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車を走りだしてからそういえばと隼に告げた。
「このあたり昼食食べるような場所ないけど、どうする?」
「そうなんですか?」
「稲庭うどん食べられるところは在った気がするけど。どこだったかな」
「だったらコンビニのおにぎりで。佐和子さんはそれでもいい?」
「私もよくやるからそれでいいよ。じゃあコンビニ寄ってから鶴の湯に向かうね」
「了解です」
佐和子は不思議な感覚を味わっていた。助手席に男を乗せて走ったりしたことがなかったなとふと思った。今まできちんとした付き合いをしたことがなかったし、言い寄ってくる男は変わった人ばかりだった。どうも押されると引くタイプらしく、どんどん好意を強く押し付けられると拒否反応が出るのかどうしても会ったりすることができなかったのだ。
隣にいる隼は二十七とは思えないくらいの明るさで写真を撮ることが楽しいという気持ちが前面に出でいるためか、男なのだがあまり意識しないでいられた。佐和子自身にある暗いイメージとは対照的な彼が少し眩しく見えた。
なんとなくしか鶴の湯までの道のりを知らなくて、結局隼にナビしてもらった。
「女の人って地図読めないって聞いたことあったけど本当なんですね」
珍しいものを見るように私を見つめてくる彼に動揺した。
「一度自分で運転した道なら大丈夫なんだけど。ごめんね。案内するとか言ってたのに」
「お願いしたのは俺だし。いいじゃん。そのくらいの方が可愛いよ」
「え?な、何言ってるの?」
「照れた顔も可愛いね佐和子さん」
「からかわないで」
頬が火照って仕方ない。軽い冗談で言っていると分かっているのに何故か冷静ではいられなくて怒った口調になってしまう。しかしその怒った話し方も隼のツボかなにかにはいったのかしきりに笑っている。気が付くと佐和子も笑っていた。隼の笑顔には何か佐和子の不安を取り除いてくれるものでもあるのかと見惚れてしまうくらいだった。