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これはいったいどういうことだろう。
目を覚ました佐和子は同じベッドに寝ている隼を見て目を見開いた。
しかもトイレに起きた記憶もないし、いつもよりもぐっすり眠れた気がするのが不思議だ。
抱きしめられたような状態で眠っていたようだが、なぜだろう。隼の体温が心地いい。
嫌な気持ちは沸いてこない。起きなきゃと思いつつ、二度寝してもいいかなと思ってしまうあたり私は寂しかったのだろうか。
このままというわけにもいかないし、隼を起こす。
うーんと伸びをして目を覚ました。
「佐和子さんおはよう」
「おはよう。どころじゃない。この状況を説明してくれるかな?」
「えー。佐和子さんが急に泣き出したので慰めようと思いまして、この状況です」
「え」
夢を見たような記憶はない。いつも眠りは浅い方だし、アパートの物音にも敏感ですぐ起きるのに、隼がベッドに潜り込んできたのに気付かないなんて信じられなかった。
「と、とりあえず起きてくれる?」
「あ、そうですね。起きますね。もったいない気もしますが」
もったいない?何が?隼の言っていることが分からなかったが、とりあえずささっと着替えを済ませ、簡単な朝食を作る。
ハムエッグと野菜の買い置きがないのでまた野菜ジュースで勘弁してもらって、あとはパンと珈琲を用意する。
顔を洗ってきた隼がいただきますと言い食べ始めたが、この部屋で会話をしながらご飯を食べるのが不思議すぎて、少しぼおっとした。
食器を片づけ、メイクを済ませる。
朝八時。二人は車に乗り込んだ。朝のあの状況を気にしないようにするのが大変だった。
「そういえば帰りの新幹線は何時なの?」
「夕方の六時くらいまでに大曲駅にいれば大丈夫だと思うけど」
「じゃあその時間まで駅まで送るね」
「いいの?」
「今更遠慮することないよ。昨日は泊まったんだし」
隼の寝顔を思い出し、頬が熱くなった気がした。
「お言葉に甘えさせてもらいます」
またぺこぺことお辞儀をする隼が可愛く見えて自然と笑顔になる。
勢いよく運転を始めた佐和子だったが、男の人と二人きりで何を話そうかと考えれば考えるほどにテンパっていく。
「佐和子さん、緊張してる?」
隼から言われハンドルを握る手に力が入る。
「そう見える?」
やっぱりそう見えるだろうなと佐和子は自分にがっかりする。
「肩にすごく力が入ってるように見えます。実は男の人と出かけたことないとか?」
「なんでわかるかなあ。一度もないわけじゃないけど」
あの彼と出かけたのが一度だけ。その時も緊張しまくり、食事も美味しくないという始末。
恋愛には不向きな気質なのかと思ったくらいだ。
車の運転を変わると言う隼に佐和子は、保険は自分でしか契約してないから駄目だという。
「真面目だね佐和子さん」これは当たり前です。とピシッと言うと、隼はふっと優しく微笑む。それを見て佐和子の胸はとくっと鳴った。