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scene.2


「ヴォオオオオオォォっ!!」


 突如として、ほら貝を吹き鳴らすように音が響いた。

 単眼鎧《彼》が向こうを見る。そして僕は、これが化け物の雄叫びだと気付いた。

 人肌をした巨大サソリが、わしゃわしゃと八本の手足を蠢かしながら砕けた塀の影から現れ、単眼鎧《彼》へと突進していったからだ。

 右のハサミを持ち上げた化け物サソリは、勢い良く単眼鎧《彼》へとソレを振り下ろした。

「……あっ」

 危ない。と僕は声を挙げんうとしたが、ひきつった声帯は声を成さない。結果、僕の喉からはまともな言葉は漏れなかった。

 大柄な男性くらいはありそうなハサミが単眼鎧《彼》を打ち据えた。

 轟音と共に衝撃波が生じ、僕の白い髪を煽った。

 僕は、単眼鎧《彼》が潰され、赤い染みになってしまったと、そう思った。


 が。


 しかし……単眼鎧《彼》は無事だった。

 みずからの体ほどもある巨大なハサミの一撃を、単眼鎧《彼》は左手ひとつで受け止めて、微動だにしていなかった。

 だが、そこへサソリの左ハサミが大顎を開き、単眼鎧《彼》の胴体を断ち切らんと迫る。

 しかし、それはかなうことはなかった。

 単眼鎧《彼》の右拳が無造作に繰り出され、ハサミの支点へと叩き込まれた。

 その拳打はサソリのハサミをいとも簡単に砕き、ハサミの刃があっけなく宙を舞う。

 その事におののくように、サソリが後ずさる。

 けれども単眼鎧《彼》がそれを見逃すはずも無く、鋭く左足を出して踏み込んでいく。調子を見るように軽くスナップを利かせるように右手が振られ、引き絞るように後ろへと引かれた。


 そして、固そうな重音が僕の耳を打つ。


 同時にサソリの鷲鼻型頭が歪んで潰れ、肉片と歯と血を舞い散らしながら僕の視界から消えた。

 2トントラック大の化け物が、吹っ飛ばされて砕けた路地の入り口の塀の影に隠れたからだ。

 それを追うように単眼鎧《彼》が足を進めた。

「あっ! うっ?!」

 僕は単眼鎧《彼》を見失いたくなくて、慌てて立ち上がろうとした。

 けど、腰が砕けていて、足に力が入らない。なんとか塀に手を着きながら持ち直し、震える足を進めていく。

 その間にも、重量感のある打撃音と化け物の咆哮が何度も何度も聞こえていた。

 僕はやっとの思いで砕けた塀に手を掛けながら路地より顔を覗かせ、化け物サソリの姿と単眼鎧《彼》の背中を捉えた。

 黒い背中の向こうにある、化け物サソリはボロボロだ。

 左のハサミを失い、手足も一本ずつ砕き折られていた。

 鷲鼻型の頭は潰れているが、それで死んでいないのは化け物ゆえか。

 対して単眼鎧《彼》の方は無傷のようで、僕は思わず安堵の息を漏らしてしまう。

 いや、自分より遥かに強い単眼鎧《彼》の心配なんて……。

 軽く頭を振って、ふたたび見やる。

 すると、ちょうど化け物サソリが無事な右ハサミを振りかざして突進するところだった。

 それを前にしても単眼鎧《彼》は慌てることもなく、右足を後ろへ引いてサソリに対して左肩を向けた。

 そこへハサミが振り下ろされる!

 その一撃が、左腕であっさり払い除けられ、地面を砕いた。

 そこで単眼鎧《彼》は素早く腰周りにあるベルトのバックルを操作した。

 するとバックルから


『charge!!』


 と電子音が響いた。

 バックルから刹那の間に紅い光のラインが黒い足の表面を走り、右足先に集束したかと思うと、単眼鎧《彼》の右足が鋭く繰り出され、つぶれた鷲鼻型頭を完全に砕き散らした。

「ヴォッ!!」

 悲鳴じみた奇妙な声を吐きつつ血と肉片を飛び散らせながら化け物サソリが数メートルほど吹き飛んで転がり、塀に衝突してこれを砕いた。

 次の瞬間、紅の輝きが化け物サソリを押し包む。

 それを後目に、単眼鎧《彼》は脚を下ろすと、右腰に手をやって、パーツのひとつを取り外し、しゃがみこんで右足のくるぶしに取り付けた。

 その姿に僕は目を丸くした。


 なんてのんきなっ!


 悠長な単眼鎧《彼》の様子に僕は焦りを覚えた。

 が、すぐにおかしなことに気付いた。

 サソリはまだ死んでいない。

 だけども、まとわりつく紅に起き上がることができず、もがき続けていた。

 まるで……。

「縫い……止めてる?」

 起き上がれずにいるサソリの姿に、茫然とつぶやく。

 そんな僕の様子に構わずに、単眼鎧《彼》はふたたびベルトのバックルを操作、そのまま立ち上がるようにして高く跳躍した。

 その跳躍の頂点で、くるりと前転しながら右足を突き出し、単眼鎧《彼》は化け物サソリへ向けて飛び蹴りを放つ。

 その最中に、紅い光のラインが単眼鎧《彼》の脚の表面を走った。たどり着き集まる先は、右くるぶしのパーツ。それが深紅の閃光を放った。

 するとパーツから深紅の角錐が撃ち出され、みるみるうちに巨大化しながら化け物サソリへと飛翔し、その体へと突き立った。

 単眼鎧《彼》の飛び蹴りが、その角錐へと飛び込んでいく。

 と、同時に角錐はモーターのスイッチが入ったかのように高速で回転し始め、サソリの体へと深く突き刺さりながらその肉を抉り貫き砕き散らした。

 そして、単眼鎧《彼》の体がサソリの向こうへと貫通して、地面へと着地、そのまま足裏で大地を抉るようにしてブレーキング。数メートル進んだところで止まった。

 単眼鎧《彼》がゆっくりと立ち上がる。

 その直後に化け物サソリが紅い閃光と共に粉々に砕け散り、その光に溶けていくように風化していって、跡形もなく消え去ってしまった。

 化け物サソリの姿が無くなって、僕は安堵のあまり、その場でふたたびへたり込んでしまった。

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