第1話 マルチ・オンライン
読んでくださりありがとうございます。
「ここは…?」
見渡す限り草原が広がっている。
遠くの方には城らしき建物が小さく見え、ところどころ見たことない生き物がいるように見える。
「…夢でもみてるのか?」
恐らくここは俺が知る日本ではない。
もしかしたら、見たことない生き物がいるあたり自分の知る地球ではないのかもしれない。
「もしかして…」
VRでも使って景色を見ているようにも感じられるがそれとは違う、まるで…
「…異世界?」
「違うだろ」
「ゲームの中じゃない?」
「…確かにさっきまでやってたゲームの中みたいではある」
俺の夢を壊してくるコイツらは、小さい頃からの幼馴染だ。
最初に異世界という事を否定してきたこの男は、ここでは…ゴレゴンだ。
この世界では彼曰く
「イケメン面は苦手なんだ!」
と、野球部のような外見で髪を短くしている。
髪の色は何故か銀色だ。
次にゲームの中だと推測した女の子は、カーリィだ。
赤い長い髪で元の世界と正直そこまで見た目は変わらない。
最後に小さい声で喋った理系女子は、セリシアだ。
緑色の短い髪でメガネをしている。髪色以外はそれほど変わらない。
そして、俺はイールドだ。
外見は黒髪の地味な男…と言ったところか。
元の世界ではメガネをしていて一層地味に磨きがかかっているが、キャラメイクの時にゴレゴンにメガネを外された。
「ゲームの中?…確かにさっきまでやってたマルチ・オンラインの背景に似てるけど…」
確かに異世界というよりゲームの中、と考えた方が良さそうではある。
現に俺が今言ったように、背景や城の位置を見るにマルチ・オンラインの中のように感じる。
最初に見たことない生き物と言ったが、それもマルチ・オンラインのモンスターに似ている。
「ここが仮にマルチ・オンラインだとしたら、メニューバーはどこだ?ゴレゴン見つけたか?」
そう、ゲームの時には画面の上にあったメニューバーが無いのだ。
「いや、俺も見つけれてない。カーリィは?」
「えっ?えーっと…ないね。セリシアは分かる?」
「上にないなら下とかかな?」
下にもなかった。
が、そこで右上に何かあるのに気づく。
「なぁ、この右上のやつって…もしかして…」
「ん?これは…」
メニューバーだった。
ここで思い出したが、ゲーム内のキャラがメニューバーを今のような感じで出していた気がする。
色々確認する。
「ログアウトボタンは?」
「ない。」
「ステータス見てみろ!」
「え?Lv.1になってる!?」
「装備品も道具もないようだよ…」
「今俺たちが着ているのは私服だけど…」
「装備品名「私服」なんだけど。ウケる。」
「…武器が初期の弱いやつになっているみたいだよ」
話をしているうちに、今はゲームをインストール直後の状態であることを確認した。
ただ、1つだけ違う点があった。それは―
「なぁ、みんな。ステータス画面のこの…」
「何ボケッとしてんだよ!学校遅れるぞ!」
「ん?…ああ」
この話しかけてきた180センチ金髪のイケメンはゴレゴンだ。
どうせこの世界に戻ることはないので異世界の名前で呼ばせてもらう。
外見通りめちゃくちゃモテる。
「どうせ夜遅くまでゲームでもしてたんでしょ…
ゲームのどこが面白いんだか…ねっ?ゴレゴン!」
「え?あ、ああ…」
ゲームしていたことは否定しないが…
このゲームの面白さを分かっていないやつはカーリィだ。
「カーリィもマルチ・オンラインしてるでしょ」
黒髪メガネのこいつはセリシアだ。マルチ・オンラインっていうゲームだけに関しては俺よりもやり込んでいる。
ちなみに俺は自分で言うのもアレだがゲーマーだ。
スマホゲーからP◯4まで、幅広くやっている。
「え?あ、いや…マルチ・オンラインは別よ!このゲームは4人いないとできないし!」
そう、マルチ・オンラインは4人で1つのパーティを組んで始めてできるゲームである。
そうこうしているうちに学校に着いた。
授業は退屈なので、放課後までマルチ・オンラインの説明を脳内でしておくとしよう。
そもそもマルチ・オンラインはそこまで流行っているゲームではない。
4人でやる、というゲーム性から、友達がいない人はできないのである。ゲーム内でもパーティは組めるが、パーティを抜けたり入ったりできるのは1回までなので、パーティ内でトラブルが起きて抜けてゲームができなくなった人がたくさんいたため、ユーザ数が減ったのだ。
