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世界樹の夢でまた会いましょう  作者: うたまる ひろ
第4章・前編 首都攻防戦 ~それぞれのリュテ~
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特務機関の動き

投稿少し遅れてしまいました。申し訳ありません。

特務機関側の動きの話です。

 一方時間は少しさかのぼり、ロベールが廃工場街の謎の建物から立ち去った後のこと。


 件の建物の中、木造の廊下を進む一人の大柄な男の姿があった。

 硬いブーツをゴツゴツと鳴り響かせながら歩くと、やがてひとつの大扉の前までやってきた。

 両開きの扉を押すと、中には何名かの人の姿があった。

 その中の一人……タチヤーナが、部屋に入ってきた人物に声をかけた。

「機関長」

「皆、待たせたな」

 特務機関長ジョフロワ・マイヨールはその場に集まった人間に軽く声を掛けると、窓際にある自分の執務机へと歩み寄る。

「メルクリオは帰ってきているか?」

 そう言うとジョフロワは部屋の中を睥睨した。

 そこにはタチヤーナ、ノルベルト、ギヨルパと、もう一人の男の姿が存在した。

 その男はワインレッドの派手なスーツ上下に身を包み、茶色の髪をリーゼントに整えた若い男である。

 ストライプ柄のワイシャツを鎖骨の辺りまで開き、薄紫のネクタイを合わせている。

 胸元にはポケットチーフ、足元は赤みがかった飴色の靴を合わせており、自身のファッションに特別のこだわりを持っていることがひと目で分かる。

 常に上がった口角は男の自信たっぷりな内面を余すこと無く周囲に伝えている。

 正に遊び人の伊達男といった感じだ。

 ジョフロワ、ノルベルト、タチヤーナという落ち着いた印象の人間に囲まれた中、その男の纏う空気感は一種独特だ。

 その男のタレ気味の目が開かれ、ヘーゼル色の瞳がジョフロワを捉えた。

「よぉ、機関長。メルクリオ・アッバティーニ、ただいま戻って参りました、と」

「うむ、ご苦労だった。調査の方はどうだった?」

「残念ながら、大した実りはなかったね、どうも」

 そういうとメルクリオと呼ばれた伊達男は大仰に腕を開いて首を振った。

「まぁ、テルミナ人のスパイは何人かリュテに潜り込んでるのは掴んだけど、いつもどおりっちゃいつもどおりさ。大した動きは無いね」

「ふむ、そうか。後で報告書を提出してくれ」

 メルクリオが『報告書』の言葉に肩をすくめる。

「報告書、書くの苦手なんだよね。……ところで、パーシー君、大怪我しちゃったって?」

「うむ」

 ジョフロワが頷く。

「パーシーの活躍によってカロル嬢を確保することができたが、その際左手骨折の大怪我を負ってしまい、現在市内の病院で治療中だ」

「ノーラが今、それに付き添っている」

 タチヤーナがジョフロワの言葉を補足した。メルクリオが頷く。

「カロル嬢を確保できてパーシー君大金星じゃないか」

「先程陛下にもカロル嬢を確保した件を報告申し上げてきた。その報に陛下も大いにお喜びになられていた。タチヤーナ、ノルベルト、ギヨルパ。お前たちも良くやってくれた」

 ジョフロワが労いの言葉を掛けた。ギヨルパが無邪気に「わーい」と両手を上げて喜ぶ。

「それで、確保したカロル嬢に関してだが。陛下の指示により、彼女はしばらくここに留めておくことになった」

「ここにか?」

 メルクリオが意外そうな顔を浮かべると、王室を内偵する動きがあることをジョフロワが伝えた。

「――というわけで、彼女を動かすことは今はできない」

「ド・ブロイかぁ。また面倒な奴に目をつけられちゃったもんだねぇ」

 メルクリオがやれやれといった風に眉根を寄せる。

「国内安保を一手に担う内務省大臣にして政界の影の実力者、ジュール・ランベール・ド・ブロイ卿。現首相のジャン=バティスト・バロー氏だって、彼の単なる傀儡に過ぎないと噂されているそうじゃないか。そんなド・ブロイ氏が動いてるってなると……警視庁は内務省の管轄下だから――」

