晴れた涙の空。
_オオカミ少年_
「狼が来たんだ!助けてくれ!」
村に行って僕は叫んだ。
どうせ嘘だろとか、まただよとか、そんな声が聞こえる。でも本当かもしれないという声も聞こえる。本当なわけがない。僕のところにオオカミなんか来ない。
僕の嘘を信じきった馬鹿な村人達がついてくる。家に着いたらネタばらし。僕は笑い転げた。
「ほらな。だから言っただろ」
もうそろそろ誰も来なくなるかもしれない。
「もう騙されないからな」
待って。
「嘘をつきに村に来るのはやめろ」
ここにいて。
「二度とお前なんて助けにこない」
独りにしないで。
村人達が帰る。僕はまた1人。
山の麓の村から離れたところで暮らしてる。また、人がいなくなる。もう誰も来てくれない。僕はずっとひとりぼっちなんだ。
捨てられて誰も助けてくれないんだ。
こんなこと考えてもしょうがない。家に入ろう。今日は嫌なことがあったんだからもう寝よう。そういえば毎日嫌なことばっかりだ。
そろそろひとりぼっちになれなきゃな。
_赤ずきん_
「なんかまた騒がしいね。なんかあったのかな」
村の男の人たちが2人で山から帰ってきた。
「またあのオオカミ少年に騙されたんじゃない。そろそろ信じなきゃいいのに」
「でも次はほんとかもしれないし…」
「想乃は優しすぎなんだよー。もうそろそろ誰も信じなくなっちゃうよ。」
灯凪はそういうけど、オオカミ少年こと月季乃晴涙くんは多分寂しいんだと思う。だって村から離れた山の麓で一人で暮らしてる。誰も友達はいないし誰も気にかけてくれない。そんな生活だから。
「想乃。山を越えたおばあちゃんの家までこれ、届けて。」
よく晴れた日。お母さんに言われた
「うん!行く!!」
私の大好きなおばあちゃんは今、病気で寝込んでいる。その薬と少しの料理を届けに行く。
「オオカミ少年の住んでいるところを通らないと行けないから。騙されちゃダメよ。今は逢衣が大事な時だから。迷惑かけないでね。」
逢衣は妹だ。私なんかよりずっと可愛くて可愛がられている。誰だってみんなそうだ。
「うん。わかってる。」
私は家を出た。
山の麓。1人で歌を歌っている君。
その目には涙が浮かんでいた。
その涙が美しすぎて私は見つめてしまった。
そのことに気づいたのか君は恥ずかしそうに私に言った。
「ここを通りたいなら早くして。そして僕のことを忘れて。それが幸せだよ。」
何かを決意したような、寂しいと言ってるような助けてともがいているようなそんな目だった。
「君のことを忘れるなんてできないよ。」
あんな歌を歌って忘れろなんて酷すぎる
「忘れたくないならそれでいいけど僕は忘れた方がいいと思う。でももう二度と会うことはないから。さようなら。君と話せてよかったよ」
君は去っていこうとする。私は必死に声を出した。
「また。会うから。絶対。」
なぜこんな言葉が出てきたのか私にはわからなかった。
_オオカミ少年_
『また。会うから。絶対。』
なぜ君が必死に泣きそうな顔で僕にこんなことを言ったのか理解出来なかった。
みんな僕を嫌った。会いたくないと言った。君は違った。会いに来ると言った。僕が二度と合わないと言った時悲しそうな顔をした。なんでだ?嘘をつかれたのか?騙されたのか?仕返しかな?なんでだろう。今までに感じたことがないくらい嬉しくて楽しみで怖い。君の笑顔が、涙が、あの声が。全部僕に向けてだったらいいのに。
_赤ずきん_
忘れられない。あの涙が。あの歌が。
ただのいたずら好きの歌だったとは思えないくらい透き通って綺麗だった。私には君がただのいたずら好きだとは思えなかった。思いたくなかった。それから、おばあちゃんの家に行って家に帰るまでもずっとその事を考えていた。忘れたくなくてずっと考えていれば忘れることはないと思って。ずっとずっと考えた。急に嬉しくなって笑ったり怖くなって泣いたり自分の感情がなにかに縛られてるような感じがした。そうだ。明日また会いに行こう。山の麓の彼に。
私が目を覚ましたのは朝8:13。
今日は君に会いに行く。
いつも三つ編みしていた髪を下ろしてずきんをかぶった。いつも着ている黒っぽい服じゃなくてなかなか着れなかった白いブラウスにスカート。
君の喜んだ顔が見たかった。
_オオカミ少年_
僕は今日いつもより早く起きた。
いつも直さない寝癖を直した。
新しい服を着た。
