scene.9
「そ、そんな……なんとかならないんですかっ!」
冥界とか仮初めの世界とか、地上が滅びるなんて突拍子もない話、普段なら信じられないけど、実際体験した以上は否定できない。
とすればあのミズガルズが無くなったら、本当に滅びるかもしれない。
僕はまだ死にたくないし、父さんや母さんにも死んでほしくない。友達やクラスメイトもだ。
そのためには。
「ぼ、僕ならなんとか出来るんですかっ?! その星々の力を操れるなら!」
さっきの説明から、そんな風に想像できた。僕にそんな力があるなんて信じられないけど、今までの説明が事実なら力は僕の中にある……はずだ。
それを知りたくて。
「教えてください響子さん。僕に何ができるのかを。みんなを死なせないために、どうすれば良いのかを!」
僕は勢い込んで響子さんに訊ねた。
「それは……」
「やめとけ」
僕に答えようとした響子さんを、関さんが遮った。
え? なんで?
僕は驚いて、彼を見上げた。
複雑な色をした瞳が、僕を見ていた。けどすぐに関さんは僕から響子さんへと視線を移してしまった。
「響子、俺はこいつを巻き込むために助けた訳じゃねえぞ? ミズガルズをどうにかするのは、巫女の力以外にも方法はあるはずだ」
「けどね関くん。ミズガルズを安定させるのには十二星座の巫女がその力を振るうのが一番確実よ? 知ってるわよね?」
「ああ、黄仁のやつが言ってやがったからな。だからってコイツ、文月を巻き込んでいいはずねーだろが」
オージン? 誰だろ?
初めて出てきた名前に首をかしげる。けど、ふたりは僕に構わず言い合いを続けてる。
「……それでも、ミズガルズを破壊するヘルヘイムの虚数の勇者に対抗できるのは、十二星座の力だけよ。今のところ、関くん達マスカレイダーズの誰もが虚数の勇者を完全には倒せてないわよね?」
「……何度だって追い返す。他の連中だって同じ考えのはずだ」
ミズガルズを破壊? 虚数の勇者? それに関さんみたいな鎧の戦士が他にもいるの?
ちょっと重要ワードっぽいものが二人の間で飛び交う。
これ、聞いてしまって良いやつなのかな?
でも、世界が滅ばないように存在するものを壊す人がいるなんて……。
僕は、意を決して二人へ向けて口を開いた。
「あ、あのっ!」
ソレと同時に、響子さんのタブレットから警報が鳴り響いた。
な、なに?
ビックリする僕を後目に、響子さんは端末を引っ付かんで席を立った。