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朝が来た。今日は土曜日であり、同時に休日でもあった。時計を見ると、だいたい七時くらいであった。
起きて、すぐに支度をし、家を出た。無論、行き先は中央図書館だ。
その図書館は、このあたりではとくに馴染みのある、大きめの図書館であった。
勿論人目もたくさんあるし、死角も思い当たらない。もし何か行われるのなら、あまり派手なことはできないような場所だから、何故そこに呼ばれたのかかなり疑問であった。
しかしそう思いながらも、結果として、僕は図書館についてしまった。そこにあいつらの姿はなく、代わりに、スーツ姿の中年の男が、何やら本のようなものを読んでいた。
ポカンとしながら、あたりを見回していると、その男がこっちに近づいてきた。
いつの間にしまったのか、いまさっき持っていた本は男の手にはなく、代わりに小さめの紙を握っていた。そして、僕の目を真っ直ぐ見ながら、口を開いた。
「あの、少しよろしいかな。」
「はぁ。」
つい返事をしてしまった。悪い癖かもしれない。もう引き下がるわけにはいかず、こちらも相手の目を見つめる。
「私は、こういうもので…」
男は、手に持っていた、小さめの紙──つまり名刺を僕に渡した。
そこには、おそらく男の名前である、「須藤 道隆」という文字が大きく刷られていて、その下に少し小さめの文字で、
「国家公認 抗災結社 本部所属」と書かれていた。
「えぇと、お父さんから聞かされた通りです。さあ、行きましょうか。」
「え?」
図書館の目の前にとめられていた真っ白の車のドアを開け、そこに入るようにと、男が手で催促した。
おかしな事なんだけど、僕はうまく誘導されて、車に乗ってしまった。どこへ行くのか、興味が湧いたからだ。この性格のせいで、いじめられたり、不快な目にあったりしているのかもしれない。しかし、強く関心が湧いてしまったものはどうしようもない。
また、理由付きで、あの家やあの学校に戻らなくても良くなる可能性がある。それも、僕が車に乗るのを決めた理由でもあった。
勿論、この男を信じ切った訳ではない。ポケットに、折り畳み式の果物ナイフが入っているから、万が一のときはなんとか抵抗できるという自信があったのだ。
僕が乗ると、男も運転席に乗り、車のドアをしめた。
「それでは、出発しますよ…。」
アクセルがふまれ、僕の知らない道の方へ、車は走った。
車内で、一応、僕は聞いてみた。
「あの、何処に向かっているんです?」
すると、男は面倒くさそうに、ゆっくりと答えた。
「親から聞かされていないの?本部へ向かうんですよ。」
「聞いてませんよ?そんなこと…」
「え?」
一瞬、車の走るスピードが遅くなった。
「聞かされていない?確かに許可を取ったと言っていたが…」
何やら男がブツブツと言っている。
そしてしばらくして、急に男が大きめの声で、僕に聞いた。
「君、名前は?」
「船山 系です」
「……。 年齢は?」
「十五です。」
「…学校は?」
「天沼。」
「………。」
暫く、沈黙が続いた。
そして、その沈黙を男が破った。
「本当に、何も聞かされていないの?」
「覚えている限りは…」
「……そうか………。ちょっと待っていてくれ。」
急に車を止め、男が外に出た。携帯端末を取り出して、何か喋っているようだった。
少しすると、車に戻ってきて、ドアをしめた。
そして、また車を動かした。
「問題ありません。さぁ、行きましょうか…」
「何時に帰されるのですか?」
「……用が済み次第…」
「そうですか……。」
会話が途絶えたので、僕は椅子によりかかり、寝てしまおうと目を閉じた。
「…かわいそうに…」
「なにか言いました?」
「いえ、何も。」
そして、僕は眠った。
✽
僕は、男の声で目が覚めた。
「起きてください。到着しました。」
「そうですか」
眠気はほとんどなく、僕の中では好奇心と不安が渦巻いていた。
車の窓からは、鬱蒼と生い茂る木々が見えた。ここは森のようなところらしい。
一体どこなのだろうと思っていたら、聞いたわけでもないのに男が話し始めた。
「ここは群馬の赤城山付近です。この近くに我々の目的地である本部があります。詳しいことはここで話されますよ。それじゃあいきましょう…」
「はい!」
本部とはなんの本部だろう。さっきこの男の名刺に国家公認うんたらかんたらと書いてあったが、国家に関するなら、なぜこんなところに本部があるのだろう。
聞きたいことだらけだが、取り敢えずついていくことに決めた。
仮について行きたくなくても、後戻りはもうできないだろう。
車を降り、先導する男についていった。
少し歩くと、木々の奥に、巨大な建造物が見えた。そして、男と僕はそこに向かって歩いていった。
その建物は、高さがざっと100メートル以上はあるようにみえた。奥行きもあり、軍事施設のような建物だった。
ここが本部なのだろうか。胡散臭すぎる立地だが、建物はきれいで、比較的新しいということが見て取れた。
そうして歩いていると、ついにその建物の入り口と思わしき場所に来た。
「入りますよ」
男がそう言うと、僕の返事も待たないうちに、分厚い金属の扉が開いた。
つづくよ




