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魔王軍、財政難と闘う  作者: 工場長代理
パン騒動編
6/19

パンと悪魔と

 俺達はギルドに、一つの依頼(クエスト)を申請したが、無事に通った。

 内容は言わずと知れているが、詳細はギルドの掲示板を見てほしい。


~依頼掲示板~

 クエスト・・・「硬いパン作戦」

 

 受注詳細・・・受付は本日昼まで。(作戦が始まり次第、締め切りとする。)

        なお、受注料は150Gとする。


 依頼主 ・・・パン売りのシンジ、我らがアイドル、マリウスちゃん!

 

 依頼内容・・・本日、昼前に広場の荷車から商品の全てが盗まれた。

        これを盗んだ野盗を捕まえてほしい。

        詳しい話はマリウスちゃん、もしくはシンジから聞くこと。


 報酬内容・・・ギルドから働きに応じた金額をお支払いします。

        (最大1500G)

 追加報酬・・・盗まれてしまった、我らがアイドル、マリウスちゃん特製パンが配分されます!!



 何だこれ!?俺は、広場にいた冒険者らに、現状説明をして、引き受けてくれた人達とギルドに戻ってきていたが、ツッコミたいところが、沢山ある。


 まず最初に、マリウスって知らぬ間に、アイドルになってたのか・・・・


 どうりで、追加報酬のパンは正確に言うと俺でも、マリウスでもなく、かつて魔王に(さら)われた人間が魔王城の近くのパン工房に通い毎朝、焼いているのだが、マリウスが焼いたことになっている。これは、冒険者のやる気を出させるためなのか、依頼書を書いたであろう、どこぞの受付嬢の願望なのか。

 

 勘違いの無いように言うと、先程の人々は自ら魔王城近くに残っているわけで、決して強制労働はさせていない。魔王軍はホワイトカラーであり、強制労働などを強いることはないのだ。ホワイトカラーの魔王もどうかとは思ったが、やはり就職(?)はこれが初めての俺からすると、初の勤め先がブラックではなくて本当に嬉しい。


 他にも、報酬の下限は記されていないから、0Gの人がいても文句が言えないのでは? とか、それをマリウスの特製パンとやらで誤魔化す気では? などあったが、まあいいか。


 さて、それなりに人数も集まってきたことだし、そろそろ作戦決行といきますか。


 俺は集まっている冒険者達に向かって作戦概要を説明した。犯人は商人に扮している事を。犯人の所持している赤い魔法のポーチの事を。ゴブリンの事件の犯人と同一人物である事を。

 なにより、ゴブリンの事件以来、村の検問所で取り締まりをしているため、犯人はまだ村の中にいる可能性が高いという事を彼らに告げて、遂に作戦は決行された。


「よおおおし!! 硬いパン作戦、開始いいい!!! なんとしても、コソ泥を捕まえるぞおおお!! 」


「おおおおー!!!」

 

 こうして、硬いパン作戦は決行された。

 

 皆が頑張って捜索している中、俺とマリウスはギルドの中にある酒場で少し(あぶ)った燻製チーズとラムジャーキーを果実水と共に摘まんで、談笑していた。

 特にラムジャーキーは、甘辛いソースで味付けされているため、食べる前から鼻腔をくすぐる。

 チーズには葡萄(ぶどう)のウッドチップを使い燻製(スモーク)しているが、冒険者達からも、酒が進むと、評判が良い。これはラムジャーキーと一緒に食べることをオススメする。そうすることで、濃厚なチーズと甘辛いジャーキーがスモーキーな香りによって調和して最高に美味しくなるのだ。

 ()めの果実水も柑橘類独特の爽やかさが後味をスッキリとさせる。

 

 ちなみに、このチーズや、果実水に使われている柑橘類の果実は全てグラープ半島で採れたものだ。グラープ半島産、つまりは魔王軍が出荷しているものなのだ。

 

 もう魔王でも何でもないような気はするだろうが、気にしないでほしい。元々、魔王軍がとても公言できないような方法でしか、赤字解消をしようとしなかったので、魔王軍と友好関係にある村の果樹園や牧場に協力してもらい、真っ当な交易をするように俺が、魔王様に伺いを立てて、俺の監督の下で生産しているのである。

 

 それにしても、昨日まで笑い話だった馬鹿げた作戦が、まさか実行されてしまうとは昨日の自分ならば考えもしなかっただろう。

「まさか本当にパンを盗むとはな。今頃、ギルドの皆は上手くやっているかな? 」


「さあな、まあ村の中だけだし、上手くやってるんじゃねえか。 それよりも、このチーズめっちゃ美味しいな!! よくもまあ、こんな美味い物を考えたもんだな!! 」


「そりゃどうも。おいおい、口元からチーズ垂れてるぞ」

笑いながら口元を拭ってやると照れたのか、少し頬を赤らめた。


 その時、背後から凄まじい怖気を感じた。

 

 恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこには鬼がいた。


 いや、よく見ると受付のお姉さんだ。確か、ゴブリン騒動の時の人だ。

 

 そういえば、彼女はマリウスファンの中でも、最も過激で、手を出そうとする者を、撃退するが、自分は

普段、手を出さないことから、“修羅”とまで称されていると、ここに来る途中、冒険者の一人から聞いた。


 嫌だな~、まだ俺の事を睨んでる・・・・俺も後でボコボコにされるのかなあ・・・・


 そうして、過ごしていると、冒険者達が一人の男を縄で縛り、ギルドに連れてきた。彼らの後に、重そうな(かばん)のようなものを、台車に乗せて運んできた。間違いなくアレは、マリウスの言っていたマジックアイテムに違いない。確かに赤を基調としている辺り、条件に一致している。

