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いつか少女は世界に届く  作者: 詩空
3/5

第二話 少女


「リオン様、ミリア様が治療室でお待ちになられています」

「ありがとう、すぐに向かうよ」


 俺は少女をミリアに任せた後、ただジッと待つにはどうも耐えられなくて修道女の一人に外に出ていると伝えて出かけていた。

 といって何をするでもなく外に出たから、とりあえずあの衛兵のお礼に大量の菓子折りを買って兵舎に届けてから、あの子に似合いそうな服を見繕って買ったりしていた。流石に下着とかは買いに行けなかったけれど。

その辺りは修道女さん辺りにでも買ってきてもらった方がいいかな。フィオラが戻ってくるのはまだだろうし、ミリアに頼むのも忙しくて無理だろう。

 と、考えながら進むとすぐに辿り着いたから、ノックをする。

 前に一度、ノックをしないで入って迷惑をかけたことがあるから、今では忘れないようにしている。


『はーい、どうぞー』


 返事が返ってきたから、普通に入っていく。

 ミリアには度々嘘をつかれるけれど、今回に限ってはしないだろ。


「悪い、遅くなったよな」

「いや、そこまでかな? ついさっき終わったから」

「そこまで手強かったのか?」

「流石にね……だいぶ疲れたもん。何回最高位の解呪魔法を使ったんだろうってくらいだよ? 時間もかかるよ。今度、何か美味しい物食べさせてね」

「わかったよ、代価としてその位なら安いもんだ。――それで、どうなった」

「まぁ、さっきも言った通りに解呪は成功したから、後は経過観察って感じだね。どんな障害が残ってるかわかんないしさ」

「そうか、仕方ないよな」

「でも安心していいよ。命に別状はないし、心も壊れてはいないから」


 何で心が壊れてないってわかるんだ?


「治療が終わってすぐ、一瞬だけ目を覚ましたからね。それでわかっただけだよ」

「なるほどな」


 本当によかった、何とか耐えてくれたんだな。

 後はミリアの言う通りどれだけ障害が残っているかだけど。その程度がどうであれ、俺はこの子を支えるだけだ。

 この子の、大事な願いを叶えるまで。……その願いを、忘れて無ければいいけど。


「ああそうだ。この子の下着を用意してもらいたいんだけど、聖堂の方に居るシスターに頼めばいいかな。服は買って来たんだけど」

「む? ――ああそっか、布一枚しか着てないんだもんね。下着はわたしの方から言っておくから、リオンは気にしないでいーよ。服はその辺りに置いておいてくれればいいし」

「ありがとう。それと――『それもいいよ。どうせここで様子を見ていたいって言うんでしょ?』――よくわかったな」

「見てれば誰でもわかると思う。じゃあこの子の目が覚めたらこれを鳴らしてね、すぐに行くから」


 そんなことを言いながら、鈴のようなものを手渡された。なんだこれ。

 というか俺、そんなにわかりやすかったのか。確かに落ち着きは全然なかっただろうけど。


「それは見ての通りただの鈴だけど、この聖堂内ならわたしには絶対に聞こえるようになってるの。体調が急変した時も呼んでよ? 絶対だからね?」

「ああ、わかった」

「よし。それじゃあわたしは仕事に戻るから、常識の範囲内で後は好きにしてていいからねー」


 とか言いながら、ミリアは部屋から出て行った。

 ……常識の範囲内って、お前は俺の事をどう思ってるんだ。失礼な。


「まぁいいか。気にしたらきっと負けだ」


 呟きながら、隅から椅子を引っ張り出して座る。

 にしても、設備とか前に比べてかなり良くなったよな。ここ。

 教皇がミリアに変わる前はまず治療室なんてもの自体無かったし、雰囲気もこんなに明るくなかった。

しかも前は昼間なのに薄暗くて、信者もまるで居ないくらいだったのに。頭が変われば、組織も変わるものだ。それをよく実感できる。

 あいつも変わってくれないものか。このままじゃあ近いうちに絶対、この国は亡ぶ。

 どうにかするのなら俺が行動するべきなんだろうけど……それは俺には向いてなさすぎる。しかも、人質を取られているせいであまり大きく行動を起こせないのも問題の一つ。

 本当に、無駄な知恵ばかり働く奴だよ。それをもっと大事なところに回せれば、もっといい王になれただろうに。

 ままならないものだ、この世界は。

 今のこの状況をどうにかしたくても、そのための行動を起こせない。

 そして、原因が自分から襟を正すかと言われれば絶対にありえないと断言できる。

 打つ手は無い、だからとこのままにしておくわけにもいけない。


「どうすりゃいいんだろうな、俺は」


 その呟きは誰に聞かれるでもなく、石壁に吸い込まれていった。



・・・・・・



「――ぁ……ぅ?」


 その声が聞こえてきたのは、あれからかなりの時間が過ぎた深夜だった。


「ああ、起きたんだな。気分はどうだ?」


 寝起きで声が少し低くなってるけど、怖がらせないように出来るだけ優しく話しかける。

 けれど、それでも怖かったのか、少し体が跳ねたのがうっすらと見えた。

 安心させるために今度は少女と向き合うようにして、笑顔を作りながらも顔をしっかりと見たまま優しく話しかける。その間に渡されていた鈴を鳴らすのも忘れない。

 もし鳴らすのを忘れたら、ミリアに何をされるかわからないからな。起きるかわからないけど。


「大丈夫。俺はお前を絶対に傷つけないから、そんなに怖がらなくていいんだ」

「きず……つ……?」

「ああ。それで、どうかな。痛かったりするところは無いか? 自分の事はわかるか?」


 いまいちわかっていなさそうだったけれど、とりあえず敵意が無い事はわかってもらえたようだから、改めて聞いてみる。

 たぶん、いい返事は返って来ないだろう。

 俺の予想通りならたぶん、きっと……


「いた……は、な……い。け、ど……わた、し……? わたし、は……わか……ない」


 痛む所は無いみたいだけど、予想通り記憶を無くしてしまっているみたいだ。

 仕方ないとはいえ、少し辛いな。


「そうか……やっぱり、か」

「ごめ……なさ……」


 と、呟いたときにその気持ちがだいぶ混ざってしまったのを、俺が失望してしまったのかと勘違いさせてしまったようだ。

 そんなことを言わせたくなんて無かったのに、俺の馬鹿が。


「謝らなくていい、お前は何にも悪くないんだから」

「ん……」

「けど、自分の事がわからないって事は、名前もわからないのか……困ったな」

「なま……ない、こま、る……の?」

「そうだな。呼ぶときにずっと、おいとかお前とか言われるのは嫌だろ?」

「うん……い、や。こわ……い」

「だろ? だから名前がわかればなって思ったんだ」


 なんだか、話し方が思っていた以上に幼い。

 これは記憶が無いからとか、呪いをかけられていたからとかは関係ない気がする。

 いや、口がうまく動かせていないのも確かにあるんだろうけど、これは単純に言葉を話すことに慣れていない――いや、言語機能が未発達っていう方がいいか――とか、そんな感じだ。


「な、ら……なま、つけ……て?」

「代わりの名前を、俺がつけていいのか? ついさっき、初めて会ったばかりの俺で」

「……ん。わる、い……ひとじゃ、ない……から」


 問い返すと、少女は控えめに頷いてそう言ってくれた。

 悪い人じゃない、か。そんな風に思ってもらえると、なんだか嬉しいな。

 最近会う人は皆、勇者って肩書でしか見てこないから。こうして俺を見て、感じたことを言ってもらえたのがとても久しぶりに思うから尚更。


「そう、か……ありがとう。それじゃあ、少しだけ考えさせてくれ。ちゃんとした名前を考えてあげたいから」

「ん、あり……がと。そ、だ……なま、えは?」

「名前? ああごめん、俺の名前を教えてなかったよな。俺の名前はリオン、リオン=ヴァーゼルって言うんだ。よろしくな」

「で、わたしがミリア=ルクスだよ。よろしくねー」


 と、少女に俺の名前を教えていたら、いつの間にかミリアが部屋の中に居た。

 ……っておい、いったい何時の間に入ってきたんだ。というか何で俺は気づけなかった。


「りお、ん……に、みり……あ? みり……だ、れ?」

「わたしはリオンの友達で、この教会の一番偉い人! ちっちゃいけど立派な教皇なんだよ」

「きょう……こ?」

「そっかー、教皇がわからないかー。確かに教皇って何て言えばいいんだろうねー、わたしもわかんないよ?」

「みり、あ……わか……ない?」

「うん、まったく。一番偉いって事と、仕事ばっかって事以外はなーんにも」


 おい、それでいいのかミリア。

 と突っ込みたいけど、俺も教皇って一番偉いって事以外は何にもわからないから墓穴を掘るだけか。触らぬ神に祟りなし……ってなんか違うな。

 けど、ミリアが来てくれて助かったのも事実か。

 名前を考えてる間は必然的に黙ってしまうだろうし、今はこの子を不安にさせるべきではないだろうから。本当なら眠らせて休ませるべきなんだろうけど、不安定な今は下手に不安を感じさせてはいけない気がしたから。

 とは言え、ここまで簡単に打ち解けるとは思っていなかったけどさ。

 まぁいい、今はミリアに任せて少し深く考えようか。


「しご、と」

「そうそう、仕事。書類の処理だったりー、酷い怪我をしてる人の治療とかー、あなたみたいに治療した人の経過観察とかー、前任の杜撰な管理の後始末とかー、国王からの無茶振りをのらりくらりと躱し続けたりとか! というか、無茶振りを躱し続けるのが一番面倒だね。うん」