ここでのパーティはギルドのようなものである。
それでも、セリシアがハマってしまったので、それに付き添う感じでまだやっている。
ジャンルとしてはMMOといった感じで、スマホでできるドラ◯ンクエストシリーズのような感じと言えば分かってもらえるだろうか。
ゲーム自体の説明はこの辺にして、ゲーム内について説明しよう。
このゲームには職業はなく、武器を選ぶことによってパラメータやスキルが変わってくる。
武器は何十種類もあり、剣や槍など王道な物から、銃などの現代の兵器まで幅広く存在する。
パラメータには、
HP・MP・攻撃・守備・素早さ・回復・魔法
の7種類があり、最初に選んだ武器によって変わる。
また、マップ上のモンスターを倒すことによって、経験値とスキルポイントが貰え、それによって、プレイヤーレベルとスキルレベルを上げていく。
プレイヤーは全てのスキルが扱えるが、最初に選んだ武器以外の武器専用スキルは解放できない。
戦い方は前衛と後衛に分かれて戦うのが一般的だろう。
実際、俺たち4人もそうしてる。
前衛が守備とHPがとても高いゴレゴンと、攻撃と素早さが高い俺、後衛が回復とMPがとても高いカーリィと、回復と魔法とMPが高いセリシアだ。
基本的には敵の攻撃をゴレゴンが受けて、セリシアが援護魔法や攻撃魔法で援護、その間に俺が攻撃、HPが減ったらカーリィが攻撃、という感じだ。
…どうやら授業が終了したようだ。
いつの時代も学校はめんどくさいのは変わらない。
今から家に帰るのだが、なぜマルチ・オンラインの説明をしたかというと、毎日夜には朝の4人で一緒にマルチ・オンラインをするからだ。
これは4人の日課となっている。
ゴレゴンとカーリィは部活があるので、9時から開始だろう。
9時まで寝るとしよう…
…はい。電話の音で起きました。
時計を見ると、9時を10分ほど過ぎているように見える。
電話の主は予想通り4人だ。
とりあえず出よう。そして、ゲームを起動しよう。
「はい、もしもし。寝てました」
「だろうな!目覚ましかけとけよ!」
「ごもっともです」
「ちょっとアンタ!こっちは部活終わりで疲れてるのよ?」
「俺も授業で疲れてます」
「約束破った罪で明日昼奢りね」
「ゲーム内で奢るのは無しですか」
…心外なことにこのやり取りが日課になりつつある。
そうこうしている間にゲーム内の待ち合わせ場所に着いた。
今日は近くのダンジョンに潜るらしい。
セリシアが説明している。
「ここのモンスターは攻撃が高いみたいだよ」
「なるほど!俺の守備力があればいけるかな?」
「うん、ゴレゴンは余裕かな。イールドはHP半分くらい削れるかも…」
「てことはイールドを優先して回復すればいいのね?」
「悪いなゴレゴン。彼女奪って」
「は?お前にやるわけねーじゃん。カーリィ、俺の回復優先でいいぞ!」
「はぁ…わかったわ。イールドにはセリシアがいるもんね。」
「断る。私には援護する時間があるからね」
「俺は囮かな?」
「よし!ダンジョンに出発するぞー!」
「無視?」
と、こんな不安な感じでダンジョンに挑み、ボスを倒して帰ってきた。
ダンジョンは洞窟の中という設定らしく、薄暗いところだった。
今回の目的はダンジョン内のモンスターが落とすレアドロップとダンジョンクリアの報酬だったらしい。
1発で二つとも貰えたので今日は運がいいみたいだ。
ちなみに、武器は俺が二刀流、ゴレゴンが盾と斧、カーリィが短い杖、セリシアが長い杖だ。
「さて!今日はこの辺りで解散するか!」
「そうね!明日の宿題しないといけないから抜けるわ」
「ありがとう。手伝ってくれて」
「じゃあ寝るわ」
どうやら今日は解散するらしい。
だが、ここで異変が起きた。
スマホの画面が光り出したのだ。
それは俺だけではなく、他の3人も同じだったようだ。
「な、なんだこの光!」
「キャア!眩しい!」
「目が…!」
「これ異世界いけるんじゃねぇ?」
この混乱の状況でもイールドとかいうやつは冗談言ってやがる。
…え?イールドは俺だって?
なんてツッコミを脳内で言ったのを最後に俺の意識が消えた。
これが、リファックタリングの始まりだった。
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