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scene.4


 単眼鎧《彼》のまたがるバイクに近づいて、リアシートに手を延ばし掛けた僕は、そこで胸元に抱えたコンビニ袋に気付いた。

 僕の黒歴史の証が封じられた、忌むべきコンビニ袋。

 丸めたスカートを放り込んであるこれを抱えたまま単眼鎧《彼》の後ろに乗る?

 いやいやいや……無理だよ無理。でも捨てるのはもったいない……。


『……どうした? 早く乗れ』

「えっと、あの……」

 戸惑う僕に気が付いて、単眼鎧《彼》がこちらを見る。だけども僕は恥ずかしくて答えられなかった。

 自分の醜態の証ながら、貧乏性で捨てられない。さりとて男性であると思われる単眼鎧《彼》に渡すわけにもいかず。

 そうしてまごついていると、単眼鎧《彼》の腕が僕の方に伸びてきて、すばやくコンビニ袋をひったくった。


 ちょっ?!


 取り返そうと手を伸ばすが、単眼鎧《彼》の方が素早くバイクのハンドルに引っ掻けてしまう。

「か、返し……」

『早く乗れ! 集まってきやがった!』

 僕の抗議を遮る鋭い声に、思わず首をすくめてしまう。

 そして辺りを見回せば……。

「ひっ」


 思わずひきつった声が出てしまった。

 なぜなら、先程の化け物サソリの親戚のような異形の姿が遠目に見えてしまったから。


 ピンクの肉色をしたナメクジモドキ。


 肌色の長い足をわしゃわしゃ動かす、毛髪を溢れさせた蜘蛛。




 無数の人の手足のような脚を蠢かすムカデ。


 などなど。


 人間の体のパーツをデタラメに組み上げて、無理矢理生物の形にしたような化け物たち。

 それが、今までどこに隠れていたのかと思うほど、あちこちから顔を出し始めた。

 それらに対する生理的な嫌悪感にえずきそうになる。

「さ、さっきまでぜんぜん……!?」

 あわくって声をあげる僕に、単眼鎧《彼》がバイクを小突く。

『コイツに牽制させてたんだよ! 早く乗れっ!!』

 怒鳴られながらも、僕は急いでバイクに乗る単眼鎧《彼》の後ろにまたがった。

 固い背中に体を押し付けるようにして、単眼鎧《彼》の体に手を回す。

 それを合図に単眼鎧《彼》がアクセルを回してエンジンが唸りをあげた。

『いいか、しっかり掴まってろよ? いくぜ!』

 単眼鎧《彼》の言葉に答える間も無く、道路をタイヤで擦りあげながらバイクが発進した。


 が。


 それを遮るかのように、横合いの塀が吹き飛んで、破片が巻き散らされる。

『ッ!』

 単眼鎧《彼》の舌打ちに応えるように姿を表したのは、太さが二メートルはあろうかと言うテカテカとしたピンクの肉色をしたホースのような大蛇。

「ひいっ?!」

 その内蔵を思わせるおぞましい姿に、僕は悲鳴をあげてしまう。

 それを察知したのか肉色の大蛇は鎌首をもたげ、威嚇するように口を開いた。その口腔から覗くのは、鋭い牙と妖しく光る眼球。

 けれど、単眼鎧《彼》はバイクを止めること無く、むしろ加速した。

「ぶつか……」

『黙ってろ! 舌噛むぞっ!』

 僕の声をはね除けつつ、単眼鎧《彼》はベルトから長方形のパーツを抜き取り、それをバイクへ差し込んで操作した。


『slasher mode!!』

 電子音が響いて回転しているバイクの前輪が、前へ伸びながら左右に割れた。

 同時に分割されたタイヤの間から光が溢れ、その回転に合わせるようにして縦回転し始める。

 そして単眼鎧《彼》がその前輪を跳ねあげるようにしてウィリー走行をした。

「うひゃあっ?!」

 急な行動に振り落とされそうになり、僕は悲鳴をあげつつ単眼鎧《彼》へと必死でしがみついた。

 そしてバイクは肉色大蛇の頭へ前輪を叩き込み、丸ノコで切断するかのようにこれを切り裂いてしまう。

 血と体液が飛び散り僕にも降り注いだが、振り落とされないようにしがみつくだけで精一杯だ。


『大丈夫か!』

 わずかに振り向いて確認する単眼鎧《彼》に、僕は必死でうなずいた。

 それを確認してか、単眼鎧《彼》はそのままアクセルを開け、全開でバイクを走らせる。

『よし、脱出するぜ!』

 その言葉と同時に、バイクから二条の紅い光線が発射され、数十メートル先の空中に命中。同時に重なりながら反回転するふたつの巨大な三角錐を産み出した。

 その二重三角錐へとバイクが突入すると、三角錐はドリルのように激しく回転し、先端が光輝いた。

 すると先端の周りに、ひび割れが走った。まるで写真のような壁画の町並みが砕け散るように……って、えええっ?!

 驚きに声をあげる暇もなく、単眼鎧《彼》と僕を乗せたバイクは空間を砕いて出来た光の穴へと突入した。


 光の穴に飛び込むときの眩さに、僕はぎゅっと目をつむってしまった。やがてまぶたの裏に感じる光の刺激が和らいだ気がして、おそるおそる目を開ける。

「……うわぁ」

 おもわず声が漏れた。

 バイクは、キラキラと光を返す鏡のようなトンネルの中を走っていた。


 まるで、万華鏡の中を走ってるみたい……。


 先程まで命の危機にさらされていた事を忘れるように、僕はその光景に魅入っていた。

『ここに入ってしまえば、もう安心だぜ』

 不意に単眼鎧《彼》に言われ、僕は後ろを見やる。

 そこには怪物の姿も町並みも無く、ただ万華鏡のトンネルが続くのみだ。

「……あいつらは入ってこれないの?」

『ああ、ヒルコ供は条件を満たさなきゃ中蓋の世界ミズガルズからは出られねえ。……らしい』

「ひるこ?」

『あの化けもん供の事だ。まあ説明はあとで詳しいヤツがやってくれるだろ』

 単眼鎧《彼》はそう言ってバイクを走らせ続けた。そしてバイクの行く先に、ふたたび光が溢れて……。


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