ギルド活動「致命的な問題」
とりあえず、馬車のある所に戻って来た。探知探索の結界魔法を張りつつ空間収納からアルビオン王国に来る時に使った水樽の台を置きその上に水樽、周りにパテーションで仕切り兼目隠しをし水樽に水を入れ誘電加熱で簡易のお風呂をこしらえた。その様子をスワローテイルの3人はただただ唖然としながら見ている。その後、椅子とテーブルを出してランプに火を灯し、市場で買った果物、干し肉、パンを出し、ポットに水を入れお湯を沸かしハーブティーを淹れた。一応間借りしているだろう広場だから焚火は憚られるのでそれは無し。
「食べてお風呂に入ったらしっかり睡眠取って下さい。本番は明日の朝からですから。」
「えっ・・・あっ・・・うん。」
ジャンヌさんが返事にならない返事をする。私は構わず話しを続け・・・
「スワローテイルの3人がメインで私はサポートですから」
そう言ってテーブルに促した。3人に食べてもらっている間に1人ずつ肌に触れ治癒の魔法を軽く施した。淡く体が光り程なくして消える。
私のやる事なす事全て見た事無いだろうから食事どころでは無いのだろう。ただ、その全てが3人の為の事であるのは理解して貰えてるはず。
光りが消えると同時に疲れが消え、重く感じた身体が軽く感じるようで・・・ソフィーさんが聞いてきた。
「今のは何?」
「治癒の魔法で身体を全回復させました。疲れは無いと思います。食べたらお風呂に入って精神的にリフレッシュさせて朝に備えて下さい。私はターゲットを見張ってます。ターゲットが明るくなって巣に帰って寝る時に叩きましょう。明日は念願のハンティングです。そして・・・笑って帰りましょうよ!」
私は満面の笑顔で言うと3人の目に力が宿る。良い事だ。
私の出した簡単な食事をガツガツ食べた。食べている時シーラさんが聞いてきた。
「サイレンちゃんは行動を開始する前に事ある事に寝ていたのはこうなると思っていたから?」
「あくまでも予測の上でです。でも、さすがに未来の事は分からないですよ〜。」
「この場所で暗闇の中を見張れるのは魔法の一種なの?」
「そうですよ。だから一度見つけられると逃げられないんです。」
3人は食事を終え、そのままお風呂に入ってもらった。お風呂に入れるとは思っていなかったようで・・・私も含め女性はお風呂好き。さっぱりすると気分も良くなるのは必然。ベストコンディションになってもらおう。そして1人ずつお風呂に入っているうちに食べた物の片づけをし、椅子に座り残った物を食べつつターゲットの動向を調べた。
そして3人はお風呂に入り馬車の中に消えて行った。寝袋を持っていたのでそれで寝るのだろう。馬車の中には水樽の様な積み荷も無いので余裕を持って寝れるはず。私は夜の静寂の中、虫の声と寝息の音を聞きながら今出来る事に集中した。夜明けまでまだまだ時間が掛かるがスクルド様の特訓を思えばどうって事無く・・・
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
朝、日の出と共にターゲットは素早く移動し一点の場所に止まり動かなくなった。恐らくそこが巣なんだろう。それが判明したので私は鍋を取り出す。そして深く朝の空気を吸い込む。
『スーーーーー・・・、ハーーーーー・・・』
朝の湿った落ち着いた空気、その空気の中に草の香りが混ざる・・・。早朝の空気はその時に起きた者しか吸えない特別なものだ。
私は鍋に水を張り玉ねぎと人参、ベーコンを賽の目に切って香草と共に入れ火属性の寄与した握りこぶし位の大きさの熱い石を鍋に入れた。『ジューーー!!』っと言う音と共にすぐに沸き、暫くしたらざく切りに切ったトマトとキャベツ、それと米状のパスタを入れさらに少し煮る。塩と胡椒で味付け。最後にチーズで味を調えた。私がテーブルの上で朝ご飯を作ってたら3人は起きた様で眠そうにしていたが作り終わる頃には身支度を済ませタオルで顔を拭いていつもの3人になっている。
「あ、おはようございます、ジャンヌさん。よく眠れました?」
「おはようサイレンちゃん、寝つきは最悪だったわよ。サイレンちゃんのせいで興奮しちゃったじゃない!でも、いつの間にか寝ていたけど。フフン♪」
「おはよう。そうよ、こんなに寝つきが悪かったのは初めてよ。でも悪くないわ。」
ソフィーさんジャンヌさんの後に続いて冗談で苦情を言う。その後シーラさんが現れて・・・
「サイレンちゃんおはよう。良い匂いね!これも魔法で出したの?」
「な!?失礼な!ちゃんと作りました!」
「「「「あははははは・・・。」」」」
3人にスープを器に入れ果物と一緒に渡しテーブルを囲み4人で朝食をとった。
食べている時に私から話す。
「巣が分かりました。そこから動いてませんので恐らくは寝ているか休養しているかと思います。」
その私の言葉に3人の食事の手が止まった。そしてジャンヌさんが口を開いた。
「シーラ、ソフィー今日で終わりにするよ!!」
そのジャンヌさんの言葉に2人は強く頷いた。3人は気合十分のようだ。
食事を済ませ各自準備を進めていると、ソフィーさんが自分の剣を鞘から抜く。瞳を閉じて剣を額に当て静かに何かを言っている。私は食事の片付けをしつつそれを見ていた。剣はとても古く刃こぼれをしていて・・・
「ソフィーさん、その剣、とても年季が入った剣ですね。」
「この剣は騎士団の払い下げ品で3人とも武器商で買ったんだ。その武器商が言うには材質は良いらしい。んで剣を使う時はお願いするのよ。『よろしくお願いします。』って。ちゃんと手入れもしてるのよ。意外だと思った?」
「いえ、そんな事は・・・」
私はソフィーさんの剣を持たせてもらい剣を見た。そして・・・使っている金属の材質は良さそうだ。だが致命的な問題を抱えている。刀身に薄くヒビが入っていて、戦闘中に折れたら命の危機だろう。私は意を決して正直に言う。
「ジャンヌさんとシーラさんの剣も同じ物ですか?」
「そうよ。パーティー結成した時に一緒の剣を買ったのよ。」
『う〜・・・』
私は悩ましくなり思わず小さく唸り声を発していた。そして・・・
「正直に言うとこの剣は危険です。戦闘中に折れますよ。」
ジャンヌさんとシーラさんの剣を見せてもらうと予想した通り問題を抱えていた。その事を指摘したら顔を青くして・・・
「ここまで来たのに・・・」
シーラさんが顔に悔しさを滲ませている。
「今回はここまで。サイレンちゃん、ここまでしてもらってすまないね。」
ジャンヌさんは撤収の意志を口にした。出鼻をくじかれ涙目ではあるが、それとは別に冷静で最良の判断が出来る人。だからこそリーダーなんだと思う。
『はぁ・・・』
思わず溜息が出てしまう。
そして今回の合同の依頼では勝手ながら私はサポートを回ろうと思ったので・・・以前私が剣を作った方法を施す。




