事情聴取:カロル・アレン
夢男に連れられ、エマとボリスは村の警察署までたどり着いた。
警察署は昔の建物を利用しているのか、小さいながらも石造りで、重厚さを感じさせる建築だ。今は最低限の署員だけ残し、残りは村長宅へと出払っているようだ。
三人は民家の陰から警察署の様子を窺っていた。ボリスが夢男に顔を向ける。
「んで? こっからどーすんだよ? まさか殴り込むなんて言わねぇよな?」
ボリスが夢男に出方を伺う。
「まさか。私は平和主義者ですからね。できるだけ穏便に解決したいと思ってますよ」
その言葉にボリスが鼻白む。
「ではどうするつもりなの、夢男?」
エマがじれったいといった表情で、足をゆすりながら問いかける。
「まずはカロル嬢達に話を聞きましょう。その上で無実の証拠を集めて、カロル嬢達を釈放に持っていく腹積もりです」
「そんな道化みたいな格好してるくせに、意外と正攻法だな」
どんな奇策が飛び出すかと身構えていたボリスが、拍子抜けした表情になる。
「しかし、どうやって? 私達のような部外者が話を聞きたいと言っても、当然門前払いに決まっているわ」
「それは私におまかせを」
そういうと夢男はこほんと咳払いをし、二人から一歩引いた。すると――。
「! うおっ!?」
「そ、それは……!?」
夢男の姿が一瞬ぶれると、二人の目の前に『ルメール警部』が姿を現した。
「ル、ルメール警部……?」
「これが私の『ギフト』の力ですよ」
老練さを感じさせる重々しい顔つきがニヤリと歪んだ。夢男は、警部に似つかわしくない優雅な仕草でお辞儀をした。
「変身能力か……ますます胡散臭い野郎だ」
「その辺の自覚はありますよ」
夢男は警部の中折れ帽を深く被り直して、妖しい笑みを浮かべる。
「……あなたが変身能力者だということは分かりました。それで? これからどうなさるおつもり?」
「これから私はルメール警部になりきって、お二人を署内まで案内します。そこでカロル嬢達と面会するところまで漕ぎつけて、三人から話を聞きましょう」
「いや、お前。警部本人がいたらどうするつもりだよ?」
「それは大丈夫です」
ボリスの疑問に、夢男が低い笑い声を返す。
「さきほどルメール警部はリュテへと出発しました。帰りはどんなに早くとも、明日の夕刻くらいにはなるでしょう」
「リュテへ? ……ああ、そういえば確かに移送手続きでリュテへ行くと言っていたわね」
「そのとおりです」
我が意を得たりと、夢男が頷く。
「大丈夫なのかよ……こんな胡散臭い奴を頼りにしなきゃいけないのが、いまいち心配だぜ」
「ご心配なく。こういうのは私の得意分野ですよ」
夢男がくつくつと笑う。
「それでは早速ですが、お二人を警察署内までご案内しましょう。付いて来て下さい」
そういうと夢男は物陰から出て、署の方へと向かう。エマとボリスはその後を追った。
正門の前で番をしていた警察官がルメール警部の姿に気づき、敬礼を送ってきた。
「ご苦労だな」
夢男がそれらしい口調で警察官に話しかける。
「お疲れ様です、ルメール警部。しかし、どうなされましたか? 確か移送手続きのため、リュテへと向かわれたはずでは?」
「それなんだがな」
そういうと夢男はちらりと二人の方を見やる。
「今回の事件に関して、重要参考人を得た。捜査の見直しが必要だと判断して、急遽代わりの者を先に行かせた。後で改めてリュテへ向かうつもりだ」
「はっ……重要参考人ですか」
そういうと警察官は不思議そうな顔つきで二人を眺めた。
「この者たちは、あの三人と話をしたそうだ。そこで事件に関する重要な発言を聞いたらしい。そこで、証言のすり合わせをしようと思ってな……あの三人は今どうしている?」
夢男が問うと、警察官は、はっ、と背筋を正した。
「警部のご命令通り、今は署内に留置しております。マクマジェル容疑者に関しては拘束具をつけさせました」
「よろしい。一人ずつ面会したい。この二人を取調室へ案内してくれ。それから聴取の準備を」
「承知しました。……それではお二方、ご案内しますので、こちらへ」
そう言うと警察官は二人を署内へと案内し始めた。夢男が二人に顔を向けてこっそりと含み笑いをするのを、エマとボリスは複雑な面持ちで眺めた。
