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世界樹の夢でまた会いましょう  作者: うたまる ひろ
第3章 貴族の少女と従者の男
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アンガスへ向けて

「ところで、次の手がかりって何かあるんですか?」

 カロルの馬に相乗りしながら、ククがアレン達に質問した。

 今三人はヴィースから東に向かって伸びる道の上にいた。天気は悪くなく、少し雲が出ているのが却って丁度いい塩梅に日差しを遮っていた。馬の蹄がカッポカッポと鳴り、小鳥のさえずりが耳を喜ばせた。たまに道端の木陰で、農夫がぷかりとパイプをやっている姿を目にする。牧歌的な一時だ。

「具体的な手がかりっていうのは無いんだが……一つ思いついたことがあってな」

 アレンが二人に目を向けた。

「この国に着いたばかりの時に、リュテで占い師の婆さんに出会ってな。その人にもう一度会って、話を聞いてみようかと思う」

「占い師ですかぁ?」

 ククが少し呆れ混じりな表情をする。

「占いを頼りにするなんて、全くの手がかりゼロってことじゃないですか……」

「まぁ、手がかりゼロなのは否定しないけど……ただ、その婆さん曰く、『未来を見通すギフト』持ちらしくてな」

 アレンは少し前のことを思い出しながら喋る。

「俺が仕事が無くて困ってた時に、この婆さんが『ギフト』の力で俺の未来を見通してくれてな。この婆さんの助言どおりに動いたら、そこへシャロンさんが通りかかって……。なんだかんだあったが、最終的には護衛の仕事にありつくことが出来た。うさんくさい婆さんだが、多分その力は本物なんじゃないか」

「へぇ! そんなことがあったんですね! 初めて聞きました!」

 アレンとシャロン氏の出会いのきっかけとなる秘話に、カロルは感じ入るように声を上げた。

「ああ、そういえばカロルにもまだ話してなかったっけ……」

「じゃあ私がアレンと知り合えたのも、そのお婆さんのおかげなんですね!」

 カロルが嬉しげな声でアレンに微笑みかける。アレンはその表情を見ると、身体中の血が駆け巡るような感覚を覚え、顔が火照りだした。カロルの顔を直視することができずに、馬の手綱を一心に握ろうとするが、なんとなくぎくしゃくする。

「ん、まぁ、そういうことになるかな。婆さんには感謝しなきゃな」

 しまった、思わず余計な事を口走った気がする。

「そのとおりですね! そのお婆さんにはアレンとの出会いを感謝しなければいけませんね」

 カロルは上機嫌で鼻歌混じりに馬の手綱を握り直した。アレンはいよいよ体中の火照りを感じて、服をパタパタと扇いだ。

「……ならば今はそのお婆さんに会いに、リュテに向かってると?」

 ククが少しジト目で二人を交互に見ながら、質問した。

「そうだ。そこで、今は一旦、リュテの手前にあるアンガスっていう村を目指してる。村に着いたら、その後の動きについて作戦会議だ」

「作戦会議ですか?」

「ククにも話した通り、王の手先に追われてる身だからな。そのまま何も考えずにリュテに入るのもどうかと思って」

「なるほど。とはいえ、あては有るんですか?」

「リュテにクレマンソー警部という知り合いがいるので、その方に頼ってみるって方法はあります」

 カロルがククの疑問に答えた。

「もう一つは、一旦カロルにはその村で待機してもらって、俺だけ単身リュテに行くって手もある。カロルだけ残すのが正直不安だが、俺がその婆さんの顔を知ってる分、確実ではある」

「そういうことなら、私がカロルさんの下に残ってもいいですよ」

「正直助かる。まぁそういうのも全部ひっくるめて作戦会議だ」

「なるほど、わかりました」

 ククが納得して頷く。

「クク、私のことはカロルと呼び捨てにしてくださいな」

 話が一段落したところで、カロルがククに声をかけた。

「う……呼び捨てですか? なんかそういうの慣れてないんですけど……」

 ククが物怖じするかのように首を引っ込める。

「じゃあこの機会に是非慣れてくださいよ! 私はもっとククと仲良くなりたいんですから」

 ククは少し顔を赤らめもじもじとしていたが、やがて意を決して口を開いた。

「分かりました……カ、カロル……」

「はい! これからもよろしくおねがいしますね、クク!」

 カロルが肩越しにククへと満面の笑みを向ける。

「で、では、代わりと言ってはなんですが、私の方から質問があるので答えてほしいのですが……」

 ククが肩越しにカロルを覗き込み、カロルが疑問符を浮かべる。

「はい。勿論なんでもお答えしますよ?」


「あのー……アレンさんとカロルは、もしかして恋人かなにかですか?」


 ぴゃっとカロルが驚く。

「なんかずっと見てて思ったのですが、お二人から何とも言えぬ近さを感じると言うか……護衛とは言いますが男性との二人旅というのも、ちょっと聞いてて引っかかったんですけど……」