 あいつ、教会にまで迷惑かけてるのか。本当にどうしようもないな。


「む、ちゃ?」

「そうだねー。例えばだけど、せっかく開いた治療院を封鎖しろとか、信者を増やすなとか。一番酷いのだと、騎士さんの怪我の治療だけをして、他の怪我をした人たちは見捨てろって感じの事を言われたかなー。無理な話だけど」


 うわ、それは本当に酷いな。

 いくら何でも、本当にそれを通したらどうなるかなんて簡単に予想できるだろうに。

自分で自分の首をそんなに絞めたいのか。


「ひど、い……。いた、いの……は、みんな、や……なのに」

「うん。痛いのなんて、誰も嫌なはずなのにね。何でそんなことを言うんだろう、わたしもわからないや。――あなたは、そんな人になっちゃだめだからね?」

「……ん」


 ミリアの言う通りだな。あんな人としてろくでもないような奴になってはいけない。まぁ、この子に限ってそれは無いだろうけど。

 だって、この子は自分が辛い状態に陥っても、無意識に周りの命も救おうとする優しい子だ。そんな子があんな奴みたいになるなんて、それこそ天地が引っ繰り返りでもしなければありえないだろう。

 ――っと、少しずれたな。今は名前を考えないと。

 とはいっても、本当にどんな名前がいいんだろうな。名付けとかってあまり得意じゃないんだよ、俺。

 何か特徴的なものがあれば、そこから連想して行けると思うんだけど……。ああそういえば、この子の瞳の色をちゃんとは知らないな。淡い感じの色だったとは思うんだけど。

 目が覚める前は当たり前だけどずっと目をつぶってたし、目が覚めてからも明かりを点けてなかったから、顔をしっかり見ていても瞳の色自体はあまり確認できていなかった。

 だから、そこから何か思いつかないかと改めて少女の顔を、さっきよりも近い所から覗き込んだ時、俺は一瞬時が止まったのかと錯覚するほどの衝撃を受けた。

 別に、何か気に入らないとかそういう所があったわけでは無い。むしろその逆だった。

 覗き込んだ俺を真っすぐに見つめ返してきたその瞳の色が、凄く綺麗だと思った。

 この子の瞳は、とても澄んだ青空の様に綺麗な水色をしていた。まるで、青空そのものから雫が一粒零れ落ちてきて、それが瞳になったんじゃないかと錯覚するほどに綺麗な空の色。

しかも、さっきまで強力な呪いをかけられていたというのに、その事をまるで感じさせないくらいに澱みなく澄み切っていて、これ以上に綺麗な眼を持っている人は他に居ないんじゃないかと思うほどに純粋で真っすぐな瞳。

 それを見た瞬間、頭に思い浮かんだものがあった。

ただ純粋に思い浮かんだそれは、少女にしっくりと来る名前だと個人的には思う。

それは――


「――シャルティアス」

「りお……?」

「シャルティアスだ。俺が送る新しい名前は」

「わたしの、なま……しゃる、てぃあす……」

「ああ、そうだ。気に入らなかったか?」

「んーん……うれ、しい。あり、がと……りおん」


 気に入ってもらえたようで良かった。

 これで嫌だ、なんて言われたらもう、丸一日以上考え込む羽目になりそうだったし。


「シャルティアス、古代語で『天の雫』かぁ……。いい名前を付けてもらったねー」

「天の雫?」


 古代語って言語があることは知ってるけど、天の雫って意味を持つ単語なんて知らなかったんだが。

 というか、何で古代語の知識持ってるんだ? 古代語って、よほどの変わり者の学者じゃなければ習得しないって言われてた気がするんだけど。


「あれ、知らないで付けたんだ」

「この子の瞳を見てたら、ふと思いついた名前だからな……。そんな意味があるなんて知らなかった」

「そっか。……なら、リオンがその名前を付けたのは運命だったって事かな」

 最後に何か言った気がしたけど……気のせいか? 運命だとかって聞こえた気もするんだけど。

「みりあ?」

「んー? どうしたの、シャルティ」

「……ううん、なんでも、ない」

「そう? まぁいっか。でさ、リオン」

「何だ?」

「もしこの子が自分の名前を思い出したらさ、シャルティアスって名前はどうするの?」


 何か問題があったのかと思ったけど、なんだ、そんな事か。


「別にどうする必要もないだろ。自分の名前を思い出したって、そのどっちかを選ぶ必要は無いんだし。それに、俺があげたのは偽るための名前とかじゃなくて、一時的だったとしてもこの子の本当の名前なんだからさ」


 だから、別に気にすることは無いと俺は思う。

 俺があげたシャルティアスって名前も、記憶を失う前の名前も、最初に付けられたのかどうかの違いしかないだけで、そのどちらもがこの子の本当の名前なんだから、好きに使い分けてもいいと思うんだ。

 流石にそれで嘘をつくのは駄目だけどさ、問題のない範囲ならそれも構わないだろ。


「でも結局、それを決めるのはシャルティアスだ。俺たちが決める事じゃないさ」

「確かにそれもそっか。リオンにしては、しっかり考えてたんだね」

「俺にしてはって何だよ」

「……ふぁぁ」


 あんまりな言いように思わず苦笑していると、シャルティアスが控えめに欠伸をしたのが見えた。

 けど、それも仕方のない事か。

 まだ呪いから解放されてすぐなんだから、ここまで話すだけでも大変だよな……。配慮が足りなかった。

 必要な事も終えたんだし、今はもう休ませた方がいいだろう。


「眠いか?」

「あっ……ごめ、なさ……!」

「謝らなくていいんだよ。というか、謝るのは俺の方だ。ごめんな、シャルティアス」

「なん、で?」

「まだ安静にして休まなきゃいけないのに、無理をさせちゃったからな。だから今は、ゆっくりと眠って治せばいい。心配しなくても、俺が出来る限りずっと傍に居るからさ」

「ずっ……と?」

「ああ。記憶が戻るまでは、出来る限りずっと傍に居る」


 それが、この子を助けた事に対する覚悟だ。

 どんな形であろうと、一度助けるのだと決めたのなら最後まで面倒を見ないといけないんだ。ただ治療できるところに連れて行って後は任せる、なんてのは道理に合わない。

 だから、シャルティアスが自立できるようになるまで面倒を見る事に決めた。

 まぁそう言ってはいるものの、記憶を取り戻してから先は、シャルティアス自身のやりたいようにやらせるだけなんだけどな。

 そこから先は、俺が決める事ではないんだから。

 でも、ありえないだろうが、道を踏み外そうものなら俺が絶対に止めるけど。


「う……ん、あり、が……と……りお……ん……」


 安心させるように頭を撫でていると、シャルティアスの瞼がゆっくりと閉じていき、すぐに寝息が聞こえてきた。

 やっぱり、だいぶ無理をしていたんだろうか。それとも……いや、やっぱり不安になってたんだろうな。

 目が覚めたら一切の記憶が無くて、誰ともわからない男に話しかけられたんだ。そんな目に遭ったことが無いから俺にはどれほどのものか想像すらも出来ないけど、それでも不安や恐怖を感じている事はわかる。

 だからこそ、それでも俺を信用してくれたシャルティアスを裏切る訳にはいかないよな。


「寝ちゃったみたいだね」

「そうだな」

「でさ、リオン。さっきはシャルティが起きてたから聞けなかったけど――」

「大丈夫だ、お前は気にしなくていい。これは俺が決めた事で、もう覚悟も終わってる」

「――そっか。けど、困った時はいつでも頼りにしてきてよ? 私もこの子は心配だしさ」

「わかったよ、俺たちだけじゃ手が回らない事もあるだろうしな」

「うん、それだけ聞ければもう十分。じゃあ、わたしももう寝るね。おやすみー」

「ああ、おやすみ」


 そうしてまた部屋を出て行くミリアを見送ってから、俺ももう一度寝るかと部屋の隅に置いた簡易ベッドに向かおうとすると、不意に服を引っ張られた。

 ある種の確信を持ちながらも振り返るとそこには、予想通り俺の服の裾を眠ったまま無意識に握りしめているシャルティアスの姿があった。

 んー……どうしたものかな。これじゃあ寝られない。

 と、僅かに悩んでいると、少し顔が歪んだのが見えてしまった。

 ……仕方、ないか。

 少しでも不安を和らげられるならこのくらい、なんてこともないさ。


「出来る限り、ずっと傍に居るって言ったからな」


 ちょっとだけ逡巡したものの、裾を掴んでいた手を外し、その手をしっかりと握り返してから隣に潜り込む。

 すると、歪んでいた表情が少し和らいだ。

 これなら大丈夫だろう。


「おやすみ、シャルティアス」


 少しでも、不安を感じないように。

 少しでも、人の温もりを感じられるように。

 そんな思いを込めて優しく抱きしめながら呟き、目を閉じる。

 それから俺が眠りに落ちたのは、すぐだった。



・・・・・・



「りおん。おきて、りおん」

「ん……? ……あぁ。おはよう、シャルティアス」


 朝、誰かに控えめに揺らされて目が覚めた。

 一瞬、何でシャルティアスが目の前で横になってるのか寝起きでわからなかったけれど、少し時間が過ぎてから、そういえば安心させるために一緒のベッドで寝る事にしたのを思い出す。

