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世界樹の夢でまた会いましょう  作者: うたまる ひろ
第4章・後編 首都攻防戦 ~廃工場街の激闘~
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特務機関・屋内2

 空薬莢が6つ、床へと落ちた。

 銃弾がチャンバーへと素早く装弾される。

 シリンダーを銃身に固定し、ノルベルトはギヨルパへと声をかけた。

「奴らの様子は?」

「う~ん……誰かに当たった気がするんだけどなぁ……でも元気に動き回ってるしなぁ……」

「急所じゃなければよくある話だ」

「う~ん…………よく分からないけど、とりあえず廊下には出てないから、まだ部屋に居るよ。人数分の足音が聞こえる」

「そうか」

 短い返事を返すと、ノルベルトが銃を構えた。

「ならば、排除し尽くすまで撃つだけだ」

 ノルベルトの手元から二発の銃弾が発射され、部屋の壁を貫通した。


 しかしその瞬間、ノルベルト達のいる部屋へも銃弾が打ち込まれた。

 後ろの壁に二発の銃痕が残される。


 ノルベルトは内心の驚愕を抑えつつ、真剣な表情でその弾痕を見つめる。

「ギヨルパ、奴らが撃ったのか?」

 逆毛だった尻尾をぴーんと天井に伸ばして固まっていたギヨルパが、ハッとした表情を浮かべながら答えた。

「わ、わかんない。撃った音は聞こえなかったと思う……」

「……俺の耳にも聞こえなかったが……」

 そういうとノルベルトは東側の壁を凝視した。

「ギヨルパ、念の為もっと伏せてろ。床に寝そべるくらいに」

「う、うん」

 ギヨルパが床へピッタリと身体を張り付かせる。

 なおも訝しげな表情を浮かべつつ、もう一発ノルベルトが発砲した。


 やはり銃弾がこちらへ撃ち込まれた

 その銃弾は西側の壁を抜き空の彼方へと消え去る。


 ギヨルパが唖然とした様子でその穴を眺める。

「ギヨルパ、奴らが発砲した様子は?」

「ううん、してなかった! 間違いなくしてなかった!」

 何かが起きているのは間違いない。

 西側の壁はそれなりに厚みのある石壁だ。ノルベルトのような能力でも無い限り、『貫通することはない』はずだ。

 そこまで考えた時、ノルベルトが「もしや……」と何かを考えつく。

「ギヨルパ、頭を伏せろ。確かめたい事がある」

 その言葉で、ギヨルパは無意識にもたげていた頭を慌てて下げる。

 ノルベルトは東側の壁に真正面に向かい合い、床に伏せた。

 ほんの僅か銃口を上に向けて、トリガーを引いた。


 再び打ち込まれた銃弾は、『天井に穴を穿った』。


 ノルベルトの眉間に深い皺が刻まれる。

「……いまので確信した。奴ら、どういう方法かは分からないが、俺の銃撃を『反射』している」

「ええっ!?」



「……上手くいったようですね」

「まさかこんな方法があったとは。うまく考えついたもんだな」

 夢男が呟き、アレンが感心するように目の前の『壁』をまじまじと眺めた。


 アレン達の前には、エマの『ギフト』で作った『壁』がある。

 今その壁には『二つの扉』が大きく口を開けていた。

 パーシーに変身した夢男が作った扉だ。

 エマに作らせた障壁に夢男が手を当てると、そこに一つの扉が現れたと同時に、そのすぐ隣にももう一つの扉が出現した。

 その扉はお互いに『繋がる』ように夢男が作ったものだ。つまり、片方の扉を入り口とすると、もう片方が出口になっているということだ。

 それが一体どういうことになるのか。

 先程、この部屋に再びノルベルトの銃弾が打ち込まれた。

 その銃弾は一方の扉へと吸い込まれ……もう片方の扉から出ていった。

 つまり、銃弾がやってきた方向へと、そのまま返された形だ。

 そうやって、この部屋へとやってきた銃弾は全てノルベルトの方へと送り返された。

 その壁の裏側にいるアレンたちには被害ゼロだ。

 完璧な『反射壁』の完成だ。


「壁の裏側は、特に変わることはないんだな。表側から見たときだけ扉が見える」

 アレンが、裏側から頭を出して、表側にできた扉をしげしげと眺める。

 表側から見ると夢男の作った入口と出口が二つちゃんと見えるが、裏側に回るととたんに見えなくなった。

 裏側の壁から透けて見える景色も、扉を作る前と特に変わったところは無く、以前と同じ部屋の景色だ。

「パーシーさんの『ギフト』は、その壁の裏側には影響しないんでしょうね。私も今初めて知りました」

 そうやって夢男とアレンが話している隣で、エマがそわそわと落ち着かない素振りを見せている。

 少しばかり頬が紅潮しているところを見ると、どうやら自分の『ギフト』が役に立ったことが嬉しいらしい。なんとなく得意げな表情をしているように見える。


「まぁ、それは良いとして」とボリスが二人の会話に割って入ってきた。

「ともかくも、エマと夢男のおかげで銃撃は防げるようになった。向こうもそれに気づいたようだ、次の弾を撃ってこねぇ。動くとしたら今だ」

「そうだな。急いで階下に向かおう」