花を摘んで花束にした
君に渡すための。
今日君が会いに来てくれるような気がした。
今日は君と笑える気がした。
僕は外に出る。家の前が良く見える。
遠くから人影が見えた。
手を振るすがた。君だ。
僕は楽しみで楽しみで楽しみで恐怖に怯えていた。
「忘れた方がいいって言ったじゃないか」
「また会うって言ったでしょ !! 」
君は太陽より眩しい笑顔を僕に向けた
じっと見つめてるのがつらいくらいの。
僕らは家の前に置かれたテーブルにクロスを引いて
君の焼いたクッキーを食べた。
「まずくな、かった?」
「うんすごい美味しい。」
よかったぁって君が笑いかけてくるから
どうしようもないくらい可愛くて
どうしようもないくらい愛おしくて
ただ怖くて怖くて怖くて。
離れていかないで。僕をひとりにしないで。
なんていう汚い色が混ざって黒く黒く黒くなった感情が僕を襲いそうになる。
どうしたの大丈夫?なんて言って君が僕の顔を覗く。
あぁ。僕は泣いているのか。かっこ悪いな。
「もう、ひ、とり、で、いる、の、やだ、
ひとり、に、しな、い、で。」
ごめんね。
_赤ずきん_
"好き。大好き。離れたくない。離さない。
僕のものにしたい。誰にも渡したくない。
離れないでほしい。僕のこと好きになって。"
涙空くんは何回も私にそう言って、
何回も私はキスをされて。
君はそれでも泣き止まなくて。離したくないって言って。そして何回も言った。「「ごめんね。」」
_オオカミ少年_
君に何度も言った。好き。大好き。
君は困ったように笑って言った。大丈夫だよ。
その大丈夫が僕には怖く感じて涙が止まらなくて。
ずっと君を抱きしめたまま好きだと言ってキスをした
何回も何回も。
しばらくすると雨が降ってきた。
雷がなった。君と離れたくなかった僕は、
君を家の中に入れた。家は真っ暗だった。
君は雷が苦手だと言った。雷の音がするたびに僕の服を強くつかむ君が可愛くてキスをした。
ずっとそうやって過ごした。どのくらい時間が経ったのかわからない。君の携帯がなった。
「もしもし?お母さん?何?」
『あなた今家にいないの?どうして?』
「どうして家にいないといけないの?」
『逢衣が..私の逢衣ちゃんがぁぁ
あなた今どこにいるのよ?』
「大好きな人のところにいるから。
もう家に帰らないから安心して。」
「大好きな人?泊まってく?」
僕がそういうと君は顔を真っ赤にして
「いいですか?」
と聞いた。そんな風にされてダメなわけがない。
_赤ずきん_
「君のこと好き好き言ったけど君の名前知らないんだよね。僕…。」
「そっか。名前か。想乃だよ。」
「かわいい。すごい好き」
「なんで晴涙くんはこの名前なの?」
「さぁ。なんでだろうね。悲しい名前。」
「でも私は好きだよ。」
「想乃がそう言ってくれると嬉しい。」
君はあんなに泣いたのに。あんなに震えていたのに。あんなに独りが怖かったのに。
なんで隠すの?どうして?信用がないのかな?
晴涙くんが寝返りをうとうとした。
そのままどこかに行ってしまうんじゃないかと心配になって服を引っ張ると
「想乃泣きそうな顔してる。そんな顔も好きだよ。」
といってさっきより強めに抱きしめてくれた。
_オオカミ少年_
あの電話。きっと想乃のお母さんからだ。
逢衣って誰だろう?きっとそいつのせいで想乃は傷ついた。さっきまで僕から抱きついていたのに段々想乃から来るようになって何回もキスしてと強請られた。
僕はひとりぼっちなひとりぼっちだ。
もしかしたら想乃はひとりぼっちじゃないひとりぼっちなのかな。どっちも辛いなと思う。
~『涙空。起きなさい。』
あぁ。嫌な夢。
『ふざけるなよ。誰がこんなやつ育てるっていうんだ。』『こんなの俺の息子じゃない』『川で溺れて死んでこい』『お前の母親は余計なことをしてくれた』『めんどくさい母親だったな』『あんなの死んでよかったよ』『お前みたいなの残してったけどな』
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて
『ひとりぼっちだなこれから』『お前なんか生きてたって死んでたってなんでもいいんだよ』『この家売って食べ物でも買えば?』
ひとりにしないで戻って来て嫌だよ怖いたすけてよ
お母さん助けてこんなところで一人で死にたくないよ~
((は…、はるく…晴涙くん!))