三人は取調室に通された。
そこは明かり取りの窓が一つだけ設けられた、小さく狭い部屋だった。鉄製の扉を開けた途端に、中から冷たくジメジメとした重い空気が雪崩のように漏れ出し、三人の首筋を撫でた。部屋の真ん中に小さな机があり、二脚の椅子が向かい合って配置されている。部屋の隅には調書を書き留めるための小さな書き物机があり、卓上には小さなランプが置かれている。
エマが明かり取りの窓を背に椅子に座り、ボリスがその後ろの壁際に腕組みしながら寄りかかった。
しばらくして、一人の警官が書類を手に部屋に入ってきた。警官が書き物机に座ろうとすると、夢男がそれに待ったをかけた。
「君。今回は調書は取らなくて良い。内々で話をしたいのだ」
夢男がそう言うと、警官は困惑した顔でおろおろとした。
「い、いや、しかし警部。そういう訳には……」
「なに、私が同席しているのだ。問題はない」
「しかし、記録を留めておかないと……」
あくまで規則に拘る警官に、夢男がゆっくりと諭す。
「今回の事件、最初に我々が思っていたよりも、複雑な事情が絡んでいるようなのだ。……シャロン嬢に起きた最近の不幸に関しては、当然君も知っているだろう」
「え、ええ。まぁ……」
「もしかしたら、あの事件も遠からず関わってくるかも知れないのだ」
夢男がそういうと、警官がごくりと喉を鳴らす。
「本件は微妙で慎重な判断を要する。この話を知るものは出来る限り最小限の範囲に留めておきたい」
夢男はそれらしい理由を滔々とでっち上げる。
「記録に関しても下手には残せない。中央の連中に判断を仰ぐ必要がある」
「わ、わかりました。そういうことであれば……」
警官は恐々とした顔で部屋を退室した。鉄製の扉が重々しい音を立てて閉まる。
「よくもまぁ、涼しい顔ですらすらと嘘を並べ立てるもんだ」
「実際、この部屋は涼しいですからね」
ボリスの揶揄を夢男がどこ吹く風とばかりに受け流す。
三人が無言のまま待っていると、やがて部屋にノックの音が響き、扉が開いた。
「被疑者を連れてきました」
「通し給え」
夢男がそう言うと、警官が外開きの扉を全開にした。もう一人の警官が誰かに入室を促すと――。
「カロル様!」
「! エマ!?」
カロルがエマ達の姿を見て驚愕の表情を浮かべる。
鉄の扉が閉まった。カロル、エマ、ボリス、そして、ルメール警部の姿をした夢男の4人だけが部屋の中に残った。
「エマはどうしてこちらに……?」
「私、カロル様がこのような事件を起こすなんて信じられなくて……何があったか、お話を聞かせて頂きたいと思い、ここへ……」
「そうでしたか。お優しいお心遣い、まことにありがとう存じます。……よく面会が許されましたね?」
カロルはそう言うと、ルメール警部の姿をした夢男の方にちらっと目線を向ける。夢男は不敵な笑みを浮かべる。
「しばらくぶりです。カロル嬢」
そういうと夢男は変身を解き、見慣れた姿へと戻った。
「あなたは……!」
「今カロル嬢にご覧頂いたのが、私の『ギフト』です。これでルメール警部のふりをして、面会にまで漕ぎつけたという次第でして」
「……そうでしたか」
カロルは少しの警戒心とともに、一応は納得する。夢男は「お分かり頂けてなにより」とだけ言って、再び警部の姿へと変身した。
「カロル様。村長宅で何があったか、お聞かせ下さいまし」
エマは前のめりになりながら、カロルに問いかける。カロルは少し困った表情を浮かべ、片方の手でもう片方の指先を握る。
「え、ええ……ですが、私は今回の事件に関しては、何も分からないのです。目覚めた時には既にククが逮捕され、連行されるところでした。私はそれを見て気が遠くなって……目覚めた時には、もう警察へと向かう馬車の中でした……」
カロルが苦しげな表情で俯く。
「そもそもカロル様は何故村長宅へ?」
「昨日、村長のお屋敷で仕えているという、執事のフェルディナンさんが宿まで来まして、私達を晩餐に誘ったのです。無碍に断るのも忍びなかったため、お屋敷にお邪魔させて頂きました」
「唐突ですね」
「ええ、私達も驚きました。なんでも、私がこの村にいることが村の噂になって、それを聞きつけたベルナールさんが、私達を歓待したいとの事で……」