「あの鞄で間違いないか? 」


「ああ、確かにアレは博士(ポンコツ)が捨てたが失敗作(ポンコツ)に間違いないぜ」


 俺達とゴブリン、受付嬢の前に犯人の男が連れてこられた。男は後悔と絶望で、押し潰されそうになっているように見えた。

 

 男は少し痩せ気味で、健康とは言い難い状態にあった。


 魔法のポーチの中身を確認すると、案の定、大量のパンと大きな金鉱の塊が見つかった。葡萄酒は何故か、数本なくなっていた。話を聞けば、酒飲みの友人に売ったという。それはそうと、一番、気になっている事を聞くことにする。


「何故、パンを盗んだのですか? 」

 本当に意味が分からなかったので聞いてしまった。すると、男は急にキリっとして、自信満々で答えてきた。

「ふっ、貴様らは知らないだろうが、今度シュトラエル王国で行われるパン大会で優勝して、姫さんに認められれば、大金が貰えるんだよ! そこで、このパンを大会に出して優勝するんだよ!! そうすりゃ、一生遊んで暮らせるぜえい」


 イラッ、その瞬間、俺の中のリミッターが解除された。

 さあ、硬いパンを装備しようか・・・・

「ふんっ!!・・・」

 全力で硬いパンを上段から振り下ろした。

「知るか、ボケええええええ!!! 」


ドスッ! 男は一瞬、ビクリとするとそのまま倒れた。どうやら、気絶しているようだ。

 ふう、スッキリした! とても爽やかな気分になりました。


 だが・・おやおや?・・皆さん・・もしかして・・引いていらっしゃる?・・

 あれ?・・あの修羅のお姉さんも引きつっていらっしゃる。

「お前さんも・・鬼だな」

 少し引き気味にマリウスまでもが言ってくる・・お前、悪魔だろ・・ああ、日本にいる、お父さん、お母さん、俺・・・魔王軍で元気にやっていけそうです。


 その後、男は一週間の牢屋行きが決定したそうだ。

 

 冒険者の中には、報酬がパン一個だけで報酬金を得られなかった者もいるそうだが、文句は一切出なかったそうだ。これもアイドル効果なのだろうか・・・


 俺達は事件の後、一つの取引を交わした。

 ゴブリン達の所有する金鉱山のいくつかの採掘権を魔王軍に譲渡する代わりに、ゴブリン達が造ろうとしている街の建設に協力することだ。

 

 まあ、俺達は建設にはゴーレムを何体か借りて向かわせるつもりだ。ゴブリンからすれば、街の建設にゴーレムが投入されることのほうが、ありがたいのだ。こちらは、人件費も、食費も雑費もかけずに宝の山が手に入るのだから、得しかない。

「よくもまあ、こんな事を思い付くもんだ。きっと、思い付いた奴は悪魔だな」

 と悪魔からも言われてしまう始末だ。


 最初に魔王軍に迎え入れられた時は、才能とかではなく、ただ目に付いたという、理由で召喚されてしまったが、俺には魔王軍に上手く溶け込める自信しかない。


 と、まあ事件そのものよりも、その後の俺の行動から硬いパンが一時期、泥棒退治のための装備として、主婦たちの間で重宝された事に関して一躍有名になったのであった。


 そして、俺達は魔王城へと戻り、魔王様に事の次第を伝えた。

「・・・以上が私達の経過報告になります」

 やけに仰々しい態度のマリウスが淡々と事実を述べていく。まるで、別人のようだった。

「・・・・・ほう。つまり、そなたらはパンで金山をいくつか買ってきたと申すか・・・」

 急に上機嫌になったと思えば

「フハハハハハ! よいぞ! やはり、そなたを日本から連れてきたのは正解じゃったか! 」

 う~ん・・・ただ、威厳の欠片もねえな・・・何を言っているんだろうか・・この子は・・・

「なっ!? 貴様! 人間の分際で我の事を子供と申すか!! 見た目は確かに、か弱いが、貴様よりも長い年月を生きておるのだぞっ!! 」

 なっ!? 心を読めるのか・・・・

「これは失礼しました、魔王様」

 まだ煮え切らない様子だったが

「ふんっ、まあよい。それよりも、今後の予定を聞かせよ、マリウス!」

 と、次の話題に切り替えた。


「はい。次はシュトラエル王国で催される、国王主催のパンの大会に出場するつもりです。そのついでに、王国での交易に関する情報収集、カモ探しなどもしてこようかと」

 やはり、マリウスは魔王様の前では、大人しい様だ。

「そうか・・・お前たちはもう下がってよい」

「「では、失礼します」」

 

 やっと、長い一日が終わるのか・・・

「じゃあ、おやすみマリウス」

「おう、おやすみ~。ふい~もう限界だぜ。シンジ~部屋まで運んでくれよ~」

 子供かっ!!という間もなく、バッタリ倒れながら眠りやがった。


「はあ、全く仕方が奴だな。ほれ、ベッドで寝ろ~」


 俺はコイツを運んで寝かせた後、やっと眠ることができた・・・・・・・









 

 

 






遂に2章完結しました!割り込みばかりで申し訳ございませんでした。_(._.)_


次回・・3章突入!!何故、俺がこの世界に来てしまったのか? その謎が今、暴かれる!!

    

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