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臆病ウサギ宅へと

 こうしてクローバーの花言葉を書くことで博識なのをアピールしていくスタイル。

「く、クローバー? え、あれって草じゃねえの?」

「いや、そんなこと言い出したらアイビーだってそうでしょう。それに、しっかりとありますよ。クローバーにも花言葉」

「ふーん……」

 そこで柵さんは何故かおもむろにポケットから携帯電話を取り出し、しばらく弄っていた。何をしているのかと思い画面を覗き込むと、思いっきり検索していた。

「いや何自分だけ検索してるんですか!」

 僕が検索しようとした時は電波を繋いでくれなかったのに、自分の時は思いっきり検索するとか、どれだけズルいんだ。

「はい、没収です」

「あ、私の携帯! むう……後で返せよ?」

「分かってますよ」

 僕は柵さんから没収した携帯電話をポケットに仕舞う。しかし柵さんは本当にわからないらしく、うんうんと唸った末、諦めたように手を上げた。

「うう、降参だ。答えを教えてくれ、瓦礫。てか、クローバーに花言葉があること自体初耳だったのに、分かる訳無いって」

「ふむ、まあそれもそうですねえ。よし、じゃあ、答えをお教えしましょうかね。あ、これ携帯電話です」

「ん」

「では、答えですが……」

 僕はいつも柵さんがするようにいやらしく口角を吊り上げ、笑う。

「クローバーの花言葉は、『復讐』ですよ」

「……へえ、復讐か。じゃあ、さっさと助けないとな?」

 そう言って、柵さんは何故か花壇のアイビーの蔦を掻き分ける。初めは僕も一体何をしているのか分からなかった。が、しかし柵さんがその蔦の分け目から引き千切った物を見て、ようやく意味が分かった。

 柵さんがアイビーの中から取り出したのは、葉が一枚だけのクローバーだった。

「こんな風に、兎鎖木ちゃんもどうやら深層心理では――いや、他の人格は、殺したい程憎んでいるらしいぜ」

 葉が一枚のクローバーをひらひらと僕の眼前で振りつつ、言った。

 さて、こうして僕と柵さんの花言葉バトルは勝敗も分からぬまま、時間の止まっている兎鎖木ちゃんの家へと侵入していた。しかし侵入したとは言っても、別に扉をぶっ壊したり、窓ガラスを割って鍵を開けたり、ましてやピッキング等という高等技術を使用した訳でもない。なに、簡単な事だ。

 無論、柵さんの魔法で内側に自分の分身を作り出し、そして開錠した。ただこれだけの事である。と、まるで普通の事であるかのように言えてしまう自分が怖い。本来なら驚くのが正しい判断なのだろうが、時間を止めるというとんでもないイリュージョンを目の当たりにして、今もその最中だと、全く凄くないことに思えてしまうから、不思議だ。

「へえ、本当に魔法って便利なんですね。改めて、感動しました」

 僕はまるで自分の家のように堂々とノブを捻って侵入する柵さんに対しての皮肉として言ったのだが、しかし柵さんは僕が純粋に柵さんの能力を褒めたかのように嬉しがった。

 重ねて言うが、僕は全く、褒めていない。

「え、そうかな? ふふふ、何か恥ずかしいなあ……」

 しかし、この反応である。

「まさか瓦礫が私の事をそんなに尊敬していたなんて、私は嬉しいぞ、瓦礫!」

「分かりました、分かりましたから抱き着かないで下さい。当初の目的から大分脱線してますよ、柵さん」

「目的? 知らないぞ」

「あんたどれだけその時のテンションで生きてんだよ!」

「私は瓦礫をこうしてハグする為だけにタイムスリップをして、兎鎖木ちゃんの家へ来たのだ。さ、帰ろうか」

「待て待て、手間が掛かり過ぎだろ! ハグなら帰ってから幾らでもさせてあげますから、今は先に様子を見ましょうよ!」

 果たして柵さんはそれが初めからの目的だったのではと疑いたくなる程に僕を離した。しかし、無理矢理解いて拗ねられるよりは、いささかマシだろう。現に柵さんは僕より身長が大きく、というか僕が高校生にしてはかなり小さく、柵さんに軽々と持ち上げられてしまうのだ。そして今回はその状態で本当に玄関へと向かっていたのだから、多分本気で帰るつもりだったのだろう。