 正直、こんなに女の子の近くで寝たことなんて無かったから、少しビックリしたのはここだけの話。


「ん。おは、よう」


 そう言って控えめに微笑んだシャルティアスはとても可愛らしかったけれど、なんだか少し、外見から想像する年齢とは思えない深さを一瞬だけ感じた気がした。

 まぁ、俺の気のせいだろうけど。


「そうだ、身体は大丈夫か? 疲れが残ってるとか、怠さがあるとかあったら言ってくれよ。すぐにミリアを呼ぶから」

「だいじょうぶ。りおんがこうして、わたしをだきしめてくれてたから」

「……? って、ごめんな。すぐ離れるから」

「ううん。もうちょっとだけ、このままがいい」

「――わかったよ。でも、もう少しだけだからな」

「ありがと、りおん」


 着替えたりだとか、色々と準備しないといけないんだけど、こうお願いされたら流石に断りにくいな。

 それに何だか、縋るような切実さも感じたから……仕方ないか。

 というか、なんかどんどんと甘くなってきてる気がする。

 けど、こういうのもたまには悪くないだろ。

 とりあえず、そんな感じに内心で結論を出した時、何故かグリグリと俺の胸元に頭をこすりつけていたシャルティアスが唐突に口を開いた。


「あのね。めがさめたとき、なんだかすごくさびしくて、かなしかった。なにかだいじなことがあったって。……でも、りおんがだきしめてくれてたから、あんしんできたの」

「大事な事、か」

「うん、とってもだいじなこと。でも、いくらかんがえてもわからなくて、なにもわからなくなったとき、りおんのあたたかさをかんじたの。それで、おちつけた」

「……そっか」


 記憶を無くしても、それでも残るものがあったんだな。

 なんだか、それが嬉しい。俺自身は何も知らなくて、ただ助けた時に零れた言葉を聞いた事しか情報が無いのに。それでも心に大切なものが残っているって事実が、嬉しいんだ。

 だって、それが残ってさえいれば取り戻せるのだから。

 失ってしまった、大切な思い出だって。絶対に。


「シャルティアス。一つだけ、伝えておきたいことがあるんだ」

「つたえておきたい、こと?」

「ああ」


 これを話すべきか否か、悩んでいたけど話そう。

 やっぱりこれは、記憶を失っていても知っていなくちゃいけないことだ。


「俺がお前を助けた時、ずっと呟いていたことがあるんだ」

「ずっと、つぶやいてた?」

「『お姉ちゃんを助けて』って、何度も。だからたぶん、その寂しさや悲しさは、お前の姉に会えない事が理由なんだと思う」

「そう、なのかな。でも、そうならわたしは……」


 話したらきっと、大切な姉を忘れてしまった自分を責めようとするだろうと思ってたけど、本当にそうなったか。

 きっとお前は何も悪くないのに、それでも自分を責めてしまうのは何処までも優しいからだろうな。そしてだからこそ、姉はお前を逃がしたんだろう。

 優しいお前が、壊れてしまわないように。


「安心しろ、シャルティアス」

「りおん?」


 ああもう、そんな泣きそうな顔するな。

 俺は言っただろ? 記憶が戻るまでは出来る限り傍に居るって。

 そしてそれは、お前の記憶を取り戻す方法を探すのも含んでいるんだ。


「俺が手伝う。お前の記憶を取り戻すのも、お姉ちゃんを助ける事も。これでも俺は勇者なんだ、シャルティアスみたいな子を支える事も俺のすべきことの一つだよ」


 けど、それが偽善だっていう事はわかっている。最悪の可能性もある。

 どれだけ足掻いたって俺が手助けできるのは、支えることが出来るのは、助けることが出来るのは俺の手が届く範囲だけ。

手が届かない範囲の苦しんでいる人たちを救う事は出来ないんだ。

 でもさ、目の前の苦しんでいる子を前にして見栄すら張れないような奴が勇者を名乗るのもまた、違うと思うから。

 だから俺は、シャルティアスの、みんなの前ではどこまでも見栄を張ろう。

 それでこの子が少しでも安心できるのなら、俺の手が届く範囲の人が救えるのなら、少しでも多くの人が救えるのならどこまでも。

 それこそが、多くの人の希望になる勇者ってものだろうから。


「ありがと、りおん……!」

「泣くなよ。ここは笑ってくれた方が、俺としては嬉しいんだけどな」

「でも、でもっ! なみだがとまらなくてっ」

「なら、今は思う存分泣けばいい。そしたら後で思いっきり笑って、一緒に前に進もう」

「うんっ」


 すると、今度はその小さな体の全身を使って抱き着いてきたから、俺はそれを優しく抱き返してあげて、頭や背中を撫でてあげる。

 こうした方が、しっかりと溜まった感情を吐き出せると思ったから。

 そして、どこかゆっくりとした時間が過ぎていった頃、シャルティアスの嗚咽が止まって、少し体が離れた。


「もう、大丈夫か?」

「うん、だいじょうぶ」

「そうか。なら、早く着替えてご飯を食べに行こうか。お腹空いただろ?」

「ごはんって……なに?」


 最後に頭を思いっきり撫でて、ご飯を食べに行こうと布団から抜け出ようとした時、ありえないことを聞いた気がした。

 ……いや、うん。きっと俺の気のせいだろ。ご飯がわからないってそんなわけ――


「ねぇりおん、ごはんってなに?」


 ――あったな。

 だけど、これはどういう事だ? 普通ならご飯を知らないなんてことは無いはずなのに。

 もしそれがありえるのなら、この子は今まで何も食べてこなかったって事になるけど……それこそありえない。

 どんな生き物だとしても、必ず何かを食べないと生きてはいけない。それは事実上の寿命が無いと言われている魔族でですらだ。

 記憶を失っているからって、いくらなんでもこれは――いや、それは無いはずだ。


「りおん?」

「っと、ごめんな。ご飯っていうのはな――」


 気が遠くなりかけたけど、何度か呼びかけられて何とか正気に戻る。

 そうして簡単に説明したのだけれど、あまりいい反応は返って来なかった。


「いきものを、たべる。それがごはん?」

「簡単に言ってしまうとそうなるかな」

「そうなんだ……。でも、いのちをうばうのは……やだよ」


 森に生きる生き物たちを、命を張って助けたシャルティアスならそう反応するだろうとは、何となくだけどわかっていた。

 でも、ここでちゃんと伝えておかないと後で後悔することになる気がする。


「確かに、理不尽に他の命を奪う事はよくない。けどな、シャルティアス。この世界に生きている生き物のほとんどはみんな、ご飯を食べないと生きていけないんだ」

「どうして?」

「俺もよく知らないんだけど、そうしないと動けなくなったりして、最悪死んでしまうんだ。だから生きているみんな、ご飯を食べるんだよ。それとな、それが何の考えも無しに命を奪っている訳じゃないことも、ちゃんと知っていて欲しい」


 かと言って、みんながみんなそういう訳ではないのも知ってはいるけれど。それでも勘違いはしないでほしくて、色々と俺が持っている知識で説明を重ねていく。

 自然の摂理だとかと説明するのは難しかったけれど、今まで見てきたものや経験も参考にしてみたら、その辺りは思っていたよりも簡単に納得してくれた。

なんでも、そういった物はちゃんとした流れになっているからだとかなんだとか言ってた気がする。喋りは拙いけど、たまに外見から考えられる年齢に似合わないことを言うよな。

 まぁそれは気にしないとしても、シャルティアスに説明する上で、一番大変だったのは家畜だとかに関して。

 当たり前だけど、それだけはなかなか納得してもらえなかった。

 けれど、根気よく説明を続けたら納得はしないまでも、何とか理解はしてもらえた。


「――でだ。だからご飯を食べる時は、食べられないもの以外はしっかりと食べないといけないんだ」

「わかった」


 って、何でこんな話になってるんだ? 大事なことだけどさ。

 ……にしても、ここまでの反応を見る限り、やっぱりシャルティアスは食べ物を食べたことが無いみたいだけど、それでどうやって今日まで生きてきたんだろう。

 そしてこの子はいったい、どんな暮らしをしていたんだろうな。想像も出来ないけれど、着ていた服からしてもいいものでは無かったはずだ。


「よし。ちょっと色々とズレたけど、着替えるか」

「うん。でも、わたしのふくは?」

「大丈夫、服は昨日の内に買ってきたんだ。下着は……ミリアが持って来てくれたのがあるな」


 確か、ミリアがここで一緒に食べるって夕飯を持ってきたときに、一緒に持って来てたんだっけか。

 そういえば、今のシャルティアスはいわゆる病院着のような物を着ている。流石にあのボロ布のままだと衛生面だとかの諸々の理由で、ミリアが着替えさせたらしい。

 とりあえず、下着はどれも変わらないだろうと適当に選んでおく。

 服は白の袖の広がった白のワンピースに短めのズボン、それにサンダルでいいかな。今は夏季だから、涼し気な格好のほうが楽だろうし。


「ねぇ、りおん。これ、どうやってぬぐの?」

「ん? ああ、これは両脇に留め具があって、それを上から外していくんだけど……わかるか?」

「えと、えと……わかんない。りおん、ぬがせて」

「仕方ないな。ほら、両手を上げて。バンザーイ」


と、着替えさせるために服を脱がせ始めたとき、不意に扉が開くような音が聞こえた。


「…………兄、さん?」


 たぶん気のせいだろうと、その音を特に気にせずに着替えを続けさせていたら、どこか信じられないものを見たような声が聞こえてきて、流石に何かおかしいと振り向く。

 するとそこには、唖然とした表情でこちらを見ているフィオラと、何やってるんだと言わんばかりの顔で頭に手を当てているミリアの姿が目に入ってきた。

 もう戻って来たのか、思ってたより早かったな。

 けど、どうしたんだ? 入り口で固まって。


「どうしたの、りおん。まだぬげてないよ?」

「っと、ごめんな。ちょっとだけ待っててくれ。――で、どうしたんだフィオラ。そんなところで固まって。というか思ってたより早いな」

「えっ? ああ、思ったより調べられるのが少なかったから、さっさと切り上げてきたんだ。あの子も心配だったし――って、違う! 兄さん、何でその子の服を脱がせてるの⁉」

