酒場での激闘2
「ぬぅおおおおおっ!!」
「遅ぇっ!!」
カルロスが放ったパンチを腕で流すように払いのけると、ヴォルカはカルロスに凄まじいボディブローを叩き込んだ。
「ぐっ……ぶぅえぇ……」
胃が強制的に絞られ、カルロスはその場で吐瀉する。ヴォルカは容赦せずカルロスの髪を引っ掴み立たせると、左、右とカルロスの顔面を強打する。カルロスはその勢いで吹っ飛ぶ。
「カルロスゥッ!!!!」
周りの客たちが最早見ていられないといった様子で壁から離れて、カルロスの下へと駆け寄った。そのうちの数人はカルロスを守るかのように、ヴォルカの前に立ちふさがる。
「おいカルロス! しっかりしろっ!! 生きてるか!?」
カルロスは床に倒れながらピクピクと小刻みに痙攣していた。その顔面はヴォルカの殴打によって青黒く内出血し、目蓋が持ち上がらないほど腫れ上がってる。鼻血が鼻孔を塞いでしまい、息苦しそうなヒュー、ヒュー、という吐息が口から漏れている。
「こりゃひでぇ……」
「誰か気つけにブランデー持ってこい!」
客たちはカルロスの周りに群がり、ばたばたと慌ただしくカルロスを介抱する。
「おいあんた! もういいだろう! 勝負はついた! これ以上はカルロスも死んじまう!!」
ヴォルカに向かって叫ぶ客に、気勢を削がれたように頭をボリボリと掻き、他の二人の闘いをちらりと見てから、鼻息をフンッと鳴らした。
「おい、カルロスさんよ。そこの客の言うとおりだぜ。もう勝負はついた。おとなしく上納金を払うと言っちまえ。そしたらこの場も丸く収まり、この店も安泰だ。悪い話じゃねぇ」
ブランデーを飲まされたカルロスが、むせるようにガハッ、ガハッ、と息を吹き返し、客の手からブランデーを奪い取るとさらに二回ほど喉を鳴らして、口内の血をベッと吐き出しながら立ち上がった。そして静かに語りだした。
「……俺ぁ、故郷のペレアで……子供の頃……市民独立紛争の最中、家と両親を失った……紛争を逃れ海を渡った先でも……外国へ来て右も左もわからねぇクソガキの俺に……酒のなんたるかを仕込んでくれた師匠を……また戦争で失っちまった……」
カルロスはふらふらと定まらぬ足腰で立ち上がると、そのぼろぼろの両腕を構えた。
「この国へ来て、妻を得た……娘も……」
カルロスはよろよろとした足取りでヴォルカに向かうと、蚊も殺せぬような弱々しい拳を繰り出した。ヴォルカはつまらなそうにそれを避ける。
「小さいが……この店も構えることができた……」
「その妻子と店を守るためにもよぉ、金を払っちまえって言ってるんだ。大した額じゃねぇはずだ。そうしたら俺らは何の文句もねぇんだ」
ヴォルカに軽く後ろに押されただけだったが、カルロスは重心を踏み留めることができず、倒れそうになるのを周りの客たちに支えられた。
「そういう、問題じゃねぇんだ……」
ゴボッゴボッと、吐血混じりの咳をしながら、喘ぐように言う。
「これは俺の魂の問題だ……妻と、娘と、この店を守ると誓った俺の魂を…………俺自身が裏切っちゃいけねぇ……金なんぞで手放しちゃいけねぇもんなんだ」
腫れ上がった目蓋の奥から、カルロスの目線がヴォルカを刺し貫いた。今にも倒れ失神しそうな男の背後に、揺らめくような闘志の炎をヴォルカは見た。カルロスは残った力を絞り出すように拳に握る。拳がギチリと鳴った。
「この拳に握った魂は、誰にも渡せねぇ。それが戦争で色々なものを失っちまった俺の矜持だ」
ボロボロの男から発せられる不屈の闘志の熱気にあてられ、ヴォルカは密かにゴクリと唾を飲んだ。