「少しおかしく感じますね」
エマが思案げに手を顎に当てる。
「カロル様が私達にご挨拶頂いた時以外に、お名前を出されたりしましたか?」
「いえ、それが一度も……私も何故自分がこの村に居ることを知られているのか、少し奇妙に感じました」
「であれば……」
「やはりそうですよね……」
二人は宿の女主人を思い浮かべた。カロルが名前を出した時に、その場に居た村人は彼女だけだ。
それまで沈黙していたボリスが口を開いた。
「だけどよ、お嬢さんほどの知名度のある人間なら、知ってる人間がこの村にいても、おかしくはないんじゃないか?」
「それは……そうかも知れませんが……」
「まぁまぁ、そこは追求しても仕方ないんじゃないですか? 村人が噂していたにせよ、村長が実は最初から知っていたにせよ、カロル嬢がこの村に滞在していることを村長が知り、屋敷へと招いた。その事実があれば充分でしょう」
夢男がそう言うと、エマが「それはそうね」と頷く。
「村長宅では、何があったのですか?」
「それが、変わった事は何も……最初に応接室へと通され、ベルナールさんとお話をした後、晩餐をご一緒して、客室へと通された後はいつの間にか就寝してしまいました」
「村長とはどのような会話を?」
「それが、大したことは。シャロン家の話や最近の政治、首都で起こった事件などをいくつか」
「晩餐は何か変わった事はありましたか?」
「いえ、それも特別な事は。お料理も特に変わったことはありませんでしたし、ベルナールさんとのお話も、応接室での会話の延長みたいなものでした」
「晩餐の後は、すぐにご就寝されたのですか?」
「私の部屋で、少しだけアレンとククと会話しましたが、その途中で眠ってしまったようで……」
「その時はどんな会話をされましたか?」
「うーん……晩餐に出されたお料理の話しか……」
「お料理ですか?」
「ええ、あれが美味しかった、これが美味しかった、という他愛もない話です」
「お話の途中で眠ってしまわれたとのことでしたが、鍵は閉めたのですか?」
「あ……確かに。どうだったんでしょう? もしかしたらアレン達が施錠してくれていたかもしれませんが……」
「カロル様を起こしに来られた方はどなたですか?」
「執事のフェルディナンさんです。慌てた様子で起こしに来られて、ククがベルナールさんを殺したと……信じられない気持ちでいっぱいでしたが、自室を出ると何人かの警察官がばたばたと駆け回っていて、隣の部屋だったアレンも、メイドの方に起こされて、廊下へと出て来たところでした。アレンも何が起こったのか分からなかった様子で、警察官の一人に促され玄関まで行くと、丁度ククが連行されるところで……悲鳴を上げるようにお互いの名を呼び合っていたのですが、やがて警察の馬車に……私はそこで気が遠くなってしまい……」
「そうでしたか……」
エマが黙考するように目を瞑った。
「本当に、大したことは起こってないな。まさに何が何やら分からない内に事件に巻き込まれたって感じだ」
ボリスがカロルの話を、そう評価した。
エマが続けて問う。
「マクマジェルさんやアレンさんは、何か村長と因縁めいたものは無かったのですか?」
「いえ、そんな様子は全く。アレンもククも本当にいつも通りで、ベルナールさんはおろか、使用人の方たちに対しても、特別何かある様子は見えませんでした。というより、アレンもククも、ほとんどベルナールさんと話す機会はありませんでした。ベルナールさんも、二人には興味を持っていない様子でした」
「……本当に、なんでこんなことになったか、分かりませんね……」
「そのとおりで……本当に、なんでこんなことに……」
カロルは俯くと、微かに肩を震わせ始め、すすり泣く声が漏れ始めた。エマはその悲痛な姿に心を砕かれるような思いがした。
「……私はククが犯人とは全く思っていません。きっとこれは何かの間違いです」
「ええ、仰るとおりですわ。私も何かの間違いと存じます」
カロルが弱々しい声で主張すると、エマが強く同意する。
「カロル様。きっと私が警察の誤解を解いてみせますわ。エマ・シャルロッテ・フォン・ノイラートの名にかけて必ず」