「最初に脱ぎ方を教えたんだけど、どうにもわからなかったみたいでさ。脱がせてくれって頼まれたんだよ」


 流石に、何の躊躇いもなく頼んできたときは少し面食らったけど。

 仕方ないだろ? ミリアを呼ぶにも、この時間はいつも特に忙しそうにしてたから、着替え程度の用事で邪魔しちゃ悪いかとも思ったし。

 だからと言って他に頼める奴もいなかったから、手伝えるのは俺しかいないだろ。

 等と説明したものの、あまり納得していないようだ。

 いったい何が気に入らないんだか。

 と、思わず考えていた時だった。


「うん、わかった。兄さんは外に出てて、私が代わるから」

「へ? いや、でも……」

「出・て・て?」

「……はい」


 なんだか凄く綺麗だけど、威圧されるような笑顔で言われてしまったら、なんとも言い返せない。

 ここは大人しく退いた方がいいだろうな。

 そう考えて、改めてシャルティアスにそれを伝える事にしようと振り返ると、いつの間にかその姿が消えていることに気付いた。


「あれ、シャルティアス?」


 思わず呼びかけてみると、下の方から服を引っ張られる感覚と同時に、少し震えたような声が聞こえてきた。


「りおん、あのひとだれ?」


 下を向くとそこには、少し顔を青くして俺の服の裾を掴みながらフィオラを見ているシャルティアスの顔が視界に入ってくる。

 どうしたんだろう。さっきまでは普通だったのに、いきなりこんな風になるなんて……何があった?

 考えられる要因としては、フィオラがやって来た事だけなんだけど……まさか。


「あいつは俺の妹のフィオラだよ。……なぁシャルティアス。一つ聞きたいんだけど、フィオラが怖いか?」

「……うん。りおんとみりあは、おきたときにやさしくしてくれたからへいき。でも、ふぃおらは……ごめんなさい」

「気にするな、仕方ないから」


 予想通り、やっぱり人が怖いんだな。

 考えてみれば、俺とミリアに対してここまで普通に接せれるのがおかしいんだ。

 記憶が無くて、かつ誰かもわからない相手に呪いをかけられて殺されかけたのなら、他人が怖くて人不信になっていても普通ならおかしくはない。

 でも、そうすると一つ困った事がある。

 フィオラとライオスについて。

 これから先、もしもの時はミリアに預かってもらうが、シャルティアスを俺のところで預かることにしたけれど、この二人が怖がられていたらどうしようもないんだよ。

 ある程度は俺の方で安心させられるけど、それでもストレスは溜まる。どうしたものかな。

 何とかして、打ち解けさせられればいいんだけどな。

 だけど、とりあえず今はあれだ。


「シャルティアス。フィオラが怖いのは仕方がないけどミリアも一緒だからさ、着替える少しの間は我慢して欲しいんだけど、大丈夫か? 怖い奴じゃないのは俺が保証するからさ。……怒らせなければだけど」


 最後にぼそっと本音が混ざったのはご愛嬌ってことで。

 いやだってさ、フィオラが怒るとなんか逆らい難い雰囲気を出すから怖いんだよ。


「……うん、わかった」

「よし、いい子だ。――じゃあ、着替えはそこに置いてあるから、任せた」

「はーい、任されました。私もすぐに怖がられないようになりたいよ」


 頭を一撫でして、ぼやいてるフィオラの隣を通り抜けながら剣を取って廊下へと出ていく。

 ああそういえば、俺も着替えないとな。昨日着てた服のままだし。

 旅だとか遠征に出たときは着替えるなんて余裕はほぼほぼ無いけど、それでもグレムバルドに居る時とかは普通に着替える。

 まぁ結局、そういうのが出来るのも全部余裕のある無しだよな。

 さて、着替えだけだからそんなに時間はかからないだろうから、何で暇をつぶそうか。と言っても、考え事をするくらいしか出来そうにもないか。それも簡単なの。

 そうだ、シャルティアスが二人と打ち解けられる様な何かを考えるのが良いか。

 何がいいかな……。正直、フィオラとは俺が何もしなくともすぐに打ち解けられると思うんだけど、ライオスとがどうもなぁ。

 ライオスはなんか、普通に怖がらせそうでどうにも予想がつかないし、良策も思いつかない。

 でも、子供は好きだって言ってたし、意外と何とかなるか? いや、確証は無いけど。


『いやー、あの子が元気になったみたいで良かったよ』

「うおっ――って、ルミナか。……あれ、ルミナ? 何でここに居るんだ?」

『やぁリオン、一日振りだね。私が今ここに居るのは、今のあの森が私たち精霊にとっては過ごし難いからだよ』

「過ごし難いって、マナのせいでか?」

『そう。一日二日くらいならまだ何ともないけど、長く居ると存在自体が危うくなってしまうから、ある程度マナ濃度が収まるまでの少し間だけ避難して来ているって訳だ。ここに来たのは私だけだけど』


 なるほどな。精霊って存在はもともとマナから生まれた生命体で、生まれた場所の濃度によって位が変化する。だから、マナ濃度が濃くなってる場所だと、かなり高位の精霊じゃないと生きられないんだったっけ。

 だけど、中級のルミナも今は避難するしかないのか。

……それも仕方ないよな。マナに対する抵抗力が下手な上級精霊以上のフィオラですら、気を抜いたらまともにいられないほどなんだから。


『けどまぁ、ある意味丁度良かったかもしれないけど』

「何でだ?」

『私たち……と言うか、私はあの子がちょっと気になってるんだ。だから、これなら様子が見れるかと思ってさ』

「そういう事か。なら、当分の間着いてくるのか?」

『そうだね、邪魔はしないからお願いしても良いかな』

「どうせ俺以外見えないんだし、気にしなくてもいいと思うんだけど。大丈夫だよ」

『礼儀として必要だろう? ありがとう、リオン』


 相変わらず、変なところで気にするよな。

 でも、その気持ちも何となくわかるけどさ。


「もういいよ、兄さん」

「ん? おう」


 その後ものんびりとルミナと話をしていると、部屋の中から声がかけられた。

 にしても、ただ着替えるだけにしてはだいぶ時間がかかったけど、何か問題でもあったんだろう。

 ま、入ってみればわかる事か。

 気を取り直して部屋に入ろうとドアノブに手をかけると同時に、話していたルミナは俺の左肩に移動していた。

 そこを定位置にする気か。


「んじゃあ入るぞー」


 大丈夫と言われたけど、一応ノックしてから入る。こうなると俺も、あまり人の事は言えないな。

 ちょっと自重しながら部屋に入ると、そこにはパッと見フィオラとミリアしかいなかった。

 少し疑問に思いながらもちゃんと見てみると、こっちからだと後ろを向いているフィオラの腰辺りに細い腕が回されているのが見える。

 シャルティアスはまた、そんな風に隠れてどうしたんだろう。


「なぁ、シャルティアスはどうしたんだ? そんな風に隠れて」

「あはは……なんだか、兄さんに見せるのがどうにも恥ずかしいみたい。大丈夫だって何度も言ってるんだけどね」

「それはフィオラのせいじゃないかなー。色々と余計な事も言ってたしさ」


 いったい何を吹き込んだんだろうか。あまり面倒な事にはしないで欲しいんだけどな。

 というか、この短時間でだいぶ仲良くなれたみたいだな。この二人も。

それはそれでいい事なんだけど、下手に気を回す必要も無かったようで何よりと言うべきか、なんと言うか。ちょっと複雑な気分。

 まぁ何にせよ、今はこの状況をどうにかしたい。

 本当に何を言ったらこうなるんだろうな。


「いや、その……ね。少し無防備すぎるから、あまり異性の人にさっきのような事をさせちゃ駄目とか、羞恥心について簡単に教えただけなんだけど……まさかこうなるとは思わなくて」


 なるほど、そういう事か。

 あまりにも躊躇いが無かったから、俺もその辺りは追々教えて行こうかと思ってたから別にいいんだけどさ。けど、それにしたって変わりすぎだろう。

 もともとの性格が恥ずかしがり屋だったのか? いや、もしそうなのだとしたら、さっきの行動に説明がつかない。

 ……そういえば、生き物を食べる云々の話の時に感じたけど、シャルティアスって言動自体は幼いけど、頭の回転はかなり速かったよな。しかも、結び付けるのも得意ときた。

 これらから考えるとするなら、自分の中で変な結論でも出した可能性が高い、よな。

 いやでも、本当にそうか? なんか違う気がする。


「シャルティアス、どうしたんだ」

「……りおん」

「ああ」

「なんだかね、このふくをきてみたらわたし、へんじゃないかなっておもって……はずかしくなったの」


 どういう事だ? なんか想像してたのと全然違うんだけど。


「そっか、そういう事かー。フィオラのせいでそっちの羞恥心が出ちゃったんだね、シャルティ。でも大丈夫、その服はリオンが買ってきたんだから心配なんてする必要なーし!」

「そうなの?」

「うん。私が買ってこさせたのは下着だけだからね、それ以外はみーんなリオンが買ってきたのだよ。シャルティに似合いそうなのを選んできたって言ってたから、本当に大丈夫」


 本当にどういう事だ?

