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世界樹の夢でまた会いましょう  作者: うたまる ひろ
第4章・後編 首都攻防戦 ~廃工場街の激闘~
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止まらぬ銃弾

 ギヨルパを猛追するアレンだが、ギヨルパの駆け抜ける速さはそれ以上だった。

 みるみる内にギヨルパとの距離が広がっていく。

 彼女の行き着く先は真正面の建物だから、見失うということはないだろうが……。

 ギヨルパをこのまま逃してしまうと、カロルをどこか別の場所に移されてしまう可能性がある。

 そうなればカロルを再び見つけだすのは難しくなるだろう。

 アレンの胸中に焦りの気持ちが膨らむ。アレンは大声で後ろを走っている夢男へと声をかけた。

「夢男!」

「なんでしょう?」

「お前、パーシーかククに化けて先行できないか!? アイツがあそこに辿り着く前に捕まえたい!」

「そうですね。では……」

 そういうと夢男はククへと変身し、大きく跳躍するとそのまま風に乗ってツバメのように飛んでいく。


 前を走るギヨルパへと追いつくとそのまま彼女の頭上を飛び越え、あっという間に建物の前へと着地した。

「うわっ!」

 たどり着く目前だったギヨルパが、突然現れた夢男の姿に目を丸くして驚く。

「申し訳ありませんが、お仲間達に簡単に会わせるわけには行きませんよ」

「むむむ……!」

 ギヨルパがふくれっ面をしながら夢男を睨む。


「よし、このまま挟み撃ちだ!」

 アレンが気勢を上げ、その脚に力を込める。

「いや、待て青年」

 その時ボリスが建物の二階に誰かの人影が動くのを見た。

 その人影は窓辺から身を乗り出すと、何か細長いものを構えて……。


「いかんっ! 避けろ夢男おおお!!」


 ボリスの絶叫と共に、窓辺の男……ノルベルトが発砲したのはほぼ同時だった。


 夢男の胸を銃弾が貫いた。


「ぐっ……」

 夢男が苦悶の声を漏らしながら地面へとドサリと倒れる。


 ギヨルパはその横をすり抜け、あちこちにある出っ張りに手足をかけると、建物の壁をリスのように軽快に駆け上がり、ノルベルトが身を乗り出している二階の窓から直接中へと入っていった。

