6.side-ミセラエル
「本当に窮屈ですわ」
協会の奥の奥隠されるように作られた小さな宮殿が私の世界。
外にある木々や動植物は私が望めば手に入る。私の望まない形で。
鉢植えに植えられた雪桜は他国でしか咲かない希少な花だ。
触れても植物の感触はなくガラスのようにつるつるとしていてひんやりと冷たい。
時空魔法のかけられたこの花は枯れることも種を増やすこともできない。
「まるで私のようですわね」
落ちたため息は重たく、地中まで沈んでいくように思われる。
「ミセラエル様、ご不満があれば仰ってください」
「では、私は外に出た「申し訳ありませんが、」」
「それは教祖様に禁止されております」
「そうね」
物わかりの良いお人形。協会の飾り物。私の望まれているのはそういう存在なのだ。
わかっていても、私はそんな存在になりたいわけではないのに。
「お勉強のお時間です」
使いの物が教師を共に入ってくる。
今日の授業はマデナリア教の歴史だ。以前も習ったことのある内容だ。
私に与えられる知識にも偏りがある。この教会の教姫として必要な知識だけを覚えこまされる。
「マデナリア教の始まりはマデナリア様と共にあります。マデナリア様は我らが神の魔力、マナからお生まれになりました。そして神に愛され神の恩恵を一身にお受けになりそして我らの母となったのです。我らにマナが備わるのはそのためであり、このマナに感謝し人のためにマナを使うことこそ我らの使命なのです」
教師は経典に書かれていることをわかりやすく丁寧に解説してくれる。
何度も聞いた話であり、退屈だがおとなしく話を聞く。
生真面目そうなこの教師は私が話を聞かなければ処刑される。
私のお父様は人望に篤く、仕事も人並み以上にできる人であるようだ。
ようだ、というのは私が一度もお父様と会ったことがないからである。
物心ついた時にはお母さまは他界しており、お父様は私をこの宮殿に押し込めた。
協会で子を為せるのは教皇と教姫だけ。
だからこそ教姫は隔離され厳重に守られる。
一度でいいから外に出たい。
そう考えていた時、森の方から強い魔力の反応を感じた。
それは教師も感じ取っていたようで少し動揺しているようである。
「ミセラエル様、ここまででご不明な点はございましたか?」
「ありませんわ」
動揺を隠し授業を進めようとしているが、そろそろこの授業は終わるだろうな。
「サラエド枢機卿!ミゼル教皇がお呼びです」
大司教が駆け込んでくる。他の使いが睨みを利かせておりこの大司教は「も、申し訳ありません」と私に謝る。
「かまいませんよ」と微笑み、サラエド枢機卿を宮殿から送り出す。
森の魔力のことで呼び出されているのだろうか。
宮殿内には最低限の警備だけが備えられいつもよりも静かだ。
流れている空気はピリピリと張りつめてはいるが。
これはチャンスだ。
今なら外に出られるかもしれない。
考えるより先に体が動く。見張りに催眠の魔術をかけて自分には隠れ身の魔術をかける。
手薄な警備は思ったよりも簡単に脱出することを許した。
「これが、外の空気!清々しい気分ですわ!」
宮殿の裏口から森とは反対の方向に走り出す。




