【没ネタ】閻魔様の暑中見舞い
第二千十六季 皐月
同月の27日。わたしはいつぞやか拾った巻物を持ち主へ返そうと永遠亭へ向かうついでに、何か面白いことが起きていないか博麗神社へ遊びに寄った。社のなかへお邪魔すると、閻魔様であらされる四季映姫・ヤマザナドゥ様と、三途の水先案内人である小野塚小町さんがおられた。同月の21日に霊夢が熱中症により倒れていたことがあったため、わざわざお見舞いに来ていたらしい。四季様は仕事で立て込んでおられたために、お見舞いに来るのが遅くなったと説明された。霊夢は粗末なお茶菓子と粗茶のみで御2人を持て成していた。それぞれの食べかけのお茶菓子と湯呑みに残っているお茶を見て考える限り、御2人が博麗神社に訪ねられてから暫く時間が経過している様子が見てとれた。霊夢が新たなお茶菓子と粗茶を用意している合間に、わたしは四季様の隣・小町さんとは向かい合うかたちとなる上座に座った。四季様は「天狗も来たことですし丁度良いかもしれません……」と、神妙な面もちで言われた。
時は戻って1時間ほど前、四季様と小町さんが博麗神社を訪ねられた。四季様は霊夢に労いの言葉をかけられた後、熱中症で倒れた話題へ移されたそうだ。夏の恒例行事とはいえ、いついかなるときでも体調管理はしっかり維持しておくようにとのありがたいお説教をされた後、うんざり気味で放った霊夢の何気ないひとことが四季様を沈黙へ追いやったのだそうだ。「私が倒れたら毎年紫が見つけて永遠亭まで運んでくれるのよねぇ。あいつ暇なのかしら?」このひとことを耳にしてからというものの、四季様はずっと難しい顔をしているのだと霊夢は説明し、現在に至る。
四季様は初夏が訪れる度に霊夢が倒れるのは日頃の栄養不足が原因だからだと決めつけておられたそうだ。だがスキマ妖怪が決まって毎年1番早く助けに現れることに違和感を感じると仰るのだ。その他にも霊夢が毎年熱中症で倒れているのならば、あの抜け目のないスキマ妖怪がいつまで経っても処置する手順を学ばないとは考えにくい。加えてわざわざ永遠亭へ運ぶ行動にも違和感を覚えると言われた。そして毎年倒れる霊夢を引き受ける八意永琳先生も怪しいと指摘。いつか記事にもしたが、永琳先生が永遠亭で診察する多くの患者は急患だ。人手が全然足りていないにも関わらず入院患者を多くは受け付けられないあの屋敷に、たかが熱中症なんかで毎年決まって倒れる霊夢を引き受けているのは不自然と言われれば確かに不自然だ。
怪しいついでに、わたしが永遠亭の近くで拾ったあの巻物『φΛИΛΣΛ文書』を持っていたので四季様に見て頂いた。「……何と読むのかは解りませんが、この巻物からは微かな悪意と……大きな喜びの想いが感じられます」と言われた。するといつの間にやら話の輪から抜け出していたらしい小町さんが襖を開け放ち、「四季様!!賽銭箱の中にこんなものが!!」と慌てた様子で、四季様にあの例の2000円札2枚を渡して見せた。お賽銭箱の中身を勝手に持ち出してきた小町さんに霊夢が怒鳴っている喧噪のなか、四季様は顎に片手を添えて厳しい表情をしていた。四季様は2000円札2枚と巻物を一旦預かっても良いかと尋ねられたので、文句を垂れる霊夢を尻目にわたしは快く首を縦に振った。「これから向かわなければならないところが増えましたので、これにて失礼させて頂きます。近々この問題は解決すると思いますので、来るべき時がきたら天狗のあなたにその取材をお願いしたいのですが……引き受けて頂けませんか?」と仰った。断ると面倒なことになりそうだったので引き受けた。しかし旧都で出会った妖怪から事の全容を既に聞いていたわたしは、これから幻想郷全土が震え上がることになるであろう大事件の光景を想像してはほくそ笑んでいたのであった。
「……気持ち悪いわよアンタ」
閻魔の役職に就いておられるのは伊達ではありませんね。鋭い推理力でした。