 排莢された薬莢が地面へとたどりつくよりも早く、ノルベルトが再び銃口を夢男へと向ける。


「うおおおおおおおおおっ!!」

 ボリスが雄叫びを上げながら長銃を構え、ノルベルトへと発砲した。

 ノルベルトが反射的に柱の陰へと身体を引っ込めると同時に、ボリスの銃弾が石造りの窓枠を削った。破片がパラパラと音を立てる。

「みんな散れえっ!! 建物の影に身を隠せぇ!!」

 ボリスは大声で叫ぶと、アレンを捕まえて手近な路地へと飛び込む。

 エマとロベールはアレンたちとは反対側の路地へと急ぎ走り、身を隠した。

「夢男! おい、生きてるのか!?」

 アレンが夢男へと大声で呼びかけるが、夢男はぐったりとして身動きが無いままだ。

「バカ! 危ねえから身を乗り出すな!」

 ボリスはアレンの首根っこを掴んで、自分の後ろへと下がらせた。

「お嬢たちも、危ないから顔を出すな!」

 反対側のエマたちへと声をかけると、改めてアレンへと顔を向ける。

「いいか、ここは俺が銃で牽制するから、その隙に……」

 ボリスがそこまで話した時だった。


 建物の壁を貫通した銃弾が、ボリスの腹部を撃ち抜いた。

 一瞬の遅れの後、甲高い銃声が鳴り響く。


「な……に……? こ、れは…………」

「ボリス!?」

 ボリスが膝から崩れ落ちる。驚愕したアレンがボリスを助け起こそうとすると。

「……っ!!」

「うお!?」

 突然ボリスがアレンを突き飛ばし、自分も身を伏せた。その瞬間。


 二撃目の銃弾が二人の間を通り抜けた。


「…………っ!」

 何が起きたか理解できずアレンが混乱していると、ボリスがガバリと上体を起こした。

「起き上がれ青年、ここはヤバい!!」

 焦ったように立ち上がるとアレンを引っ掴み、半ば引きずるようにして路地の更に奥の方へと引っ込む。

「ボリス!!」

 エマの叫び声が向こうの路地から飛んでくる。

「ボリス、大丈夫なの!?」

「お嬢!! 奥へ! そこは危ない! もっと奥だ、奥!」

 半ば絶叫に近い形で反対側のエマに指示を飛ばす。恐怖と驚きと混乱で顔を青ざめておろおろとするエマを、ロベールが後ろへと退避させるのが見えた。

「ボリス、傷は!」

「もう治した!」

 そう言ってボリスが腹部をバンと叩く。血が滲んでいるが、その下の肉体は『ギフト』で治したようだ。

 そう言っている間にもまた銃弾が壁を通り抜け、さらに前の建物へと抜けていく。二人は反射的に身体をビクリと縮こませる。

「なんなんださっきから!? 銃弾が石の壁を貫通してくるぞ!?」

 アレンは驚愕の声を上げる。

 ふと横のボリスを見ると、ボリスは険しい顔を俯けて何やらぶつぶつと呟いている。


「まさか……まさか、あいつなのか……? こんなところに……?」


「ボリス?」

「……ああ、なんだ青年」

「お前、大丈夫か? なにか様子がおかしいが……」

「いや……すまん、なんでもない。気にしないでくれ。……それより、ここは、俺が前へ出てっ!?」

 それまで神妙な顔つきをしていたボリスが、何かを見つけて、突然驚き慌てふためく様子を見せた。

「エマっ!! お前なにやって!?」

 ボリスの突然の怒号にアレンが振り向くと。


 路地から飛び出してきたエマがまっすぐこちらに向かってくるのが見えた。


 その直前のこと。

 ボリスが撃たれるところを目撃したエマは、卒倒せんばかりに取り乱していた。

「ボリス!! ボリス、大丈夫なの!?」

 ボリスが何かを叫んでいるが、半ば我を忘れたエマの耳には届かない。今にも道路へと飛び出しそうなエマの身体を、ロベールが引き止める。

「だめだ、お嬢ちゃん! 通りに出るな! 危ねぇって!!」

「は、離して……」

「だめだって!! いいからもっと奥へ……!!」

 二人がそうやってもみ合う内にもまた発砲音が聞こえ、二人は思わずビクリと震える。

 どうやらまたアレンとボリスの二人が狙撃されたようだ。今度は当たらなかったようだが、エマの胸中には不安ばかりが募る。

「建物の壁撃ち抜いてくるってぇのはどういうこったぜ!! 安全な場所なんかねぇじゃねぇかクソッタレめ! お嬢ちゃん、急いでここを離れるんだ!!」

 腕を掴んで一緒に逃げ出そうとするロベールを、エマが全身に力をこめて思いっきり引き剥がす。

「いえ、私は向こうにいきます!! あなたは逃げて!!」

「馬鹿野郎、何言ってやがる!?」

「私には攻撃を防ぐ『ギフト』があります!! さっきあなたも見たでしょう!?」

 それはロベールも承知している。ウォムロの巻き起こした恐るべき突風から身を守ってくれたのは、まぎれもない、エマの『ギフト』だった。

「そりゃそうだが!!」

「私の『ギフト』ならあの狙撃も防げます!! だから私は大丈夫!! それより、ボリスとアレンを守らなきゃ!!」

「あっコラ! 待てってオイ!」

 エマはロベールの手をすり抜けると、薄暗い建物の陰から、黄金色の日差しあふれる通りへと飛び出した。


 通りへと足を踏み出した瞬間、エマは背筋がゾクゾクと震えるのを感じた。

 狙撃されている右の方から、威圧感が濁流のように襲い来る。

 これが殺気と呼ばれるものなのだろうか。恐怖で膝から力が抜けそうになる。


 ……大丈夫。私の『ギフト』なら狙撃も防げる。大丈夫、大丈夫……。


 そう自分に言い聞かせて、もつれそうになる足を懸命に踏ん張り、がむしゃらに走る――。


 しかし突然、体中の毛が逆立つような寒気を感じた。


 思わず腰から崩れ落ちそうになるほどの、鋭く研ぎ澄まされた殺気。

