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「何故ですか!貴方は先ほどから、ずっと壁にもたれかかっておりました!」


その男性はしつこく私に言ってくる。

ああ、面倒くさい。

けれど、ここで無視したりしたら評判が下がりかねない。

私は苦笑いをして、掴まれた手を離そうとするが相手が力を入れて、離させてくれない。


「で、ですが…私あなたの事知りませんし…」


言った瞬間、会場がザワザワとし始めた。

彼女、あのお方のこと知らないんですってとか、一体なんなんだ、あの女は…とか色々言われている。

だって、仕方ないじゃない。

知らないものは知らないのよ。


「……そうですか。僕は、ルオン・ステラートと申します。もう一度言わせてください、僕と踊って頂けませんか…?」


切実な目で、私を見る彼を私はどうしても好きになれない。

ルーク・フォジャーのトラウマもあり、私はやはり高貴な貴族と慣れ親しむことはあまり好ましくないのだ。


『うお、こいつか!おいソラ!2人目の攻略対象だぞ、今度こそフラグをだな…』


ハルのテンションはMAXきなったようで興奮の色が隠せないようだ。


あら、そうなのね。

なら、早く回避しなくては。


ハルは馬鹿正直なのか攻略対象を見るとすぐに私に知らせてくる。

そういう所はかなり有難いのだが。

ルオン・ステラートのキラキラとした瞳に、断りずらくなってしまって微妙な笑みを浮かべていると、「おい」と、低い声が隣から聞こえる。

すると、周りの令嬢方が黄色い歓声を挙げた。


「な、なんですか。今僕は彼女にダンスを申し込んでいるのです。邪魔をしないで頂けますか?」

「だが、彼女はかなり嫌がっているようだぞ。レディに無理強いするのは良くないと思うが」


割り込んできた男はなんとルーク・フォジャーだった。

だが、私からしたらそんなことはどうでも良い。

早くこの場から離れたい。

私を蚊帳の外にして睨みあいをしている間に私はそっと、手を離して逃げ出す。

今ならチャーンス!!

ハイヒールを履いていながらも、ここから逃げ出したいという一心のもと、今までの最高記録をたたき出す勢いで私は会場から外に出た。



心地よい夜の風が私の髪をなびかせる。

私は庭のベンチに座り、一息つく。


『なぁ、本当によかったの?』


ハルは心配そうに聞く。

確かにあのルオン・ステラート?という男が誰かは知らないけれど、令嬢達の反応からしてかなり人気が高いようだ。

それにルーク・フォジャー。

あの男が出てきたのは予想外だった。

正直言って関わりたくない気持ちが勝るため、あの場から逃げ出したのだ。


いいのよ。

どうせ向こうの人だって私が誰だか知らないでしょうし。

ルーク・フォジャーみたいに私に悪口を投げかけてくるかもしれないし。


『ふぅん…まあ確かにな。あとさ1つ言っておきたいことがあるんだけど』


ハルはやけに真剣そうな声で私に言う。

彼女が真剣そうに話すことはあまりないため、私はしっかりと耳を傾ける。


なんですか?


『あのさ…あのルーク・フォジャーの性格。私知ってたんだ。けど、少しずつだけど変わっていくソラのことをみて、もしかしたらって思って…黙ってたんだ。ごめん…こんなことになるとは思わなかったんだ』


どんどん小さくなっていく彼女の声を聞いて、よほど申し訳ないと思っているのだろうと実感する。

けれど、性格を聞くか?と、聞かれてそれを断ったのは私だ。

ハルには何の非もない。


いいえ、ハルは何も悪くないわ。

私こそ巻き込んでしまってごめんなさい。


『そんな…お前は何も悪くないぞ。どちらかと言えばあのルーク・フォジャーが悪いんだし』


いきなりいつもの彼女に戻って、自分を棚に上げ始めるがそれが今日は不思議と嫌にならなかった。


ふふっ、そうね。


その後10分ほどハルと談笑していたら、後ろから「おい!」と、聞こえた。

その声の主を探してキョロキョロとすると、目に付いたのはあのルーク・フォジャーだった。


『うわぁ…』


若干引き気味のハルは唾をゴクリと飲み込んで言う。

私は深呼吸をして、見た目を整えて彼に答える。


「私のことでしょうか」


立ち上がって彼に近づく。

と、言っても半径5m以内には入って欲しくないのでかなりの距離を保っているが。


「ああ、お前のことだ」


カツカツと靴を鳴らして、早歩きで近づいてくる彼から逃げるように早足で後ろに下がる。


「おい、なんで逃げるんだよ!」


遂に私は柵にまで追い込まれて、私は立ち止まる。


「なんの…御用でしょうか」


私はなるべく嫌な態度を取らないように、少しだけ笑みを浮かべて問う。


「あのだな…ルオン・ステラートの事だが。ちゃんと追い払って、注意もしておいたから。だから、会場に戻らないか?」


案外まともなことを言うルーク・フォジャーを真っ直ぐ見すえて私は言う。


「嫌です。というか、貴方と戻るくらいなら私は周りの方々の評価を下げて、今すぐ家に帰りますわ」


ふわりと微笑を浮かべて彼に言う。

ルーク・フォジャーはポカンとした後、慌て「何故だ?!」と私に問う。

今更気づいたことなのだが…彼は私があのソラ・ローリエということを分かっていないのではないかと思う。

私だと知っていたら、あの場で制止なんてせずに寧ろルオン・ステラート側について、私を追い込んでいくだろう。


「私が貴方様にいいイメージを持っていないからです」


なるべく嫌な雰囲気を悟らせないように、だがハッキリと断るという意志をもって彼に伝える。


「俺が…何かしたのか?」


少し俯いて言う彼は、案外素直なところがあるのだと思ってしまう。

だが私からしてみれば、あなたが嫌っているソラ・ローリエを今自分で口説いていますよ?と、教えてあげたいくらいである。


「さぁ、自分でお考えになったらどうです?」


私は踵を返して、会場に戻る。

その時、腕を掴まれてこう彼は言ったのだ。


「せ、せめて!あんたの名前を…」


そういう彼に少しだけ視線を戻して。


「私の名前は…シーラ・レオリ」


と、伝えた。

あなたなんかに本当の名前を伝えるわけがないじゃないの。

だが、彼はその言葉を信じたようで、「シーラ・レオリ…」と呟いた。

私は、そんな彼を他所にカツカツとハイヒールを鳴らしながら会場に戻った。

ソラ・ローリエの偽名の謎はわかりましたか?


ソラ・ローリエ

SORA・RORIE

SIRA・REORI

シーラ・レオリ


です!

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