 メルクリオの言葉を受けてジョフロワが頷いた。

「如何に陛下と言えど、警察を簡単には動かせなくなった。これまでも自由自在とはいかなかったが、今後は更に、だ」

「あらら……そりゃ大変なこって」

 メルクリオがあまり大変そうに思ってないような涼しい顔で言葉を吐く。ジョフロワが気を引き締めた顔をする。

「積極的には動かせなくなるだろうが、多少の情報のやりとりくらいはできよう。不足する分は我々の働きで補えばいい」

「それが大変だって言うのさ。ま、その分の給金が貰えりゃ、俺は文句ないよ」

 メルクリオがすまし顔で髪型を整えながら言った。

 ジョフロワが話の先を続ける。

「今後、我々の主な任務はカロル嬢の保護、及び、『世界樹の本』の奪還になる。この二つが最優先だ。今後は全員これらの任務に従事してもらうことになる。メルクリオ、お前もだ」

「へーいへい。退屈な調査任務より断然マシさ」

 メルクリオがひらひらと手を振る。

「それで目下最大の問題は『夢男の動向』となる。以前パーシーが取引を持ちかけたが奴は応じる気配がなかった。何が目的かはわからないが、奴も『世界樹の本』に関する何らかの思惑があるらしい。となると、カロル嬢を奪還するためここへと乗り込んでくることが予想される」

 ジョフロワがそう言うとメルクリオが疑問を発した。

「夢男ってやつが、カロル嬢がもう王宮へ移されたと思って、そっちへ直接乗り込むこともあるんじゃないの?」

「それは王宮の近衛兵が対処するので、我々が考える必要はない。我々はカロル嬢さえ奪われなければそれで良い」

 一同が頷く。

「パーシーが回復すればカロル嬢を別の場所に移せるが、それまでは我々で彼女を守る必要がある」

「なんとかパーシー君を動かせないのか?」

 メルクリオが問うと、タチヤーナが首を振って答えた。

「カロル嬢を確保した際無理してしまったせいか、腕の腫れが酷く、骨折箇所の固定が難しかったらしい。鎮痛剤を打ちながら何回も氷嚢を取り替えて患部を冷やす必要があるとのことだ。すぐには動かせまい」

