【没ネタ】2枚の弐千円札
第二千十六季 皐月の二十二
『(守矢神社の鳥居前で一礼。参道の中央を歩きお手水を済ませ、御賽銭箱の前にて再び一礼し鈴緒を握った……………)ぐううぅぉおおおおおおおお!!たのむぅうううううう・・!!!』ガラン!!ガラン!!ガラン!!ガラン!!ガラン!!ガラン!!ガラン!!ガラン!!
「「「「「「………………」」」」」」
『(札束賽銭)永遠亭のあいつが3連勝だなんてあんまりじゃないですかァアア!!(斜め120度のお辞儀)、8,980,000円も儲けやがってぇよぉあのハゲーーーー!(斜め165度のお辞儀)』
『………』
「「「「「「w……………」」」」」」
『(パン!!パン!!……………パン!!!)せめて我にも1発当ててくださいお願いします!!賭け事が行われる場所は昨日もお伝えしたとおり冥界にある西行寺んとこの白玉楼です。正門から入って縁側をまっすぐ、右、次の角を左、二つ目の角を右、そこから22秒まっすぐ進んで突き当たりにある客間ですお願いします!!(直線180度のお辞儀)一応言っておきますが徒歩22秒ってのは我のスレンダーな股下の長さを基準にして計った時間です………ぃいよぉしっ!!こんぐらい頼めば次こそは当たるだろ。さっ♪賽銭した賭け金回収回収ぅ~♪』
『………何をしておられるんですか神奈子様……』
『っ!!?』
『…………』
『…………』
「「「「「あーっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!」」」」」
「wwww何度見ても飽きませんね私こんなに笑うの久しぶりですwww」
「笑いたきゃ笑うがいいこのちゃっかり住職め」
「wwもしかしてあなた皆の取り分とか全部覚えてるの?wwww」
「メモってたおまえには言われたくないぞ」
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「笑い死ね亡霊め」
「wwwww神社を担う同業者として私あんたのこと恥ずかしく思うわwwwwwwww」
「w霊夢それを言うのはあまりにも酷というものですわ……wwwwwwwwwwww」
「……鈴緒振ったら千切れるド貧乏神社の巫女に言われたら私もお終いね」
「千切れないわよっ!!」
同月の31日、大物たちによる"賭博異変"は白日の下に晒された形で幕を閉じた。報道部の天狗たちは我先にと妖怪の山へと戻り、今頃は号外をせっせと作っていることだろう。今は当事者である5名・四季様・霊夢・清く正しいわたし射命丸の8名がスッカラカンとなってしまった博麗神社に残り談笑を繰り広げていた。
「閻魔様、もう1度鳥居の前で一礼するところまで戻しては頂けませんか?ww」
「あなた達には友を思いやる心はないのですか?」
「閻魔様、目元と口元が引きつっておいでです」
「浄瑠璃の鏡は遊びのために使うものではありません。これは証言を欺く者に天誅を下す歴とした刑具です。そこのとこ皆さんお分かりですか?」
「閻魔様私の黒歴史がまた始まっておいでです」
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
『………何をしておられるんですか神奈子様……』
『っ!!?』
『…………』
『…………』
「「「「「だーっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!」」」」」
「私にだけ浄瑠璃の鏡とかあんまりだ」
「wwあなたが潔く自分の罪を認めないからですw」
「wwww会見の時にこれが映し出された時には堪えるのに大変でしたわwwwwww」
スキマ妖怪が発した"会見"という言葉でわたしは我に返った。神奈子様にお聞きしたいことがあったのだった。
まず前置きとして、博麗神社の御賽銭箱に弐千円札を入れたのはあなたの差し金ですよね?と尋ねた。
「……どこまで知っているんだ?」