 フィオラもわかってないみたいだし、何でミリアだけが気付けてるんだろう。よくわからない。


『人間って、色々と複雑だよね』


 あ、これはルミナもわかってそうだな。

 けどまぁ、ルミナの言う事もわからなくはないよなぁ。確かに人って、関わるものが多くなるほどこういったものは無駄に複雑になっていくし。

 それに、一対一の会話でもわからないことの方が遥かに多い。

 生命として深い所で繋がっている精霊からすれば、本当に面倒くさい生き物だと思うよ。

 だけど、だからこそ人は強くなれるとも俺は思っている。それこそが人の強みでもあるんだから。

 何事も見方を変えれば、それだけで長所も短所も変わって行く。

 まぁ、そんなこと考えたところで、今のシャルティアスの気持ちを推し量れるわけじゃないから意味が無い考えだけどさ。

 んー、どうすればいいのかわからない。

 変に思考が絡まってるのを自覚しつつも悩んでいたら、いつの間にかフィオラに抱き着いていたシャルティアスが目の前に移動してきていた。

 その姿は、俺が用意した白いワンピース姿に変わっている。

 うん、似合うだろうと思って選んできたけど、我ながらいい物を選べたと思う。良く似合ってるな。


「――ねぇりおん、へんじゃないかな」

「ああ、何も変なところは無いよ。良く似合ってると思う」

「ん、そっか。よかった」


 そう返事をすると、今度は嬉しそうに微笑んで抱き着いてくる。

 ……本当になんだったんだ? 知らないうちに解決してたみたいだけど。

 内心で首を傾げながらも、まぁいいかと結論づけてシャルティアスを抱き上げてみる。一度出た時に剣を装備し直してたから、腰に抱き着かれると少し危ないしな。


「……軽いな」


 すると、思っていたよりも遥かに軽い重さが腕にかかる。もしかすると、俺の持ってるミスリルの長短剣を合わせたよりも軽いかもしれない。

 そこまで考えた辺りで、気を取り直すように頭を振る。

 今はそんな事じゃなくて、先の事を考えるべきだ。

 という事で、ミリアに少し疑問に思った事を聞いてみることにしようか。


「そういえばさ、ミリアは何でここに居るんだ?」

「わたし? わたしはシャルティの様子を見に行こうとしたら、途中でフィオラに会ったから一緒に連れて来たんだー。まぁ、昨夜と比べれば喋りもしっかりしてるし、後は度々検診に来てもらえれば十分なくらいかな。それでリオンはどうしたの? シャルティ着替えさせようとして」

「いや、体調も安定してるようだったから朝ご飯でも食べに行こうかと考えてただけだよ。……色々と大変だったけど」


 最後のはぼそっと呟いたから、シャルティアス以外には聞こえていないようだった。

 その代わり、背中辺りを軽く抓られたけどな。まぁ、仕方がない。


「あ、そうだ。シャルティアスの事をフィオラに紹介するのを忘れてたけど、大丈夫か?」

「うん、問題ないよ。さっき話して、シャルティアスちゃんとも仲良くなれたし。ミリアから色々と説明はされたから」

「ふぃおら、りおんとにてたから。もう、だいじょうぶ」

「似てた?」

「こころがにてたの。とくに、やさしいところが」


 心が似てる、か。

 それがどんな意味での事かはいまいちわからないけれど、ありえないことを聞いた気がするのはまず間違いないよな。つまりこれって、人の心が見えているのと大差ないんだから。

 けど、そんな事が不思議ではないと思っているのもまた事実で。この子ならその程度、やれない事もないだろうと思えてしまう。

 何でだろうな、まだシャルティアスと出会ってから一日も過ぎてないのに。


「そっか。なら、そろそろご飯を食べに行くとするか。フィオラとミリアはどうする?」

「私は行く。兄さんに任せてたら不安な事が多いしね」

「食堂で食べるのなら一緒にー……と言いたいけど、もう食べちゃってるからわたしはいいや。――仕事も残ってるからわたしはもう行くけど、最低でも週一ぐらいで検診に来てよ? それじゃあねー」

「わかってるよ。またな」

「またね、みりあ」


 そう言って治療室から出ていくミリアを見送った後、シャルティアスを抱き上げたままフィオラと一緒に朝ご飯を食べに行くことにした。

 初めての食事なんだろうし、出来れば美味しいものを食べさせたいところだけど。と、そんな事を考えながら、フィオラを連れ立って外に向けて歩き出す。ルミナはいつの間にか消えていたけど、気にしなくても問題ないだろう。

 さて、どこに向かおうかな。



・・・・・・



「っ――! こんなの、はじめて!」

「口に合ったみたいで良かったよ」

「美味しそうに食べるね」

「おいし?」

「美味しいだよ、シャルティアス。そういう、食べていいなって感じる事だよ」

「これが、おいしい」


 場所は変わって、家の近くの軽食屋に来ている。

 本当はもっと別な場所に行こうかと思ってたんだけど、特に思いつかなかったから結局いつも来る場所に落ち着いた。

 まぁ、ここも美味しいから問題は無いだろ。実際に今、シャルティアスも美味そうに肉と野菜のミックスサンドを食べてるしな。

 でも、食べる事に忌避感が無いみたいで良かった。


「そう言えばなんだけどさ、ライオスはどうしたんだ?」

「ライオスさんなら、家で報告書書いてるよ」

「あー……なるほど。今度、飲みに連れてくか」


 ここ最近、ずっとライオスに色々と後処理してもらってたから、そろそろ何かお礼しないといけないとは思ってたし。丁度いいか。

 まさか、戻ってきてすぐに報告書に取り掛かると思ってなかったし。


「らいおす?」

「ライオスは俺の仲間だよ、同じ家に住んでるんだ。後で紹介するけど、悪い奴ではないから安心してくれ」

「うん。リオンがいうなら、きっとだいじょうぶ」


 その前に一度、この街を色々と案内しなくちゃいけないけどな。少し気が重いけど。

 何しろ、この街は広い。普通の人が徒歩で外周を一周しようと思えば……半日とは言わないけど、四刻くらいはかかるだろうな。

 それにもう十年以上ここに住んでるけど、それでも完全には把握しきれてないしな。

 てか、毎日のように行方不明者が出て、毎年その内の何人かが行方不明のままになる街の方がおかしいんだよ。普通ならそんな事にならないだろうし。

 ……シャルティアスには、一人で下手に出歩かないように言っておかないとな。じゃないと何が起こるかわからなくて、色々と怖い。それに、約束も守れなくなってしまうしな。


「おいしかった。それに、たべるってこういうことなんだね。なんだか、あたまがかるくなった」

「そうだな……食べ物を食べる事で頭や体に栄養が回って、より動きやすくなる。それにその栄養が無いと、人は生きていけないんだよ」

「うん。たべることがだいじなことだって、よくわかった」

「なら、よかった」


 食物連鎖だとか、自然の摂理だとかは流れとして正常な物だって理解してるみたいだったけど、食べること自体は説明しても経験がないから完全には理解してなかったみたいだから、こうやって実感して理解してくれたのはいい事だと思う。

 幾ら口だけで説明したところで、実際に経験しなければしっかりと理解することは出来ない。

 だからこうやって実際に経験して、自分で知ることが大事なんだと思うから。

 記憶を失ってしまっていても、その前から知らない事が多かったのだとしても。俺が教えられていけるものを出来るだけ教えていって、実際に経験させていこう。

 シャルティアスが納得できないって思う事もあるかもしれない……いや、もうあったか。

けど、それを教える事も、この子を受け入れる事にした俺の役割だろうしな。


「食べ終わった事だし、行くか」

「そうだね。ライオスさんの手伝いもしなくちゃいけないし――」

「いや、俺は今からシャルティアスにある程度この街を案内してくるから、すぐには家に帰らないよ」

「――え?」


 これからする予定をフィオラに伝えると、『嘘でしょ?』と言いたげな顔をして俺の顔を見てきた。

 あれ、どうしたんだ? 変な事は言ってないと思うんだけど。


「んー、流石にそこまで時間は取れないなぁ。……仕方ない、出来るだけ早めに終わらせて帰ってきてよ。ライオスさんがやってもらう事があるって言ってたから」

「わかった。出来るだけ早めに戻るさ」

「うん、私は先に戻ってるから。――じゃあまた後でね、シャルティアスちゃん」

「ん、またね」


 フィオラは最後に、シャルティアスの頭を撫でてから家の方へと歩いて行った。

 にしても、やってもらいたい事って何だろうな。特にそんなものがあるとは思えないんだけどさ。

 まぁ、今考えても意味は無いか。


「さて、俺たちも行くか」

「リオン、どこにいくの?」

「そうだな……噴水広場から回っていくのがいいかな」


 この街を案内するのなら、あそこを始めにするのが一番だ。

 丁度中央にあるし、ある意味で一番象徴となる場所でもあるから。


「ふんすいひろば?」

「ああ、そこで色々とこの国についても説明するよ」

「このくに……」


 今自分がどこに居るのか、それは知っておくべきだもんな。それを今まで失念してたけど、案内するときに一緒に教えた方が色々とわかりやすいだろうし丁度いい。

 えっと、ここから噴水広場に向かうには……あっちか。

 今さっきまでいた店は路地の少し奥まった所にあるから、慣れないと中央まで行く道がわからないんだよな。大きな目印もあるけど、面倒な事に道が入り組んでるからあまり意味ないし。