 その言葉にカロルが慌てふためく。

「いやいやいや! アレンと私は決してそのような関係では!」

「本当ですか? さっきのお二人の出会いの話が出た時も、なんか妙に通じ合ってるような、そんな雰囲気を感じたんですけど」

 ククがジト目でさらに追い詰める。

「そ、それは、だって、このように人と人が出会って、お互いを尊重し合える仲になるってことは素晴らしいことじゃないですか! 別にアレンでなくとも、ククともこうやって仲良くなれたのはすごく喜ばしいことですよ! アレンと同じくらいククとの出会いも嬉しいっすよ、わたしゃあ!」

「焦りすぎて庶民言葉出てますよ……」

 全身真っ赤にしながら否定するカロルを見て、これは……とククは確信めいた疑問をさらに深める。

「アレンさんも、そこのところどう思ってるんですか?」

「ちょ! クク!?」

 ククがアレンに水を向けて、カロルが手をわたわたとさせて更に慌てる。

「いやぁ、意外とこんなちっちゃな街道も利用する人が多いんだなぁ。さっきから結構すれ違う人の多いこと多いこと。……ん? 今なんて?」

 ……さっきから聞こえてるよ! そんなこっ恥ずかしいこと聞くなよ! 俺だって考えないようにしてるんだよ!!

 アレンが心の内で叫びつつ、全力でとぼけた。

「なにとぼけてるんですか? こんなに大声で喚いてて聞こえてないはずがないでしょう? あと、とぼけかた下手くそすぎでしょ」

 バレた。

「……いや、俺とカロルは『友達』だからなぁ! お互いを大事にして尊重し合うのは何より大事だなぁ!! うんうん! なぁー、カロル!」

「そうです! そのとおりです!! 更に言えば、私はアレンが初めての友達なので、特に大事に思ってる次第なのですよ!! うんうん! ねぇー、アレン!」

 うんうん、うんうん、頷く二人を見て「どうみてもそれ以上でしょ……」とククは心の中で何かがグジュグジュとするのを感じた。見ててもどかしい。子供かよこいつら。

「そんなこと言ってククはどうなんです!?」

 カロルがハッと思いついたようにククを口撃し始めた。

「ククだってエルフなんですから、長く生きてるんでしょ? 恋人の一人や二人……」

「いや、私の境遇的にそれは……」

 カロルの言葉に少し被せる形でククが気まずそうに答えた。それを聞いてカロルは「あっ……」とそれまでの赤らめた顔をさぁっと青ざめさせた。

 カロルが何かを言う前にククが慌てて言葉を継いだ。

「まぁまぁ! 私もちょっとおふざけが過ぎました! この話はここまでにしましょうか!!」

「あ、はい…………すみませんクク……」

「いえ……」

 それきり気まずい沈黙が降りた。馬が時折、ぶるる、と頭を振って、鼻を鳴らす。たまにすれ違う馬車に乗った人が、「こんにちは、いい天気だね!」と声をかけてくる。

 三人はそれにぎくしゃくと挨拶を返しながら、馬の歩みを進めていく。



 アンガス村まで少し距離があったため、日が落ちる前に、駅馬車用の宿駅に一晩宿を借りようということになった。

 辿り着いた宿場は、駅馬車を牽引する馬を継ぎ替え休ませるための宿舎がある他、周りに4、5軒の家が、まるで軒下で肩寄せながら雨宿りする雀のように集まっているばかりの、小さな集落だった。

 宿舎を管理していた人の良さそうな老夫婦に交渉すると、快く一晩の宿を貸してくれた。

 この老夫婦は宿を貸してくれた他、温かな食事まで用意してくれた。大層なお喋りで、夕食時などは雨あられのように話題を投げかけてくるものなので、三人はへどもどしながらそれに答えた。

 特に、エルフとまともに話をするのは初めてということで、ククは老夫婦から質問攻めを受けた。

「エルフの宗教には、ヒトのように唯一の主はいらっしゃらないのかしら?」

 老夫婦の妻が興味津々にエルフの宗教の話を振ると、

「あー、えー……、最高神のプロキオンという神はいるんですけど、エルフをお創りになった後は深い眠りに就いていて……後は副神と言われるエラダや、古の巫女フッガなど、神格を持つ存在がエルフの神話には何人か出てきて……」

 と記憶を頼りに答えたり。

「エルフは『風』の種族と言われているが、『火』とか『水』とか、確か他にも居たろう?」

 老夫婦の夫が他の種族について質問すると、

「いますねぇ。『地』のドワーフと、『火』のサラマンダーと、『水』のマーマンですね。ドワーフはずんぐりむっくりの採掘鉱夫みたいな見た目で、姿形はほとんどヒトと変わらないですね。サラマンダーは二足歩行のトカゲみたいな奴で、人前には滅多に姿を現しません。マーマンもそうですね。普段は海の深いところをねぐらにしているので、ほとんど姿を見る機会はありません」

