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私は会場に戻って、すぐにに行ったことはルオン・ステラートを探すことである。
ベランダで風に当たってるルオン・ステラートを見つけて、私は彼に近づく。
『なぁ、お前いきなりどうしたんだ?』
ハルが不思議そうに聞く。
彼女は私の思惑を一瞬で見抜きそうだが、今回は難しかったらしい。
あの、ルーク・フォジャーに恥をかかせようと思っているだけよ。
私さっきの事でもっと彼のことが嫌いになったわ。
ルオン・ステラートはどのような人かは知らないけれど。
「あの、ルオン・ステラート様?先程は申し訳ございませんでした。少し体調が優れなくて…」
私は風に当たっているルオン・ステラートに横から話しかける。
周りの貴族たちはなんだなんだと覗きに来ているが、気にしない。
ルオン・ステラートは、私の方を向いて目を見開く。
「あ、ああ…先程は申し訳ございませんでした!あんなしつこくしてしまって…」
彼は申し訳なさそうに俯いて、そのことを言う。
確かにしつこいのは私も好きじゃないけど…。
しっかりと悪かったことを謝ることができる人はいい人だと思う。
「いいえ、私もあんな態度を取ってしまってごめんなさい。今からでもいいので、1曲踊ってくださいませんか?」
私はルオン・ステラートに手を差し出す。
彼は掴んでいいのか分からずに、オドオドしているが少し私が微笑むと、ゆっくりと手を握ってきた。
「よ、よろこんで…」
私は歩き出した彼に連れられて会場の中央に出る。
楽器団は私達を見ると、曲を弾き出した。
それに合わせて私たち2人は踊り始める。
周りの貴族たちは簡単の声を上げていて、私たち以外には踊る人がいない。
「お名前…お聞きしてもよろしいでしょうか?」
ルオン・ステラートは踊りながら私に問う。
本名を言おうか迷ったが、あのルーク・フォジャーと繋がっているようだ。
安易なことは出来ない。
「シーラ・レオリと申します」
もしも仲良くなったら、謝って本名を言えばいい。
と、言っても今後は社交界には出ないだろうから会うこともないと思うけれど。
「シーラ・レオリ様…。とても良いお名前ですね」
彼はそう呟いて、踊りをリードしてくれる。
私は踊ることが苦手だ。
それを察知してくれたのか、少しだけテンポを緩めて踊ってくれる。
ああ、あのルーク・フォジャーもこれくらい紳士だったら良いのに。
その後、私たちは30分ほど踊り続け周りの貴族から大歓声を受けたのだった。
□
『かなり楽しんでたみたいだな』
帰りの馬車に揺られながら、ボーっとしているとハルがそう言ってくる。
たしかに…あの人は悪い人ではなさそうだったな。
踊っている間、ずっと私が転んだり躓いたりしないように気にかけてくれた。
それに、積極的に話しかけたりもしてくれて踊っている間も退屈しなかったし。
踊り終わったあとも、少し談笑したけれどルーク・フォジャーのように酷いことはしてこなかった。
そうね。
あのルオン・ステラートは悪い人ではないのかもしれないわ。
それに、会場に戻ってきたルーク・フォジャー…かなり傑作だったわ。
踊っている最中に、ルーク・フォジャーは戻ってきていて私たちを見るなり目を見開いた。
周りの貴族達も、彼が間違ったことを言っていたことに気づいていて、彼を見た瞬間クスクスと笑い声が聞こえた。
あの展開を生むためにルオン・ステラートを利用してしまったのは申し訳なく思うが、本当にルーク・フォジャーに対しては「ざまぁ見やがれ」と思ってしまう。
ルーク・フォジャーはそのような視線を向けられ、顔を赤くしてその場を去っていったようだ。
その事にルオン・ステラートも気づいたのか苦笑いをして「こればかりは味方できませんね…」と言っていた。
『本当にそれは同意しかできないわ。あいつの顔傑作だったなぁ…』
しみじみといった感じで言うハルは、本当に私の事を大事に思ってくれるのだと感じる。
ガタンガタンと山道を走る馬車に揺られながら、嬉しく感じる。
外は満月なようで、丸い月がキラキラと輝いていて、その月はまさに私の心を表しているようだった。
まあ、あれで彼も少しは改心したんじゃないかしら。
あんな大勢の場で恥を晒されてたら、とても恥ずかしいと思うわ。
私だったら一瞬で逃げ出すと思うし。
『そうだなー、ちょっと悪いことした気もするけれどあれにはそれくらいしないと効かなさそうだもんなぁ…』
そうね、それにルオン・ステラート…彼は一体何者なの?
ハル、何か知っていることはある?
ルオン・ステラートはルーク・フォジャーとは真逆の存在と言っても過言ではない。
やはり、初めのルーク・フォジャーの印象が強烈すぎてルオン・ステラートが変わり者というふうに感じられないだけかもしれないが。
『そうだなぁ…公式の設定聞くとかなり失望するかもしれないが、それでもいい?』
ハルがここまで言うということは、かなり強烈なキャラなんだろう。
私はルーク・フォジャーでもう慣れているため、これ以上はビックリしないと思うが…。
いいわ。
もう何を言われても驚かない自身はあるから。
『そうか…。ルオン・ステラートは、メインヒーローのルーク・フォジャーに次ぐ人気キャラクターだったんだ。その性格はかなり強烈だったため、1部のマニアからしかいい評判は聞かなかったが。その性格がな…ヤンデレなんだよ。好きな子は永遠と監禁してたい、自分の手中でしか動かしたくない…そんな性格だったんだよな。M基質の層や、ガチ恋系の人たちにはかなり人気だったようだ。私はどうしても好きになれなかったがな』
えっ…それは本当?
思わずそう聞き返してしまった。
あんなオドオドとした人が、そんな性格とは思えない。
『ああ。それに、攻略するのが1番難しいと言われていたんだ。バッドエンドにもこいつだけ種類があってだな、愛されなくて自殺する、監禁される、殺される…などとにかくエグいエンドが多くてだな…私もハッピーエンドは1度しか攻略したことが無い…。とにかく私はあいつとの恋愛はおすすめしないな』
そんな…。
けれど、ルーク・フォジャーのように性格の修正が行われてないかもしれない。
けれど、もしかしたら私が変わったことで少しは変わっているのかもしれない。
モブを目指している私には関係ないけれど、それを目指す過程で関わりを持っていくのは確かだろう。
私はどうしたらいいのだろうか。
そう月に問いかけても何も返事はなかった。