都市伝説は押しに弱い
プルルルルル、プルルルルル、ガチャ、
「私、メリーさん。今、駅の前に居るの。」
「私、メリーさん。今、あなたのマンションの前に居るの」
「私、メリーさん。今、ドアの前に居るの。」
「俺、今、お前の後ろにいるんだけど、鍵開けるからどいてくれない?」
「ヘェッ!?」
その男は何気ない顔をしてそこに立っていた。メリーさんと名乗った女はまるで化け物でも見たかのように目を白黒させている。
「ちょうど、今、TSUTAYAで呪いのビデオ借りてきたんだけど一緒に見ないか?ひとりじゃ怖かったんだよな。」
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「準備オッケーだ。」
「どうして私、ここに居るんだろう......。」
男は二人分のコーラをグラスに注いで来た。まるでサッカー観戦でもするかのようにソファに腰掛ける。
「ささ、どーぞどーぞ。」
男はソファの端に座り私を横に座らせた。あっ、このソファ思ったより柔らかい。
最早なし崩し的に家の中に連れ込まれてしまったが、ここまで来たら腹をくくるしかない!私はコーラに口をつけた。久しぶりに入ってきた食べ物にお腹がびっくりしているが美味しい。
男は喜々とした顔で呪いのビデオをディスクレコーダーにセットした。
ポチッ......ザーーー......プツン
テレビの中に井戸が映る。何かが手をかけた。テレビに砂嵐がかかる。もう一度テレビが映った時、前髪の長い女が目の前に現れていた。
心臓がビクンと跳ねる。都市伝説の自分が言うのも何だが怖いのはちょっと苦手だ。
長い髪の女は恐ろしい速さでテレビの前に近寄るとテレビの枠に手をかけた。
「ヒィッ!?」
「おっ、来た来た。」
呪ッテヤル......呪ッテヤル......
貴様ノ体ヲ食イチギッテヤル......
「お茶してかない?丁度、良い茶葉が有るんだ。コーラでも良いよ。」
「ノロッテヤル......」
「本当に居たんだ......貞子。」
「茶菓子も有るんだけど、来客用だから自分で食べるのも勿体ないし、それに自分の家に訪ねてくる人なんていないし使い道が無いんだよ。」
「ノロッテヤル......」
「普段井戸とか寒くない?ここ賃貸だけど防音とか色々設備が整ってるんだよ。」
「........................」
「シャワー使っていいけど。」
「............ドウモ。」
「なんか結構思ってたより......軟派ですね。貞子さん。聞いてた感じと全然違います。」
「......オマエハノロウ。」
「ヒィッ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
軟派と言われるのは都市伝説としてのプライドが許さないのだろう。
私の場合は人を驚かせた後は普通にドアから出て行くので面白がってやっているだけだが、貞子さんともなるとそうはいかないのかもしれない。くわばらくわばら。
ジャー......
貞子さんがシャワーから出てきた。
ぼたぼたと水を垂らしながら脱衣所から戻ってくる。水も滴る良い女......じゃなくて!
「貞子さん!髪乾かさなきゃだめですよ!!」
「......ベツニイイ。」
「ダメです!」
貞子さんを押して脱衣所の鏡の前にある椅子に貞子さんを座らせる。シャンプーの良いにおいがふわりと香ってくる。
タオルで髪を挟みこんでみるが結構良い髪質だ。毎日ケアしている髪みたいだ。潤いが違う。いつも井戸に浸かっているからだろうか。
水分が取れてきたので脇にあったドライヤーで髪を乾かす。
ブオーン
この環境に慣れてきているのがちょっと不思議だ。貞子さんをこちら側に引きずり込んでいるような感覚である。
前髪を整えてあげる。結構可愛い。予想外。
「......カオ、カクス。」
「えー。いいじゃないですか。前髪かかってると前見えないんじゃないですか?」
「......ソレハ、ナレタ。」
「でもそっちの方が可愛いですよ。」
「......ノロウ。」
「ちょっとだけ!今日だけですから!良いでしょー!今日はトクベツですよ!たまには憂さ晴らししてもいいんじゃないですか!?」
「............」
「ね?」
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「という訳でこうなりました!」
「おー!すごい可愛いじゃん!」
「......ノロウゾ。」
あ、ちょっと照れてる。可愛い。
ちょっとずつ貞子さんのことが分かってきた気がする。なんか親近感がわく。
「じゃあこのまま廃校行ってみますか!」
「え?廃校ですか!?怖いですよ。だって今夜ですよ?余計怖いじゃないですか。」
「近くにある廃校、花子さん出るらしいよ。行ってみない?トイレの花子さんだよ!見たくない!?」
「ミタイ。」
「え!?そこ、乗るんですか?」
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「来てしまった......」
「鍵開いてて良かったね!めっちゃ楽に入れたじゃん!」
「いや、そうなんですけど......」
「コーフンスル。」
「えぇ......」
カツン カツン
靴音が廃校の中に響く。ミシミシと腐った木材の音もする。体中に鳥肌が立っている。
特に隣の貞子さんの足音が全くないのが怖い。歩いているはずなのに存在感がないというか、目を離した瞬間にちょっと近づいているとびっくりする。それだけで心臓止まる。自分って死ぬのかな?
「着いちゃった......」
「ここの二つ目のトイレらしいよ。じゃあ行くか!」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
私はあることに気が付いてしまった。
とても大切なことだ。
「入るんですか......?女子トイレ......」
「あっ。」
そう。
例え廃校とはいえ女子トイレは女子トイレ。
男性入っちゃダメでしょう!?
「そういえば......そうだったね。」
「マッテロ。」
「......はい。」
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「はーなこさーん。出ておいでー。」
コンコンコン
返事がない。やはり都市伝説は都市伝説だよね。って、私が否定していいのかな?
「ハーナコサーン。デテキナー。」
「お決まりの言葉違いますよ。そういうのって厳しいんじゃないですか?」
ドアを叩くと反動で少し扉が開いた。
なんだ、開いてたのか。緊張して損した。
「マッテ。」
「へ?」
貞子さんが変な体勢で隙間から覗いている。
そういう所が嫌われるところだと思うんだけどなぁ。
「ヒトイル。」
「はえっ!?」
大声を出したと同時に扉が開く。
そこに居たのは。
「は?」
「え?」
汚いおっさんだった。
「「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!」」
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その後、廃校の女子トイレにはホームレスのおっさんが出るという、現実感のたかーい噂が新しい都市伝説になったようだ。
そして廃校のおっさんとして一躍時の人となったらしい。