カルロスの言葉を聞いていた周囲の客たちが、おもむろにカルロスの周りを固め始めた。
「す、すまねぇカルロス! 俺ら見てるだけで……」
「ビビっちまって、あ、脚が動かなかったんだ」
「けどよ……」
手に手に酒瓶や椅子などを持ち、道具を持たないものは徒手空拳で身構えた。客たちの腕や脚は恐れのためか震えている。
「男にゃ、引いちゃいけねぇ時ってあらぁな!!」
「てめぇら、やめろ!!」
カルロスが叫ぶが、男たちは意にも留めない。飲んだくれていた時の酒気混じりのものとは全く別の、みなぎる闘志を表すような熱気に溢れている。
「カルロス、俺らもマティアス一味には散々してやられてんだ!」
「俺にも握って離しちゃいけねぇ男の矜持ってもんがあるぜ。すっかり忘れてた!」
「ダミアン、てめぇが握ってるのはプライドじゃなくて酒瓶だろうが!!」
男たちは冗談を飛ばし合いながら互いを鼓舞する。ヴォルカはその光景を笑いもせず、真剣な顔でグッと拳を握ると構えをとった。
「いいだろう、来いよ。そういうのは嫌いじゃねぇ」
「「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」」
男たちとヴォルカ達の闘いが始まった。
多勢に無勢、攻撃の手数は圧倒的に男たちの方が勝ったが、獣化したヴォルカは耐久力も向上しているらしく、あまりダメージを受けているようには見えない。四方から襲い来る椅子や酒瓶の攻撃を受けながらも、合間合間に男たちを一人、二人と殴り飛ばしていく。
「くっ、くそぉっ!」
「怯むなお前ら!」
士気こそ高いが、このままでは全員倒れてしまう。誰もがそう思った時。
――――――――――――――――ッ!!
「っ!? なんだっ!!??」
突然ヴォルカが両手で耳を押さえて困惑の声を上げた。不快そうに顔をしかめて、攻撃の手を止めている。
「なんだっ!? こいついきなり苦しみだしたぞ!?」
「チャンスだ!! おせっ!! おせぇええええっ!!!!」
男たちはさらに士気をあげ、ここぞとばかりに攻撃をしかける。
「くそがっ!! なんだ今の音はっ!?」
ヴォルカが復活し男たちに反撃を再開する。こころなしか、先よりも攻撃に精細を欠いている気がする。
――――――――――――――――ッ!!
「くそっ、またかぁっ!!!!」
またヴォルカが苦しみだした。周りの男達はヴォルカを囲い込み猛追をしかける。さしものヴォルカもだんだんとダメージが蓄積し始め、足元がふらつくようになってきた。
「いい加減に……しろお前らぁああああっ!!!!」
ヴォルカが奮起し、力を振り絞って周囲の男たちを吹き飛ばす。その勢いで数人が床に倒れ込み、周りの者も巻き込まれてダメージを負う。
「誰ださっきから!! クソ不快な音を出しやがって!!」
ヴォルカが辺りを見回すと、やがて一点に目が留まった。そこには。
「へ……へへっ、効いたかよ、ワンころがよ……」
犬笛らしき小さい筒を口に加えたエリクが居た。
「エリク! お前気がついたのか!?」
それを見ていた男たちの一人がエリクに声をかける。エリクはカウンターに背をもたれながらひらひらと手を振った。ヴォルカが叫んだ。
「お前ぇ!! 一体何しやがった!?」
「キャンキャン吠える犬っころをよぉ……犬笛で従順にしてやったまでよ……。動物を弱らせてその場から追い払うっていうだけの、俺のクソみたいな『ギフト』でな……お前にも効果があったようで俺はハッピーだぜ……」
そういうとエリクは鼻血に塗れた口元を笑顔のかたちに歪めた。そしてもう一度笛を吹いた。
――――――――――――――――ッ!!