 メルクリオが「なるほどね、そりゃきついわ」と首をすくめる。ジョフロワが続ける。

「彼も我々特務機関のメンバー、陛下に忠誠を誓った身だ。最悪の場合はパーシーに無理してもらう必要も出てくるだろうが、原則、我々で夢男に対処する」

 そういうと、ジョフロワは一呼吸置いてからその場の全員を見渡した。

「基本的には全員ここを離れずに守ってもらうことになる。今ここに居ないノーラも含めてだ。カロル嬢の世話は主にタチヤーナが担当してくれ」

 ジョフロワの言葉にタチヤーナが「心得た」と頷く。

「ギヨルパはタチヤーナのサポートをしてくれ。ちなみに今夢男がどこかは分かるか?」

 そう問われると、ギヨルパは肩がけのポーチから夢男のボタンを取り出し、くんくんと匂いを嗅いだ。そうして、難しい顔をすると首を捻った。

「このボタンの『匂い』が薄くなってきちゃって、よく分かんなくなってきちゃった……。ふわっとした方向しか分からない」

 それを聞いてジョフロワが「仕方あるまい」と呟く。

「『ギフト』じゃなくても、ギヨルパの鼻はヒト以上には利く。その鼻で周囲の警戒をしてくれ」

 それを聞いてギヨルパが「がってん!」と元気よく返事した。

「ノーラにはここの守護をしてもらいつつ、定期的にパーシーの様子を見に行ってもらう。そういうわけで、ノルベルト、メルクリオ。お前達二人がここの守護役常任だ」

 ノルベルトが短く「了解」と返答する。メルクリオは少し面倒そうに「へーいへい」と軽い口調で返す。

「ところで、機関長。『ヴェルグ』の野郎は?」

 と、メルクリオが部屋の中をきょろきょろと見渡して誰かの姿を探しだした。

「ここにはいないようだが」

「……誰かヴェルグを見かけたものはいるか?」

 メルクリオの言葉を受けて、ジョフロワが少し疲れた顔をしながらその場の人間に問うた。しかし、それに答えるものは居ない。

「ギヨルパ。奴が今どこか分かるか?」

 そう問われたギヨルパが、少しためらいながらも再度ポーチに手を突っ込むと、布に包まれた何かを取り出した。

 ギヨルパがその布包みを開けると、中には『一房の髪の毛』が包まれていた。少し緑がかった金髪だ。

 彼女は嫌そうにそれをくんくんと嗅ぐ。

「うーん……中心街の辺りうろうろしてるみたい……」

 それを聞いてメルクリオが盛大なため息を吐く。

「あいつ、そんなところで一体何やってるんだ? こうやって定期的に集合するのも仕事のうちだって分かってんのかね? いつもニタニタしてて何考えてるのか分かんねぇし、あいつ気味悪くて正直好かねぇな俺は」

