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2014

世界のルールが変わったのはちょうど十年前だったか、

世界中の大都市上空に巨大UFOが飛んできて、

彼ら異星人たちは、世界各国の首脳と会談を果たした。


異星人との交友は、意外にもスムーズに進んだ。

彼らは威圧的でもなく、地球人の科学や哲学的な疑問にも

文化干渉やオーバーテクノロジーにならぬ範囲で

可能な限り答えてくれ、地球の文明は一気に進んだ。

放射能除去や、クリーンエネルギーの使用

そして画期的な緑化の方法や、如いては惑星との付き合い方などを彼らは教え

さらに再びの宇宙進出への手助けもしてくれた。

地球人の宇宙連邦加盟は、あと数百年は審査に時間がかかると言われたが

それについても彼らはひとつの手助けをしてくれた。


「ある条件」の者を短期的(とはいえ数十年単位である)な宇宙文化留学に行かせても良いと

許可を出してくれたのだ。


その条件とは……






俺は、その条件に合致する人を探し出して、

政府に報告するいわゆる"マンハンター"と言われる仕事をしている。

とはいえ、手錠をかけたり拘束したりする仕事ではないし

物騒なことは基本的にはやらないし、やりたくもないのだ。

基本的には、彼ら……俺たちは"留学生"と呼んでいる、

条件に合致する人たちとお会いして、話を聞いて了解が取れたら

政府系の専門機関に連れて行くということにしている。

政府も我が国から一人でも多くの宇宙留学生を出したい躍起なのだ。

まあ、話下手なんで論より証拠だな。

仕事ぶりを見てもらうか。


「うぃーす」

街角の汚い四階建てビルの三階にある狭いオフィスの古いドアを軋ませて開ける。

よれよれでヤニだらけの背広と薄汚れたシャツだ。

街ですれ違っても誰も俺が働いているとは思わないだろう。

「ずいぶんな重役出勤ですね」

「うるせぇタイムカードもないし、月ごとの成果のみで評価されるんだから

 どうでもいいだろ」

このクソ嫌味なメガネは重持武樹、皺一つないスーツで朝一に出勤してきて

この狭い事務所の清掃から雑務から外回りの補助まで何でもやりやがる有能なやつだ。

ただし口が悪い。俺のほうが悪いという説もあるが

こいつの嫌味や皮肉には敵わない。

「山内と高井は?」

「業務中です」

「ふーん。仕事熱心だね」

「守口さんほどでは無いですよ」

な?性格悪いだろ。何か言うとすかさず嫌味が飛んでくる。

俺のゴミ塗れのデスクの椅子に座り、市内の情報雑誌を読み始める。

あー仕事したくねぇ。旨い飯食いにいくかなー。

窓からビルの外を眺めると青空が綺麗だわ。

ゴミ塗れのデスクに肘をついてぼーっと空を見ていると

クソメガネから嫌味が飛んでくる。

「守口さんの借金ってまだあるんですか?」

「うるせーお前には関係ねーだろ」

「妹さんのために働かなくていいんですか?」

そうなのだ。俺の妹は末期のすい臓がんだったのだが

エイリアンどもの供与した新技術で何と完治してしまった。

ただし保険適用外で膨大な借金が残ったけどな。

目玉の飛び出る額の借金に困っていた俺に

病院が紹介した仕事がこれ。

何でもコネがあり、異星系医療の費用が払えなくて困っている家族には紹介するんだと、

国から病院に支給される紹介料と

あとは高額な給料から自動で病院側に一定額引き落とされる仕組みらしい。

なんかどう考えてもヤクザに借金塗れにされて

嵌め込まれる多重債務者みたいなイメージなんですけど。

おかげで働いても働いても、俺には何とか暮らせるくらいの生活費くらいしか残らねえ。

まあ、妹は元気になったから許すけどよ。

とはいえ通院もまだ必要だしなー。あーめんどくせえけど仕事すっか。


「で、重持、今日の案件を教えてくれ」

「やっとエンジンかかりましたね。今日は守口さん用のは一件です」

「どこいきゃいいんだ」

「市内西部の山奥ですね。海も見えるし景色いいと思いますよ。データは携帯に転送しときます」

「本人やご家族に事前連絡はしたのか?」

「ええ。一応許可はとっています」

「武装や護衛は無し?」

「はい。安全だと思いますし、安全じゃなくても守口さんなら問題ないでしょう」

「おいおいおいおい。こないだ何針縫ったと思ってるんだ」

「上層部からも生命力判定はSと言われてますし、こちらとしてもコストは低く抑えたいですから」

「お前が何言ってるのか俺にわかんねえよ!!

