不敬
どうも・・・・・あの・・・誰か俺を助けてください・・・・・
俺は・・・・・魔王を・・魔物を・・なめていた。
奴らは・・・とにかく、ヤバイ・・・関わるべきじゃなかった・・・・・
彼らを・・・悪魔を馬鹿にしていた俺は・・・・・愚かだった・・・
これから・・・・俺は・・・この世界で、人として・・・生きる事が出来るのだろうか・・・
俺の生活が狂ってしまったのは・・・・ああ、そうか・・・あの時から既に、狂っていたのか・・・
事の発端は、長話の村長の家を出て、村を離れた頃にまで遡る。
俺達は、村を出て馬車が待っている場所まで歩いていた。
「なあ、まだ馬車が待っている所に着かないのか? もうかなり歩いたぞ・・・」
「もう少しのご辛抱を。それに、まだ全然歩いていませんよ」
確かに、普通の道を歩くのなら全然と言えるだろう。だが、俺達が歩いている道はろくに整備されていないのだから村長から貰ったサンダルでは、すぐに躓いてしまう。
そうこうしていると、向こうで手を振る人がい・・・・・人がいた・・・首は取れていたが。
(あれ・・・・あの御者って・・・もしかして、首無し騎士か?・・・・)
「なあ、あの御者って?・・・・・」
「ええ。彼はデュラハンですね。彼はただの運送業者で、戦闘力は皆無なので心配ありませんよ」
(戦闘力が皆無の首無し騎士って・・・・騎士でも何でもない・・・ただの、首を落とした人なのでは・・・・)
俺はその時に気付くべきだった・・・・異変はもう既に起きているのだと・・・・・
「ベリアル様、オ待チシテオリマシタ。ドウゾ、オ乗リクダサイ」
すごく錆びついた声が聞こえてきた。この不快な声の正体は言うまでもなく、その首無し騎士だった。
俺は、ベリアルに続き首無し馬が繋がれた、青白い靄を振りまく不気味な馬車に乗ろうとした時に少し寒気のような何かを感じてはいたのだ。
「早く乗ってください。そんな遠い所から見ていないで、乗ってください」
ベリアルは馬車から放たれる瘴気の事を何も考えてくれなかった。
俺が馬車に近づいた時には、もう全てが遅かったのであろう。
馬車に乗って移動する間、俺はずっと下を向いていた。
だが、遂に魔王城についてしまい、馬車が急に止まった。
「ここが、魔王城なのか・・・・・」
目の前に現れたのは、城と呼ぶに相応しい堅牢な城砦、魔王の城らしい禍々しくも美しい城の塔。
ただ残念なのが・・・・周りに何も無いという事だ。
周りにある・・・・・いるモノ・・・者といえば・・・巡回中の悪魔やゴーレムばかりだ。
悪魔達は、それぞれ放つ瘴気にも違いがあるようだ。
目の前には瘴気の霧が発生していた。
だが、俺はそんな事を気にする間もなく苦痛に耐えていた。悪魔達の放つ“瘴気”は人間に凄まじい苦痛を与える。
そういえば、耐性は悪魔と共に行動するほど高くなると、ベリアルは馬車の中で話していた。
さらには、悪魔と長く関わることで・・・・・自らも、瘴気を放つようになると・・・・
「なあ、俺も・・・あんなの、出すようになるのか? 」
どうやら・・・悪魔は全てお見通しのようだ。
かなりニヤニヤしながら、こちらに今気付いたような素振りをして、返答した。
「そうですねえ、確かに悪魔と関わって瘴気を出す人はかなりいますね。ですが、瘴気とは元々、人や悪魔の負の感情が過度に生まれ、それが溢れ出してきたものですから、人によっては悪魔と関わっても瘴気を出さない事もありますね、ごく稀ですが。」
「じゃあ、なんでお前は瘴気出してないんだよ? お前って・・・明らかに悪魔的な性格しているし・・」