 改めてシャルティアスを抱き上げてから路地を抜けて、大通りを歩くこと十分ほど。この街の丁度中心にある噴水広場に着いた。


「ここがこの街――王都グランヘイムの中心にある噴水広場だ」

「おおきい!」

「ああ、この街で一番の名所って言われる位だからな」


 実際にこれ目当てでここまで来る冒険者とかも多いみたいだしな。

 さてと、確かこの辺りに座る所があったか。少し長くなりそうだし、そこで話をしよう。

 っと、その前に果実水でも買っていくか。飲み物があった方が話しやすいだろうし。


「シャルティアス、どれが飲みたい?」

「なに? これ」

「果実水。果物の果汁をよく冷えた水に入れて、味を調えた飲み物だよ。ここのは果肉も入ってるみたいだな」


 それに、種類もなかなかに多い。この辺りで一般的に見られるような物で、果実水に向かないもの以外はほぼ全部ありそうだ。


「んと、じゃあ、このむらさきのがいい」

「紫……グレープベリーか、わかった。――おやっさん、グレープベリーとレモナを一つずつ頼む」


 グレープベリーなら癖も無いし、飲みやすいから大丈夫だろ。


「あいよ、ちょっと待ってな」

「れもな?」

「あの黄色い果実だよ。果実水とかにするとほどほどに酸っぱくて、俺は好きなんだ」


 果肉そのままで食べる場合は、あんまり同意してもらえないのがちょっと悲しい所。

 酸っぱいのって上手いと思うんだけど、そんなに好きではない人が多いんだよな。個人的には、疲れた時に食べるのが特に美味いと思うんだけど。


「すっぱい?」

「あー……これは説明するのが難しいな。飲んでみた方がわかりやすいだろうけど、どうする?」

「のむ!」

「レモナは、お嬢ちゃんには少し刺激が強いかもしれないから気を付けな。ほら、グレープベリーとレモナの果実水だ。代金は合計で五百ガルドだよ、兄ちゃん」

「ありがとう、ここに置いとくな」

「まいどありー」


 ふむ、思ってたより量が多いな、これで一杯二百五十ガルドは安い。

 しかも氷も入ってるのを見ると、ここの果実水はよく売れているんだろう。そうでもなければこんな値段で売ることも出来ないだろうし。

 意外と高いんだよなぁ、果実水って。

 物によっては、これより量が少なくてあまり美味くもないのに一杯五百ガルドとかな。大きな町単位になると仕入れるのも大変になるから、ある意味それも仕方ないのかもしれないけどさ。

 とりあえずグレープベリーの果実水が入った容器をしっかりと持たせて、目星をつけていた長椅子に向かうと、まずそこにシャルティアスを座らせてから隣に腰を下ろす。

 ここなら丁度南側だし、この街を説明するのならうってつけだな。

 だけどその前に、シャルティアスの口元にレモナの果実水の入った容器を持っていく。


「ほら、これ。気を付けながら少しだけ飲んでみろ」

「ありがと。んく――――んっ⁉」

「おっと……大丈夫か?」


 シャルティアスが一口飲んだところで、その酸っぱさに驚いたのか、思わず落としたのだろう容器を落ち着いて取る。

 危なかった。グレープベリーの染みはなかなか取れないから、溢さずに取れて良かった。


「けほっ……。ごめんなさ……けほっ」

「大丈夫だから、気にしなくていい。でも、シャルティアスにはレモナはまだちょっと早かったみたいだな」


 二つの容器を一度置いて、咳き込んでいるシャルティアスを抱き上げて背中をさする。

 慣れない物を食べたりするのは確かに辛いけど、これも仕方のない事だ。

 こうやって色々と試していかないと何が食べれないのか、どんなものが好きなのか……そういった自分のこともわからないままになってしまうから、挑戦してみるのはいい事だと思うしな。

 そんな事を考えながら、咳が落ち着いた頃に避難させていた果実水を少し飲ませる。


「ん……。ありがと、リオン」

「どういたしまして。こっちは大丈夫か?」

「うん、おいしいよ」

「それなら良かった。じゃあ、ゆっくり飲みながら話を聞いて――」


 ……いや、ちょっと待てよ。もしかすると、シャルティアスはこの世界そのものについて知らないかもしれない。

 記憶が無いだけかもしれないけど……もしそうだとするなら、この国についてだけ話すわけにもいかないか。


「なぁシャルティアス、この世界に四つの大陸があるってことは……わかるか?」

「よっつのたいりく?」

「わかんないか。じゃあ大雑把にだけど、そこから説明を始めよう。まずこの世界には四つの大陸がある。一つ目は、俺たちが今いるこの王都グランヘイムを中心にしたヒューマン最大の国家グレムバルド王国がある、一番大きいロンダリア大陸。二つ目は、この世界で最も北に位置する極限の地、殆どの生き物が住むことのできないフォーアイズ大陸。三つ目は、ロンダリア大陸から見て北西の場所に位置する、標高の高い山脈が連なる獣人たちの楽園、クライム大陸。最後に、ロンダリア大陸から見て南に位置する、魔族たちの住まうアーライズ大陸の四つ。これら全てを合わせたこの世界を、俺たちはリーザリア・エルフェルドって呼んでいる」


 聞き取りやすいようにゆっくりと、けれど簡潔に四つの大陸について大雑把に説明したところで何か気になることがあるのか、シャルティアスが少し不安気な表情を浮かべていた。


「どうした、何か気になることがあったか?」

「……ううん、なんでもない。でも、そのじゅうじんっていうのは?」

「ああ、その事か。ならこっちも簡単に説明してしまおうか」


 それぞれの大陸に住む主な種族について話すのも、悪くはないか。

 果実水を一口飲んで、口を湿らせてから話を続ける。


「まず、クライム大陸に住んでいる獣人は種族としての一番の特徴として、動物の持つ部位が必ずどこかに存在するんだ。例えば耳とかかな。だからシャルティアスは、獣人ではないな」

「うん」


 まぁたぶん、シャルティアスはほぼ確定でヒューマンだと俺は思ってるけどさ。

 ちょっとした疑問があるから、確実とは言えないんだけど。


「次にフォーアイズ大陸だけど、ここには魔物や竜と言った生き物しか生息していないから論外だな」


 ここは人が立ち入った記録は残っているけれど、極寒に耐えうる魔物や竜といったような生物ばかりが生息していて、人が住んでいたって記録は無い。

 けど、それもまともな記録が残ってるわけじゃないから、もしかすると先住民が住んでいる可能性も十分にある。

 個人的にはいないと思うけどさ。


「次にアーライズ大陸の魔族だけど、こっちは基本的にヒューマンや獣人、エルフやドワーフと見分けがつかない。けれど、たった一つだけ明確に見分ける方法がある」

「みわけかた?」

「瞳の色だよ。魔族は全員、紫色の瞳を持っているんだ」

「むらさきの、ひとみ」

「そう。外見は他の種族と一切変わらないのに、瞳の色だけが紫色なんだ。それに、他にも魔法の扱いが上手い奴が多いって事と、他の種族を嫌っているってのが特徴かな。例外もいるけど」


 紫の瞳を持つ者は、忌み嫌われし証を持つ者……なんて言われたりもするけど、俺は違うと思うんだよな。

 それに、魔族たちが他の人の種族を嫌っているのにも理由がある気がしてる。

 どれだけ探しても、その辺りの情報が欠けているせいでその勘が正しいのかどうか、まったくわからないんだけどさ。

 何か、決定的な食い違いがある気がしてどうにも気になるんだ。


「そして、世間からの評価は……嫌われ者だ。俺としてはどうにも納得いってないんだけど、こればっかりは俺でもどうしようもなくてな」

「そう、なんだ……」

「そんな悲しそうな顔をするなよ。少なくとも、みんなが嫌いあってるわけではないよ。俺も、そんな一人だ」


 俺には一人、魔族の友達がいた。

 あいつがいたからこそ、先入観や一方的な価値観にだけ囚われることも無く、相手そのものをみて考えることが出来るようになったんだ。

 もう二度と会う事の出来ない、あいつのおかげで。


「どうしたの? リオン、かなしそう」

「ちょっと、懐かしい顔を思い出しただけだよ。気にしなくていいさ」


 あいつは心配性だったから、何時までもあの事を俺が引きずっていたら、いい顔はしないだろう。それどころか気に病みそうだ。

 ……いい加減、吹っ切れたと思ってたんだけど。

今はシャルティアスもいるんだし、割り切らないといけないな。


「最後にロンダリア大陸のヒューマンやエルフ、ドワーフについてか。といっても、ヒューマン以外の二種族については……エルフはマナとの親和性が高くて精霊に好かれやすいっていうのと、ドワーフは鍛冶や彫金が得意で、手先が器用だって事ぐらいしか知らないんだけどさ」