「メルクリオ」

「わーってる、わーってる。あくまで個人的な感想だ。あいつの戦闘能力はちゃんと認めてるさ。仕事の上ではちゃんと接するよ」

 メルクリオがそっぽ向きながら返事を返す。他の三人も口には出さないが、ヴェルグという人物に対してあまりいい感情を持っていないのはその空気から察せられる。

「……ヴェルグには建物外の警戒を担当してもらうつもりだ。奴には俺からちゃんと言っておこう」

 ジョフロワはそう言うと、椅子へと座り机に肘をついた。

「それでは皆、任務に励んでくれ」

 ジョフロワがそう締めくくると、皆が頷いた。



 パーシーは一人部屋の中に居た。

 木造の床に白い壁が四方を取り囲んだ部屋だ。

 木造のそっけない扉が一つと板張りの鎧戸が締まった窓が一つ。他には小さなサイドテーブルとランプが一つずつ。

 それ以外には何も無い、暗く寂しい部屋だ。

 パーシーは扉へと歩み寄り、ドアを開いた。

 その先には、今来たところとほとんど同じ作りの部屋があった。

 対面の壁にもう一つ扉があるのが見える。

 パーシーは歩みを進めると、もう一つの扉を開いた。

 また同じような部屋。

 違いがあるとすれば、壁のもう一面に扉が一つ増えたことだろうか。

 パーシーは少し迷った後、その増えた扉を開いた。

 その先にも同じような部屋。

 背筋がゾクリとする。

 今度は何も考えず適当な扉を開く。

 また似たような部屋。今度は別の壁にもう一つ扉が増える。


 扉を開く。

 扉が更に一つ増えた似たような部屋。


 扉を開く。

 扉が更に一つ増えた似たような部屋。


 扉を開く。

 扉が更に一つ増えた似たような部屋。



 扉を開く。扉を開く。扉を開く……。



 …………。



 一体何個目の扉を開いたところだろうか。


 パーシーは扉だらけの部屋に居た。

 壁だけではない。

 床、さらには天井にまで、扉、扉、扉。

 ランプのゆらぎがこの扉の世界を泡のように揺らす。


 ああ、僕は。


 パーシーは生気の抜けた顔で立ち尽くす。



 僕は、一体どれだけの扉を開けば――。



 そこでパーシーはあることに思い至る。

 部屋の中に一つだけある家具、サイドテーブル。

 そこへとつかつかと歩み寄ると、その上のランプを無視して掴みとる。

 ずり落ちたランプが床の上へ転がる。不思議と割れないのに火だけが消えた。


 狙いは、目の前にある鎧戸の閉まった窓。

 パーシーはテーブルを思い切り振りかぶって、鎧戸へと叩き込んだ。


 鎧戸が破れた。


 パーシーはサイドテーブルを放り捨てると、鎧戸にできた穴へと身体を潜り込ませて、向こう側へと出た。


「……ア。アハ。アハハハ……」


 パーシーの口から乾いた笑い声が上がった。

 鎧戸を破ったその向こう側には。


 ……またもや、同じ部屋があった。

 扉は一つだけ。


 ……ここは出発地点の部屋だ。


 パーシーは床へと身を投げ出した。


 ――僕は。


 倒れた床の上に、小さな、犬猫が出入りするような小さな扉があることに気付いた。


 ――一体どれだけの扉を。


 扉へと手を伸ばした。


「開けば――」



 床の扉を開いた。

 そこには――。



「――パーシー?」

「……ノーラ……姐……?」

 ノーラの顔が見える。

 心配そうに眉尻を下げ、その目が今にも泣きそうなほど潤んでいる。

「……パーシー、大丈夫?」

「……いったい、ここは……っ!! 痛たた……!」

「パーシー!? 無理しないで、まだ安静にしてなきゃ……」

 突然の痛みに、パーシーの頭が一気に覚醒する。

「ノーラ姐、ここは……?」

「……ここはリュテ市内の病院だよ」

 病院……?

