scene.7
唐突に、爆ぜるような音が響いて、僕はそちらを見た。
響子さんだ。
柏手ひとつ打って注目を集めたみたい。
注視する僕と関さんに微笑みながら、
「さて! 互いに自己紹介も終わったことだし、いろいろと話し合いましょう!」
と、彼女は告げた。
たしかに分からないことだらけで聞きたいことは山ほどある。
それらの疑問を解消するために、僕はひとつうなずいた。
響子さんに促されて、空いてる椅子に座る。当然、僕の黒歴史は膝の上。
……うん、湿り気のある冷たさが、僕の心にサクサク刺さるね。
そんな僕の前に軽く湯気をたてたコーヒーが置かれた。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言う僕に、コーヒーを置いてくれた響子さんが苦笑いを浮かべた。
「インスタントだけどね」
そう言って、彼女は席に着いた。関さんはちょっと離れた場所で立ったままコーヒーのカップとソーサーを手にしていた。
「さて、何から話しましょうか? というか、一番聞きたいのはたぶん、あなたが狙われたことでしょうね」
響子さん
僕は顔が強張るのを感じながらゆっくりうなずいた。
そのとおりだ。
なんで僕があんな化け物に追いかけ回されなきゃいけなかったのか。
あまつさえ、殺されそうにまでなったのだ。
今回にしろ十年前にしろ、助けが間に合ってなければ、僕は化け物に頭からかじられていただろう事は想像に難くない。
もしかしたらまた……ということもある。二度あることは三度って言うしね。
だからこそ。
僕はその理由を知っておきたい。
もっとも、大層な理由でも無い……って思いたい。
二度も狙われた以上は、相応の理由があるんだろうな……。
そう考えると、気分が落ち込む。
そんな僕を見ながら、響子さんはうなずいて口を開いた。
「……そうね。まあ理由を話すとなればおおざっぱに全部話す必要も出てくるんだけど……まずは確認。晶ちゃんあなた、体のどっかに変な形の痣みたいなのがないかしら? 形はこの中に有るやつだと思うのだけど」
そう言いながら響子さんはタブレット端末を操作して、僕の方に見せてきた。
そこには、十二のシンボルマークがある。その中に、よく見覚えのあるものがあった。
「はい、あの……これです」
少し火照りを感じながら僕は、ソレを指差した。
ソレは、二匹のおたまじゃくしが互いのシッポを追いかけるような形のシンボルマーク。
それを見て、響子さんはうなずいた。
「……やっぱりね。このゾディアックシンボルは'蟹座'。あなは蟹座の巫女ってことになるわ」
巫女?
僕は首をかしげた。
ウチは神社じゃないし、両親が神職にあるなんて聞いたこともない。
ご先祖様がって話もだ。
そもそも……。
「……これって占いで使うやつですよね? たまたま形が似てるだけなんじゃ?」
そう。
提示されたシンボルマークは、星占いでよく見る十二星座のマークだ。
占いが趣味というわけではない僕でも知ってるようなポピュラーなそれ。たしかに同じ形だな~って思ったことはあるけど……。
困惑する僕に響子さんはウインクひとつ飛ばしてきた。
「そうね。だからきちんと確認したいのよ。見せてくれるかしら?」
そう告げられて、僕は体を硬直させた。
「……み、見せる? な、なんでですか? 嘘なんてついてませんよ?」
「べつに嘘だなんて思ってないわよ。ただの確認ね。ぱぱっと見せてくれればいいわ」
そう言われてもちょっと……。
確かにこのマークなんだけど、見せるには……。
痣の有る場所を思い浮かべるだけで、顔面が燃え上がるほどに熱くなる。
それを見てなにかを察したのか、響子さんは苦笑した。
「……あー、見せづらい場所に有るのね? じゃ、あっちの車の中でチェックさせてくれるかしら? 無理にとは言わないけど」
そう言われて僕は少し思案する……振りをしてチラと関さんを見た。女の子が恥ずかしがるような部位って話に、この場にただひとりの男性である彼の反応が気になったのだ。
けれども、彼は気にした様子も無くコーヒーをすすっている。
……なんだろう。ちょっと面白くない。もう少しなんか反応か有るかと思ったのに。
いや、思い浮かべられても恥ずかしいから嫌だけど……。
僕は、響子さんに促されてもやもやしたまま車へと向かった。




