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「お、お嬢様!大丈夫ですか!」
その瞬間、私の意識は動転した。
グルグルと頭の中が、回り見えてくるのは、恐らく前世の私の人生。
リストラをされて、家にひきこもっている私。
『薔薇と楽園』という乙女ゲームを無心でしている私。
ゴミ屋敷の中、孤独死して言った私。
グルグルと、何度もその人生を頭の中でループされ続け、私は倒れた。
□
目が覚めると、ここは自室だった。
どうやら、使用人が運んでくれたらしい。
ベッドから降りて、私は勉強机の前に座る。
未だに信じられない。だが、これは本当なのか?
『いやいや、これガチよ?』
すると頭の中で聞き覚えのあるような声がする。
「だ、誰!!」
私は立ち上がって辺りを見渡すが、誰もいない。
『私は貴方。貴方は私。前世の私と、今世の貴方という違いはあるけどね。簡単に言うと、ひとつの体に2人分の意識がある感じかな。けど、その体は貴方のもの。あくまでも、私は意識体として転生した私の体にいるだけ』
言っている意味がわからない。
私が貴方で、貴方が私?
つまり、私は今の自分の記憶と、死ぬまでの前世の記憶を持ち合わせていると言うの?
『簡単に言うとそうだね。私の体が転生したが、私は意識体として残り、今世の新しい記憶と共に、この記憶を植え付けられた。今まで目覚めなかった理由は分からないけれど』
ってことは、この体は前世の貴方の体を修復し、転生させたものだと。
この今の私は、新しく出来たもので、元々の記憶やこの体は貴方のものだと言うのね。
『まぁ。そんな感じ。今の私と呼ばれ方は違うからね。せっかくだし、自己紹介しなくちゃね。今世の私にするって、なかなか面白い話だけどね』
そうね、私もあなたと同じに思っているわ。
今世の私の名前はソラ=ローリエ。
子爵の地位を預かっている、貧乏貴族よ。
『へぇ!私の体って、そんなとこに転生したのね。いいのか、悪いのか分からないけれど、とっても面白そう。前世の私の名前…まあこの意識体の名前は、花芽陽。まあ、よろしくね』
花芽陽?なら、私はハルって呼ぶわ。
私のことは、ソラって呼んでね。
今更ながら、この意識体…ハルは私が考えていることを、認識して話していることに気づく。
ってことは、普段私が考えていることも分かってしまうのだろうか。
例え前世の私だとしてもそれは少し嫌な気がする。
『あ、無理に貴方の気持ちを悟ったりはしないから安心して?話したい時は、話しかければすぐに目を覚ますから』
どうやら、彼女は普段は眠っているが呼べば起きるらしい。
つまり、普段は今世の自分として生きていけばいいのね。
そんなことを考えていると3回ノックが聞こえて、ガチャリとドアを開く音がして、メイドのサラン・トゥニカが入ってくる。
サランは、とても心配そうにして私に駆け寄る。
「お嬢様!!起き上がっては行けません」
必死にベッドに戻そうとするサランを制してから、私はソファを進めて、彼女と向かい合わせになって座る。
「大丈夫よ。少し貧血になっただけだと思うの」
なるべく不自然にならないように、ニッコリと笑顔を作る。
サランはそれでも、不服そうにするがあんなことを話せる訳でもない。
『おっ、誰か入ってきたと思えばサポートキャラのサラン・トゥニカじゃないの。いやー、この目で拝めるとは…』
ハルがいきなり語りかけてくる。
それにしても、サポートキャラって何?
って、そんなことを考えている暇はなーい!!
ちょっと、今は辞めてよね。見てるのはいいけど、少し話さないでくれると助かるわ。
『りょーかい。邪魔はしない』
ハルを落ち着かせて、私はもう一度サランの方に意識を戻す。
けれど、本当に彼女は心配そうに私を見つめていた。
自分の仕事もあると言うのに、合間を縫って来てくれたのだろう。
「サラン、心配しなくていいわ。私は見た目のとおり、こんなにピンピンしているから、早く自分の仕事場に戻って」
私はなるべくキツイ言い方にならないように、言う。
「けど…」と、サランは言っていたが私は、それを止めて、ドアの前まで引っ張る。
「ほら、行って行って!私も、服装を整えたらすぐに向かうわ」
私は貧乏貴族だ。
使用人もサランともう1人の執事がいるのみで、他の者は誰もない。
だから、家族総出で使用人と共に家の掃除や、家事をするのだ。
こんなことで、倒れていては行けない。
「わかりました…ですが、無理はなさらないでくださいよ?」
サランは、ドアを開けて出る。閉まるまで、何度もチラチラとこっちを見てきていたのは、見なかったことにする。