表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の夢でまた会いましょう  作者: うたまる ひろ
第4章・後編 首都攻防戦 ~廃工場街の激闘~
93/99

アレン・夢男 v.s. メルクリオ2

 アレンと夢男は、未だ痺れの抜けない身体を再び立ち上がらせた。

「う……や、野郎……」

「ま、まさかの電撃とは……」

 メルクリオの電撃は、骨の髄からガツンと殴られたかのような衝撃を二人に与えた。

 筋肉がブルブルと震え、力が入りにくい。

 死ぬほどではないが、喰らえばまともに行動ができなくなるくらいの威力はあった。

 フラフラと立ち上がる二人を見下しながら、メルクリオが気取るような笑みを浮かべた。

「どうだい、俺の電撃は? 酔いしれるだろ?」

「お二人とも、無事ですか!?」

「おっと、こっちへ来ちゃだめだよ、シニョリーナ(お嬢さん)」

 メルクリオが牽制するように、棒の先端をエマへと向ける。

「お嬢さんを傷つけるのは主義に反するもんでね。そこで大人しく見ていてくれよ」

 そう警告すると、メルクリオはパチリとウインクした。エマが嫌そうな顔で、うっ、と言葉を詰まらせる。

 ふいにメルクリオがアレンへと話しかけた。

「お前は……アレン・ゴードンとかいう奴か? 確かパーシーくんの報告にあったな。そんで、そっちのでっかいのは?」

 メルクリオが、マティアスに変身している夢男へと視線を移す。

「ってか、さっき何気に変身してたよな? もしかしてお前が夢男ってやつか?」

 夢男が強気の笑みを浮かべた。

「さぁ……どうなんでしょうね」

「つまらねぇ返ししやがって。変身能力なんて他に聞いたことねぇよ」

 そういうと再び、アレンへと顔を向ける。

「んで? お嬢さんを取り返しにやってきたって?」

「ああ、そうだ。カロルを返せ」

「ああ、そうかい。そりゃ駄目だ、返せない」

「どうせそう言うだろうと思ってたよ」

 冷やかすようなメルクリオの答えに、アレンが苛立ちを募らせる。

 と、そこへ夢男が言葉を挟んだ。

「……前々から疑問だったんですがね、あなた方特務機関は、いや、この場合デパルト王は、というべきでしょうが、あなた方が『世界樹の本』やカロル嬢を狙うそもそもの目的はなんですか?」

 その質問にメルクリオはきざな仕草で肩を竦める。

「そんなもん知らねーよ。王様が欲しいって言うから俺たちは手に入れる。それだけの話だ。国の秘密機関っつっても、実態はしがないお役所仕事さ。まぁ、ちいっとばかしヤクザな商売だけどな」

「なるほど……ではあなた達の長に聞いたらいいんですかね? 確かジョフロワ・マイヨールとか言いましたか」

 夢男の言葉に、メルクリオの眉尻がピクリと震えた。

「……なんでお前が機関長の名前を知ってるんだ?」

「私は耳ざとい方でしてね。ちょっと小耳に挟んだまでで」

「とぼけやがって」

 その苛立ちを表すかのように、メルクリオの眉間に皺が寄った。

「そういうお前らはどうなんだ? なぜ『世界樹の本』を手に入れようとする?」

「そちらが答えないなら、私も答える義理はありませんね」

「けっ、いけすかねぇ野郎だ。……そっちのアレンくんはどうなんだよ?」

「……俺は……正直言って、『本』なんてどうでもいい」

 アレンが答えた。

「カロルを奪われたから取り返しに来た。それだけだ」

「ほ~?」

 その答えを聞くと、なぜかメルクリオが楽しげな様子で目を眇め、しげしげとアレンを見回し始めた。


「奪われたって? へぇー、ほほーん……。じゃあ、なんだ、あのお嬢さんはお前さんの『イイ人』か何かなんか?」


 その言葉に、アレンが動揺した。

「い、いや、そういう意味じゃなくて……」

「ほーん、なるほどねぇ、そうかそうか。お嬢さんはお前さんのアモーレ(愛しい人)ってわけか。かぁーっ、そりゃあお前さんには悪いことしたなぁ! 自らの危険をも顧みず敵地に飛び込んで救出しようってわけな! いいじゃねえか、俺ぁそういうの好きよ? 俺はアレンくんのことが一瞬で気に入ったぜ!」

