初めの一歩
・・・一瞬の浮遊感と共に、俺は目を覚ました・・
「う~ん・・・もう、朝か。・・っ!?・・・ここ・・どこ?・・」
目の前には・・・金色に煌めく小麦畑が広がっていた。
(フランスにでも旅行に来ていただろうか・・・まあ・・そんな金は無いか・・)
(まるでファンタジー世界にでも居るかのような・・・・・・・まるで?・・何か、大事なことを忘れているような・・・・あ!)
「あああああああ!あ、あの悪魔かあああああああ!! 」
「はい、悪魔ですが、何か問題でもございましたか? ここは我が主の城から東に数キロの所にある農村です。この世界に慣れていただくために、少し城から離れた所に転移させて頂きました」
(え?・・・あれは夢じゃなかったのか・・・・・・)
「いえ、夢ですよ。夢の中で契約しましたよね」
(心の中を読むんじゃねえ・・・夢の中での契約なんて無効だ無効)
「いえいえ、それ程でもないですよ。いくら何でも、天才だなんて照れますよ」
「お前・・・全く心を読めてねえじゃねえかあああああ! 」
俺は全力で怒りのアッパーカットをベリアルに向かって放った。
「がっ・・・」
悪魔はふわりと宙を舞うと、すぐにドサリと地面に落ち、ムクリと立ち上がって。
「イタタ・・・ひどいなあ。暴力はいけませんよ、悪魔ですか?暴力はーんーたーいー! 」
「悪魔はお前だろ。それより、帰れんのか俺は?帰せんのかお前は? 」
すると、悪魔は吹っ切れたように笑った。
「フハハハハハ!それは無理な相談というやつだ!何せ、我が輩とて主には逆らえないのですから! 」
そう、大悪魔にだって逆らえない相手がいるのだ。だって、彼の主とは魔王なのだから。
「おい!?嘘だろ!じゃあ、こ、このまま異世界で暮らすしかないっていうのか?ふざけん・・・」
(いや、待てよ・・・・・このまま異世界で暮らすなら、もしかして・・・強い異能を手に入れてハーレムライフを送ったり、お姫様を救って勇者になったりできるのか・・・意外と楽しめそうじゃないか・・・・まずは、王様に会わないとな・・・・・)
「な、なあ。とりあえず、そのお前の主とやらに会わせてくれないか?まずはこの世界の事を知らないといけないしな」
すると、ベリアルは少し驚いたのか、口をポカンと開けて呟いた。
「この1カットの中で何があなたを心変わりさせたのですか・・・・」
「・・・カット? 」
「いえ、何でも。それよりも、勿論、我が主の所には君を連れていくとも。ですが、少々刺激が強いので、先程も言った通り、この世界に慣れてもらうためにも少し離れたこの村から移動しましょう」
魔王城の付近は人の亡骸が散乱し、毒の沼や、怪しい洞窟、わざとらしく設置された宝箱らしきモノ等々・・・・・で飾り付けられているという。
なんでも、魔王が形から入るタイプで、魔王城と名乗るからには禍々しい外観や、勇者一行のための悪魔的なお出迎えも重要だ、という親切心から造られたとか・・・・・・・
だが、ただの人間からすれば、恐怖以外の何でもない。当然、この少年も例外でもない。
「刺激が強いって・・・・どゆこと? 」
「・・・・そんなことよりも、少し散歩がてら村を歩きませんか? 」
「・・・そんなことより、早くその翼をしまってくれないか? 」
(正直、目の前でパタパタと動かされると気が散るんだよなあ。それに本物の悪魔の翼って結構グロテスクなんだよ)
「ああ、これはこれは失礼しました。では・・・」
悪魔はそう言うと、マントを翻すように、ファサリとその場で優雅をターンすると気付かぬ間に翼は消えていた。
「では、行きましょうか」
「・・・お、おう」
そうして俺達は小麦畑を通り過ぎ、小さな村の中に入っていった。
~追記~
どうも、我の名はベリアル。
異世界で悪魔をやっている者だ。
今回は作者の怠慢で全く登場する気配のない本来の主人公の話をするとしよう。
なぜ我が輩が作者の原稿に割り込み、執筆できるのか? とは愚問であろう。
「だって我が輩悪魔だから!! 愚鈍な作者に気付かれずに加筆するくらいならば、朝飯前なのだ!フハハハハハ!フハハハハハ! 」
さて一部だけ公開するとしようか・・・・
20XX年ー・・・にて・・
俺の名はマイケル=アンダーソン=小西。
日本に住むごく普通の高校生だ。
俺は今、夏休みを利用して幼馴染のジェシカと一緒に2週間ほど海に遊びに来ていた。
もう8日目だが、相変わらずサーファー達の焦げた背中は新鮮だった。
「Hi! Michael! Will you buy some cups of icecream for me ? 」
やれやれ、相変わらず我が儘だな。
「All right ! 何味? 」
するとジェシカは少し悩んだ末に
「umm...strawberry and passion fruits .」
「おいおい、二つも食べて大丈夫か? 」
すると、ジェシカは少し顔を赤らめて。
「・・・That's your one ・・アンタ、パッションフルーツ好きでしょ・・・」
・・・可愛いな・・これは卑怯ってもんだ。
「Ok. Please wait a moment ! すぐに買ってくるよ、my princess」
少年はビーチを出て近くのアイス屋を目指して走って行った・・・・
今日も美しい夕日がワイキキの海に溶けていく・・・・
と、まあ邪魔をするのも野暮かなあと思い断腸の思いでシンジ君に代理を務めてもらおうとしたってわけなのだ。
「ぶっちゃけ、ハワイまで行くのが面倒臭かっただけだけどねええ!!! フハハハハハ!」
「もしも、この話をもっと詳しく知りたいのならば、単行本でも買ってもらおうか」
「魔王書房にて絶賛発売中!! 」
まあ、そろそろ我が輩は疲れたので、終わりにしよう。
「作者には色々言ったが、『ちょっと執筆したかった』が、本音だから気にすることはないぞ!」
「まあ、嘘は何一つ言っていないがなあ!! フハハハハハ!では、さらばっ!! 」
※最近、悪魔を自称する者から詐欺被害に遭ったという人が激増しています。特に、「魔王書房出版の本を買わされそうになった」というケースが続出しています。もしも、被害に遭われた方がいればご一報ください。現在、情報を集めています。