 朦朧とする意識の中、周りを見渡す。

 清潔感のある部屋の中、パーシーはベッドに寝かされていた。

 時刻は夜のようで窓の外は暗いが、街の灯の薄明かりが向かいの建物に反射してぼんやりと光っていた。

 パーシーはさきほどからずきずきと痛む腕を見下ろした。

 腕には固定器具が装着され動かないようになっていた。痛むところに燃え上がるような熱さを感じる。

「そっか……僕は骨折して……」

「……うん……機関まで戻ったところで気を失って倒れたから、病院まで運んで治療してもらって……先生に痛み止めを打ってもらったんだけど、まだ痛む?」

「うん、かなり……。でも、折った時ほどじゃないかな……」

 パーシーが頭をぼすんと枕へと落とした。

「カロル嬢は? 夢男はその後?」

「……カロル嬢は無事機関の方で確保できた……今は地下の部屋に閉じ込めてる。夢男はその後は分からない……」

「そっか……」

 パーシーは汗をかいた額を無事な方の腕で拭った。その様子を見て、ノーラが手ぬぐいでパーシーの汗を拭う。

「……パーシー、さっきすごくうなされてたよ……」

「……」

「……なんだかすごく苦しそうだったけど……大丈夫?」

 ノーラが心配そうにパーシーの顔を覗き込んでくる。

 夢……。

 そうだ、さっきのは、夢だ。

 たまに見る、悪夢。

 どれだけ扉を開いても、開いても、開いても、まだ扉があって。

 パーシーは思わず自分の手を眺めた。

 そして、自分の寝ているベッドを見渡した。

 真っ白なシーツを眺めた後、ふいに何かを諦めたかのように、その手をぽすんとベッドに落とし、目を閉じた。

「……パーシー?」

「……ちょっと怖い夢見ちゃって。大丈夫、付き添ってくれてありがとうノーラ姐……もう大丈夫だから……」

 そう言って無言になるパーシーを見て、ノーラは何故かひどく悲しい気持ちになった。

 パーシーは常日頃「ノーラ姐」と呼ぶが、二人は姉弟ではない。

 特務機関に入ってから初めて出会った、赤の他人だ。

 しかし、二人は特務機関の最初期からのメンバーでもある。

 だからパーシーの過去も、少しだけ知っている。

 そのことを思うと……。

 ノーラはギュッと目をつぶった。

「……ノーラ姐?」

 ノーラが唐突に自分の額を撫でだしたため、パーシーは大いに戸惑った。

「……パーシー、今は眠って、ね? 寝付くまで、私がついてるから……」

「え……いや、そんな」

「いいから」

 ノーラが有無を言わせぬ強い口調でパーシーに迫った。

 そのノーラの珍しい様子を前にパーシーは何も言えなくなる。

 ノーラの手付きは優しかった。ひんやりとした彼女の手のひらの温度が心地良い。

 パーシーは何故か少しだけ泣きそうな気持ちになった。

「ノーラ姐……ありがとう……」

 頬を少し赤らめながらも、パーシーが素直に感謝の言葉を口にした。

 窓から風が吹き込んできた。ふわりと乱れたパーシーの前髪をノーラの指先が払った。

 その感触がとても心地よく、心が静かに凪いでいくのをパーシーは感じた。

 きっともう悪夢は見ない気がする。

 ノーラの無言の子守唄を聞きながら、パーシーは静かに目を閉じた。



 特務機関の拠点である廃工場街のビル。

 その地下の一室の扉がコンコンと叩かれた。

「……食事だ」

 その扉を開いてタチヤーナがカロルへと声をかけた。

 窓が無い以外は何の変哲もない部屋だ。生活に必要最低限の家具は備え付けてある。

 そこのベッドにカロルは腰掛けていた。

 特別、拘束などはしていない。

 タチヤーナは名前が割れていないので、カロルの『ギフト』も効果が無く、タチヤーナ一人でどうにでも対処できるためだ。

「ここに置いておく。食いたければ食え」

 タチヤーナは部屋の中に入ると、丸テーブルの上に食事を置いた。

「しばらくの間、私がお前の面倒を見ることになった。何か用があれば呼ぶといい」

「……あなたの名前は?」

 カロルが隠しきれぬ敵対心を滲ませながら、初めて口を開いた。

 タチヤーナは閉じた目をカロルへと向ける。

「お前の『ギフト』は知っている。教えるはずもない」

「用がある時にどう呼べば良いんです?」

 食い下がるように聞いてくるカロルへぶっきらぼうに返した。

「私のことは『白蜘蛛』とでも呼べ」

「……」

 その返事に、カロルは唇を噛んで歯がゆそうに口をもごもごとさせる。

「もういいか? じゃあ……」

「待ってください。しばらくの間と言いましたね? 私はいつまでここにこうしているんです?」

 引き返そうとしたタチヤーナに待ったをかける。タチヤーナが答える。

「知らん。しばらくはしばらくだ」

「……すぐにでも陛下の下へと連れてかれると思いましたが」

「必要があれば、そうするだろう」

「必要? だって陛下は必要だから私を捕らえたのではないですか?」

「知らんものは知らん」

 タチヤーナのすげない返事に、カロルが眉根を寄せる。

「もういいか?」

「……あなた方やシャルル7世が何を考えているかわかりませんが」

 カロルが剣呑な空気を発しつつ、唸るような低い声で答えた。

「私は絶対にあなた方に協力しない! たとえこの身がどうなろうと、絶対に父の仇をとってやる!!」

 その言葉に、部屋を出かけたタチヤーナがふと足を止める。

「父の仇……?」

「とぼけないで! 私の父を殺したパーシーとノーラは特務機関の者でしょう!?」

「ちょっと待て」

 タチヤーナが振り返った。

「お前の父の仇と言ったか? パーシーとノーラが?」

「そうです! あの二人に私の父の命が奪われ」


「パーシーとノーラはお前の父親を殺してなど居ない」


 タチヤーナの言葉が一瞬分からず、カロルが思わず呆ける。

「は? 何を言って」

「だからお前の父親を殺したのは二人ではないと言っている。二人が館に潜入した時点で既にシャロン氏は虫の息だったと聞いている。念の為言っておくと、使用人たちに関しても同様だ」

「え……?」

 思ってもみなかった言葉に、思わずカロルがうろたえる。

「じゃ、じゃあ……誰が犯人だと……? だって、『本』だって奪われて……」

「誰がシャロン氏を殺した犯人かは知らないが」

 タチヤーナがきっぱりと言い放った。


「『本』を奪ったのは夢男だ」


次回更新は 2020/11/30 朝6時更新予定です。


【作者Twitter】https://twitter.com/hiro_utamaru2


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