「だ、だから、違う! 俺は自分の雇い主を助けに来たんであって!」

「お姫様を助けに来た騎士様ってやつじゃねぇか! おいおい、お前は物語の主人公かなにかか? かっこよすぎるだろぉ!」

「だから、違う!!」

 メルクリオの言葉で、まるで物語の騎士のように膝をついてカロルの旅に同行することを宣言したあの夜が、一瞬で脳裏にフラッシュバックする。

 アレンはこんな状況にも関わらず、自分の顔がみるみるうちに紅潮していくのを止めることができなかった。顔や耳が熱くてたまらない。

 アレンはその羞恥心を誤魔化すかのように大声を上げる。

「こ、こんなときにふざけるな! とにかく、カロルは返してもらう!!」

「あ~そうだろそうだろ、そりゃそうだろ。自分のアモーレを奪われて奮起しないやつなんざ、男じゃねぇ。お前の気持ちはよ~くわかるぜ」

 メルクリオが感じ入るように何度も何度も深く頷く。

「もういい加減、この状況でふざけるのはよしてくれ!!」

「気持ちはわかるよアレンくん。気持ちは……な」

 にわかにメルクリオの目線が鋭くなる。

「だがなぁ……俺としちゃ、お前の味方になってやりたいところなんだが……状況は、そうは問屋が卸さねぇ」

 そう言って、メルクリオは手に持った長棒をぐるぐると回した。

 そして両手で受け止めると、アレン達に突きつけるように構えた。

「上司の命令なんでな。シャロンのお嬢さんは……渡せねぇよ!」

 そう言って、メルクリオが素早い刺突を繰り出してきた。

 二人が飛び退いたところにまばゆい紫電がバチリと弾ける。退避していたエマが驚いて身を竦めた。

「きゃっ!」

「エマはそこで身を守ってろ!」

 アレンがエマへと大声をかけている間に、夢男へとメルクリオが迫っていた。

 鋭い刺突を夢男がギリギリで躱す。

 マティアスの『ギフト』ではメルクリオの電撃とは相性が悪いと悟った夢男がその姿を変える。

「っ! おお!?」

 夢男が変身すると同時に一瞬でメルクリオの視界から消え失せる。

 メルクリオが驚きの声を上げていると、突然その後頭部が蹴られた。

「あがっ!」

 よろめくも、メルクリオは長棒を回転させながら後ろへと薙ぎ払う。夢男はそれを素早い身のこなしで躱し、後ろへと下がった。

 夢男の姿にアレンが驚く。

「夢男……その姿」

「ヤッカさんですよ。アレンさんも良くご存知でしょう?」

 夢男は、ヴィースの街で知り合った猫獣人の鳶職人、ヤッカの姿になっていた。

「マティアスに関しても思っていたが……お前、ヤッカのことどうして知ってるんだ? あの街にいたのか?」

「ええ、いましたよ」

「なんでだ?」

「今はおしゃべりしてる暇は……なさそうですよっ!」

 長棒が紫電をなびかせながら振り下ろされ、アレンと夢男は二手に分かれてそれを避けた。

「やってくれるなぁ、夢男さんよ!」

 メルクリオが不敵な笑みを浮かべて、夢男へと追撃する。

 夢男は、ヤッカのしなやかな体躯と空中を足場にする『ギフト』を駆使して、メルクリオの棒術をかいくぐりつつ攻撃するが、電撃の『ギフト』を警戒してか、やや距離を取った位置での攻防だ。

 メルクリオはその長身からくる長い手足を活かして、切れ味すら感じさせる鋭い棒術を繰り広げる。スーツに革靴とは思えぬ軽やかな身のこなしは、流石に機関員だけあって伊達ではない。

 アレンも攻撃を加えようと隙をうかがっているのだが、夢男と戦っている合間も、長棒の後端がアレンへと牽制してくる。

 長棒に触れられないというのが厄介極まりなかった。触れた途端にあの雷撃が襲ってくることは目に見えているからだ。おかげで、二人はうまくメルクリオの懐に飛び込めないでいる。

