第8話 エクストラスキル
「…い」
なんだろう。
今までのループとは感覚が違うような気がする。
なんか、こう…無重力空間というか…意識の中みたいな…
「目を……い…よ」
なんだか声も聞こえる。
もしかしてまだ死んでないのか?
誰かが俺を起こそうとしているのか?
「目を…ま…い…よ」
うるさいなぁ。
さっさとループしろよ…
「目を覚ましなさい。選ばれし者よ」
なんだ?
誰の声だ?
というか人の声なのか?
機械的な言い方…元の世界で流行ったボーカロイドみたいな…
「目を覚ましましたか?選ばれし者よ」
目を開けてみる。
そこにはただただ白い謎の空間だった。
声の主を探そうとしたが、人…そもそも物体が俺しかいないようだ。
「お前は…さっきから聞こえるこの声は誰なんだ!」
「私は世界の声。あなたたちの世界で言うとカーディナルシステム、といえば分かりますか」
カーディナルシステム?
ゲームの中の世界を自動で管理する…みたいな感じのやつか?
「その通りです。そして選ばれし者イールドよ。あなたはまだループするべきではない。」
「選ばれし者?ループすべきではない?どういうことだ?」
「あなたは特別な能力に選ばれたのを知っていますか?」
「特別な能力…ループのことか?」
「その能力はこの世界を作り出した創造神も知らない能力です」
「だから選ばれし者」
「その通りです。そして今はまだループするべきではありません。というよりも転移してからループしすぎです」
わかんねー
頭が回らないぞ。
ループしすぎってのは分かっているけど。
「だが、俺はさっきの戦闘で死んだはずだ。ループする条件を満たした。ループが早すぎると言ってもどうやって戻るんだよ」
「戻るのではありません。今あなたが目を開け、その状況を見れば分かることでしょう…」
「ん?お、おい!待て!まだ聞きたいことが…」
俺は再び意識が飛んだ。
…と同時に目を開けると、目の前でダンジョンボス『将軍:レパル・スドルガン』が止まっていた。
いや、レパルだけではない。
この瞬間にこの世界の全ての時が止まっているように感じた。
よく見るとレパルは止まってはいなかった。
スローモーションのようにゆっくり動いていた。
俺だけがこの瞬間に普通に動けるようだ。
ここで、何気なくメニューを開き、自分の能力を確認しようとした。
すると、能力の下に
『エクストラスキル』
という項目があった。
「エクストラスキル?」
口にしてみたが何も起こらない。
エクストラスキルの項目を見ると、
ー エクストラスキル一覧 ー
クロック・ダウン 一時的に使用可能
と書かれてあった。
一時的とあるので、この有利な状況が終わる前にレパルだけは倒しておこう。
ファイアソードで倒すギリギリまでHPを削り、一閃斬りでカッコよく倒しておいた。
倒したと同時に時間の流れが戻ったようだ。
レパルは消滅し、カーリィとセリシアは何が起こったのか理解できないようで、唖然としていた。
そういえばさっきのエクストラスキルはどうやったら使えるんだろう?
そう思って確認したが、そのような項目はどこにもなかった。
「い、イールド?」
さっきのエクストラスキルを探すのに夢中になってて気付かなかった。
カーリィ・セリシアが全員のHPを回復させてゴレゴンも意識を取り戻していたようで、みんな俺の周りに集まっていた。
「イールド、さっき何したの?」
セリシアが聞く。
当然の疑問だが、俺も何をしたのか理解できていない。
どう答えるか悩んでいると、セリシアがさっき見たことを説明してくれた。
「レパル・スドルガンがイールドを刺そうとした瞬間にイールドがすごく早く動いてレパルを倒したんだよ。ホントに一瞬だった。覚えてないの?」
「あ、ああ!覚えているよ。なんか死にたくないって夢中で攻撃したんだけど、そんなに早かったのか。ハ、ハハ…」
とりあえず誤魔化しておく。
メニューから消えた、本当に使ったのかもわからないエクストラスキルなんて言っても信じてくれないに違いない。
「ま、まあ、全員無事でボスを倒すことができたんだ。セリシア、ゲームではダンジョンの外に転送されたよな?」
ゴレゴンが俺の気持ちを読み取ったのか、話を変えてくれた。
「うん。ボスを倒すと自動で外に転送してくれたよ。そろそろじゃないかな」
「お、転送され始めたぞ」
このダンジョンに入った時と同じように霧が立ち込め、霧が晴れるとダンジョンに入る前の場所に移動していた。
「結局ダンジョンの入り口はないのね…私のせいで危険な目に合わせてしまってごめんなさい」
「いやいや!いいんだって!確かに危険だったけどレベルもたくさん上がったし!そういえば武器ドロップしたんだけど、他のみんなはなんかドロップしたか?」
「え?ドロップ?」
ドロップした、なんて表示なかったが、それはゲームの時だけだよな。
ゴレゴンの言う通り二刀流専用の武器と謎のアイテム、それと金がドロップしていた。
「ホントだ!私は杖ドロップしてたよ。ゴレゴンも?」
「え?いや?違うよ?俺は剣と盾だ。」
「どうやら扱う武器と同じ武器がドロップしているみたいだね」
「そうみたいだな。俺は二刀流専用だったぞ」
そして、この武器のすごいところが
「この武器、今まで使ってた武器よりレア度と数値が桁違いに大きいぞ!」
というところである。
分かりやすくいうと、ゲーム序盤に迷い込んだダンジョンで、終盤以降まで使える武器を手にしたという感じだ。
「お、おいこれ…俺たち捕まらないか?こんなに強い武器持ってて」
「大丈夫でしょ。チート使ってないし」
「「使ってるようなものだろ(でしょ)」」
セリシアとセリフがかぶった。
なんだか睨まれている感じがするがほっとこう。
こうして俺たちはなんとかダンジョンを突破し、再び始まりの村を目指すのだった。