目を開けるとそこには想乃がいた。
「涙出てるよ。大丈夫?」
そう言って涙を拭ってくれた。
「今から話すこと聞いてほしい。」
これは僕の決断だった。
僕がまだ3歳くらいの頃。
僕にはちゃんと家族がいた。
お父さんとお母さんそして僕と犬のポチ。
お母さんは病気だった。治らないって言われた、
そして僕が4歳になった誕生日の次の日お母さんは死んだ。そこからお父さんは変わった。毎週末仕事が休みになれば遊びに連れていってくれたのに、毎日働かずに家で酒を飲んだ。そしてこういった。
『俺が愛したのはお前なんかじゃないんだ。お前の母親なんだ。なんで愛してもいないこいつのことを育てなきゃいけない?』
お父さんは女の人を家に連れ込んでは襲い連れ込んでは襲いの繰り返しだった。その間僕は家を出されて森でうろうろしてた。夏はよかった。暖かいから。冬は寒かった。辛かった寂しかった。でも言えなかった。
だんだんお父さんの暴言はエスカレートして事故にでもあって死ねばいいとか色々言われた。その中でも僕はあれほど愛していたお母さんの悪口を言い出したことが一番辛かった。そしてお父さんは出ていった。
僕は全部話した。想乃と会った時思ったこと、過去の辛かったこと、なんで一人なのかということ。そして名前の由来も。
"涙の空もいつかは晴れるのよ"
_赤ずきん_
『だからさ。想乃も辛いことがあったなら教えて?』
晴涙くんに言われた。私には今の気持ちを止められなかった。ごめんね、お母さんお父さん逢衣。こんな私で。
私の地獄は妹が生まれてから始まった。
人懐っこく手のかかる妹は親や周りの人にも好かれた
人見知りで口下手な私は興味を持たれなかった。
逢衣ちゃん。逢衣ちゃん。逢衣ちゃん。
いつの間にか私は受け入れてもらうのを諦めてた。
妹はルックスも良くモデルとなった。
そこから母は本当に私に無関心になった。
そんな私には父の存在が偉大だった。私は家族の誕生日には必ずプレゼントを渡した。お母さんはしまい込んだまま行方を分からなくさせ妹は堂々とリビングのゴミ箱に捨てていたけれど、父だけは毎年喜んでくれた。妹が買ったマフラーより私の手編みのマフラーを付けてくれたり、作ったケーキを美味しいと言って食べてくれたり。それが私のしあわせだった。
でも父は死んだ。事故だった。私のせいだった。
私をかばって父は死んだ。
お母さんはすごく怒った。なんでこんな子かばったんだって。父が私のために書いた手紙があった。
『想乃にはいつも迷惑ばかりだった。
その中で俺が父親としてやってやれることはお前も守ることだった。この先きっと逢衣とかのことで傷つくことがあると思う。でも大丈夫。
お前を愛してくれるやつは必ず訪れるから。
俺の娘なんだから胸張って生きろ。』
それから段々壊れてきてね。私とお母さんと逢衣は形だけの偽物だった。でもそのおかげで晴涙くんと会えた。
「想乃。辛かったね。もう大丈夫だよ。」
「うん。ありがとう。」
_オオカミ少年_
朝、僕達はピピピピッという機械音で目を覚ました。
想乃の携帯電話だった。
「もしもし、お母さんもうかけてこないで。
私はお母さんと逢衣の召使いじゃないし
ロボットじゃないから心があるの知ってた?」
『そんなことは言ってないでしょ。
それより大変なのよ。逢衣ちゃんがオーディション
に落ちちゃったのよ。そんなの初めてじゃない?
だから辛いみたいで…』
「だからなに?もう知らないよそんなの。」
『あなたそれでもお姉ちゃんなの?