 戦況は膠着状態だ。

 そうやって攻めあぐねていると、夢男がアレンへと声をかけてきた。

「アレンさん! この男は私が引き受けておきますので、アレンさんはカロル嬢をっ!」

 アレンは夢男の言わんとする事を理解すると、すぐさまこれに頷いた。

「わかった!」

「おいおい、そんなの見逃すはずがねぇだろ!」

 メルクリオがアレンへと振り返りつつ、長棒の先端で地面を突いた。


 その瞬間、何条もの電光が床の上を広がる。

 バチバチという盛大な音が収まると、後には放射状の焦げ跡がカーペットに残された。


 ヤッカの『ギフト』により、空中へと逃れていた夢男を目の端に捉えつつ、メルクリオが呟く。

「……そりゃどういう『ギフト』だ?」

「さてな」

 メルクリオの目線の先には、黒玉の力で天井に張り付いたアレンがいた。

「夢男、悪いがここはお前に――」

「おっと、そんなわけにいくか!!」


 メルクリオが長棒を振るうと、その先端から手のひら大くらいの球電が放たれた。

 そして、高速で走るそれがアレンへと触れた途端、アレンの全身に電撃が走った。


「うあっ!」

 たまらずアレンは床へと落下してしまう。

 傍にあった机へとぶつかり、その上に乗っていた花瓶がカーペットの上へドンという重たい音を立てながら転がった。


「っ! アレンさん!」

「おっとお前もだ、夢男っ!」

 メルクリオが再び床を突き、夢男はその場から飛び退いた。


 すると、電光が床から天井へとまるで木の枝のように伸び上がった。


 夢男は間一髪それを避けていたが、メルクリオを挟んでアレンとは分断されてしまった形だ。

「アレンさん、無事ですか!?」

 夢男が声を掛けると、ゆっくりとだが、アレンが上体を起こした。

「だ、大丈夫だ……」

「大丈夫だと、俺が困るんだよなぁ」

 ゆらりと長身の影がアレンの傍に立つ。

「そのまんま、大人しく寝ててくれや」

 メルクリオがその長棒の先端をアレンへと向けた。

「そんなわけには……いかねえな」

 アレンは動くのもやっとというぎこちない動きで黒玉を投げつけた。

 黒玉がメルクリオへと吸い込まれると。


 アレンの傍に転がっていた花瓶がメルクリオへと勢いよくぶつかった。


「うごぉ!!」

 あまりにも突然のできごとに反応もできなかったメルクリオが、その衝撃によろめく。


「うおおお『黒玉』ぁ!!」

 アレンは更に、一つの黒玉を自分の身体に吸い込ませ、もう一つの黒玉を階段の手摺へと投げつけた。

 『ギフト』が発動し、黒玉の引力でアレンの身体が階段の下まで引っ張られる。


「てめぇ!」

 メルクリオが焦ったように球電を作ると、それをすぐさまアレンへと放った。

 球電が弾け、バチバチという耳障りな音と、空気を焼く独特の臭気が辺りを覆い尽くす。


「…………?」

 しかし、アレンにはその攻撃が届いていなかった。

 いつまでたっても予想したような電撃が襲ってこないことに疑問を覚え、その目を開けると――。


「っ!? エマ!」

 アレンの傍にエマが立ち、彼女の障壁で自分が守られたことに気付いた。


「おいおい……邪魔するなっていったじゃねぇかシニョリーナ。怪我してもしらねぇぞ?」

「ご心配頂きありがとうございますわ。ですが、そのご心配は無用のものです。なぜなら……」

 エマは前へと歩み出ると、手をかざした。すると。


 玄関ホールと廊下を分断するような形で障壁が張られた。


「……は?」

「こうすれば、あなたはこちら側へと来ることができません。私にも、アレンさんにも、あなたはもう手出しが出来ないのです」

 その言葉にうろたえるメルクリオ。

「お……おおおおっ!!」

 気合を込め、エマの障壁を長棒で攻撃する。

 攻撃された箇所はパキンという甲高い音を立て一瞬穴が開くが、すぐさまエマが障壁を貼り直してしまう。

「うっ!?」

 その様子を見たメルクリオは、今度は障壁に直に棒を突き立てると、電撃を放った。

 放射状に放たれた電撃は広範囲に障壁を割ったが、やはりすぐさま修復されてしまった。

 もとより三重に張られた障壁、そうそう簡単に破れるものではなかった。

「おいおいおいおい! まじかよ!?」

 メルクリオがこの障壁には手も足も出ないことを悟り、頭を抱える。

「アレンさん、大丈夫ですかっ!?」

「ああ……最初のよりはダメージ少ない……なんとか大丈夫だ」

 エマの声掛けにアレンが答えた。手すりにつかまりながら立ち上がって、手を握ったり開いたりして具合を確かめている。

「ここは私と夢男さんで足止めします! アレンさんは、カロル様をお探しになってください!」

「……すまない、いろいろと恩に着る!」

 それだけ言い残して、アレンは廊下の奥へと走り去っていった。


「……それで、どうします? 足止めというあなたの役目は、もう果たせないようですが」

 夢男が呆然と立ち尽くしているメルクリオへと声をかけた。

 メルクリオはエマと夢男をゆっくりと交互に見ると、頭をがっくりと落として、後頭部をボリボリとかきむしった。

 そうしてどこか諦めたような表情で苦笑した。

「あ~あ、まいったね、どうも……してやられたよ、シニョリーナ」

 メルクリオがエマへとウインクすると、エマは嫌そうな顔で、うっ、と言葉を詰まらせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最新話まで追いつきました!! 物語の最序盤の街リュテで起きた事件、カロル救出バトルは目を見張るものがあり、興奮ひっきりなしです!! マイペースで構いませんので、続きの更新を楽しみにしていま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