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迷い人の仕事  作者: 山羊SUN
携帯がなければ死んでいたかもしれない
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3


携帯は便利だ。

電話の昨日の他に時計、地図、今では財布の機能まで担う優れものに今まで幾度となく助けられてきた。

それでも、これほど携帯に感謝したことはないだろう。




コンパス。



ゲームの方ではない。

デフォルトで入っているこのくそも使えないと思っていたアプリのおかげで、俺は今あの森を抜け出そうとしていた。西が分からないと適当に木々の隙間を通り抜けること20分。

その間なにか手がかりにならないかと携帯を握りしめ各アプリを開いていたのだが、その中にコンパスを見つけて文字通り飛び跳ねて喜んだ。そして案の定適当に進んでいた道は東であった。



木漏れ日差し込む木々の中。

澱んでない空気が仕事で疲れていた体を癒していく。いつになく調子のいい体は思ったように動いてくれる。

今なら書類の山1つの処理に1時間もかからないだろう。課長のお小言も佐藤の押し付けてくる仕事も笑顔で受け入れる自信がある。

今の時刻は6時48分だし、間違いなく会社には遅刻するが、今日のこの体調であればもしかしたら定時で帰れるかもしれない。

それほどまでに好調なのだ。


軽い足取りで木々の間を通り抜けると、隙間から除く光の量が多くなっていく。


これは、勘違いでなければ街だろうか。

あまりの嬉しさにさらに足取りが軽くなる。

歩みは次第に速くなり、いつの間にか走り出していた。


そして目の前がひらけた時、


「え、」


そこにはレンガでできた街道と、外壁に守られた大きな街があった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あの森から20分ほど歩いただろうか、あの外壁のある街についた。


…のだが。


「住人証か、通行証がなければお通しすることはできません」

「あの、そこを何とか」

「できません。せめて身分を証明するものとか見せて頂かないと…」

「あの、社員証とかじゃダメですかね?」

「?、今なんと?」

「だから、社員証」

「えーっと…すみませんが、その"サーイ証"じゃ無理ですね」

「は?」

「あーもう、仕事の邪魔だから…」


と、どこの門番に掛け合っても通してはくれなかった。


この街に入ろうとうろうろしているうちに外壁の形がなんとなくだがわかってきた。

一言で言うなら「ひょうたん」である。

俺が最初森から見たのはひょうたんの底の辺り。

そこから左右に円形状に壁が伸びていてひょうたんのクビレの部分は階段状に、その先はさらに高い壁になっていた。


底の部分と下半分の左右にはそれはもう大きな15m程の門が構えてあり、その門には左右に甲冑を着た門番が入口と出口に計4人常駐しているらしい。


また、ひょうたん上部の位置には門もなければ門番もいない。

会社へ行くのを諦め、半日かけて調べた結果はこれだけであった。

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