妹と母親が一番辛いときにほっつき歩いて何してる
の?ふざけないでよ。』
「あぁもうごめん。私と話しても意味ないと思う」
そう言って電話を切った想乃の目には涙が溢れていた。彼女は無言で崩れ落ちた。その涙がひどく虚しく美しく感じて僕には抱きしめることしか出来なかった。しばらく時間が経った。
「私たち泣いてばかりだね」
君が赤く腫れた顔で言った。
「うん。」
君を慰めたい大丈夫だよって言って安心させたい。そんな時に限って出てくる言葉がなかった。
「昨日ね。涙空くんに話してね。もうふりきろ、うって、思ったん、けどね、おか、さ、はあ、いがだい、だから、あい、がし、ぱいな、きは家事も。な、んもしなくて、あい、に好、きな、の食べ、したり、あいの、欲し、も、のかっ、てきたり、私なんて、いつも、ほったら、か、しな、の、に」
最後は言葉が聞き取れなかった。
まだ出会ってから3回目の朝で、僕達が一緒にいる時間は泣いてる時の方が多かった。
彼女は僕の服を強く握った。まるで僕がここにいるのは自分のためと思いたがってるようだった。
そして彼女は続けた。
「でも、ね、そ、うい、うときに、わたし、をたよ、って、くれ、る、の、が、わた、しの生き、るい、みだ、ったの。」
そこからも彼女は話し続けたが言葉なんてひとつも見つけられないくらい泣いていた。
こんなときどういう反応をすればいいのか、
どうすれば君の傷が癒えるのか、普通の人だったらわかったかもしれないけれどひとりぼっちだった僕にはわからなかった。
_赤ずきん_
朝から号泣してきっと涙空くんに迷惑かけたな…
私が泣いている間、大丈夫だよとかっていう甘い言葉は何一つ言われなかった。でも泣いてる私をずっと抱きしめていてくれた。その鼓動が、体温が、息遣いがどんな甘い言葉よりも私の傷には効いたみたいだった。そして君は言った。「僕は想乃が大好きだよ」それは今までの辛いことなんてすべて吹き飛ぶ魔法の言葉だった。今まで童話の駆け落ちって言うのを見て馬鹿みたいだなって思ってたけどお姫様はこういう気持ちだったんだなって初めて思えた。それからずっと沈黙が続いた。それは心地のいい沈黙だった。
いつの間にか夕方だった。ずっと曇っていたから時間なんてよくわからなかった。
「もう夕方だね。」
君が時計を確認しながらいう。
「ほんとだ…なんか早いね…」
涙空くんが私の頭を撫でた。そんな時だった。
~ドンドンドンドンドンドアを乱暴に叩く音が聞こえた。外でなにか叫んでいる声が聞こえる。
「どうしよう。」
上を見上げると青ざめた晴涙くらんの顔があった。
「僕が騙した村人かもしれない。僕を懲らしめに来たのかもしれない…」
おいでてこい。ここにいるんだろ。ドアの向こうの声はだんだん大きくなる。
「私が話してくる。」
いや、でなくていいよとか色々言っていたけど私は無視して外に出た。するとその人達は
「ほらビンゴ」と言って私の腕を掴んだ。
何するんですか私は抵抗した。こんな人達知らない。
「お前の母親が探してるんだよ。」
母親?お母さん?なんで今更?涙が溢れた。
「何やってるんだよお前ら想乃おいて帰れよ。」
後から声がした。君がこんな口調で話すなんて知らなかった。
「そんな生意気な口聞いていいんだー
オオカミ少年くん」
何が起こったのかわからなかった。私の前にいたはずの涙空くんは男の人たちに殴られて数メートル飛ばされていた。
「生意気な事言ってたくせにこの程度かよ」
涙空くん?大丈夫?駆け寄りたかったけれどできなかった。
「ほら行くぞ」
黒い車の中に無理やり入れさせられて手足を紐で縛られた。「たすけて」声をだしたかったけれど恐怖とさっきまで泣いていたせいで声なんて出なかった。
やだ怖い何でこんなことされなきゃいけないの
やっと幸せを見つけたんだよ。私の人生の中できっと1番大切なものを見つけたんだよ。返してよ。
私の大切なものを返して、、。
言えないのにこんな言葉ばっかり浮かんできた。
「お前の母親が探してんだよ
こんなふうに連れてかれて気の毒な娘」
一人の男がそう言った。え?私は思わず口にした。
「お母さんが、こんな、ことしろ、て?」
「ああそうだよ。殺してもいいって言ってた
俺達も仕事だからな、こんなことしたかないけどさ
流石に殺すまではできねーからよ」
この人達の言ってる言葉がわからない。
お母さんが殺せって?私を?なんで?何のために?