「ぐああああああっ!! くそがぁああああああああっ!!!!」
ヴォルカはその場に膝を突きながら、椅子の破片をエリクに向かって投擲する。その破片がエリクの口元に直撃し、笛があらぬ方向にすっ飛んでいった。エリクは倒れ込み息を喘ぎ喘ぎ吸っている。気絶してはいないが、笛を探す余力はない。
ヴォルカもエリクの『ギフト』と今の投擲で、体力をごっそりと減らしたようで、なかなか立ち上がることができない。ヴォルカの視界に何者かの影が映り込み、顔を上げる。
「……カルロス」
そこには息も絶え絶えなカルロスが、気絶しそうな意識を繋ぎ止め、仁王立ちしながらヴォルカを見下ろしていた。
「立てよ……決着つけようじゃねぇか……」
カルロスの言葉を聞いて、男たちも振り上げた拳や武器を下ろし、成り行きを見守った。ヴォルカはニィと笑うと、震える膝を無理矢理に伸ばして立ち上がる。
「……俺はヴォルカだ。姓は無ぇ、ただのヴォルカだ。お前の名前は?」
「カルロス・オルディアレスだ」
「カルロス・オルディアレス。お前の名前、覚えておくぜ」
「忘れてもらって結構だ」
そういうとカルロスとヴォルカは咆哮を上げながら殴り合いをし始めた。脚の力が限界に達し、蹴りを繰り出したり位置取りを変えたりは最早出来なかった。カルロスがヴォルカの横面を殴り、ヴォルカはカルロスの胴体を叩く。防御はしない、防御に割くだけの意識の余裕がもうなかった。
酔っぱらいのようにへろへろとした殴り合いの果てに、決着の時がやってきた。
「ぬぉおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
二人はその手に渾身の力を込めて、互いにストレートを放った。それぞれの拳が顔面に突き刺さり、丸太でドアを叩いたような重たい音が響いた。二人はその格好のまま動かない。
「カルロスゥゥゥゥ!!」
「ど、どうなった!?」
周囲で見守っていた男たちが固唾をのんで見守っていると。ゆっくりと、少しずつ意識を手放しながら。
ヴォルカがガクリと膝をつき、そのまま倒れ込んだ。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」
「「カルロスの勝ちだぁあああああああ!!!!」」
男たちはカルロスの勝利に沸いた。どさりと倒れそうになるカルロスを周りの男たちが支えた。
床から直立させた鎖の上にしゃがみながら、チャンは薄笑いを浮かべていた。
床に片膝をつきながらヤッカが荒い息を吐いている。身体のあちこちに打撲痕が浮かび、額からは血が流れている。ダントンは床に突っ伏し、動かない。
「お前達戦闘慣れてない。自分の『ギフト』を振り回してるだけ。それではワタシに勝てない」
チャンが二人を見下ろしながら、彼我の戦闘力の差を語る。
「くっそ……」
ヤッカが重い身体をなんとか持ち上げ、爪の生えた両手を構える。
「無駄ネ。いい加減あきらめるがいいヨ」
「うっせぇっ! お前らマティアス一味には一泡吹かせねぇと気がすまねぇ!!」
ヤッカが毛を逆立てながら激情をぶつける。
「鳶職連が金を払わねぇってんで毎度毎度嫌がらせしやがって! ヴィース市庁舎の改築中に足場崩しやがったこと、よもや忘れたとは言わせねぇぞっ! その時の巻き込まれ事故で脚をやられた親方は無念の引退だ、てめぇらのせいでっ!!」
「俺はもっと……個人的な恨みだけどよぉ……」
いつのまにか上半身を起こしたダントンがチャンに言葉を投げかける。
