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鶴の湯は思っていたより観光客が来ていた。シーズンオフでも来ているんだなと改めて実感した。隼は車を降りてからすぐ入口付近の写真を撮っていた。
一通り撮り終えたのか佐和子のそばに戻ってきた。
「夜の灯りの様子も撮りたかったけど、さすがになあ」
「部屋空いてるか聞いてみたら?」
「空いてないと思うなあ」
「だめだったら諦めたら?」それもそうだなと言いながら隼は受付に入っていった。
意外にも浴衣を着たカップルが多いのでびっくりした。年配の方々が主だと思っていたのだ。寄り添って歩くカップルを見ると不覚にもまたあの彼を思い出してしまう。
しばらくすると隼が受付から戻ってきた。
沈んだ様子に見えたので部屋は空いてなかったのだろう。
「やっぱりいっぱいだった」
「だろうね。土曜だし」
「でも温泉は入っていこうよ。佐和子さん来たことなかったんでしょ?」
「でも何も持ってきてないよ。着替えとか」
「泊まるわけでもないし大丈夫だよ」
「分かった。でも混浴には入らないからね」
「えー」と、残念がる隼を見ていると不思議な感覚に襲われる。ころころと表情が変わって見ていて飽きない。
隼は不思議な人だ。
「じゃあ早速温泉入ろう」
ぐいっと佐和子の右手を握って受付にぐんぐんと向かう。こんなに自分のペースを乱されるのは初めてなのに、意外と不快に思っていない自分に驚いた。
女湯に浸かりながら佐和子はほおっとため息をついた。
勢いでここまで来てしまったが、やっぱりいい気晴らしにはなったようだ。本当に白い温泉なんだなとか、湯の花って結局何なんだろうとか、別のことを考えていれる時間が必要だったのだろう。
これでまた月曜から仕事できそうだなと、少し気持ちが落ち着いてきたことに佐和子はほっとした。