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わーい
それは、飛行機の音ではなく、耳もとを飛ぶ蝿の羽音だった。いつも、下校するときにはこのゴミ置き場の前を通る。
今も下校途中なのだが、少なくとも今どきの普通の学生とは違う、酷い心持ちで帰っていた。端的に言うと、今日僕は同級生に持ち物を奪われ、結局返してもらえなかった。僕は普段から、「いじめ」に該当するような仕打ちを受けているのだ。そして今日も同じようにしてやられた。それだけの話だ。
実は今回の仕打ちは軽いほうで、憂さ晴らしに殴られたり、持ち物を壊されたりするのがいつもだった。高校受験のため、頑張って学校に行ってはいる。一時期、全く行かなくなった時期もあったが、毎日のように嫌がらせを受けていると、次第に関心が無くなってきて、どうでも良くなる。認めたくないけれど、慣れってそういうものだった。
先生はいじめを見逃している。仕事が終わって帰ってくる父は、時より僕を殴打する。その上、二年前に母が他界したため(理由は省くが)、本当に救いがない状態だった。
そろそろ家につく頃だ。経済的にはあまり困っていないため、大きくはないが、わりかしきれいなマンションの一室に、僕たちは住んでいた。部屋は二階にある。エレベーターは少し前に上に行ってしまったらしく、戻るのを待つのも億劫なため、階段で登ろうとした。
1段目の階段に足を乗せたとき、すぐ近くで自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
その声の主は、間違いなく僕をいじめているグループの一人だった。ある種の恐怖的なものを感じ、階段を駆け上がる。自分の部屋の前に来たとき、後頭部にものすごい速さでものがぶつかってきた。
ゴスッ と鈍い音がした。衝撃と痛みで、思わずうずくまる。横に目をやると、ズタズタにされた教科書が落ちていた。間違いなく、僕から奪ったものだ。おそらく、それを投げたのだろう。睨もうとすると、笑い転げるあいつが見えた。憎たらしいという感情すらわかない。それほどまでになれてしまったのだ。教科書を拾い、すぐに家へ入った。
ドアを締め、鍵をかける。そのまま座り込み、投げられたところに手をやった。出血はしていないようだが、熱を帯びているのがわかった。
二分ほどそうしていた。やがて立ち上がると、背中に紙のようなものが当たったのがわかった。ドアについている郵便受けを見ると、封筒がはみ出していた。
いつもだったら無視するのだが、今日はなんとなく手にとってみた。頭の痛みによる苛立ちがそうさせたのかもしれない。
それは、ごく普通の、茶色の封筒だった。
「船山 系 様へ」
きれいな明朝体で、大きめに打ち込まれているのは、紛れもなく僕の名前だった。靴を脱ぎ、自分の部屋へ入る。一通り荷物を下ろすと、僕は封筒を開けた。
✽
「明日、荻窪の中央図書館を訪ねてください。」
それだけ書いてある粗末な紙が入っていた。
何かのいたずらだろうか。
普通に考えて、そうであろう。無論、犯人はあいつらだ。そして、この手紙に誘われて僕が図書館へ行ったら、何かしらの暴力、または高レベルの嫌がらせを受けることも容易に想像がつく。
いつもなら、迷うことなく「行かない」選択肢を選ぶのだけど、今日は何となく行ってみようかと思った。
行かなかったらあとが怖いのもあるけど、今回、何かをされたとしてそれを理由に警察へ相談できるかもしれないからだ。
そういうわけで、僕は明日、図書館へ向かうことを決めた。この判断が正しかったか明瞭となるのは、これからだろう。
よく考えれば明らかに狂気の思考なのだけど、少しだけ、気が踊るような感じがした。
うぇーい




