パンと葡萄酒
割り込みで書かせていただきました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。_(._.)_
この世界には一つの巨大な大陸であるアトランティカ大陸のみで出来ている。魔王城は大陸の西端に突き出ているグラープ半島に位置しており、半島を沿うようにして北東に進むと亜人達が部族ごとに生活している広大なエリアが存在し、人々は亜人地区と呼んでいる。
また、亜人地区の東側にはシュトラエル王国が存在している。王国の南方には海運で栄えているフリーセンという都市がある。さらに、王国の北東に位置する大森林にはエルフの国が存在しているという噂も聞く。どうやら、もっと東まで大陸は続いているらしいが、詳しくはよく分からない。
亜人地区とシュトラエル王国の間には標高2000メートル程のウォール山脈があり、その名の通り亜人地区とシュトラエル王国を隔てる自然の壁となっている。
そして今、俺たちがいるナタイ村はグラープ半島の付け根の部分に位置しており、亜人地区と隣接することから、一部の亜人達は生活していたり、交易にやってくる。
俺たち財務部の仕事は、グラープ半島の特産品や武具を売ることだ。表向きは、であるが。
そういうわけで今日も日が暮れるまで真っ当に、商売をする。
俺は昼間になると、ナタイ村の広場でパンと葡萄酒を売る。
「パンと葡萄酒はいらないか~い」
声を張り上げて言うと、お客はいつもの如く沢山集まってくる。
「パン三つくれ~」「こっちはパン二つと葡萄酒一杯」「パン四つくださる?」......
いつもの事だが一瞬で売り切れてしまった。
自慢ではあるが、俺達の売っているパンは格別だ。この世界の普通のパンはすごく硬い。初めて食べた時には、歯が折れるかと思った。実は俺は料理は得意で、自炊もしていたのだが、一時期、俺はクロワッサンを一から作ることに熱中していた。
俺はその知識を生かして、魔王軍のサイエンティスト集団である薬品開発部と協力して最高のクロワッサンを生み出した。
この世界では考えられない、サクッ、ふわっとしたパンに人々はご満悦のようで何よりだ。
もちろん、焼き立てであるほうがより美味しいので、魔王様に店舗出店の許可を取りに行くのも悪くはないと思っている。
その新食感のパンを、安すぎず高すぎない値段で売ることによって、パンだけでもそれなりに稼いでいるつもりだ。
「あのー」
ただ、亜人達が交易にくる時はそれ以外にも、亜人に合わせた武具を、金や銀と物々交換する。一見、悪質に見えてしまうが、彼らからしたら何の価値も見出せない石ころと、危険から身を守るための武具ならば、武具のほうに価値を見出し、我々は加工次第で貴族連中に高値で売ることのできる金や銀に、価値を見出せるという相互間での利益を見出せるのだ。なんて素晴らしいのだろう。
俺が物を売っている間、マリウスはというと村の冒険者ギルドに行って、いい金になる依頼を探したり、近辺の情報収集をしている。
...アイツ、ちゃんとやってるだろうか
そんな事を考えていると急に...
「あのー! ちょっといいですか? 」
急に耳元で大声が聞こえた。
「はっ、はい!? 」
驚きのあまり、声が上擦ってしまった。
「あの、パンはもう売り切れてしまいましたか? 」
全然気付かなかったけど、この娘は確か...
「すいません。今日の分はもう...」
少女は残念そうに溜息をつくと
「そうですか...」と呟いた。
そうだ! 確かこの娘は、アリエルという名だったか。なんでも、この村の村長の一人娘だとか。
「ここのパンは、とても美味しいと評判なので、食べてみたいのですが...皆さん、すごい勢いで並ばれるので、いつも売り切れちゃうんですよ」
困った顔で微笑んでいた。どうやら、彼女は少し奥手なのだろう。謙虚さは美徳だと思っているが、この世界では仇となるらしい。
そんな事を考えていると話題が急に変わり、
「それはそうと、気を付けてくださいね。なんでも最近、野盗に荷物を盗まれることが多発しているみたいですよ」
確かに最近、野盗に荷車が襲われたという話はよく聞くようになった。
「でも、さすがにパンを盗みに来る輩はいないでしょう」
「ふふっ、確かにそうですね」
(むしろ、そんな酔狂な野盗がいるのなら一度くらいなら、会ってみたい。そうだなぁ、パンを百個くらい盗ませて“パンスレイヤー”の称号を与えよう。そのうえで、この世界の“とても硬いパン”で討伐しよう!! )
我ながら名案を思い付いたと感慨に浸っていると、急に背中が重くなった。
「帰ったぜ! 相棒! 」と、いつの間にか背中に飛び乗っていたマリウスが声をかけてきた。
「お、おう。おかえり。そっちは何か収穫はあったのか? 」
と聞くと待ってましたと言わんばかりに相棒はニヤリと笑った。
「あるぜ~、そんなに聞きたいかい? 」と、言いたそうにして聞いてくる。
子供か、と思いながら分かり切った答えを返した。
「ああ、聞きたいです。だから、もったいぶらずに言ってくれ」
すると相棒は背中から飛び降りて、スタリ、と華麗に着地して言い放つ。
「なんと!! 近々シュトラエル王国で、パン祭りが催されるみたいなんだよ! 」
「は? パン祭り?」
つい聞き返してしまったが、パン祭りと儲け話と何の関係があるのだろうか?
すると、マリウスは聞き返すよりも早くに答えを教えてくれた。
「何の関係があるのかって? 実はな、この大会はな....」
ー5分後ー
「...と、いうわけだ」
要約すると、なんでも王国の姫様が「こんな硬くて美味しくないパンは嫌!! 」と言ったことが、事の発端らしい。そこで王様が、パン祭りを開催して、その中で優勝した者のパンを王女が食べて、その舌をうならせる事が出来れば、大金が貰える上に王宮の厨房に雇い入れてくれる、との話だ。
「確かに、これはアリだな。よし! 行くか? 」
答えは分かりきっていたが、一応、相棒に確認する。
「おうともよ!! 」と予想通りの答えが返ってきた。
ニコニコしながら明るい返事をするマリウスを見ていると自然と笑みがこぼれてしまう。
その笑顔を見て、最初コッチの世界に来たばかりの頃を思い出していた。初めは周りに化け物ばっかりの世界に放り出されて、不安だったのだ。当然だとは思うが。そんなとき、心の支えだったのがコイツの明るい笑顔だったんだよなあ。
まあ、今は悪魔たちとも仲良くやれている...と思う。
そんな事を考えながらマリウスと他愛ない話をしながら帰路に就き、今日という一日を終えた。
その時の俺達には知る由もなかった。明日、忘れなれない事件が待ち受けていることを...