 何気に同じ大陸に生きてるのに、意外と彼らの事を知らないんだよな。

 後知ってる事といえば、精々がこの大陸東側の海岸部を中心に治めている二種族の合同国家、シルフィード・ノービスがある事ぐらいか。


「そして、俺をはじめとしたヒューマンだけど、これといった特徴は無い。強いて挙げるとすれば、この世界で一番多い事と、器用貧乏だったりする事かな。後は……俺みたいな、特別扱いされるような奴が、極稀に現れるってことか」

「リオン、とくべつなの?」

「まぁ、そうなるのかな。――で、俺は今朝、自分の事を勇者だって言ったよな? こういった特別な素質を持っていて、世界に選ばれた者。それが生まれてくるのはヒューマンからだけなんだ」


 だからなのかは知らないけれど、他の種族を見下す傾向がヒューマンだけ特別強いのは……どんな皮肉なんだろうな。

 自分の力でもないのに、それがまるで自分の物かのように振る舞い、傲慢な態度を取る。

 その事が、どうも俺には理解できない。ましてや権力を振り翳して脅し、その力を自分のものだとする奴とかな。


「せかいに、えらばれたもの……」

「基準はよくわからないんだけどな。俺も、何をもって勇者なんかに選ばれたのか、さっぱりわからない。何か特別な力を持ってる訳でも無い、ごく普通の農村に生まれただけの、ただの子供だったのにさ」


 こればかりは、今になっても全然わかっていない。

 勇者なんてものに選ばれるような素質なんて持ってないと思ってたんだけど、実際に選ばれたわけだしな。

 もう少しその辺りを詳しく教えてくれればいいのに。と内心で愚痴っていたら、不意に袖を引っ張られた感覚がした。


「ねぇ、リオン」

「どうした、シャルティアス」

「ゆうしゃって、なにをするの?」

「何を、か。そういえば、具体的に考えた事は無かったな……」


 言われて改めて考えてみたけど、確かにどんな事をする者なのかわからない。


「世間一般的には、人類に害を及ぼす者――今だと魔王を倒す者って、考えられてるんだろうな」


 今まで選ばれてきた勇者たちは全員、その時その時の王に乞われて魔王を倒しに行っていたらしい。そしてそれを達成した奴は全員、役目を終えて消えていったって話だ。……まぁ、その消えたって話自体が怪しいけどな。

 だけど、今代の勇者の俺はどうだ?

 今代の魔王が、此方から手を出さない限り絶対に侵略行為や戦争行為などを行わないと明言していたからこそ、もしもの時は倒しに行くけれど、俺は今は戦うべきではないとその願いを断った。

 もしも勇者としての使命が魔王を倒す事や、大規模な害を成す者を倒す事なら、いくら条件付きにしたところで、突っぱねた時点で勇者としての資格を失ってしまうはずだ。

 けれど、俺の手元にはまだ、勇者の証としての聖剣が残っている。

 つまりは魔王を倒す事、延いては人に害を成す者を倒す事が、勇者としての使命に直接の関係は無いという事になる。

 なら、勇者っていったい…………駄目だな、考えてもわからない。

 だけど、何となくわかっている事はある。


「でも俺は、それは違うと考えてるんだ。きっと、何か別の大切な使命があるって……そう思うから」

「だいじょうぶだよ。リオンならきっと、みつけられるとおもう」

「……ありがとな、シャルティアス」


 そう言って笑顔を浮かべたこの子の顔を見ていたら、根拠はないのに何故か本当に見つけられるような気がした。

 でも、これ自体はゆっくりと、時間をかけて探していこうと思う。そう簡単に見つかるような事でもないし、もし簡単に見つかったとしてもそれはきっと、俺が求めているはずの答えでは無いと思うからさ。

 頭を一撫でしてから、元の話に戻そうと口を開いた。


「そろそろ、話を最初に戻そうか。次に話すのはそうだな……この街、グランヘイムについて案内かな。国についての説明は必要ないだろうし」


 よくよく考えてみれば、この国そのものについて話すことも無かったし、何より教える必要もないものばかりだったからな。今どこにいるかも伝えたし、後は案内だけで十分だろう。

「ん、たのしみ」

「期待に添えるといいんだけどな。まずこの街は、北・東・南・西・中央・外縁区画に分かれているんだ。北区には王城とかの国営に関する施設。東区には孤児院や宿屋とかの福祉系の施設。南区には鍛冶工房や道具調合に関する施設と、それらの商品を取り扱うお店。西区には国が運営する施設に、色々な商会の本部とそこが運営するお店。中央区にはギルド本部や教会の大聖堂、酒場に飲食店。外縁区は居住区画っていう具合に区分けされてる」


 実を言うと、ここからさらに細かく区分けすることが出来るんだけど……そこまでは俺も把握しきれてないし、説明する必要もない。知らなくたって生きていけるしさ。

 それによほどの物好きか、その辺りに関係している仕事をしていない限りは詳しく知ってる奴もいないだろうし。


「次に主要な施設についてだけど、まずは目の前にある王城。あそこは住んでる人や働いてる人、呼ばれた人以外は基本的に立ち入り禁止になってる。緊急避難の時とかは許可なく入れることになってるけど、それ以外の時は間違えても入ったりしちゃ駄目だからな。もし入ったら捕まっちゃうから、気を付けること。後は目印くらいにはなるから、迷ったらあれを目安にするのもいいかもしれないな」

「わかった」


 北区画の大半を使っているくらいだからな、生半可な大きさではないよ。まさに目印にはもってこいなくらいには。

 どうやって建てたのか気になりはするけどな。あれ以上に大きなどころか、足下に及ぶほどの大きさの建造物も見た事ないし。


「他には、東区画に入るすぐ手前にある教会と、その近くにあるギルド本部くらいか」

「きょうかい……ミリア?」

「そうだよ、ミリアがいた教会だ。あそこはさっきまで居たし、案外ミリアが話してたのと大差はないから説明は必要ないかな。けど、ギルドに関しては話しておく。何かあった時、お世話になるかもしれないし」

「ぎる、ど?」

「正式名称は冒険者総合ギルド、簡単に言ってしまえば何でも屋かな? 相応の対価を払えば頼み事を聞いてくれるけど、そのためにはまず、受付で依頼を発行してもらわないといけないのがちょっと面倒くさい。他にも、ギルドに登録した冒険者と直接仕事のやり取りをすることも出来るけど、あんまり一般的なものじゃなかったかな」


 正直、あそこは出来る事なら頼りにはしたくない。

 何でかって、依頼を発行するまでの手間が凄い。長い時だと一刻以上は普通にかかるし。

 だから、何かあったとしても俺が対処した方が早い。それに、もしもシャルティアスを預ける事になったのだとしてもミリアの所の方が安全だし、信用できる。ああ見えて、ミリアやシスターたちって何気に強いからな……

 でもそれは、この街だけでの話だ。本当にもしもの事を考えると話しておいた方がいい。

ギルドの利点として、支部が他の町にもたくさん存在しているから、このグランヘイム以外で何かあった時は一番頼りになるんだよ。その代わり欠点としての、本部や各支部での冒険者の質の差が凄いってのもあるけど。