と、不思議そうな面もちで質問を質問で返してきた。会見では博麗神社の御賽銭箱から出てきた弐千円札に、守矢神社に関わる者たちの神力が憑いていたために目星をつけることが出来たとだけ四季様は説明をされていた。神奈子様の疑問は博麗神社に御賽銭をしたのが神奈子様自身ではなく第三者であることを前提で尋ねられたからだ。まずわたしは守矢神社の現人神が旧都にもたらした急激な気温低下の取材へ行った際に聞いた……聞いた…………あれ?誰から聞いたんだったかな?……既に賭博の全容を誰かに聞いて知っていたことを神奈子様と周りの者たちに説明した。そしてその誰かから聞いた話しの中の1つに、博麗神社の御賽銭箱に神奈子様から貰った弐千円札を使って参拝させてあげる代わりに、博麗神社が祀ってる神様に神奈子様のお願いを伝えておくように頼まれたという内容があった。なぜ博麗神社で参拝するようお願いしたのか尋ねるも、
「……理由なんか無いさ、ただの神様の気まぐれだよ………」
と、視線を横へそらして答えた。
「……浄瑠璃の鏡を使って当時の状況を見てみましょう」
『なに?………。うちの神社に来たけどお賽銭するお金を持ってないだって?おまえは何をしに来たんだ。………。ん~そうだなぁ……!!うちの神社よりご利益のある由緒正しい神社を知ってるからそこを紹介しよう!!………。博麗神社ってとこなんだけどな。そこにはもの凄い力を持った巫女がいるんだが、辺境に建ってるうえに妖怪がうろついてるから参拝に行くやつが少な……皆無なんだ。そのせいでその巫女が主食として食べてるものが酸素っていうひもじい生活を送ってるから……ほら、こいつを持ってって賽銭してやるといい、きっと良いことあるし巫女も喜ぶぞ。………。私がおまえに渡したお金をここで賽銭しても意味がなかろぅ。あぁそうだ!!御賽銭する時ついでに『守矢神社の八坂神奈子が勝負事に勝ちますようにお願いします』って頼んでおいてくれ!!』
曇ってうまく聞き取れない誰かの質問に対して平然と答えている神奈子様。すると、一瞬大きく垂れ下がった袖口に包まれた手が映像の端から伸びてきて弐千円札を掴み、再び浄瑠璃の鏡に映らない端へと引っ込んでいった。
「幻想郷のお金じゃないとはいえあなたにしては良い行いね、まるで神様みたいよ」
「とんでもない私は神様だよ」
「言っとくけど私食べ物には不自由してないんだからね!」
「………この時の八坂神奈子の心境を映し出してみましょう」
「ぁっ!!」
『(これでまた博麗神社に凶悪な妖怪が出入りしてるって噂にますます拍車が掛かるな♪日本の紙幣とはいえ、ロウソクにたかる蛾を食ってるようなド貧乏巫女には全身の毛穴から手が出るほどほしいものだろう、少しもったいない気もするがな。仮に賽銭を仕向けたことがあの巫女にバレれば一銭にもならないと我に難癖を付けてくるに違いない。そうなれば『それは外の世界でも珍しいお金だからレアもののなかのレアなんだぞ。物好きなやつにでも売れば吹き抜けの神社を建て直すぐらいの金には化けるだろう』とでも言ってデカい恩を売ればいいのだ。まぁ大金に化けることもなければ一銭になれるのかも怪しいがな。その時はその時で『外の世界のものだから幻想郷の奴らには価値が分かんないんだろうなぁ~』と言って誤魔化そう。巫女があの調子なんだから博麗神社が祀ってる神も欺けることだろうクックックックッw よしっ!!これで早苗にあの恥ずかしい行いを見られてしまったストレスも発散出来たことだし、おまけに信者も増えるかもしれない!!次の賭け事には守矢神社の神と博麗神社の神の御加護が私に味方してくれることだろう!!棚からぼた餅とはこのこと。戦わずして勝つ!もし私の緻密に計算されたこの思惑が露顕した時には皆口を揃えてこう恐れることだろう。【戦神】……と)』
「お薬出しておきますね」
「highになれるやつを頼む」
「私と幽々子みたいになろうだなんて脳細胞があと9999兆9999億9999万9999個ほど足りてないわよ」
「子どもか!」
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「暑中見舞いは何がいい?おまえんとこの従者にち●こが生える笑い茸贈っとくな」
