新しい生活
彼に手を差し出されその手を握る。次の瞬間風が強く吹いた。するともうそこは学校の屋上ではなかった。緑の芝が絨毯のように広がる薔薇などの花がとても美しい庭にいた少し離れた所にはレンガ造りの西洋の田舎をイメージさせる大きな家が建っている。
「ここが僕の家だよ。今日から君の家にもなる、素敵なところだろう」
柔和な声がする。きっと微笑んでいるのだろう。
「うん、とっても素敵な家だね。」
微笑み返す。すると彼は嬉しそうに家の中を案内するから着いておいでと言った。
玄関の扉は彼の身長に合わせているのだろう、とても大きく重厚な造りだった。
「靴は脱がないようにね」
靴を脱ごうとしている私を見て苦笑しながら彼は言った。恥ずかしさを堪えながら、ごめん次からは気をつける。とボソッと呟いた。それからキッチン、リビング、ダイニング、寝室と様々な部屋を案内してもらった。リビングでいれてもらったお茶を飲みならが彼について色々と教えてもらった。
「僕の名前はカイル=ダン=ハンナ、気軽にカイと呼んでほしい。ここはイギリスだよ、今度一緒にロンドンに行こうか、君の服を買いたい。いつまでもその制服という訳にも行かないだろうからね。」
「カイよろしく。洋服を買ってくれるの、嬉しいな。ロンドンに行くの楽しみにしてるね。」
先程会ったばかりだと言うのに私はカイに心を開いていた。人ではないがカイは私に危害を与える気がないことはわかる。ロンドンに行くのを楽しみにしているというのも嘘ではない。誰かと買い物に行くなんて何年ぶりのことだろう。
「そうそう、僕はね魔法使いなんだ。」
「魔法使い?」
「そう、魔法使い。薬を作ったりして生計を立てているんだ、さっきここに来た時も魔法を使って来ただろう。」
確かに気付いたらここにいた。あれは魔法だったのか。魔法なんて本の中のどこか遠い世界の話だと思っていたが、まさかイギリスの田舎に魔法使いがいたなんて驚きだ。
「それで、君が良ければなんだけど君も魔法の勉強をしてみないか」
「私も魔法を使えるの?」
思わず大きな声になってしまった。そんな私をカイは幼い子供と話すように優しく微笑みかける声で説明を始めた。
「君は普通の人より少し魔力が多いようだから、僕が教えればきっとすぐに初歩的な魔法を使えるようになるよ。努力次第では応用的なものも使えるさ。」
小さな頃夢見た魔法使いになれる。とても嬉しいことだ。喜び勇んで私はまたはしゃぐように大きな声でカイに答えた。
「私、魔法使えるようになりたい。」
カイは満足気に笑った。
「よし、じゃあ明日は一緒にロンドンに行こう。そこで君に必要なものを買おう。魔法はその後でたくさん教えるよ。それじゃあ僕は夕飯の準備をしてくるよ、君はシャワーを浴びてくるといい。シャワールームは廊下に出て右にまっすぐのところだよ。」
ありがとう。とカイに言い私は廊下に出る。言われた通りに右にまっすぐ進んでいった。猫足のバスタブに金色をしたシャワーヘッド。どれも新鮮な光景だった。シャワーを浴びている最中、カイがやって来て着替えを用意してくれた。カイが用意してくれた着替えはどれも大きく不格好にはなってしまったが温かくて優しい匂いがした。夕飯を2人で食べる。会話をしながら同じものを食べる。それだけの事なのに私はとても幸せな気分になった。食器を2人で片付けた。
「今日はもう遅い、もう寝るといい。着いてきて君の部屋に案内するよ。」
カイの大きな背中に着いてゆく。案内された部屋は一人で寝るには大きいベットと小さな机が置いてあった。
「おやすみなさい」
カイにそういい私はベットに倒れ込んだ。今日で私の人生は大きく変わった。こんなに信用してもいいのかはわからないが、今の私にはカイしか居ないのだ。急に疲れがどっと押し寄せた。そのまま私は深い眠りについた。