「俺の名は、マティアス・ダントンっつってなぁ……てめぇらのゴロツキ頭と同じ名前よ……。おかげで親から貰った立派な名前も名乗り辛ぇ! いい迷惑よ! こちとらその日その日を慎ましく生きてるだけのただの配管工だってのになぁ!!」
ダントンは拳を振り上げながら、マティアス一味を口撃する。
「忘れたも何も、ワタシは親方とやらも事故のことも知らないし、お前の迷惑なんてこれぽっちも興味ないヨ」
チャンはそういうと、親指と人指し指で『これぽっち』を表現しながら、目を細め笑った。
「このゲロ以下のドぐされ野郎がぁっ!!!!」
激発したヤッカがチャンの下へ猛スピードで飛び込んでいった。蛇のようにうねる鎖をかいくぐりながら、チャンと一進一退の攻防を繰り広げ始める。
その合間にダントンが入り口にいる客たちに声をかける。
「……おい、そこでずっと突っ立ってる木偶の坊ども! 誰でも何でもいい、樽一個分くらいの液体あったら持ってきてくれっ!」
「だぁれが木偶の坊だよ!! 外に何個か……水かなぁ? 中身入りの樽があるぜっ!」
「それだっ! 全部ここまで持ってきてくれ! ……それと誰か肩貸しちゃくれねぇか、一人じゃ膝が笑って立てねぇんだ!」
客たちの何人かが水入りの樽をえっちらおっちらと運び始め、別の二人の客が肩を貸しながらダントンを立たせる。
「お、おい、まだやるのかダントン? お前もうボロボロじゃねぇか……」
肩を貸したうちの一人がダントンの全身の傷を見てそう話しかけると、ダントンは、へっ、と一笑に付した。
「あたりきしゃりきよぉ。こうなりゃもう意地だ。街のパイプと格闘し続け二十年、水漏れパイプの暴れ馬ぶりに比べたら、こんなもん屁でもねぇぜ。……おい、もういいぜ。後は自分の脚で立てる」
ダントンが肩を貸す二人に退避を促すと、二人は少しの沈黙の後、逆にしっかりとダントンを肩に担いだ。
「い、いやダントン。俺もお前と一緒に闘うよ! お前がそんなに頑張ってるのに、本当に木偶の坊になってる場合じゃねぇって気づいたんだ!」
一人がそういうのを聞いて、ダントンは「なにぃ?」と当惑した。
「私も一緒に闘わせてくれ! 私はな、実は……マティアス一味には金を払っていてな……店を守るために仕方なく……。そのことがどうしても後ろめたくって……」
あまり上等ではないが、それなりに仕立てのいいスーツを着込んだもう一方の男が、顔を俯けながらダントンに語った。
「馬鹿! お前ぇにゃあブサイクな嫁と息子、娘がいるじゃねぇか。それに従業員も何人も雇ってる。それでいいんだよっ! こんなつまんねぇ配管工の意地になんか付き合うな!」
「いや、やらせてくれダントン! 私はこの街で生まれ育った生粋のヴィースっ子だ。それがある日ポッと現れたチンピラ崩れ共にへいこらしてるなんて、私はどうかしていた! 奴らを追い出したい気持ちは私も同じだ!」
スーツ姿の男はその強い気持ちを瞳に宿しながらダントンに告げた。ダントンは鼻の奥にツンと来るものを感じて、「へっ、そうかよ」と短く答えるだけに留めた。
「おいダントン、持ってきたぜ! 樽三つ分だけどよ、これで足りんのか!?」
「充分だ」
ダントンは鼻をすすると気合を込め直した。
「この街の意地、奴らに見せてやろうじゃねぇか!!」
「……フンッ」
チャンが錘を放ると、鎖がチャンの身体の周りを高速で回転し始め、チャンの身を守る壁となる。
「ぐっ……!」
ヤッカはその鎖の壁に近づきあぐね、攻撃の手を止める。
回転する壁から遠心力に任せて錘が飛び出し、ヤッカを襲う。ヤッカはバックステップでその攻撃をかわす。