 今更だが、何で僕は自分より年上の義母が拗ねないように振舞わなければいけないのだろうか。こういうのは父が適役だと思うのだが……。

 とにかく、降ろして貰った僕は柵さんに何故か頭を撫でられながら、非常家のリビングへと入った。

「……リビングは、思ったより綺麗ですね。やはり兎鎖木ちゃんが掃除しているのでしょうか?」

「ああ、そうかもな。どうせ、そのクソ親父が兎鎖木ちゃんを奴隷として使ってんだろうな。もしくは、兎鎖木ちゃんが凄い綺麗好きか」

 まるで漫画で姑がやるように窓の桟を指でなぞり、僕に見せてきた。しかしその指には埃一つ付いてなく、どれだけ兎鎖木ちゃんが本気で掃除をしているのかが分かった。いや、どうせこれも、そのクソ親父こと兎鎖木ちゃんのパパが兎鎖木ちゃんを脅し、掃除や家事炊事をさせているのだろう。そう考えると、素直に綺麗だと思えない。いや、それよりも。

「あの、柵さん」

「ん、どうした。何か見つけたのか?」

「……これ」

「BB弾、だな。あちこちに転がってるから、恐らく兎鎖木ちゃんの親父が打ったんだろうな」

 そう言われて僕もフローリングを良く見ると、黒色のBB弾があちらこちらに散乱していた。そしてそのBB弾はどうやら二階へと続く階段から転がってきているようだ。それにしてもこんな平日の真昼間から家で? と思ったが、しかし日捲り式のカレンダーを見ると、日曜日だったので、どうせ兎鎖木ちゃんのパパも仕事が休みなのだろう。

 僕は柵さんに二階からBB弾が落ちてきている事を伝え、柵さんは一階で、僕は二階でそれぞれ、兎鎖木ちゃんとそのパパを捜索することにした。

「……でもこれ、兎鎖木ちゃんがいなかったらどうしようもないんだよなあ」

 特にここまで柵さんに連れられてのうのうと来た僕だが、しかし一人になって改めて考えて見ると、兎鎖木ちゃんがいたとしても一体どうしたら良いのか、というかそもそも兎鎖木ちゃんが友達と遊びに行っていたらどうするのだろうか。いや、その点は問題ないだろう。少し門限が遅れた程度で首を跡が残るまで締め付け、あまつさえエアガンを部屋の中で打ちっ放しにするような人間が、兎鎖木ちゃんの友達と兎鎖木ちゃんが遊びに行く事を認める訳がない。それに、柵さんだってまさか兎鎖木ちゃんが不在の時にタイムスリップをする程、馬鹿ではないだろう。……いや、もしかしたら馬鹿なのかもしれないが、その場合は柵さんに何度でも何度でも、兎鎖木ちゃんとパパが一緒の時を狙ってタイムスリップして貰うだけだ。それ以外に手段はない。それに、時間なんてたとえ百年掛かっても、柵さんの魔法でどうにかして貰うだけだ。よもや世界中の時間を止められて、僕如きの時間を巻き戻せない訳がないだろう。

 さて、そうして僕は落ちているBB弾を踏まないように気を付けながら何とか登りきり、息を吐く。しかしいつまでもこうしてのんびりしていると、柵さんが一階の捜索を終えて、二階に来てしまう。その時に一切部屋を捜索していなかった場合、柵さんは絶対に罰と称して、僕に何かしらの欲求をしてくるだろう。というか、これまでの件で既に幾度となく、されている。だから、絶対に柵さんがやってくると、断言できるのだ。

 そう思って二階の寝室の扉を開けるが、中には二人の姿はない。だがしかし、代わりに少し面白いものを見つけた。

「これは……M16に、AUG? それも、結構な威力だな……」

 恐らく兎鎖木ちゃんのパパの物であろうそれは、パパのベッドに置かれていた。ガスの注入口がある時点で大体威力はエアガンよりも強いとは想像していたが、しかし、それ以上だった――というか、打った壁にめり込んだ。しかし何故か寝室の壁にはあちこちにBB弾が同じように埋まってあるので、まあ、ばれないだろう。

 僕はそっとAUGを元あった場所に置くと、そのまま寝室を出た。その際に一応ベッドの下も覗き込んで調べたが、よもや斧男よろしくベッドの下に潜り込んでいる訳ではあるまい。

