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あの決意から数日が過ぎた。
ダイエットを開始したが、まだ初めて日が経っていないため成果は出ていない。
今日も私は家の掃除に忙しい。
こと後は、夕食の準備をしなくてはならない。
『なーなー、ソラっていつ学園に入学するの?』
いきなり頭から声が響く。
ハルは24時間365日暇なのだろうか。
確かに、意識だけというのは暇な気がする。
来年からからね。
私は、精霊の適正検査をまだしていないから入学できるかどうかは分からないけれど。
精霊の適正検査というのは、自分の中に宿る精霊の検査だ。
王国が生産している魔道具を使って行うらしいが、めっちゃ高い。
そんな高価なものをうちが買えるはずもなく、レンタルをしたくても近くにレンタルできる場所はない。
そして、ズルズルと今になってしまったのである。
ちなみに、精霊の種類は火、水、土、光、闇の5種類。
1人の人間に対して、1人の精霊が宿る。
また、上級、中級というランク分けもされており、上級精霊は滅多に出てこないのである。
『ふぅん…確かに精霊の適正検査ってゲーム内でもやってないって言ってたなぁ…いつしてたっけ』
あれ、そうなのね。
なら、フラグ回避のためにも明日レンタルしてくるわ。
『ええっ…そこは逆に行かずにいこうよ。そしたら攻略キャラとの出会いが…』
嫌よ、前々から言ってるけどうちはお金が無いの。
だから、私はヒロインだろうとなんだろうとモブを目指す!
けど、見返すためにダイエットをする。
これが今の目標よ。
『あー…そ、そうだな…頑張れよ』
どうやら、ハルは若干引き気味のようだ。
そんなことは関係ない…例え前世の私に引かれようと、1度決めたことは辞めない。
とりあえず、私は明日の街へ出ていく準備を始めた。
□
そして、次の日。
私は、たくさんいる家畜のうちの1匹の馬を使って、街へ繰り出した。
母は、お金が…と嘆いていたが、私のフラグ回避のためだ。
諦めて欲しいと思う。
『なぁ、ほんとにやるのか?』
ハルがつまらなさそうに言う。
ハルに決められることではないわ。
それに、もうここ数日で分かったと思うけれど、私は決めたことは曲げないわ。
『へいへい、わかりました。ソラが頑固なのはよくわかりました』
私ははぁ…と溜息を着いてしまう。
やはり、この気だるげな態度にどうしても慣れない。
数時間ほどして、やっと街に着く。
馬車を保管できるところに、馬を預けて私は街へ繰り出した。
「ほぅ…久しぶりだわ」
私は感動のあまり声を漏らしてしまう。
私が街に来れるだなんて、半年に1回あるかないかだ。
なんせこんなに遠い場所にあるのだ。
そんなことに時間をかける訳にも行かない。
『えっ…この街…まさか!あの『薔薇と楽園』の本編によく出てくるとこじゃないか!ヒロインの地元の街っていう!!』
ハルは興奮気味なようだが、ヒロインの地元はこんな綺麗な街じゃなくて、もっと薄汚れた田舎だと言ってあげたい。
とりあえず、精霊の適正検査の予約は済ませてあるので、約束の時間まで街をうろつく事にする。
『なあ!あの雑貨屋みてみない?』
ハルが私に問う。
確かに、雰囲気もアンティークな感じがして良いし、少し見てて気になっていたお店なのだ。
私はさっそくそのお店に向かう。
少し小走りにして、向かったら私はとある男の人にぶつかってしまった。
やばい!!
怒られるかな…?
「すいません!!お怪我はありませんか!」
私は深く被ったフードで顔を隠しながら、目の前の見えない相手に必死に頭を下げる。
「そちらこそ、大丈夫ですか?」
透き通ったような美しい低い声、その声は私を少し魅了させてしまった。
い、いけないいけない!
私は数歩下がってもう一度頭を下げる。
「こちらの不注意で誠に申し訳ございませんでした!」
私はいつもの借金取りへの対応をしてしまった。
目の前の男性は、私に歩み寄り「頭を上げてください」と、言った。
私は、失礼にならないようにゆっくりと頭を上げてフードを被り直す。
「レディ、フードを取っては頂けませんか?」
男性が私の頭に手をやり、フードをゆっくりと外していく。
「や、やめてください!!」
咄嗟にその男性の手を振り払ってしまった。
彼は呆然と私を見ているようだ。
こんな醜い姿を、恐らくとても綺麗な人であろう男性に見せたくはない。
私は踵を返して、走り出した。
男性は、私を追ったりはしてこないが、今更になってとても失礼なことをしてしまった気がする。
だが、今更止められるはずもなく精霊の適正検査所までたどり着き、私は足を止めた。
『おいおい…お前何やってんだよぉ』
ハルは呆れ半分といった感じで私に言う。
仕方ないじゃない。
こんな醜い姿を、彼に見せたいとは思えないわ。
『ふぅん…まあ私もソラの視界でものを見ているから、その男がどんな顔をしているかは分からないが…お茶でもしてけば良かったんじゃないの?』
そんなこと出来るわけないじゃない!
こんな私とお茶をしたいだなんて思う男性がどこにいるというの?
きっといるわけないわ、いいえ絶対いない!!
『そんな断言すんなって…自分でいって悲しくならないの?』
もう開き直っているわ。
それに今はダイエットをしているのよ。
いつか、絶対美しくなるための修行よこれは!
『まあ、ソラがそういうならいっか。けどあの声…どこかで…?』
ハルが何かボソボソと呟いているが、何を言っているのか聞き取れないためとりあえずスルーしておく事にする。
「とりあえず早く来てしまったけれど、手続きを済ませなければ!」
私は目の前の大きな検査所に足を踏み入れた。