エマがカロルを励ますように声をかけると、カロルは涙を零しながら頷いた。
「まことに、ありがとう存じます。私が今頼れるのはエマ達しか居りません。虫の良い話で大変申し訳ありませんが、何卒、お助け下さいまし……」
「誓って」
エマが決意の光を瞳に宿し、カロルを見つめた。
「誰かと思えば……なんでお前たちがここへ?」
次はアレンの番だった。部屋に通されたアレンはカロルと同様、驚いた表情を浮かべる。
エマはアレンにこれまでの事情を話して、アレン達の話を聞きに来た旨を伝えた。夢男も自分の『ギフト』について話し、面会に漕ぎつけた経緯を伝えた。
「そうか……すまん、何も関係ないエマたちを巻き込んでしまった。俺が不甲斐ないせいで……」
「……まぁ、こうなっちまったからには仕方ねぇよ。とりあえず話を聞かせてみろよ、青年」
ボリスが落ち込むアレンに声を掛ける。
「ああ。何から話すか」
「大体のことについてはカロル様から聞き及んだわ。村長とはあまり話をしなかったということだけど、実際どうなの?」
エマが問いかける。
「その通りだ。村長と俺はほとんど会話をしていない。ククも同じだ。唯一、応接室でカロルと一緒の席に座ったのを不思議がられたくらいか」
「不思議がられたの?」
「俺は従者だからな」
「ああ……そういう」
エマが納得する。
「村長とは初めて会ったのね? 他の人達も」
「ああ初対面だ。……あ、いや、一人」
「誰かいたの?」
エマが少し身を乗り出して、興味を示す。
「昨日の昼間、昼食をとってた時に絡んできたチンピラの男を覚えているか?」
「ええ、もちろん」
「あの男が屋敷に居たんだ」
「え? あの男が?」
エマが意外といった顔で目を丸くする。アレンは頷く。
「村長の息子だそうだ。アンドレと名乗っていた」
「その男とは何か話をしたの?」
「ああ。昼食の時と似たような調子で『なんでここに居る? 出ていけと言ったはずだ』と言われて、少し口論になった」
「その後は?」
「少しカッとなっちまってな……一触即発の空気になったが、ククが止めてくれた」
「マクマジェルさんが……」
エマが真剣な表情でその話を聞く。
「その後はどうしたの?」
「アンドレはそのまんま自室に戻ったようだったから、俺とククも気を取り直してそれぞれの自室に入ったよ。俺は部屋に入ったら、すぐ寝ちまった。起きた時にはもう事件が起こった後だったな。年長っぽいメイドが起こしに来たよ」
「そうなの……カロル様の部屋で三人集まったと聞いたけど、何を話したの?」
「特に大した話はしてないな。食べた料理の話くらいだ。本当は今日行くはずだったリュテの話をしたかったんだが、その前にカロルが寝ちまったからな……」
「カロル様の部屋を退室する時に、鍵はかけた?」
「いや……俺はかけた覚えは無いな」
アレンはそう言うと、頭に手をやり、顔をしかめながら頭を振った。
「そうか、鍵か……。全然頭に無かった。くそっ……俺が真っ先に気づかなきゃいけなかったのに……」
「まぁまぁ、アレンさん。悔やむのは後でもできますよ。……今は話を先にすすめましょうか」
後悔するアレンに夢男が声を掛ける。アレンは「……ああ」と短く返事を返した。
「マクマジェルさんに何か変わった様子とかは無かった? 彼女とだけ話したこととか?」
「いや……変わった様子は無かった。ククとだけ話したことと言えば……リュテに行く方法は後で話そう、くらいのものか……」
「カロル様の話もそうだったけど、特別なことは本当に何もないわね……カロル様の話と違うのは、村長の息子と会ったことくらい……」
アレンの話に、エマは悩むような表情を浮かべる。
「青年。青年自身は何か気になることは無かったのか?」
「気になること?」
ボリスがアレンに話しかけ、アレンは考え込む。
「気になること……そう言えば」
アレンが恐る恐るといった様子で、口を開いた。
「妙に……眠かったような……」
「それはどういう?」
「俺、寝付きが悪いタイプなんだ。寝る前にいろいろと考え込む性格で、明け方近くになってようやく眠る感じだ。眠りも浅くて、何か物音がしたり、誰かが近くで動いてたりしたら、すぐ起きちまう。それが、昨日はのしかかるような眠気に耐えられなくて、自室に入ったら真っ先にベッドに倒れ込んじまった」
