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scene.???


 それは、とある物語のエピローグ。



『クハハッ! ハハハッ!! 見事っ! 見事だぞっ! 人間!』


「ハアッ! ハアッ! ハアッ!」


 哄笑うは闇色の髪、劫眼の女。


 荒い息を吐くは黒髪、黒瞳の少年。


『まさか、そなたのような子供が、妾《神》を討ち取るとはっ!』

「ハアッ! ハアッ! ハアッ!」


 地獄の業火のごとく、爛々と輝く劫眼を見開き、女は笑う。

 対して少年は、荒い息と何者をも殺せそうな眼差しと、赤い涙を溢れ落ちさせる肉窟だけを返す事しかできなかった。

 しかし、女は気にした様子もなく胸元を見下ろした。

 そこには自身の体を貫く、長く黒い穂先。

 そこから流れるように視線をずらせば、白い蛇が絡み合うような柄を持つ少年の右手が見えた。


 彼は、満身創痍の姿だ。


 顔を覆っていた兜は粉微塵となり、身に纏った白い鎧は血まみれとなって引き裂かれ、マントのように背中に並んだ剣の群れも、そのすべてが折れるか欠けるかしている。猛禽の頭の形をあしらった肩当ても、狼の顔をした膝当てもヒビだらけになり、もはや鎧としての機能は無いに等しかった。

 さらに見れば彼の左腕は肩から先が無くなっており、左足も狼の顔をした膝当てから下が消失している。

 どちらからもおびただしい出血が続いており、ほどなく失血死するであろう事がわかる。

 そんな彼を支えているのは……強い意思の力。

 命を燃やし尽くさんとするほどの意思を見せる左眼と、空虚な洞穴と化して赤い涙を流し続ける右眼。

 それを見た女は、眩しそうに目を細めた。

『定命の者と侮ったか。いかにそれだけのアーティファクトに身を包んだとはいえ、血が薄まりきっている勇者に後れを取るとはのう……』

「ぐっ、ハアッ……ハアッ……」

 女の四肢には剣が突き立てられ、イブニングドレスのような黒衣もボロボロだ。

 そして、艶かしいほどに整っていたであろうその身に刻まれた大小無数の傷口から流れ出るのは、膨大なまでの魔力。


 無限の再生を可能とするはずのそれは、しかし、少年の槍の力によってこれを阻まれていた。

『……黄泉の女神にして冥界の女帝たる妾を討つためとはいえ、命を操る杖の力を武器とするとは……見事と言うしかあるまいのう』

「……はぁっ……は……ぁっ……」

『じゃが、それまでじゃ。それでは、妾を滅ぼせん。せいぜいが封印する程度じゃ』

 嘲笑うように言う女に、少年の顔が歪む。

 彼にも分かっているのだ。この結果が一時しのぎであることが。

『せめて戦乙女のひとり、ふたりでも連れておれば、また違う結果もあり得たかもしれんが……まあよい。この場はおぬしの勝ちじゃ』

 女は楽しげに笑う。

それと同時に、黒い穂先を中心として柔らかな光を放つ魔法陣が広がった。

 冥界の女帝を封じるための法陣だ。その力が、冥界の女神である女の侵食し、飲み込んでいく。

 その様子をちらりと見た女は、不満そうに少年を見やる。

『じゃが、このまま封じられるのも業腹じゃな』

「……な、に?」

 彼女の言に、訝しげになる。

 いまさら何をしようというのか?

 女帝の力はほとんど失われており、天界よりの知識で組み上げた封印の術式はしっかりと彼女を押さえ込んでいる……はずだ。

 失血から鈍った思考力を振り絞り、少年が答えを導き出すより早く、女帝は封から無理矢理引き剥がすように右手を振るった。


 少年は反射的に体をずらして避けた。

 抑えていた剣に半ば腕をちぎられるようにして冥界の女神が振るったのは闇の鎌。しかしそれはは少年の失われた左の手があった空間を薙いで終わった。


 だが、少年は同時に感じる喪失感に顔をしかめた。


『ふむ腕一本か。よいよい、封の中で愛でるにはちょうど良かろうて』

 冥界の女神の言葉にハッとして見れば、彼女の鎌に切り裂かれた半透明な左腕。冥界の女神はそれを手にして笑う。

 それが自らの喪ったものだと、彼は直感的に悟った。

「お、まえ……!」

 驚き、睨んだ彼の目の前で、黄泉の女神は透明な腕に舌を這わせてから笑った。

 そして急速に封印へと飲まれていく。

 無理矢理に力を振るったことで、抵抗が弱まったのだ。

 劫眼の女神は少年を見やりながら笑んだ。

『くく、戴いていくぞ? 人の子よ。汝が魂の一部。ふたたびまみえる時まで、じっくりと愛でさせてもらうとしよう。くくく、くはははっ!』

 哄笑を残しながら、封印結晶に包まれゆく女神を睨み、少年は歯噛みした。




 そして人知れず、人類はかりそめの平穏を手に入れていた。


 そして、新たな物語のプロローグ

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