空から落ちて来た少女2
「あたし、ユーリィって言います」
僕や担任のマキ先生、
モジャ船長やシマヅのおっちゃん
他にも深夜なのにも関わらず
多数のトリマシマ住人が集まった広場の中心で
その娘は臆せずに自己紹介した。
「生まれはスイ・アングァ・タム星国の第三人口衛星都市モズモです」
見物人がザワザワしだす。
当たり前だ。そんな星、誰も聞いたこともない。
振り返ると博識のモジャ船長も戸惑った顔をしている。
冷静なマキ先生が前に進み出て
「良かったら、あなたの目的を教えてもらえるかしら」
その問いに少し考える様子をしながら、
ユーリは口を開いた。
「二つあります」
「一つは地球に残された聖遺物の回収です」
その言葉にまた広場はざわつく。一体何の話しているんだ。
ユーリは広場のざわつきが静まるのを待って
もう一つの目的を話す。
「もう一つは、あたし達イメージ体から再生成された合成人による
地球と地球人類の再生です」
皆が混乱している中で
モジャ船長が一歩踏み出す。
「いまあんた"イメージ体"と言ったかね」
ユーリは口を結んで、鋭い眼光のモジャ船長をまっすぐ見ながら頷き返した。
「マキ先生、俺も実際見たわけではないが
大破壊前の平和な時代に
異星人との接触の記述でそういう話が確かに、ある」
「ふむ……ということはですね。
ユーリィさんは異星人から言われて
この地球に来たのですね?」
「ええ。ダー・グラムジオラス環境長官から派遣されました」
完全に話がぶっ飛んでいて
みんな黙ってしまった。
マキ先生が町の長老達やモジャ船長、
シマヅのおっちゃんが囲んで何やら話し出した。
僕は、大人たちと向かい合って気丈に振舞っているユーリに
近づいて話しかける。
「大丈夫?」
「うん。平気。このくらい大したことない」
下を向いて口を結んだユーリィを見て
無理してるな……と思ったが
僕は余計なことを言うのを止め
「あとで話せる?」
とだけ聞いた。ユーリィは僅かに首を縦に振る。
大人たちの合議が終わったらしく
マキ先生がユーリの前に進み出て
「あなたを拘束します。手荒な真似はしないので心配はしないでね」
「えっ……あたし、時間が……」
戸惑うユーリは、屈強な警護担当の大人たちに囲まれて
トリマシマ庁舎へと連行されていった。
僕はモジャ船長に詰め寄る。
「なんで……!」
モジャ船長は僕を上手くいなしながら
「仕方ないんだよ。我々の町によそ者が来たのが百五十年ぶりだし
彼女が本当に異星人なら、そういう人たちがこの国に来たのは
たぶん、大破壊後初だ。……まずは事情をちゃんと聞かないと」
「……」
一旦は大人たちが言うように
自室に戻りベッドで眠りに着こうとしたが
窓を空けて、彼女が落ちてきた方の空を見ていると
夜明けでゆっくりと白んでいく。
僕は気がついたら自然とベッドから起き上がって
外行きの装束に着替えていた。
ショルダーバッグにありったけの携帯食料とお金を詰めて背負い
ドアを静かに開けると
夜明け前の町の中を、庁舎へと全力で走る。
息切れしながら走り続けると
七階建てのトリマシマ庁舎が見えてきた。
庁舎と言っても大破壊前に建てられた
強固な合成コンクリートの骨組みを利用した
巨大なバラックみたいなもので
ほぼ誰も悪いことはしないので、
入り口は四六時中開けっ放しだ。
広い玄関ホールに足音を立てずに入りながら
僕は考える。この建物で人を拘束できるようなところはどこか。
……三階の会議室だな。
むき出しのコンクリートで出来た階段を昇り
三階の廊下に出る。おっと見張りだ。
壁から覗き見ると、寝ているみたいだ。
よし、一気に走り寄り、コッソリと
見張りのおじさんのズボンのポケットから鍵を貰う。
数種類あってしばらく鍵を合わせるのに戸惑ったが、
ガチャっと鍵が回ると、
ドアを開けて室内に滑り込んだ。
僕はボロボロの木製長机が並ぶ室内を見回す。
いない……!?
部屋を間違ったか、くそっ。
シクシク……
誰か泣いてる。ユーリィー……?
部屋の角でうずくまってユーリィーは泣いていた。
僕の顔を見て、素早く腕で涙を拭う。
僕は彼女に手を差し出した。
「行こう」
彼女は何も言わずにその手を握り返してきた。
僕らはドアを開け、鍵をおじさんに返して
ユーリィにフード付きの作業用マントを渡して、着てもらい
階段を飛ぶように降りていく。
急がないと、始業時間になってしまう。
トリマシマの朝は早いのだ。
そのまま、僕らは庁舎を抜けて
"カブ"の収納されている格納庫へと走る。
手を引いているユーリィ。
心臓が痛い、けど……何か楽しい。
いま大人たちに沢山迷惑かけているけど
僕はこの子と居たい。
この子の行きたい場所へ一緒に行きたいんだ。
鍵の無い倉庫の扉を開けると
埃っぽい格納庫の中に
沢山の"カブ"が並んでいるのが見える。