 とエルフとは関係の無い質問に答えたりしながら、時間を過ごした。

 午後も10時を回った頃になって、会話をようやく切り上げ、休むこととなった。

 寝ることのできる丁度いい部屋が一部屋しかないということで、三人は同じ部屋を借りることになった。

「大変でしたね、クク」

 カロルがククに労いの言葉をかけると「本当ですよ……」と疲労感を滲ませた声でククが答えた。

「出してくれたシチューの味が思い出せないです……」

「喋り通しだったからな……」

 アレンがククに同情するように言った。

「そういえば、肉食えるんだな。勝手なイメージで、エルフは菜食主義者だと思ってたんだが」

「なんですか、アレンさんも質問攻めですか? お肉は食べますよ、普通に。ただ、エルフの体質的にお腹壊しやすいので量は取らないですけどね。そのイメージがあるんじゃないですか?」

「ああ、なるほど」

 アレンが得心するように頷いた。するとカロルが「ハイ、ハイ!」と手を上げた。

「ちょっと気になってたんですが、ククの『ギフト』ってどんな『ギフト』なんですか?」

「そういえばそうだな。何か制限とか、特性みたいなのがあれば知っておきたい」

 カロルがククの『ギフト』について質問し、アレンがそれに同意した。ククはうーん、と唸って答えた。

「大した制限という制限は無いんですけどね。入れ替わりたいものに事前に『アンカー』を打っておいて、それと入れ替わる感じです。そういう意味だと『アンカー』を打てるのは一個までなので、それが制限ですかね」

「『アンカー』?」

 とアレンが言って、ククが頷く。

「『アンカー』を打つって言っても、特に何もしないです。ただ触るだけ。心の中で『これと入れ替わるぞ!』と思いながら触るというか。他にいい表現が浮かばないので、『アンカーを打つ』としてます」

「それは距離的な制限はないのか?」

 アレンが続けて質問した。

「特に無いです」

「えっ……無いんですか?」

 カロルが驚く。

「無いです。一度、国の端から端まで移動したことがあります。一旦『アンカー』を打っておけば、世界中のどこだろうと入れ替われますよ。デパルト出たこと無いんで、知らんけど」

「それはすごいな。最後の適当さ加減に一瞬殴りたくなったけど」

 アレンが感心する。

「それって水の中とかも大丈夫なんですか?」

 カロルが質問する。

「水の中は大丈夫ですよ。溺れますけど」

「土の中は? あと、『アンカー』を打った物が、その後で壁とかに埋められたりしたら、どうなるんだ?」

「怖くて試したことが無いんで、わからないです。なんか移動する時に多分、その場に『湧き出るように』現れてるんですかね? 一瞬で移動するので、自分でもいまいちよく分かってないんですが、一度、凄い狭い箱の中に移動してしまったことがあって、ぎゅうぎゅう詰めになって大変でした。壁の中とか……考えたくないですね」

 アレンは壁の中に埋まる……いや、下手すると石壁の間から絞り出される自分の『肉』を想像し……ぞっとした。

「『ギフト』の名前ってありますか?」

 カロルが質問した。その言葉にククが「名前ですか?」と意外な顔をする。

「いやぁ、特に。昔妹から『いないいないばぁ』にしよう! みたいなこと言われて却下しましたが」

「なんで!? かわいいじゃないですか!!」

「却下です」

 ククが念を押すように否定する。

「そういうお二人の『ギフト』には、何か名前は付いてるのですか?」

 ククが逆に質問すると、アレンとカロルは首を振った。

「いや、俺のは特に。自分では『黒玉』『白玉』くらいにしか呼んでない」

「私も特に。お屋敷にいた人以外の誰かに『ギフト』を披露する機会が、そもそもなかったので」

「ああ……ぼっちですもんね」

「ぼっちはやめてくださいよ!!」

 ククが地雷を踏み抜き、カロルが激怒する。「こいつ平然と地雷を踏み抜きやがった……」とアレンは一人恐怖した。

「今後、三人で行動するからには何か名前があったほうが分かりやすくて良いかもしれませんね。アレンさんの『黒玉』『白玉』と、私の『アンカー』は既に分かりやすいからこれで良い気がします。問題はカロルですかね」

「私だけ!? 私だけですか!? ……こんなことまでぼっちなのは嫌ぁっ!!」

 カロルがぶんぶんと頭を振って取り乱す。どうやらある種のトラウマになっているようだ。

 しばらく身悶えていたカロルだったが、やがてゆらりと立ち上がると、瘴気を漂わせながらアレン達に微笑みかけた。

「わかりました……。自分の『ギフト』の名前を考えておきます。ついでなので、アレンとククの『ギフト』にも名前をつけて差し上げますよ……」

「いや、いいよ」

「私も結構です」

 何かよからぬ予感がし、二人は即座に否定した。

「そうご遠慮なさらずに……。私の芸術的センス溢れる名前を付けて差し上げます。楽しみにしていてくださいな……」

 そういうとウフフ、ウフフと笑いながらカロルがベッドに潜り込んでいった。

「まぁ……まだ分からんよ。もしかしたら本当に良い名前かもしれない」

「それ、ほぼ疑ってるじゃないですか……」

 とんでもないことになったな……という言葉を飲み込んで、二人は毛布に包まって床についた。


【作者Twitter】https://twitter.com/hiro_utamaru2

【質問箱】https://peing.net/ja/hiro_utamaru2?event=0


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