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駆け寄ってみるとその人物は10歳くらいの少女で、ぐったりとしていた。
「大丈夫!?聞こえる?」
呼びかけてみても反応はなく、顔は真っ赤である。
熱中症だろう。纏っている服はドレスのようで、フリルやレースが多い。
薄手の生地を使ってはいるようだがそれでもこれだけの枚数を重ねたら暑いことには変わりないだろう。
「ごめんね、ちょっと開けるね」
そう言って楽な首元まできっちりと絞められたリボンをほどくと彼女を背負う。
「っ!」
重たい。
ほぼドレスの重みだろうが10歳の少女の重みではないものが背内にのしかかる。
誰だよこんなに着こませたの。じりじりと肌を焼くような日差しの下でこの服を着れば熱中症になることくらいわかるだろうに。
彼女を背負い、必死で歩くこと15分ひょうたん型の底側の門の前にいた。門前払いをくらわされたあの門番に話しかける。
「なぁ、ここ入れてくれないか。女の子が倒れていたんだ」
「またあなたですか、先ほども言いましたけれど住民証がないものは入れられません」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!俺は入れなくてもいいから、せめてこの子だけでも…」
「その子を使って入ろうとしているだけでは?それ以上言うようならあなたを捕まえなくてはいけなくなります」
「なっ!」
門には依然として人が並んでおり迷惑そうにこちらを見ている人たちばかりでさらに苛立ちが増す。
どう考えてもまともな人間の行動ではない。普通なら見捨てないだろ。
「まだ幼い女の子だぞ!死んだらどうするんだ!」
「その時はその子の運命だったということです」
取り付く島もないとはこのことだ。
背に背負った女の子の顔色が先ほどよりも悪くなっているように感じ焦りが募る。
これ以上言っても無駄かとあきらめてこの場所よりも涼しい森に行こうとしたとき、
「これはこれは、ミセラエル様がなぜそのような下郎の背の上に?」
頭上から声が降り、体が吹き飛ぶ。
重力が真横からかかり門のある場所から5m離れた場所の地面に背中から着地した。
したたかに打ち付けられた体は軋み、肺が呻く。
「いっ!!…てぇ!」
何するんだてめぇと睨もうと起き上がるとそこには俺を蹴ったと思われる背の高い男と高級そうな馬車。その馬車を避けるように身を縮こませている人々がこちらを見ていた。
男は俺を蹴ったときに空に放り出されたのであろう少女を抱きかかえて、馬車の中に入っていく。
門をするりと通り抜けていったその馬車には金の鬣をなびかせた獅子の模様が刻まれていた。