 そうして寝室を出た僕はドアを元通りに閉め、それからその横にある部屋に入った。二階はこれ以外にも反対側にもう二つドアがあるのだが、しかしこのドアの隙間からBB弾が転がってきているらしい。てっきり僕は先程入った寝室からBB弾が転がってきているのだと思っていたが、しかしどうやらこの部屋らしい。もしかしたら寝室は就寝前にエアガン――もといガスガンを分解して掃除しているのだろうか。僕も寝る前には一人で将棋をしたり、駒や碁盤を掃除したりするから、あり得ない話ではないだろう。

 僕はそんな事を思いつつゆっくりドアを開ける。そして、言葉を失った。

 そこでは、壁から伸びる無骨な鉄の鎖と腕輪に繋がれた兎鎖木ちゃんが動きを封じられて土下座し、その兎鎖木ちゃんに向かって、改造されているであろうM870を打っていた。どうやら階段から転がっていたのは全てこのBB弾らしく、今もまさに発車した直後らしく、空中でBB弾が三発、静止していた。そしてそれを目撃してしまった僕は、階段を急いで降りた。その際に幾つもBB弾を踏んだが、それどころではないし、そんなことに構って

いる程暇でもないのだ。

「さ、柵さん、見つけました!」

「本当か!?」

 何故かお風呂場を捜索していた柵さんに声を掛けると、柵さんは勢いよく立ち上がり、僕の頭を撫でた。僕は犬かよ。

「で、どこだ?」

「こっちです、着いて来て下さい!」

 そして再度僕はBB弾を無視して登ろうとした。が、しかし、柵さんに報告して、頭を撫でられたことにより幾分か落ち着いていて、普通に痛かった。そしてその痛みを何とか堪えつつ後ろを振り返って柵さんに注意しようとしたが、しかし柵さんは普通によけつつ、慎重に来ていた。

 何だか、勢い良く上った僕が凄く馬鹿みたいだった。

 と、そんな風に若干僕が恥を掻きつつも何とか二階へと到着し、寝室の横の部屋に来ていた。

「そういえば、この部屋って何のための部屋なんでしょうね? 見た所、ガスガンは寝室に飾っていましたし……」

「ふむ、確かにな。……いや、でもこの部屋には鎖を繋ぐためのフックのような物があるんだから、折檻部屋じゃないか?」

「だとしたら、この摂関部屋の向かいはさしずめ、監禁用の部屋とトイレでしょうか?」

 と、そんな事を言いながら柵さんは相変わらずの魔法で腕輪を開錠していた。どうやらこの腕輪は南京錠で閉まっていたらしいが、その南京錠も柵さんの前では全く意味を成さないようだ。ここまで来ると最早無敵ではないのだろうか。

「って、良いんですか?」

「何がだ?」

「いや、腕輪を取っちゃって。だって、警察を呼ぶんだったら証拠になるでしょう?」

「いや、別にそんな物を取った程度じゃ、日本の無能な警察共も流石に分かるだろ。それこそ、監禁部屋や兎鎖木ちゃんの身体の傷とか、他にも証拠は沢山あるぜ」

 そういって、土下座の状態の兎鎖木ちゃんの背中の服を捲る。その行動に思わず僕は目を背けてしまったが、しかし柵さんも流石にこんな所でふざける程馬鹿ではないだろう。と自分に言い聞かせ、恐る恐る目を向けた。

「な? これだけBB弾の跡があるんだ。流石にどんな無能な奴でも分かるだろ?」

「何故先程から警察の皆様に対する風当たりがやたら強いのかは置いておいて、まあ、分りますね」

 一体過去に警察とどのようなトラブルがあったのか僕は全く知らないが、それはともかくとして、兎鎖木ちゃんの綺麗な白い背中にはあちらこちらに赤い小さな跡が沢山あって、所々から血が滲み出ていた。しかし首筋には一つたりともその傷がない。どうやら兎鎖木ちゃんのパパも服で隠せない所を狙ったらヤバいという事位は分かるらしい――ならば、首筋にあったあの手形は、ついつい頭に血が上ったのだろうか。いや、ついつい頭に血が上って、なんてこの兎鎖木ちゃんのパパが言い訳した暁には取り敢えず僕は一発ぶん殴るが。

