望的な状況。そのような状況でも逃げる事が出来ない騎士と魔法使いが気の毒でならない。
自分も逃げられない状況なのにそんな状況なのに私は高揚感で支配されていた。
子供達の中で自分は真上のワイバーンを見ていた。右手には炎の属性付きのミートナイフを握って掲げていた。ワイバーンと目が合ったようで怖がらない私に向かい叫び声をあげた。
「ギャギャギャギャギャギャーーー!!!」
そして私に攻撃を加えようと急降下してきた。攻撃ではないかもしれない、もしかしたら食べようとしてたのかもしれない。8歳児の女児なんてオヤツみたいなものだろう。
楽しい。はっきり言って楽しい。でもこんな事を思う自分は異常だ。それははっきり言える。
グライダーのように滑空しながら急接近したワイバーンは私に狙いを定め、咬み殺そうと大きく口を開けて攻撃してきた。その攻撃を左にかわしつつ首筋にミートナイフを振り下ろす。ミートナイフから出る炎を纏った斬撃がワイバーンの首を切り落とす。切り落とされた首は吹き飛ばされたが体の方が子供達に向かっていた。それをとっさに無人の方角に蹴り飛ばす。