羞恥プレイの先に
俺は牢屋から解放されて、与えられた部屋で気持ちよく寝ようとしていたのだ。
だが、幸せなひと時は、すぐに終わりを迎え、玉座の間に連れてこられて魔王様、ベリアル、マリウス
・・・と、もう一人・・・魔王様の後ろで、表情一つ変えずに立っている初老の男性。・・恐らくは魔王様の世話係の執事なのだろう。
その4人の前で魔王様が俺の日記を朗読していた。
「え~と、何々・・・ー投獄生活1日目ー 俺は、投獄されてすぐにトイレに籠こもった。・・・・4,5時間程・・・・・ すると、看守のおじさんが・・・・・・・・・・・・・・・」
(・・・・・これ、なんて・・羞恥プレイですか・・・・・やめてくれ・・・読まないで・・)
ベリアルなんか、今にも吹き出しそうなくらいに、笑いを堪えているし・・・・・
「・・・・・プッ」
(遂にちょっと笑いやがったな・・・・あいつは、あとでボコボコにしよう・・・)
マリウスも何だか微妙な顔をしている。
だが、魔王様はそのようなことは、気にも留めずに朗読を続けていた。
「・・・・・・・・久しぶりの・・・・・藁わらではない、きちんとしたベッドだ!!・・・・
ここまでのようだが・・・・・・・」
他の奴らも急に真顔になって黙りこくってしまった。
「「「・・・・・・」」」
「・・・・・・・」
(え・・・何これ・・・・・せめて書いた奴が目の前にいるんだし・・・・・反応しろよ・・・)
すると、ベリアルが急に話し始めた。
「魔王様・・・これを聞く限り、少年からは何の反省も感じないというか・・・ほとんど、昼寝とトイレの話しかしていないのですが・・・・・」
マリウスも、空気を読まずに。
「まあ、確かに一緒に昼寝してた時も、それはもう気持ちよく寝てたぞ! シンジと少し話もしたけど、関係ない話ばかりしてたな。私も気持ちよく寝れたしな」
快活なのは良いことだが、マリウスは少し小悪魔的な一面もあるみたいだ。
まあ、悪魔だし・・・・・・
流石に魔王様も一週間をただ無駄に浪費したという事に気が付いたのであろう。
「・・・・・ま、まあ・・・そんな事よりも、お主をこの世界に連れてきた理由を話さねばな・・・」
(逃げたな・・・・・魔王様・・・今逃げたな・・・)
魔王様は少し顔を赤らめつつも勝手に話を進め始めた。
「コホン。お主をなぜ、魔王城に呼ぶことになったのかを話すと長くなるのだが、実は・・・・」
余が魔王になる前に魔王だった男がいた。
その者は、細かくはわからんが、魔族である母と結婚して余が生まれたのだが・・・・・
問題はその男が人間だった事にあった。
父は自分が人間であることを、一部を除く魔族たちから隠しながら魔王として君臨していた。
まあ、よほど煩悩で頭がいっぱいなのか、瘴気はかなり出ていたので人間と疑われはしなかったが・・・
そんな両親の間から人と魔族のハーフとして生まれた余が後の魔王になるわけだが・・・・
父が魔王である頃に、王国との大きな戦争が勃発した。戦争にはかなりの人員や資金が投入されて、最初は魔王軍が優勢だったのだが、王国が異世界からの勇者とやらを召喚してから一気に魔王軍の被害が拡大した。
その後、勇者が魔王城に乗り込んできて、魔王を討ち取って世界に平和が訪れた・・・・・
というのが、世間一般で言われているが、真実は少し違う。
魔王城に乗り込んできた勇者は、魔王軍が支配するグラープ半島一帯を魔王軍の領地と認める事、魔族と人との間の壁を取り払えるように王に訴える事、などなどを条件に戦争の中断を求めてきたのだ。
勇者は元々、家に引きこもってばかりいたニートが不慮の事故で亡くなって、転生したとかなんとか・・
そんな勇者は「戦いたくない、自由に美少女たちと冒険がしたいんだ!! 」と、強くお願いしてきたので魔王は死んだふりをして、娘に魔王の座を譲り、隠居生活を送り始めたのだ。
そして、余が魔王になったころに残った物は・・・・・戦争による莫大な赤字だけだった・・・・
「・・・・・と、まあ、そういう事だ。そこで、お主には魔王軍の財政事情を、何とかして建て直して欲しいというわけだ。わかったら、今すぐ金を集めてこい!! 」
魔王様の無茶苦茶な発言に、戸惑いはあったが、自分の置かれている状況を理解はしているつもりなので、今さら逆らう気は起きなかった。
(でも・・・・一つだけ確認せねばならない事がある・・・・)
「魔王様、一つ質問してもいいですか? 」
「なんじゃ?まあ、わざわざ異世界から来て、協力してくれるというのだから・・・構わんぞ。聞きたい事があるなら、申してみよ」
・・・・・トイレはお断りじゃがの。と、最後にボソッと呟いた事は、自業自得なので気にしない。
「・・・・・いくらくらい必要なんですか? 」
すると、魔王様は痛い所を突かれたとばかりに、露骨に嫌な顔をした。
「それは・・・・・・・その、50兆Gじゃ・・・・・」
俺は一瞬、魔王様の言ったことが理解できなかった。
「え~と・・・・今、なんて? 」
「だから・・・・50兆だと・・・言っておろう」
「ま、まさか・・・・・一人で50兆稼げって言ってるんですか?」
(50兆ってパン何個買えるんだよ?・・・・・・ここに来る前に寄った村では、確か一個100Gだったから・・・・・5000億・・・・・・ムリだ・・・)
流石に、愚問だったのだろう・・・・魔王様はあきれて。
「お主は馬鹿なのか? そんな事あるわけがないじゃろう!! もちろん、そのために新しい部門を設けたのだ!! その名も・・・・“魔王軍財務部”だ!!」
(そのまんまじゃ・・・・・ネーミングセンス・・・・)
「お主が知る者も財務部には所属しておるから安心せい。例えば、そこにおる二人も財務部に勤めておるぞ。他にも、メンバーは各地に存在していて、財務部によるネットワークも十分に敷けておる! 」
(え?・・・・・・この二人が同僚だって?・・・・・マリウスは良いとして、ベリアルまで所属しているとは・・・・・)
するとベリアルは、わざとらしそうな泣き顔をして皮肉のように。
「悲しいですねえ・・・私は、あなたと働けると思って楽しみにしていたのに~」
「「“絶対そんな事は思ってない”だろ」よな」
「「・・・・・」」
「気が合うな。マリウス」
「そうだな! シンジ! 」
どうやら、俺とマリウスは中々に気が合うみたいだ。
それを見ていた魔王様は。
「・・・・・・決めたぞ」
「「何を?」」
俺とマリウスは、またもや同じタイミングで聞いてしまった。
「お主らは気が合う様だし、二人でタッグを組んで行動するように!!明日からすぐに仕事だ!!シンジ、お前は城を見て回ったらすぐに寝ろ!!寝坊は許さんゾ!! 」
そうして、俺達はタッグを組んで財務部で働くことになった。
どうも。今回も蚊帳の外のベリアルです。
流石に、そろそろ私が主人公の外伝でも書いて欲しいものですねえ・・・・・
まあ、せめて次回予告くらいはしますかね。
次回予告・・・遂に!! 謎の執事とシンジが邂逅する!!
その時、世界の断裂が彼らを襲う!!
※嘘です(何言ってんだこいつ・・・)