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FILE6 ラストメール


 寺からの帰り道。


 私と佐優梨は河川敷を歩いていた。


 昼間の河川敷は平和な光景が広がっている。


 犬を散歩させる婦人。ランニングをする男。野球をす

る少年たち。


 皆が楽しそうだった。


 だが、私たちの気分は最悪だった。


「冗談じゃないわよ。あのクソ坊主」


 佐優梨は住職に怒っていた。


 河川敷に落ちていた空缶を力一杯蹴りつけ怒りをぶち

まけた。


「佐優梨。どうする」


 私は怒りよりも動揺の方が強かった。


 どこかで決着をつけなければならないと思っていた矢

先だったからだ。


 ただ、真実を話すことには抵抗があった。


「どうするもこうするもないわ。あんなの嘘に決まって

るじゃない。坊主ってああいう説教が好きなのよ」


「そう、だよね」


 私は佐優梨と一緒で良かったと思った。


 もしも一人だったら住職に全てを話ていたに違いない。


 非科学的な霊に怯えて、人生を台無しにしてしまって

いたはずだ。


 佐優梨は淡々とした表情で言った。


「お墓参りだってしたんだし、霊なんてもう出てこない

わ。なんなら、どこかで御はらいしてもらったらいいし」


 その手もあるな、と私は思った。


 霊が出て来ても御はらいをすれば退けられる。


 別に霊に怯える必要はないのだ。


 チャカラララーン。


 タリラリララーン。


 不意に私と佐優梨の携帯の着信音が鳴った。


「えっ?。二人の携帯が同時に鳴った」


「由紀よ。あの子が同時にメールを送ってきただけだっ

て。合コンしようとかって」


「だよね」


 由紀とは高校の友達で、私と佐優梨とよく一緒に遊ん

でいる仲だ。


 近々、合コンをする予定がある。


 メールの一斉送信をしてきた可能性は十分にあった。


 私は慣れた手つきでメールを開いた。


 画面には一文だけが刻まれていた。


「こ、このメール……?」


「例のチェーンメールだ」


 佐優梨の画面にも一文だけのメールが写し出されてい

た。


 佐優梨の画面には、ろこしやしぶ。


 私の画面には、のいろてるの。


 内容は前回と変わってはいなかった。


「こんなときに変なメール送ってきやがって」


 佐優梨は眉を釣り上げて激怒した。


 悪戯なら最悪のタイミングだった。


 最悪のタイミング……。


 私は嫌な予感がした。


「ちょ、ちょっと待って。もしかしたら、もしかするん

じゃない」


「何言ってるの」


 私は佐優梨の携帯電話を奪い取った。


 食い入るように二つの画面を見比べた。


 突発的に浮かんだ閃きは、徐々に言葉に変換されてい

く。


「もしかしたらよ。このメールは私たち二人にだけ送ら

れてきてるんじゃない」


 もちろん、確証はない。


 だが、否定する確証もまた、ないのである。


「誰がそんなもの送ってくるのよ」


 佐優梨は苛立って言った。


 そんな暇な人間がいるだろうか。


「心当たり、あるでしょ」


 私は即答した。


 そうなのだ。


 私たちには心当たりがある。


「そんな事あるわけないじゃん」


 否定した佐優梨だったが、顔色が青ざめた。


 霊として存在するのならば、不可能ではないのではな

いか。


 私は佐優梨にも見えるように二つの携帯を持ち替えた。


「もう一回考えてみようよ。私のメールが、のいろてる

の」


「意味わかんないよ」


 そう。のいろてるの、の意味を解明する手がかりは何

一つない。


 私はそれでも思いつくままに言葉を続けた。


「佐優梨のメールが、ろこしやしぶ」


「これも意味不明よ。ただのチェーンメールだって」


「交互に読むんじゃない」


 閃きの確信部分がようやく姿を表わした。


 メールが二人にだけ送信されたとするならば、二つの

メールに関連がある可能性が高い。


 佐優梨は円らな瞳を左右に動かして文字を読んだ。


「ろのこいしろやてしるぶの。やっぱり目茶苦茶よ」


 佐優梨のメールを先にした場合は意味不明の言葉にな

った。


 佐優梨は白けた顔になったが、私はまだあきらめては

いなかった。


「まだよ。交互にする順番を逆にしてみて」


「えっ」


 佐優梨は左右に動かしていた目を凝固させた。


 顔面は蒼白で、ぽとりと手にしていた携帯を落とした。


 私も二つのメールを交互に読んでいた。


 そして、言葉を導き出した。


「やっぱり、これって」


 私もその場で携帯を落とした。


 のろいころしてやるしのぶ。


 二つを合わせると、そう読むことができたからである。



最後まで読んで頂いた読者様、本当にありがとうございました。

初投稿作品なので、至らない所があったと思いますが、それでも投げ出さずに読んでくれた読者様には頭が下がります。

また別の作品を投稿したいと思っているので、感想や要望などを書いてもらえると嬉しいです。

本当に最後まで読んでくれた読者様、ありがとうございました。

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