「霊夢さんさすがに蛾は食してなどいませんよね?」
「………」
周りがそんな話しをしているなか、わたしはその映像を観ていてある違和感に気が付いた。神奈子様があの娘に渡した弐千円札は2枚ではなく1枚のみだったのだ。重なって1枚に見えたわけではない。わたしは神奈子様にもう1枚の弐千円札はどうしたのかと尋ねてみた。
「?私が………あれ?誰だったかな……?取りあえず私がこの娘に渡したお札は1枚だけだぞ?」
と、思わぬ返答が返ってきた。動揺してしまったわたしはこの場にいる者のなかで1番おっかない閻魔様に対して、神奈子様の物証は1枚だけだったのかとタメ口で尋ねてしまった。
「…えぇ。守矢の者たちが触れたとされる弐千円札は1枚だけでしたね。そうそう博麗霊夢、預かっていたこのお金をお返しします」
平静を装って応えてくださった。ならばいったい誰が同じ種類のお札を御賽銭したというのか。そもそも何故神奈子様が外の世界のお札を持っていたのか尋ねると、
「早苗が外の世界にある"沖縄"というところへ修学旅行に行った時手にした私へのお土産だったんだよ。『神奈子様にもプレゼントちゃんとありますよ!!はいコレ!!きっと厄除けの効果とかあると思います!!』とか言って貰ったのだ。私はそのお札が好きでな♪私が外の世界で神社やってた頃、ごく稀にこの紙幣が賽銭されることがあったんだ。小銭とか普通のお札はもう見飽きてたからこのお札が賽銭された時には諏訪子と2人で『おっ!!』ってなってテンション上がってたもんだよ」
と懐かしがっていた。しかし現人神からもらったお土産をなぜ手放したのか?
「早苗が私へのお土産を忘れて困った挙げ句、財布に余ってたいらないお札を出して『厄除け効果』とか適当なこと言っちゃって貰ったからだよ。このお札は"沖縄"以外じゃ基本的に流通してないから、他の地域の店なんかで出すのが恥ずかしくていらなかったんだろうな。元々いらなかったものを私が手放したとしても早苗は別に気にしないだろう?」
ちなみに諏訪子様のお土産は狛犬のような置物だったと付け加えた。
わたしと同じく顎に手を当てて考え込んでいた八雲氏が口を開く。
「……もしかしてもう1枚のお札は幻想入りしてきたのではなくて?このお札が今流通している国は現人神が旅行に行った"沖縄"でしか今は使われていないでしょ?基本的にだけど」
「つまり外の世界でごく一部の地域でしか使われていない1枚のお札が何かしらの理由で人目につかなくなっていって……」
「皆から忘れられたが為に幻想入りを果したということね♪」
八雲氏の推測に続いた永琳先生と幽々子氏の発言を周りの者たちが否定しない様子から、この場にいる皆の考えが一致したようだ。しかし仮にそうだったとしたら、いったいどれ程の確率でそんな奇跡が起こるというのだろうか。幻想入りしてくるものはピンキリだ。大きなものであれば自分たちよりも巨大だし、小さなものであれば手の平よりも小さなものがこちらへとやってくる。そのうえ無機物だけではなく生き物だって幻想入りをする。そんな様々なもののなかから博麗神社の御賽銭箱の中へ、そして使い道のないお札が幻想入りしてきた。しかも無縁塚ではなく御賽銭箱の中へなんて聞いたことがない。滅多に賽銭されることの無い博麗神社の御賽銭箱の中へ………。そんなことを繰り返し考えていたら再び愉快な感情が込み上げてきた。同じことを思っていたのか、霊夢以外の者が腹を抱えてくの字になっている。霊夢は皆が考えている想像に勘づいたのか、お金はお金だと顔を真っ赤にして主張してみせるが使えないお金はただの紙切れも同然だ。厄除けならぬ銭避けが2枚も。とうとう我慢が出来なくなった誰かが笑い声を上げた途端、それが合図であるかのように皆が吹き出した。
博麗神社は人知れず笑顔に包まれていた。
賭博異変はこれにて一件落着ですね。しかし我々天狗の負担が増えるとばっちりを受けたことには納得できませんねぇ何も悪いことなどしていませんのに。




