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隼は先に温泉から上がり、写真を何枚か撮っていたようだった。
夜までにはまだ時間があったため、隼の行きたい場所の話しで盛り上がった。
男性とこんなに話しができるとは佐和子は思っていなかった。
うっすらと暗くなり始めたころ、隼はカメラを構えて撮りはじめた。
その真剣な横顔に佐和子は目を奪われた。先ほどまでの屈託なく笑う姿とは打って変わって、凛とした姿。隼のそばから離れないようにしていた佐和子のことなど忘れているだろう姿にも心惹かれた。好きなことに真剣に取り組めることに羨ましさと尊敬とが入り混じって隼から目が離せなかった。
気が付くと真っ暗になっていて、宿の部屋のランプが幻想的な雰囲気をかもし出していた。
「あっ」
足元が暗くなったため、佐和子は何かにつまずいた。
その佐和子の声に我に返ったのか、隼が佐和子を支えた。
「佐和子さん大丈夫?ごめん。俺自分のことにばかり集中しちゃって」
「うん。大丈夫。真剣な隼素敵だったよ」
照れているようにも見えるが、暗くランプの灯りで分かりにくいのが残念。
すっとバックを持っていない方の手を握ってくれて、手を引いて歩き出した。大きく暖かい手に包まれていると、ドキドキ感より安心感の方が上回っていることに佐和子は戸惑った。今日初めて会った人なのに。
明るい場所まで手を引かれてきた。彼はどこか怪我をしていないかと足元を見た。
「どこか痛くない?」
「ちょっと躓いただけだから大丈夫だよ」
「ごめん。俺夢中になると周りが見えなくなるときあるから。気を付けようと思ってもなかなか変えられるものでもないみたいで」隼は申し訳なさそうに佐和子を見つめた。
「そんなに気にしないで大丈夫だから。何か夢中になれるものがあることはいいことだよね。私も何か見つけたいと思っているけど」
夜になり、かなり肌寒くなってきた。佐和子は肘のあたりを擦った。山間部は思っていたより冷える。
「寒くなってきたからとりあえず車に」
佐和子は隼を車に乗せた。
「隼は今晩どうするつもりだったの?そういえばどこから来た人なの?」
何か言いにくいことでもあるのか隼はしばらく答えなかった。
「俺東京から」
「じゃあ、新幹線で来たの?」
「そうです。実は今日泊まるところは決めてなくて、さっきここも空いてなかったし」
「大仙市の駅付近のホテルなら空いてるとは思うけど。そこまで送ってあげるね」
佐和子はエンジンをかけた。「シートベルトして」と隼に伝えて車を発進させた。
「佐和子さん夕飯どうするんですか?」
「私、昨日作ったカレーがたくさんあるからそれ食べないと」
カレーは作るときまとめて二日分は作る。土日で食べ終わるようによく作るので、まだかなり残っている。