おみくじ箱(箱物語6)
正月、三日目の夕方。
参拝者が減るのを見はからい、近所にある小さな神社へと初もうでに出かけた。案の定、日暮れ前の境内にはだれ一人いない。
鳥居をくぐり拝殿の前に立つ。
ポケットの小銭をさぐると、五百円玉と百円玉が一枚ずつ出てきた。
つかの間、オレは迷ってから……。
――こういうのは気持ちだもんな。
百円玉をさい銭箱に投げ入れて、ガラガラと鈴を鳴らし、柏手を打つ。
――今年はいいことがありますように。
毎年のことながら具体性のないお願いである。どっちみち百円ぽっちでは、たいした願いは叶わないだろうが……。
――あれっ?
さい銭箱の横、おみくじと書かれた朱色の箱のあることに気がついた。
高さ三十センチ、幅はその半分ほどで、側面にレバー。上部にはコイン投入口、下には釣り銭の取り口とおみくじの受け皿。
おみくじの自動販売機である。
――今年の運勢はどうかな?
ためしに引いてみるに気になった。
コイン投入口のそばに、百円と印刷されたシールが貼られてある。ポケットにあった五百円玉を投入口に入れ、レバーを手前にゆっくり引いた。
ガチャッと音がして受け皿に、クルクルに巻かれた筒状のおみくじが落ちてきた。
おみくじを取り、釣り銭の取り口に指を入れる。
――うん?
五百円玉がなぜかそのまま落ちていた。
――正月からエンギがいいな。
すごいトクをした気分になった。
さっそく、おみくじを開いてみる。
毎度のことながら小吉だった。
――もう一枚、引いてみるか。
もう一回やっても百円ですむ。
オレは五百円玉を入れてレバーを引いた。
おみくじが受け皿に落ちる。
開いてみるに今度も小吉である。そして釣り銭の取り口には、またもや五百円玉があった。
――故障なの?
悪いとは思ったがさらにおみくじを引いた。
またしても五百円玉はそのまま、こいつはカンペキにこわれている。
三度目はワンランクアップの中吉だった。
大吉への期待がにわかにふくらむ。
――どうせタダなんだしな。
オレは大吉が出るまで引くことにした。
四度目。
一発で念願の大吉が出た。
――やったね。
釣り銭の取り口に指を入れる。
――うん?
落ちていたのは百円玉だった。
トーゼンといえばトーゼン、計算はちゃんと合っている。一回につき百円のおみくじを四回引いたのだから……。
ケチったさい銭の差額――その四百円をおみくじで回収された。
抜け目のないおみくじ箱である。
――まあ、ヨシとしなきゃあ。念願の大吉が出たんだからな。
大吉のおみくじを手に、なぜかオレはすがすがしい気持ちで神社をあとにした。