 ……あーもう辞めてぇ……」

「とにかくあなたを待っている人が居ます。がんばってくださいね」

クソメガネはそう言って俺に微笑みながら端正な顔でウインクしやがった。

はいはい、行ってきますよ。どうせ俺は使い捨ての兵隊ですよーだ。



市内の中心部を俺のボロの軽自動車でトロトロと走り抜け

海辺の広い国道から、わき道に入り離合するのに注意が必要な山道を登って行く。

思っていたよりは整備されているな。

アスファルトで舗装されているだけマシだわ。

段々畑にみかんが生っているのが見える。

そういやみかんは今年は不作だな。農家の人も大変だわ。

ずーっと車でを登っていくと、山道を切り開いて作ったような開けた集落に入った。

所々に畑があり、家も十数件ある。作りから見て七十年代や、八十年代に作られた家だろう。

廃屋も数件見受けられるな。こんな山奥なら過疎化も仕方ないか。

車から降り、山の向こうを見渡すと遠くに海が広がっている。

まだ昼間だし、晴れていて景色もいいな。

えーと、一番上にある家だっけか。携帯に表示された地図画面をいじりながら集落の中を登って行く。

あーあったあった。けっこう大きな家だな。

七十年代くらいに作られた古民家って感じだな。位置的にもけっこう名士だったんじゃないか?


「ういーっす。電話した守口でーす」


玄関のベルを鳴らすと同時に

キーンッという鋭い高周波を耳が捉える。

うえっ、頭痛い。こりゃダメだ。レベルA以上だな。

応答が無いので、鍵の開いている玄関を開ける。

同時にスマホを出しても重持に電話をかける。幸いなことに電磁波障害はないようだ。

「おいクソメガネ!!A以上とは聞いてねえぞ!!」

俺は恐怖心を払いのけるように重持に怒鳴る。

「ふっ、よかったですね。ボーナス高いですよ。……生きて帰れば」

あいつ絶対帰ったらぶち殺す。と思いながら俺はスマホの電源を切った。

重々しい木作りの、階段を慎重に二階へと上がっていく。

長い廊下を歩いて、一番奥の部屋のドアの前に俺は立った。

息を吸い込み大声を出す。


「どうもー!!!イノベーションスクリーン社の守口と申しまああす!!」

「宇宙開拓特例法により、政府から依頼を受けまして

 菅沼タケルさまをお迎えにあがりましたあああ!!

 開けてもよろしいでしょうか!?」


キーンという音が耳奥で鳴り、俺は思わず耳を塞ぐ。

クソッ、金のためだ!!負けてらんねえ!!


「安全上の問題が発生したので蹴破ります!!これは合法であります!!」


俺は力任せに思いっきりドアを蹴破った。

ドガアアアアアアアアアアという音と共に長方形のドアが部屋の中へと倒れていく。







   おにいちゃん






部屋の中には何も無い真っ白な世界が広がっていた。

そこには見たことの無いおかっぱの幼女が俺の目の前に立っている。






    何しに来たの?





「君を連れて行く」





    やだよ。おにいちゃん。おそぼーっ




ちっA型種の超攻撃型じゃねぇか。重持のクソ野郎……

思うが早いか俺は幼女から離れる。

後ろを振り向くとデータでは五メートル四方程度しかないはずの部屋が

延々と続く白い世界になっていた。

「くそが、もう思念界の中か……」





    おにいちゃん ありんこみたいー




見上げると、数十メートルの怪物のような身長になった幼女が

おれをぶっとい人差し指で弾く直前だった。

「ちっ……"シールド展開レベル6"!!!」

寸でのところで俺はその指から弾き飛ばされずに済み、

逆に俺の身体に触れた幼女の指が消し飛ぶ。

きょとんとしている幼女は元の大きさに戻り、

不思議そうに俺を見る。

チャンスだな。

「えっとですね。私はイノベーションスクリーンの守口と申します」

「……?」

「お客様のご両親からご依頼がありまして、

 あなたさまをお連れするのが私の役目でございます」




   ……連れて行く?




幼女の顔が曇り、真っ白だった世界に今度は雨が降りはじめる。

「誤解がないように説明させていただきますとですね。

 我々は菅沼タケルご本人様では無く、

 今目の前に居るイメージ体のあなた様だけを

 宇宙旅行へとご招待する仕事でございます」




    う…宇宙?あたしだけ?




豪雨に変わりかけていた雨が次第に止んでいく。

「ご理解いただけるようでありがたいことです。

 つきまして申し訳ありませんが、

 しばらくお眠りいただきます」

警戒させないようにニコニコしながら俺は幼女を指差して呟く。

「……"捕鯨網レベル17"」

とたんに俺の全身から巨大な網が幼女へと覆いかぶさるように射出され、

その網の中へと幼女は消えうせた。

シュルシュルと網を回収したころには周囲は

缶ジュースや酒瓶とゴミの山の中に

太って禿げかけたおじさんが大の字で伸びているのが見えた。

若干心配ではあるが、

これ以上の手出しは法の定めた俺の仕事の範疇を越えている。

俺は手早く病院へと連絡を取り、家から会社へと引き上げた。

くわばらくわばら。

こんな大物じゃなくて、俺は小さな獲物だけをチマチマ狩って稼ぎたいのだ。

戻ったら重持のクソメガネ絶対〆てやる。

そう思いながら俺は会社へとボロの軽を走らせる。

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