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「えっと…それで?帰ってきた娘にただいまとも言わせずに、慌てて書斎に呼び出した理由はなんですか?」


今、書斎にいるのは父のロイド、母のマリア、兄のテオに、住み込みメイドのサラン・トゥニカ、そして老執事のシュクレ・ナチュアート。

この人数で、この大きな屋敷に住んでいるとは考えられないだろう。

だが、事実だ。

そんな中、仕事をほっぽり出してまで私を急いで連れていくほどの理由がきっとあるのだ。

しっかり話を聞かなければ。


「ルーク・フォジャーから手紙が来たんだ」


父は真剣そうな顔で私を見る。

ルーク・フォジャーとは、王家直属の騎士団の団長を代々継いでいるという、有名な公爵家である。

悪い噂は全くと言っていいほどなく、どの人もいい人ばかりと聞いたことがある。

そして、とても気さくな方が多いだとか…。

そんな人気者フォジャー家が、我が貧乏貴族になんの用だろうか。


「と、とりあえずこれを見てくれ」


兄さんから封の空いている一通の手紙を渡される。

私はその中から1枚の手紙を、取り出して読み始めた。

書いてある内容を要約するとこうだ。


・はぁい!今日お宅の娘さんに息子があったと聞いたよ!

・その娘さん、かなり引っ込み思案みたいだね☆

・うちの息子が心配そうにしてたんだ。

・だから、息子の成長のためも兼ねてそちらで住み込みで家庭教師をさせてあげてくれない?

・とりま、報酬は沢山あげるし1ヶ月だけだからさー

・いい返事待ってるね!チャオ!


……って私フォジャー家のご子息様に会ったっけ。

今日の検査所の人?

いいや、あんな見た目でなかったと聞く。

ならば、あの人か。

あの、声がとても綺麗なあの男性!

あー、私首飛ぶやつじゃん。


「大体理解しましたわ。で?」


私は家族全員をキッと睨みつけて言う。

だが、家族そして使用人までもが分が悪そうにスッと目を逸らす。

そして、父は気まずそうな顔で言った。


「すまん!!ほんとに、一生のお願いだからフォジャー様のご子息様の家庭教師に付き合ってやってくれないか!!」

「ぜっったいに嫌です!!!」


私は、即答する。

そんな、恋愛フラグが経ちそうな謎イベント私が了承する訳ないじゃない!


『カテキョイベント来たァァァァ!!!』


ほら、ハルのテンションは高いし。

つか、家庭教師イベントって言っちゃってるし。


「お願いだ!!ほんとまじで、これ断るとローリエ家の首が飛ぶ可能性があるんだ!一族の存続を願うならば、この頼みを断らないでくれ!」


うーん、確かにこれの原因は私が今日とった行動がほぼ原因と考えていい。

けれど、私はこんな醜い姿で彼の前に現れたいとは思わないのである。

あの、美しいであろう男性に会いたいが、私からしたらわざわざ罰ゲームを行うような事だ。

きっと、私を見たら他の人と同じで罵倒するに決まっている。


けれど、これを断ったら…家が無くなる可能性がある。

1ヶ月と、家の存続…。

ならば、私は1ヶ月罵倒される方を選ぶ。

家族のため、家のため、こんな人達だけどいい人たちなのは事実なのだから。

恋愛フラグなんで、叩きおってやるわ!


「わかりました…家庭教師お願いしてください」


私は喉から振り絞った掠れた声で、言う。


「本当に…いいのね?また、前みたいに…」


母は心配そうな顔で私を見る。

私だって、嫌だよ。

仕方ないよね、もう1ヶ月我慢するよ。


「いいわ。家のためなら、私は1ヶ月の罵倒なんて耐え抜いてみせる」


本当は怖いけれど、それを見せないように声が震えないように、はっきりと宣言した。


「ごめん…ありがとう…」


父も、俯いて小さく小さく声を発した。



『いやー、良かったわ。フラグ経ったわー』


昨日の一件から1夜明け、私は日課のランニングをしている最中だ。

ルーク・フォジャー様が居らっしゃるのは、2週間後と聞いている。

それまでに、少しでも脂肪を燃焼させて見た目を美しくしなければ。

化粧品や、保湿液なども街へ言って少し高めのを買ってきた。

この残りの時間で少しでも、綺麗になってやる!


『なぁ、ルーク・フォジャーの詳細知りたい?』


ハルが唐突に聞いてくる。

うん、何となく攻略キャラなんだろうなって思ってた。

だが、私はそんなフラグを回避して、時にはへし折るつもりだ。


知りたくないわ。

自分で彼のことを知っていくつもりよ。

そんな、前世の知識に頼るなんてそんなことは、ルーク・フォジャー様に失礼な気がするし、それを知って先入観で彼と話そうとは思わないわ。


『ふぅん…なら言わないけどさ』


ハルは、面白くなさそうと言った感じで話すのを辞めた。

私だって、知識に頼りたいけれどそんなことは、私のやり方に反している。

少しだけ、走るスピードをあげる。


それにしても、ルーク・フォジャー様…何故私だと気づいたのだろうか。

ローリエ家のような、落ちぶれた貴族なぞいちいち気にしている時間もない。

こんなド田舎を領地にしている我が家の、娘なんて気にもならないはずなのに。

それに家庭教師なら、もっと他のいい家の所にいってがっぽりお金を絞り取ればいいものの…。


やっと1周走り終わったあとで、近くのベンチに座って休憩をする。

空を見上げると、雲ひとつない晴天だった。

風が吹き、桜が散る。

考えてみたら、この数日の中で色々なことがあったなぁ…。

ハルとの出会いで、人生が一転した気がする。

けど、前のような同じことをループするような生活に戻りたいとは思えない。

彼女と出会ったことで、私の世界に色がついた。

これから、どのような事が起こって行くのかと少し楽しみな自分もいる。

とりあえず今は、ルーク・フォジャー様との恋愛フラグ回避のため、私は動くことにする。


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