 ……後で、ギルドそのものに頼み事もしておかないとな。考えたくは無いけど、その可能性だって無いわけじゃないんだから。

 一つ結論を出した後、果実水を飲み干して立ち上がる。

 シャルティアスは……まだ飲み切れてないか。


「次は実際に見て回るか。口だけじゃあ説明できない事も多いし」

「あ、まって」

「大丈夫だよ、そんなに焦って飲まなくていい。けどちょっとそれ、しっかり持ってろよ」

「リオン? ――ひゃ⁉」


 容器をしっかりと握るように注意させてから、移動するためにまた、あまり揺らさないように注意しながら抱き上げる。


「っと、溢してないな。よし、ライオスも待ってるし、手短に行くか」

「うん!」


 楽しそうに笑ったシャルティアスに、俺も笑い返しながら歩を進めだす。

 このまま中央区を回るのもいいけど、まずは東区から回るかな。

 中央区ってギルド本部と飲食店、それにこの噴水広場以外は目立った場所もないし、ギルド本部も東区の大通りに向かう途中にある。

あそこにはそのついでに立ち寄ればいいだろ、あまり気は進まないけどさ。


「ねぇ、どこにいくの?」

「そうだなぁ。まずはギルド本部に寄ってから、東区から順番に見て回って家に帰ろうかなって感じかな」

「おうち、どこにあるの?」

「北区と東区の境目くらいの場所だよ。北区にはさっき言った場所の他に、王城や関連施設で働いてる人の住居があるんだ。俺たちはそこの一つを使わせてもらってる」

「へー」

「三人で住むにはどうにも広すぎて、なかなかに持て余してるんだけどな。この街の中でも、かなりいい家だと思うよ」


 なんて話をしつつ、歩くこと少し。

 東区に入る少し前の辺りで、一軒の大きな看板を構えた五階建ての建物が目に入ってきた。

 あの建物がギルド本部。今の俺は、正直あまり近寄りたくない場所。昨日、頼りたくなかった本当の理由もその辺りが関係してるし。

 それが何故かは入ればわかるだろうけど、シャルティアスによくないだろうから出来れば起こらなければいいんだが……無理だろうなぁ。


「ここがギルドだ、大きい看板があるからわかりやすいだろ? 中には……そうだな。シャルティアス、俺がいいって言うまで今からちょっと目を閉じててくれないかな」

「? うん」

「よし、いい子だ。――邪魔するぞー」


 と、一言断りながら扉を開けた瞬間。


「リオン=ヴァーゼル!!」


 そんな叫び声を上げながら、手に持った剣で斬りかかってきた奴を腰に差していた短剣で受け流しつつ、腹部に軽く膝を入れる。

 同時に、その剣を受け流したままの短剣で刀身を斬り落としておいた。危ないし、こんな迷惑な奴に使わせる武器なんて無くていいだろ。

 つーか、俺に恨み持たれてもお門違いだっての。まだ理解できてない奴多いのか。全部俺のせいじゃないってのに。

 って、そんな事よりもだ。あまり軸を動かさないように対処したけどシャルティアスは……大丈夫だな。良かった。

 もしもシャルティアスに何かあったら、この程度では済まさなかったところだ。


「どうしたの、リオン? おおきいおとがしたよ?」

「中に居た一人が思いっきり転んだだけだから、気にしなくていい。それよりも、もう目を開けて大丈夫だよ」


 さっきの見てまで、襲い掛かってくる馬鹿はいないはずだからな。

 それでもまだやるっていうのなら、その時は容赦しない。というか、俺が子供を抱えているのすら見えなかったのかと、問い詰めたいほどではあるんだけどさ。

 わかってて来たのなら……どうしてやろうか。

 などと、少々不穏当な事を考え始めたとき、傍から小さいながらも歓声が聞こえてきた。


「わぁ……ひろい! リオン、これどうなってるの?」

「ん? ああ、これはだな――『これは空間魔法の応用した魔道具で拡張しているんだよ、お嬢さん』――って、リージア。いきなり割り込んでくるなよ」

「申し訳ないね。けど、君がまた絡まれてそうだったから降りてきたら、その小さなお嬢さんの質問が聞こえてしまったのだから、少しは勘弁してほしいな」


 シャルティアスの疑問に答えようとしたとき、不意に割り込んできた声の主はギルドにおける最高責任者であり、ギルドそのものを率いているギルド総帥、リージア=クロニエル。

 こいつも昔からの腐れ縁で、リージアが総帥を継いだ最初の頃はよく愚痴に付き合わされていた。流石に最近はその回数も減ったけど、いい加減に俺の愚痴には付き合ってくれないのだろうか。

 これでも流石にウンザリしてるんだよ? どこぞの組合員のせいで。


「そう思うなら、俺にお門違いな恨みが向いてるのをどうにかしてくれよ」

「それに関しては、僕からいくら言っても聞いてくれないんだ。本当にすまないね。けど君なら問題ないだろう? もう少しでいいから我慢して欲しいな。僕も説得を続けてみるから」

「わかった、期待しないで待ってるよ」


 まったく、こいつも変わらないな。


「ありがとう。――ところでなんだけど、その子はどうしたんだい? 初めて見るけれど」

「昨日、ちょっとした事情から助けて、預かることになった子。名前は――『わたし、シャルティアス!』――だ」

「シャルティアス君か。僕はリージア=クロニエル。ギルドの総帥を務めていて、リオンとは長いこと付き合わせてもらっているんだ。よろしくね」

「ちなみに、ミリアも同じ頃からの付き合いだ」

「おや、教会にはもう行っていたんだね」

「助けたって言ったろ? 後は察してくれ」

「なるほど、ね。色々と訳ありみたいだ、何かあったらギルドを頼るといい。僕の権限で、出来る限りの支援をしよう」

「あり、がと?」


 考えてた流れとは違うけど、結局予定通りに事が運んだな。

 リージアのおかげでギルドの全員が俺の事を理不尽に恨んでるわけじゃないけど、それでも少なからずいるせいでどうにも話を通し難いのが難点ではあるけど。

 本当に面倒なことしやがって。


「そういえば、リオン。さっきいってたけど、どうしてうらまれてるの?」

「ん? あー……隠すつもりだったのに、普通に話してしまってたか。話せば簡単な事なんだけど、国王が関係してるからな……」


 これ、シャルティアスに話してもいい事なのか、ちょっと悩む。関係してる奴があれなだけに、なんとも教え難い。


「話しても問題ないんじゃないかな? リオンはね、国王の嘘のせいで今の状況になってるんだよ」

「うそ? うそはだめだよ?」

「そうだね、僕もそう思う。それで、どんな嘘かっていうと――『俺が国王に、ギルドが動けないように酷い重税をかけるように頼んでいる。なんて嘘を言いふらしてるんだよ』――そうだね、リオンの言う通り。君がそんなことするはずもないのにね。けど、最近の嫌がらせはどんどんと酷くなってる。何とかして回避してはいるけど、どうにか出来ないかな」

「悪いな。俺も何度か止めようとは思ったんだけど、どうにもならないんだ」

「大丈夫、全部わかっているから。君がどうにも出来ない理由も」


 わかっていてそんなことを言うか、相変わらずキツい事をする。

 ……いや、違うか。思わず口について出るほど、今の状況は厳しいってことなんだろう。

 どうにかならないかな、本当に。


「リオン、そんなことしない。やさしいもん」

「よく知っているよ。僕も、何度も甘えてしまっていたから」


 あんまり、こんな場所でそんな話をしないでほしい。正直恥ずかしい。

 というか、リージアの愚痴吐き相手って俺だけだったのか。てっきり、ミリア辺りにも愚痴ってるもんだと思ってたんだけど。

 でもいい加減、次に行かないと遅くなるな。


「この話はもういいだろ? 用事も終わったし、そろそろ次に向かおうか」

「おや、もう行くのかい? たまにはゆっくりとしていってもいいんじゃないかなって、僕としては思うんだけれど」

「悪いけど、後でライオスがやってもらいたい事があるらしくてさ、そこまで長居出来ないんだよ。それに今は、この街を案内してる途中でもあるし」

「そっか、それなら仕方ないね。けど、何かあったら遠慮しないで頼って。僕も力になるから。シャルティアス君もだよ?」

「うんっ。またね、リージア!」


 さっきから思ってたけど、シャルティアスが懐くのが思ったより早い。

 確かにリージアはかなり話しやすいし、気のいい奴だけど……それにしたって早いよな。フィオラの時でさえ最初はちょっと怖がってたんだから。

 何か基準でもあるのか、それとも別の何かがあるのか。わからないな。


「うん、また。――リオンも、だからね」

「わかってるよ。お前も少しは信じろよ、心配性」

「君には言われたくないかな。じゃあ、また」

「ああ、またな」


 最後に軽口を叩き合いながら、ギルド本部から外へと出ていく。次来るときは、もうちょっと入りやすくなってるといいんだけど。

 ま、あいつならきっと、どうにかしてくれるさ。



 じゃあ、案内の続きといこうか。




・・・・・・



 リオンとシャルティアスがギルド本部を離れた後、その場は静寂に包まれていた。

 ……いや、正確に言えばそれは違うのだろう。

 何故なら、その静寂を作り出しているのはついさっきまで立ち去った二人と楽し気に会話していたギルド総帥、リージア=クロニエルその人だったのだから。


「さて、君たち。さっきまでの光景を見ていて、何か言いたい事は? 特に最初、リオンに痛い目に遭わされた君とか」

「え、俺……ですか」

「そ、君」


 リージアの問いかける声の調子は酷く気楽なもののようではあるが、その実、かなりの圧が込められている事に気付かないほどの無能は今、このギルド本部に一人もいない。

 特に今、それを向けられているただ一人の男は、声に乗せられている重圧だけで押し潰されそうな錯覚を覚えそうなに恐怖を感じていた。


「俺としては、その……噂のような、悪い奴では無いと、思いました」

「そうだね。世間での評価はかなり高いし、一部では理想の勇者だとか言われてる。けれど、君たちが彼を嫌っていたのは何でだったかな?」


 彼が今度は、周囲にいる全員に問いかける。

 それに答えたのは、カウンターの内側に居た女性だった。


「私たちの報酬の半分程度を国に治めろという無茶を、勇者名義で言われているからですね。それにしては、ギルド以外ではそんな話を聞かないのでおかしいとはずっと思っていましたけれど」

「正解、流石に受付は優秀だね。そう、報酬の半分を国に渡してしまったら、僕たち冒険者は先立たないからこそ対処をしてきた。けれど君たちは、僕の説得にもまともに応じずに国王の掌の上で転がされていたんだよ。気付いていたかな?」

「いえ、それは……」

「だろうね、僕もリオンから聞くまで確信が持てなかったくらいだ。本当に油断ならない相手だよ、あの国王は」


 彼はそう言って、自嘲するように笑いながら国王の目的を話し出した。

 リオン曰く、ギルドに対し勇者の評価を下げさせるように仕向け、対立させるようにして民衆を煽る。そして最終的には、勇者に敵対する組織としてギルドそのものを完全に滅ぼすつもりだったのだと。自らの意のままにならない力を自由にさせないためだけに。

 そして、その話をした次の瞬間に彼は、今まで放っていた圧を霧散させて歩き出し、ある一つの確信を持ったまま言葉を続けた。


「でも君たちは、もう大丈夫だろう? 本当の彼の姿をちゃんと見たんだ、次からは騙されることは無いさ」


 そう言って、リージアは上階にある執務室へと戻って行った。


「あ、そうそう。これはたぶんだけど、君がもし間違ってもシャルティアス君を傷つけていたら……その程度では済まなかったと思うよ? 彼、敵には容赦ないから」


 最後に一つ、そんな爆弾を落としながらではあったが。



 その後、ギルドの組合員がシャルティアスに対して、過剰なまでに注意を払いながら優しく接するようになったのは……言うまでもない。



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