「おいおい瓦礫、気持ちは分かるが流石に殴ろうとするのはどうかと思うぞ……。道中もお前は度々通行人にぶつかっていたが、ああいった感じで鑑賞したら、また時間を戻すと同時に全て影響しだすからな」

「つ、つまり……?」

「お前が今殴れば、時間を進ませると同時にこの親父は吹っ飛ぶ」

 そう言いつつその兎鎖木ちゃんのパパの右腕を掴んでズルズルと引きずり、兎鎖木ちゃんの繋がれていた腕輪を嵌める。それから南京錠でがっちりとロックし、それからまるでマジシャンのように鍵をグニャグニャに湾曲させ、パチンコ玉位の大きさの鉄球を作った。

 一体この人はどれだけ怪力なんだ。いや、これも魔法か? ……本当になんでもありなんだな、魔法って。

「さあて、こんな感じかな?」

 手をパンパン、と払いつつ、自慢気に胸を張る柵さん。その視線の先には、手錠に繋がれた兎鎖木ちゃんのパパと、両手両足を土下座の体制のまま柵さんに縛られた兎鎖木ちゃんが、出来上がっていた。そして兎鎖木ちゃんがそれでも尚暴力を振るわれないように、その二人は手が届かない位に距離が開いていた。

「流石にこの糞親父も、いきなり右手が腕輪に括りつけられた状態になっても尚、暴力を振るうとは思えんが……まあ、一応だ」

兎鎖木ちゃんのパパを忌々しそうに睨みつつ、吐き捨てる柵さん。

「でも、もし兎鎖木ちゃんが自分の意志で兎鎖木ちゃんのパパの腕輪を外したら、少し危なくないですか?」

「いや、それは無いだろ。というか、それも考えて、兎鎖木ちゃんは手足の自由を奪ったんだからな。動物じゃあるまいに、口で鉄の鎖を引き千切る訳無いだろ?」

「ま、それもそうですね」

 というか、口で鉄の鎖を引き千切る動物なんて僕は知らないが、果たしているのだろうか。

「さて、じゃあ私は今から時間を進めて、それからすぐに警察をここに呼ぶが、瓦礫はどうする? 別にここで二人を見ていても良いし、私と一緒に来ても良いぞ?」

「ん……。いえ、別にこの二人を観察していても兎鎖木ちゃんのパパを殴ってしまいそうなだけですので、柵さんと一緒にいます」

「ふふふ、そんなに私と一緒にいたいのか? 可愛い奴だなっ!」

 僕は別にそんなつもりで言ったわけではないのだが、勝手に喜んで抱き着いてきた。正直、季節が季節なので暑苦しい。まあ、別に嫌な訳では無いのだが。

「あ、あの、柵さん……。せめて、現代に戻ってからにしましょうよ」

「ん? ああ、すまんすまん。つい嬉しくて、抱き着いてしまった」

 犬かよ。

「さて、じゃあこの家から出ないとな。流石に不審者だろ」

「いえ、浴衣の成人女性という時点で相当不審者です。って、ちょっと待って下さい。一体どうやって通報するのですか?」

「ん、通報の仕方? そんなもの、普通に言えば良いんだよ、隣の家から虐待のような悲鳴が聞こえる。って」

「でも、そんな程度で来ますかね?」

「はっはっは、その点は大丈夫だ、魔法で何とかする」

「本当に魔法って便利ですね……」

 もう違和感を憶えなくなっている僕は末期なのかもしれない。

 どうも、サバです。前回の話を読んだ人はクローバーの花言葉を検索した人もいらっしゃるかもしれませんが――あ、いませんか? すいません。

 まあ、それはおいておいて、とうとう不法侵入までしてしまいましたね、この二人は。しかも家探し。完全に魔法の無駄遣いです。

 そうそう、時を止める魔法と聞いて皆様は一番最初に何が思いつきますか? 私は『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画の、DIOですね。ええ、ザ・ワールドです。その次は、『もしも昨日が選べたら』という、外国の映画です。あの映画は個人的に号泣しましたね。まあ、ほかにも『魔法少女まどか☆マギカ』に出てくる暁美ほむらだったり、『上海アリス幻樂団』の中のゲームに出てくる、十六夜咲夜だったり、まあ他にも沢山ありますが、いまパッと浮かんだのはその程度ですかね。

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