「ああ、それはただ抑えているだけですよ。上位の悪魔は、瘴気を抑える事が出来るのです」
(え?・・・・こんなのが上位悪魔って・・・・世も末だな・・・・)
俺達は城門前で馬車から降りて、魔王の待つ玉座へと向かった。
その時に俺の限界は・・・・もうとっくに過ぎていた・・・
城門をくぐり、城に入ると・・・・中は濃霧で包まれていた。
「なあ、何にも見えないぞ? こんなに煙たい中で、よく見えるな」
「そういえば、言ってませんでしたね。瘴気を自分で出せるようになった頃には、この霧も徐々に薄れて見えるでしょう。・・・そうですね、ひとまずは周りが見えるように使い魔を貸しましょう」
ベリアルは、どこからともなく使い魔を召喚した。
(これは目玉の悪魔か・・・・・実際に見ると、結構キモ可愛いかも・・ああ、やばいな・・・・身体に堪えるなあ・・・早く瘴気に慣れないと死ぬぞ・・・・俺・・・)
目玉の悪魔を通してようやく城の中が見通せるようになった。
この城はかなり広そうだが、入ってすぐの大広間を中心に、左右対称の構造を基盤としているようだ。
どうやら、玉座は大広間の中央にある大きな階段を上り、目の前にある巨大な扉の先にあるのだろう。
城の中にいる騎士の中でも特に身分の高そうな2人が、俺達を玉座まで案内した。
(なんて禍々しい・・・・・瘴気の桁が他とは違う。・・・・・ああ、もう・・・限界かも・・)
大きな扉の先には・・・・とても広く美しい空間が広がっていた。
部屋の中には、先程の騎士か、もしくはそれ以上の力を持つであろう者達が部屋の左右に並んでいた。
遂に、俺は魔王と対面するようだ・・・・・
「「陛下!!ベリアル卿、及び異世界からの者をお連れしました。」」
俺達は、玉座に近づき跪いた。
「ふむ、よかろう・・・お前達は下がってよいぞ」
「「はっ!!失礼します」」
そう言うと騎士たちは、すぐに部屋を出た。
(・・・・・・・・・え?・・・・魔王?・・・誰が?・・・・あの玉座に座っている子供が?・・・)
目の前で玉座にふんぞり返っている魔王と呼ばれた少女は・・・・魔王と呼ぶには幼かった・・・
彼女の闇夜のような黒い髪と瞳は、艶めかしく俺の目を釘付けにした。
「では・・・・まずはベリアル卿、異世界まで単独での任務、ご苦労じゃったな」
「はっ!滅相もございません」
「して・・・隣にいる死人のように蒼ざめた顔をしている者が運命の少年なのか? 」
「はい。彼こそが、運命の子に違いありません。ただ、瘴気に中てられているようでして・・・」
(ベリアル卿?・・・おいおい、なんだ?・・あの畏まった態度は・・・・・・)
「で、先程から私を見ている人間。おぬしの名は? 」
急に呼ばれたことで一瞬、緊張してしまったが、すぐに治まって変に安心してしまい、またあの苦しみが襲ってきた。
「お、俺の名はシンジです。斎藤シンジ」
「ふむ、ではシンジ。何か余に聞きたいことはあるか? 本題に入る前に少しくらいなら聞いてやる」
(や、やった~。よ、よし・・・・何でもって言ったし・・・・いいよね)
「じゃ、じゃあ・・・その・・・ト、トイレに行ってきてもいいですか? 」
はあ・・・・・何でこんな事を言ってしまったのだろうか・・・・・
確かにトイレには連れて行ってもらえたのだ・・・・
朝昼晩三食と寝どころのオマケつきで・・・・・・・
どうやら、俺は瘴気で腹を下していたらしい・・・・・
「誰かああああああ!!ここから出してくれえええええええ!!」
俺はその後、一週間も牢屋で過ごすことになりました・・・・・・
実は牢屋も住み慣れると・・・快適でした・・・・・( ;∀;)