 怖いと認識するよりも先に、本能的に身体が『ギフト』を使った。

 エマの傍に青白く光る障壁が展開される。


「嬢ちゃん、危ねぇ!!」

 ロベールが飛び込んできて、エマを思いっきり突き飛ばした。


 その瞬間、エマが二重に張ったはずの『ギフト』を容易く貫いた銃弾が、ロベールの腹部を撃ち抜いた。


「…………ッ!!」

 ロベールが激痛に顔をしかめた。

「うそっ!? 『ギフト』の壁が……!?」

「エマアアアアアアッ!!」

 ボリスがいつのまにか傍まで駆け寄ってきていた。ボリスはエマとロベールを乱暴に掴むとアレンに合図を送った。


「今だっ!!」

「『黒玉』!!」


 アレンは一抱えほどもある大きさの黒玉を生成すると、地面へと叩きつけた。


「うおおおお!!」

 その瞬間、ボリスの身体が強い力でアレンの下へと引き寄せられた。

 ボリスに掴まれてるエマとロベールも砂煙を立てながら引きずられる。

 直後、甲高い音を立てて銃弾が地面に穴をあけた。一瞬前までエマが居た地面だ。


 間一髪のところを逃れて路地まで引きよせられた三人へとアレンが声をかける。

「無事か!」

「もっと奥へ! 奥へっ!!」

 ボリスは返事するよりも先にエマを無理やり立たせると、ロベールを引きずったまま路地の更に奥へと急ぐ。

 十分に通りから離れると、ボリスが『ギフト』を発動してロベールを治療し始めた。

 ロベールの銃創は十秒ほど経ったところでスッと消えたが、彼は目を覚まさない。

「……だ、大丈夫か? 目を覚まさないが……」

「…………気絶してるだけだ。問題ない」

 冷静にロベールの脈と呼吸を確かめたボリスが、アレンへと返事をする。それが済んでから、さて、といった様子でエマの方へと振り返る。

「エマ」

 エマがビクリとはねて、身体をこわばらせる。

「あ、あの、私……」


 ピシャリ、という乾いた音が路地裏に響いた。


 頬を打たれたエマが呆然とする。

 ボリスが真剣な顔で、エマの両肩を押さえる

「この男が腹を撃たれたのは誰のせいだ?」

「……あ…………の……」

「お前は俺を置いて、勝手にここまで来た。俺がここにたどり着けたのはある意味偶然だ。もしかしたら俺はここに居なかったかも知れない。そのときに、この男が撃たれていたらどうするつもりだったんだ? いやそれどころか、お前が撃たれていてもおかしくなかった。むしろお前を助けようとした結果、お前の代わりにこの男が撃たれることになった。もしここに俺がいなかったらこの男はどうなる? 一歩間違えれば即死だってありえた。そうなったらもう、俺にもどうすることもできない。お前は自分の『ギフト』の力を過信しすぎていた。その結果がこれだっ」

 エマの身体が微かに震えているのをボリスは敏感に感じ取る。微かに俯いたエマの目元にはみるみるうちに涙が溜まっていくのが見える。

 ボリスはそれを見ると言葉に詰まる心地がしたが、腹にぐっと力を込め、努めて淡々と言葉を紡いだ。

「これで分かったろ。『ギフト』を持っていてもどうすることもできないこともある。さっき相手の弾がお前の『ギフト』を貫通したように、相手の『ギフト』の方が自分のよりも強い場合もある。身を守る『ギフト』があるからって、絶対大丈夫ってことはないんだ」

「あ……う…………」

 エマがぽろぽろと涙をこぼすのを見て、ボリスはそっと両手を離した。

「お前は確かに頭が良いが、まだ子供なんだ。お前一人ではできないこと、どうしようも無いことはたくさんある。だから、こういう一人で突っ走るような真似はもうやめるんだ。ちゃんと周りの人間にも何をどうしたいか相談した上で行動しろ。今回のことは……俺も頭ごなしにお前のやりたいことを否定したのは、悪かった。謝る」

 そういうと、ボリスは頭を下げた。

「これからはちゃんとお前の気持ちを汲むよう俺も約束する。だから、お前も一人でなんでもやろうとせず、ちゃんと俺に相談してくれ。…………わかったか?」

 ボリスの言葉を最後まで聞くと、エマはしゃくりあげながらコクリと頷いた。

「わ、分かった……ごめんなさい、ボリス…………ごめんなさい……」

 ボリスはその言葉を聞くと、ぐすぐすと泣き続けるエマの頭を少し乱暴に撫でる。肩越しに振り返ってアレンを仰ぎ見た。

「……で、この後はどうすっか?」

「そうだな……建物の裏からぐるっと回りこんでみるか。夢男のことも心配だ……」


「おやおや、あなたのご心配を頂けるとは、この夢男、感涙の極みですねぇ」


 突然の声に全員が身をこわばらせた。

「夢……男か?」

「どうも夢男です」

 アレンが振り向くと、そこには優雅な仕草で一礼をするパーシーの姿があった。しかし、ニヤニヤとした軽薄な笑みはよく見知った夢男のものだ。

「お前……無事だったのか?」

「ええ、あなた方があの男の意識を引いてくれたおかげで、どうにかこうにかしっぽを巻いて逃げ出すことができました」

「だけどお前、撃たれたんじゃ?」

「まぁ種明かしすると、変身することで傷を無くすことができるんですよ。これこのとおり」

 そう言って夢男がチョッキの裾をひらひらと振った。夢男の身体には傷一つ見当たらない。

「便利なものだな、お前の『ギフト』も」

「ええ、いつでもこれに助けられてますよ。それよりも……」

 夢男が自分の傍で開きっぱなしになっているドアをキイキイと揺らした。


「奴らの建物の中に侵入することが出来ました。よければ、ご一緒しませんか?」


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