「それは……普通に疲れてた、とかじゃないのか?」
ボリスが疑問を口にすると、アレンは口に手を当て、何かを考えているようだった。
「そうかも知れない。だけど……やっぱり何かがおかしい気がする。……昨日はあれだけの事件が起きたんだ。多分、屋敷の中は大騒ぎだったはずだ。だけど……カロルと俺は、全く目が覚めなかった。カロルは眠りが深いから、起きてこなくてもあまりおかしいとは思わないが、俺が起きなかったのは……何か変な気がする」
「……それは、なにか一服盛られたと?」
「もしかしたら、くらいの話だが……」
「いやあ、飛躍しすぎじゃねぇか?」
ボリスが異を唱える。
「なんで殺された村長が、逆にお前らに眠り薬を盛るってんだよ? 話があべこべじゃねぇか」
「そうとも言い切れないんじゃないかしら、ボリス?」
エマがボリスに反論する。
「村長がカロル様たちを呼び出したのも、何か思惑があってのことかも知れない。例えばカロル様たちを捕まえておきたかったとか、もっと直接的に、亡き者にしようとしたとか」
「そんな陰謀論めいた話……」
「荒唐無稽かもね。でも、無いとも言い切れないんじゃない?」
「可能性の話だろ? 客観的に見ればバカバカしいぜ、お嬢」
「されど可能性、ですよ。ボリスさん」
ボリスとエマの応酬に、夢男が口をはさむ。
「アレンさんは、思い当たるフシは無いのですか?」
夢男の言葉にアレンが考え込む。
「食前酒は……むしろ飲まなかったから、違うはず。後は料理だが……全員口をつけている」
「思ったのですけど」
エマが気付いたことを口にする。
「眠り薬を盛られていたとして……カロルさんとアレンさんはそれで深い眠りへ……ではマクマジェルさんは?」
エマの推論が続く。
「マクマジェルさんが村長を殺した……と思われているということは、その時マクマジェルさんは起きていたはずです」
「ほらな。盛られてたなら、皆眠っちまったはずじゃねぇか」
エマはボリスの言葉を無視して、アレンに問いかけた。
「マクマジェルさんだけ手を付けなかったものとかありませんか?」
「ククだけ……」
アレンは記憶を探ると、一つだけ思い当たるものがあった。
「……肉料理だ」
アレンは頭を上げて、エマを見つめる。
「エルフは体質的に、肉を食べすぎると腹を壊すらしい。だから、ククも少しだけ手を付けて大半を残した、と言っていた。それに、カロルとククが言ってたんだ。肉料理は少し変な味がしたと……俺は気づかなかったんだが、二人共、肉に変な香辛料を使ってるのではないかと言っていた……ソースも味が濃かったと」
「マクマジェルさんは少ししか食べなかったから、眠りも浅かった?」
エマが問うと、アレンがコクリと頷く。
「あくまで可能性の話だが」
「……これは有益な情報じゃないですか? それが本当であれば、村長、もしくはあの屋敷の誰かが、カロル嬢たちを何かの思惑で眠らせようとしたことになる。そのために肉に薬をまぶした、と。ソースが濃かったのは、その味を誤魔化すためかも知れませんよ」
夢男が自らの考えを口にする。
「もしそうだとして、それがどのように事件に関わってくるのか……ククさんの話を詳しく聞いてみるべきですね」
アレンが退室し、三人がその時を待っていると、扉がノックされた。
「警部。最後の被疑者です」
「よろしい。通し給え」
夢男が言うと、扉が開かれた。
「マクマジェルさん……」
そこには、革製の手枷で手を繋がれ、足にも鉄製の枷をはめられたククが、生気を失った虚ろな目で立っていた。
「あなた方……」
ククが隈の浮かぶ疲弊しきった顔で、エマたちを見渡す。
「マクマジェルさん」
エマが言った。
「あなたのお話を聞きに来ました」
【作者Twitter】https://twitter.com/hiro_utamaru2
【質問箱】https://peing.net/ja/hiro_utamaru2?event=0
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