「お前の母親的にはお前が邪魔なんだよ、
可愛い妹がいるだろ、そっちが大事だからさ、、
もし帰ったとしても体売られたりするんだろどうせ
そしてその金ははは親達のものってわけ」
何を言ってるのかさっぱりわからない
ただひたすらに恐怖心だけがうずまいた。
_オオカミ少年_
目が覚めた。もう辺りは暗かった。想乃は?想乃はどこにいる?いない。どこにも。あれは夢だったのかもしれない。夢ならいいんだけどな。夢じゃないだろうな。はは。笑いがこぼれる。
「想乃、今助けに行くからね。」
_赤ずきん_
息が苦しい。体が熱い。晴涙くん?どこ?あれ?
昨日までの出来事は夢?だったのかな?
夢だったらいいのにな。昨日のことも、一昨日のことも、私が生まれたことだって、全部全部嘘ならいいのに。全部全部シャボン玉みたいにどっかに飛んでって何かに当たって消えてしまえばいいのに。
「そんなこと言ったって無駄か。」
自然と笑いがこぼれる。とりあえず周りを見渡してみる。何も見えない。真っ暗だ。できる限りで体を動かしてみる。私がいるところは広いところで、ベットか布団の上。そして私は手足、口を縛られている。
ギィー。ドアの開く音。私は必死に声を出して、助けを求める。でもその人たちには届かないみたいだった。怖い。助けて。誰か。晴涙くん。助けてよ。ねぇ
_オオカミ少年_
想乃、想乃、、。君だけを思って走った。
とりあえず君の家に行った。誰もいなかった。
どうしよう。他に何も知らない。するとあの時の黒い車が僕の前に止まった。、
「おい、クソガキ。乗れ、早く」
意味がわからない?僕まで??
「お前は誘拐なんてしねぇーよ。
あの女の子のこと探してんだろ?乗れ早く。」
え?と僕は聞き返す。
「いいか?連れてってやるっつってんだよ。
乗んないならもう行っちまうけど。」
僕は急いで乗った。車に乗ってからはその男達に色々説明された。まずさっきのは想乃の母親に頼まれたっていうこと。そしてこれは自分たちの少し残っていた良心だからお金は気にしなくていいとの事。これから僕が想乃の所へ行くことによって僕にも想乃にも命の危険が晒されるということ。でも自分たちができる限りは守るから。ということだった。だから僕はお願いした。僕のことはどうなっても構わない。だから想乃をまもってほしい。
_赤ずきん_
あれから必死に叫んだ。でも誰も聞いてくれない。
涙が溢れて止まらない。脱水症になりそうだ。
さっき入ってきた人達は私とタブレットを見てなにやらぶつぶつと話している。あの重たいドアがもう一度開いた。後にはさっき私をここへ連れてきたようなガタイのいい男達が3人いた。怖い。怖い。死にたくない。そんな感情しかなかった。バンッまたすごい音がしてさっきまでタブレットを見ていた人達が飛んでいく。同時に血も飛び散る。その恐怖に体が震えて声も涙も出なくなったし今ここから逃げ出した方がいいのをわかっているのに体が動いてくれなかった。
「想乃!」
その声が聞こえた途端何かが切れた感じがした。
すべて何もかもなんでも良くなった。
さっきまでの恐怖心が消えて今目の前にいる晴涙くんしか見れなくなった。
「一緒に逃げよう。早く。」
そう言って世でいうお姫様抱っこの状態になったまま私は運ばれた。お姫様抱っこだなんてときめく暇がないくらいの緊張で、晴涙くんとくっついているところが暖かかった。
_オオカミ少年_
抜け出せた。やっと。
さっきの黒い車に乗って僕はすべてを話す。
途中で彼女は寝てしまったんだけれどそれも幸せだった。夢の中で彼女は泣いている。僕の裾を強く掴んで。
「大丈夫。大好きだよ。」
遠いところに逃げた。
誰にも見つからないような遠いところ。
誰も僕達のことを知らないところ。
ここで幸せに暮らそうよ。大きい家を建てよう。
子供は2人がいいかな。男の子と女の子。
名前は何にしよう? あっ、そうだ、、
おじいちゃんおばあちゃんになったら可愛い孫を見て
なんでも好きなものを買ってあげて。
最期は幸せな涙が出てさ。ずっと2人で支え会おう。
「健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、きみを愛し、敬い、いつくしむことを誓うよ。」