 ボリスの言葉にアレンが返事する。エマが不思議そうな顔で問う。

「この階は確かめないのですか?」

「ああ。あれだけ貫通する弾をバンバン撃ってきてるんだ。この階にカロルが居たら、巻き込んじまう危険がある。奴らもそれは避けたいだろう」

 ボリスもアレンの言葉に頷きながら言葉を継いだ。

「同じ理由で、奴らの仲間もこの階には居ねぇだろう。きっとこの階には奴一人だけだ。奴の銃撃さえ防げれば、下に行ける」

 その場の全員が理解したことを、アイコンタクトで確認し合う。夢男が口を開いた。

「では早速動きましょうか。エマ嬢、廊下に前後二枚になるように壁を作れますか?」

「ええ、お任せください」

 夢男が部屋の扉を開くと、エマが素早く戸口まで移動し、廊下の前後を塞ぐように障壁を張った。

「で、パーシーさんの『ギフト』を使って……」

 夢男が前の壁に扉を作ると、後ろの壁にも扉が開いた。

 これで、前から来る銃弾は後ろの扉から抜けていき、その間に居る人間は安全に移動できるという寸法だ。

「建物の造り的に、階段は中央にあるでしょう。そこまで一気に駆け抜けましょう」

「ちょっとまってくれ」

 アレンが声をあげる。

「狙撃手も黙って俺たちを見逃すことは無いだろう。奴はどうする?」

「それについてだが、あいつは俺に任せちゃくれないか」

 ボリスがアレンの疑問に答えた。

「ボリスに?」

「ああ……実はさっきの壁を貫通してくる銃撃、あれを俺は戦場で見た気がする。もしかしたら俺の知ってるやつかもしれない。それを確かめたい。階段までたどり着いたら、お前たちは下に行け。奴は俺が対応する」

 ボリスの手の中の拳銃がカチャリと音を立てる。

「でも……一人でなんて危険だわ、ボリス」

「なに、心配するなお嬢。俺は戦場でも不死身の男と呼ばれた人間だ。俺の『ギフト』があればどうにでもなる」

 そう言ってニカっと笑うボリス。しかしエマは「さっき『ギフト』を過信するな、って言ったのはボリスじゃない……」と心のうちで密かに呟いた。

 反論したい気持ちはあったが、さっきのこともあってエマからは口出ししづらく、ぐっと口を噤んだ。

 アレンがきまり悪そうな様子で目を伏せ、ボリスに謝意を呟く。

「……分かった。巻き込んじまったのにすまない、ボリス。恩に着る」

「いいんだ」と、ボリスが答えた。


「…………もしも、あいつだったなら……むしろこのめぐり合わせに感謝したいくらいなんだ…………」

 そう呟くボリスの横顔に影が落ちる。落ち窪んだ眼窩の奥がギラリと光る。その光は冴え渡った刃のように鋭く、冷たい。


「ボリス……?」

 その目に何か危うい物を見た気がして、エマが思わず名前を呟く。

「お嬢。お嬢は自分の身の安全を第一に考えて行動してくれ。アレン、夢男、お嬢に傷一つつけるなよ」

「分かった」

「もちろんです」

「よし……行こう」

 エマが何かを言いかける前に、三人がエマの作った壁の間へと身を滑らせる。

 漠然とした不安が心の中に陰りを落とすが、それを振り払うように頭を振ると、エマも廊下へと出た。

 皆が壁の内側に陣取った。皆がアレンへと頷きかける。

 アレンはそれにうなずき返して、すぅ、っと息を吸った。

「……行くぞ!」

 アレンが号令を取ると、皆一斉に中央の階段に向かって走り出した。



「ノル、皆廊下に出た!」

 ギヨルパがアレン達の動向をノルベルトに報告する。

 ノルベルトは短く舌打ちすると帽子を脱ぎ捨て、部屋の出入り口へと急ぐ。

 扉の傍に座り込み、拳銃を構えた。

「……動いた!」

 ギヨルパの声とともに、ノルベルトが廊下へと半身を出し、二発発砲した。



 チュン、という空気を切り裂く音が二発、前方の扉に飛び込み、後方の扉へと抜けていく。

「よし、このまま行きましょう!」

 夢男が叫ぶ。

 ボリスが壁から半身を出し、前方へと銃を構える。


 その時、狙撃手の男の顔がボリスの目に映った。

 丸メガネの奥から覗く鋭い眼光。

 多少老けてはいるが、あの顔は忘れもしないアイツの顔で――。


 その瞬間、ボリスが咆哮した。


「うおおおおおおおおおおおっっ!!」


 銃の引き金を引く。

 銃弾は男の居た戸口へと叩き込まれ、木製の戸枠が弾ける。


「あった、階段だ!」

 夢男の読みどおり、階段は建物の中央部にあった。

 建物は玄関ホールを中央に据え、東西に一列に部屋が並んでいる格好だ。

 階段はその玄関ホールの部分に位置していた。


 アレン達が階段前へたどり着くと、一人ボリスが壁の裏側から躍り出て、銃を撃ちながら男の姿が見えた部屋へと突撃していく。

「ボリス!!」

「エマ嬢、こちらへ」

 思わず足を止めてしまったエマの手を夢男が引く。

「今はボリスを信じて前へ進もう!」

 アレンが何かを堪えるような顔つきで二人に声をかけ、階段へと足を踏み出す。

 後ろ髪引かれる思いを振り払いエマも階段を降り始めると、ボリスの向かった方角から銃声が鳴り響いた。

 エマは唇を噛んでこらえた。


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