しかし、そのまま回転しながら鎖が解けていき、バックステップ直後の硬直したヤッカの脇腹を強打する。ヤッカが短い悲鳴を上げる。
「うがっ!!」
チャンが鎖の一端を握ると鎖を操作し、鎖のもう一端でヤッカをぐるぐると縛り上げる。
「ぐっ! やべぇ!!」
「アイイイイイイヤッ!!」
チャンが力任せに鎖を振り回し、ヤッカを投げ飛ばした。
「がっ!!」
吹き飛んだ先のテーブルの天板に背中を打ち付けられながら、さらに吹き飛んでいく。
店の外まで吹き飛ぶかに思われたが、ヤッカは何か大きなクッションのような物に突然受け止められる。そのクッションはヤッカを受け止めた後、風船のように弾け飛んだ。辺りに水しぶきが舞い散る。
「おい無事か、ヤッカ!!」
「ダントンかい……助かったけど背中が痛ぇや……」
ダントンの作った水のクッションによって救われたヤッカが、水しぶきにびしょ濡れになりながらも、床に手をつき起き上がろうとする。
「よぉし、よくやった! 後はこの伊達男に任せておけっ!!」
ダントンの周りには水の塊が二つ、樽の中から空中に浮き上がり、ときおりその表面に波紋を立たせていた。
「おらっ、くらいやがれ細目野郎!!」
ダントンがそう言いながら手の先をチャンに向けると、水の塊から幾つもの水弾がチャンに向かって飛んでいく。
「面倒くさいネッ!!」
ダントンの水弾が横殴りの雨のように激しく飛んでいくが、チャンは驚異的な身のこなしでその弾幕を紙一重で避けていく。
「くそっまじかよ!! これはどうだ!?」
ダントンがそう言うと、水の塊から何条もの鞭状の水流がほとばしり、チャンを襲う。
「クッ」
チャンは鎖を螺旋状に巻き上げるとそれを盾にして水流の攻撃を防いだ。
「よぉっとぉ!!」
ダントンは更に追撃を重ね、今度は人の頭ほどもある水の塊を生み出すと、それを砲弾のように放った。チャンの鎖の盾にぶつかり、激しい音をたてながら弾け飛ぶ。
「グッ……強い攻撃だが、無駄ネ。先の攻撃でそれを見抜けないのが素人の限界ヨ」
水撃の凄まじい圧に耐えながら、チャンがダントンの攻撃を糾弾する。
「と、思うじゃん?」
ダントンの言葉に、チャンが「何を……」と呟く。
しかし、ダントンはそれ以上新しい攻撃方法を見せず、先程通じなかった水弾による攻撃を再開する。
「……結局それしかやること無いカ? さっきのは負け惜しみネ。その攻撃ももう見慣れた。今度はこちらの番ネ」
そう言ってチャンは動こうとするが。
「……っ!?」
「ようやく気がついたかよ」
ダントンがニヤリと口の端を歪める。
「こ……れは」
「自由に動かせねぇだろ? 鎖」
チャンが鎖を操作しようとするが、鎖全体を水のヴェールが包み込み、その動きを封じていた。
「配管の修理する時にそうやって一時的に止めたりするんだぜ!! そう簡単には動かせねぇ!!」
「小癪な真似を!!」
チャンはなんとか鎖を操作しようとするが、自由を奪われた蛇のように、錘のある先端がピクピクと震えるだけであった。鎖はぎっちりと固められ、動かせない。
「だけどこれじゃワタシは倒せないヨ! お前の水もどんどん減ってく一方ネ!! その水無くなった時、お前お終いヨ!!」
ダントンの水弾を鎖の盾で防ぐ一方となったチャンが、ダントンに攻撃のタイムリミットを告げる。事実、ダントンが出す水弾による消費で、先程から水のストックがどんどん無くなっており、もはや樽一個分に足りないぐらいにまで減っていた。
「お前馬鹿か?」
ダントンがチャンを煽る。
「もう一人いることを忘れてるだろ」
チャンがハッとする。
「おらああああああああっ!!」
ヤッカが空中から弾丸のような速度でチャンに攻撃を仕掛けてきた。
