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文々。通信  作者: 妖じい
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入道屋さん

第二千十六季 皐月の九

 人間の里に住む子どもならば1度は耳にしたことがあるであろう噂"入道屋さん"。この噂は妙なことに『大きな親父を操る妖怪』という一言だけで、肝心の内容はいっさい誰の口からも語られることのないちゃんちゃら可笑しな噂なのだ。しかも大人たちはこの噂自体をまったく知らないらしい。私の憶測に過ぎないのだが、子ども達の間でしか知られていない噂ということなので、恐らく噂の発端は寺子屋ではないかと目星を立てている。ヒトが物事を語るうえで起承転結は欠かせない。起承転結は噂や怪談などでは特に重点が置かれるため、命の土台といっても過言ではないだろう。しかしこの入道屋さんと呼ばれる噂にはオチはおろか、起承転結すべてがない。なぜ入道屋さんなのか?なぜ『大きな親父を操る妖怪』の一言しかないのか?なぜ寺子屋の子どもたちはこの噂にストーリーを加えようとしないのか?私は入道屋さんというキーワードに心当りがある者たちのもとへと向かうため、命蓮寺へ突撃インタビューを行った。

 私はさっそくあの噂と密接に関わっていると予想した妖怪、雲山さんに訊ねてみた。"入道屋さん"とはいったい何なのか?という質問に対し雲山さんは沈黙を貫いた。答える気配がないため、質問を変えることにした。「いつもあなたに付き添っているあの……なんだったかしら……………いつも元気そうに変な輪っかを持ってるあの方は今おられないんですかねぇ?」という質問にも黙ったままだ。さっきから私の前でギャーギャー騒いでる修行僧のせいか雲山さんがどことなく不機嫌に見えたので、収穫のないまま仕方なく引き上げることにした。

 命蓮寺から妖怪の山へと戻る道中にふと、不意に嫌な推測がよぎった。もしかすると噂の始まりはあの……元気な修行僧が雲山さんを操っているところを寺子屋の子どもが目撃して"入道屋さん"と名付けた………ホントにただそれだけのことだったのではないか?有事がある時にのみ人里への出入りが許されているあの修行僧が人里へ入った時、雲山さんを使って子どもを喜ばせる何かをしたに違いない。あの相方さんも雲山さんも曲がったことが嫌いなのだから。そして人間の子どもはヒトを見た時、そのヒトから何か強く印象に残った"物"、その"物"が何なのか知っている単語であれば"屋"とかけ合わせて○○屋さんと言う習性があるのだ。例えるならばお花屋さんという風に。まだ幼い子どもは修行僧の服装を見たとしてもいったい何なのか知らないだろう。"入道屋さん"と『大きな親父を操る妖怪』のたった2つのキーワードに、人間の子どもにだけ流れた中身のないスカスカな噂……………久しぶりに疲れました(泣

外の世界には自分の感情を表す文字があっておもしろいですねぇ(笑

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