FILE2 携帯
霊を目撃してから数日が過ぎた。
霊体験というのは笑い話にはなるが、真剣な相談には向いていない。
また、あれから彼女の姿を見かけることはなかったので、目の錯覚という風に思い込むこともできた。
私は釈然としない気持ちを抱えたまま親友の佐優梨と並んで下校していた。
黄色で埋め尽くされた銀杏並木を親友と一緒に歩いていると、沈んでいた心が癒された。
「あの映画見た?。呪いのインターネット」
佐優梨は学校での愚痴から急に話題を変えた。
やや脱色した髪と細身の体が印象的な女はちょっと自分勝手な所があった。
私は受け身タイプだから、二人は親友になれたのだが、時には戸惑う事もある。
「まだ見てないけど、恐いらしいね」
「恐いよ。女の子の首がぐるぐる回転して取れてしまうシーンなんて凄く恐いんだから」
佐優梨は満面の笑みを浮かべてホラー映画の話をした。
私はホラー映画は苦手だった。
元々、嫌いだったが、あの一件以来、特にホラーやサスペンスを避けるようになった。
「どんな物語なの」
佐優梨が映画の話をしたそうなので、私は映画の内容を尋ねた。
ぷくっと佐優梨の頬にえくぼが浮かんだ。
彼女もあの一件を経験しているのに、ホラーは平気のようだ。
「ある日、ネットサーフィンしていたら、おかしなホームページに行き着くの。それは心霊写真サイトなんだけど、それを閉じようとすると、あなたは呪われましたっていう文字が浮かび上がるの」
「うわぁ。恐そう」
思わず腕が鳥肌になった。
背筋には氷でなぞられたような寒気を感じた。
映画の予告編をテレビで見ていたので、光景をリアルにイメージしてしまったのだ。
佐優梨はまだにこにこと微笑んでいた。
が、猫のような愛くるしい顔が突然曇った。
「あ、そうだ。最近、私に変なメールがきたんだ」
「どんなの」
佐優梨はピンクの携帯電話を取り出した。
しなやかな細い指を動かしてメールを開く。
太陽光が反射している液晶画面に私は目を凝らした。
画面には一文だけが表示されているが、簡単には読めなかった。
「ろこしやしぶ、ってだけ書いてあるんだ」
「ほんとだ」
確かに、メールにはそう書かれていた。
ろこしやしぶ。
どう頭を捻っても意味を見つけだせない言葉だった。
暗号か、または本当に意味のない言葉のどちらかだ。
佐優梨は携帯を折り畳むと、またいつもの笑顔を浮かべた。
「これって、よくあるチェーンメールだよね」
私は佐優梨に同調して頷いたものの、すぐにあることを思い出した。
そして、慌てて自分の携帯を確認した。
「そんなメール、私にも来た。内容は違ったけど、似たようなのが」
「どんなの」
佐優梨は好奇心旺盛な目を見開いた。
当時は気に止めなかったが、私も妙なメールを受け取っていた。
だが、佐優梨のとは内容が違っていたように思う。
「ほら。これ」
「のいろてるの。ほんとだ。書いてある事は違うけど、似てるね」
私に送られてきたメールも一文だけだった。
のいろてるの。
これまた、全く意味不明のメールだ。
佐優梨はくすっと笑って、ある仮説を出した。
「流行ってるんだよ。このチェーンメール」
「そう、なのかな」
釈然としなかったが佐優梨の仮説は荒唐無稽ではなかった。
不幸の手紙のような流行を誰かが作ろうとしている可能性は否定できない。
また、それ以外の仮説を立てられないから、佐優梨の仮説の信憑性は高まったのだった。
FILE3に続きます。
気になったら読んでください。