「クォッ!?」
チャンはすんでのところで腕で防御するが、その猛烈な勢いの攻撃に体勢を崩しかける。チャンの手から離れた鎖の盾が、床に落ちて湿った金属音を響かせる。
ヤッカはその隙を逃さず攻撃を畳み掛ける。ヤッカは鋭い爪の攻撃を左、右と繰り出した。チャンは手でいなしながらバックステップで避けていく。ヤッカはカゴの中で暴れる小鳥のように空中を跳躍しながら、チャンに攻撃を重ねていく。
「いい加減に……しろっ!!」
チャンがヤッカの攻撃を腕で防御し横へと流すと、体勢を崩したヤッカに強烈な蹴りを見舞わせる。ヤッカが短く呻きながら床へと倒れる。
チャンがヤッカに追撃しようとしたところに、ダントンの水弾が襲いかかった。
「グッ!」
チャンは一発目の水弾を避けると、テーブルの脚を持ち、天板を盾にしつつダントンの所へと突っ込んでいく。回り込むようにやってくるチャンに水弾を見舞うが、外した水撃がカルロスの近くに居た男たちのそばへ弾着する。
「おいダントン、当たっちまうぞ!」
「畜生めっ!!」
ダントンは水弾の攻撃をなるべくチャンの持つテーブルに当てるように慎重に攻撃するが、小さな水弾ではテーブルの天板を撃ち抜くことができない。
「イイイイヤァアアアアッッ!!」
チャンが気迫を込めて、テーブルごと突進してくる。ダントンが強烈な一撃に備え身を固めていると。
ダントンを支えていた両側の二人がダントンを後ろに放り、チャンの猛烈な突進をその身に受ける。
「ぐぁああっ!!」
「うぐぅっ!!」
チャン一人の攻撃に、男二人が軽々と吹き飛ばされ、後ろに転がりながら床に倒れる。
「お前らっ……馬鹿野郎っ!!」
ダントンが尻もちを突きながら、罵倒の声を挙げる。そしてすぐさま片手を上げると、残った水の塊が丸ごと、意志を持ったかのごとく一瞬で円錐状に変形する。
「ウッ!?」
チャンが咄嗟にテーブルで防御しようとする。
「喰らえっ!!」
ダントンが巨大な水の弾丸を放った。
一抱えほどもある大きな水の砲弾は、テーブルの天板を破壊し、更にチャンの身体に叩きつけられた。叫ぶ暇すらなくチャンが周りのテーブルや椅子を巻き込みながら倒れた。
「ようやく当ててやったぜコンチクショウ!!」
ダントンが拳を握りながらガッツポーズを取る。
「ウググ……やってくれたネ、素人が!!」
「おっと、本当にやるのは」
ダントンがニヤリと笑った。
「これからだ」
その言葉でチャンが頭上を仰ぐと、そこには空中を跳躍してきたヤッカが居た。
「おおおおおおおおおおおっ!!!!」
ヤッカが雄叫びを上げながら、倒れているチャンの腹に流星のような蹴りをお見舞いする。
「グハァアアッ!!!!」
チャンが身体をくの字に折り曲げ、唾液を撒き散らしながら叫ぶ。
「これで……終いだっ!!」
ヤッカがボールを蹴るかのごとく、チャンの顔面に強烈な蹴りを放つ。その勢いで、後ろに倒れてるテーブルに激しく後頭部を打ち付ける。
チャンは鼻血を噴き出しながらずるずると床に倒れていく。チャンは失神していた。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
「ダントンとヤッカの二人がやってくれたぜぇっ!!!!」
店の入口に居た客たちが、二人に向かってわっと駆け出した。
今回の闘いは
https://ncode.syosetu.com/n9717fz/23/
もご参照ください。
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