魔法使いとガレキのサミット
締め切りに何とか間に合ったー!
あの後色々話していたが、三十分としない内に梨澄は眠たいと言って引っ込み、また兎鎖木ちゃんが出て来た。しかしどうやら梨澄が出てきている間兎鎖木ちゃんの記憶の処理は『居眠り』ということになると梨澄が言っていたので、僕はなるべく兎鎖木ちゃんに気を使わせないように急いでパソコンを立ち上げ、小説を書く振りをしていた。勿論、僕のブレザーを兎鎖木ちゃんの背中に掛ける事も忘れない。というか、僕はただ梨澄の言う通りにしただけなので、一体この動作にどのような意味があるのかは全く知らないのだが、しかし兎鎖木ちゃんに謝り倒されるという事は無く、顔を真っ赤にして俯きながら、僕にブレザーを渡してくれた。まあ兎鎖木ちゃんに謝り倒されるとこちらとしてもかなり罪悪感で押し潰されそうになるので、梨澄の言う通りにしておいて正解だった。少なくとも、梨澄を命の恩人レベルに感じる位は、感謝している。
だって、考えてみて欲しい。凄く大人しそうな、そして怯懦な性格の兎鎖木ちゃんが涙をボロボロと流し、怯えながら謝ってくるのだ。
罪悪感に殺されるといっても過言ではない。故に、命の恩人という訳だ。
そしてそれから五分程僕は思いついている分だけ書き、そして書いた文を校正し、パソコンを閉じた。そしてそれから僕は兎鎖木ちゃんにまた色々と訊こうとした。しかし窓の外はすっかり夕暮れに染まっていて、というか第一、梨澄ちゃんから遠慮なく色々と訊き出していたので、僕は兎鎖木ちゃんと共に部室を出て、本来なら兎鎖木ちゃんが当番なのだが、梨澄に言われた通りに僕が鍵を返しに行くからと言って、兎鎖木ちゃんを先に帰らせた。一体何故僕が兎鎖木ちゃんの代わりに返しに行くと言って、兎鎖木ちゃんに礼と謝罪をされなければならないのかは全く分からないが、しかし兎鎖木ちゃんに礼を言われる事自体は嬉しいので、気にしない。
さて、そうして家に帰って来た僕は取り敢えずシャワーを浴びて汗を流し、そして清潔な状態にしてから携帯電話を取った。勿論、今回兎鎖木ちゃん以外の人格を根本から消す為に欠かせない人物と、交渉するためである。というか、それを抜きにしても、不潔な状態で人を家に招くのはかなり気が引けるので、どの道シャワーは浴びていただろう。
そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。どうやら、来たようだ。
僕は思わず下がってしまう口角を必死に吊り上げ、なんとか愛想笑いをしつつ、玄関の扉をゆっくりと開けた。
「ど、どうも、柵さん」
「……瓦礫、何をニヤついているんだ。気持ち悪いぞ」
と、僕の必死の愛想笑いに対して口を開けるなり文句を言って来たのは、僕の父親の再婚相手である、時標柵だった。
まるで闇を切り取ったような漆黒の髪。しかし肌は対照的に白く、その大きく黒い瞳や、その身に纏っている艶やかな睡蓮柄の着物も相まって、まるで日本人形のような美しさだった。無論、日本人形はこんな風に怪訝そうな表情は浮かべないが。
「いや、それよりも何で私をこんな時間に呼び出したんだ。今日は一日、家で結衣さんといちゃいちゃしようと思っていたのに、お前は本当に空気の読めない奴だな、瓦礫」
「お前と父さんの恋路なんか知るか」
「妹か弟、どっちが欲しい?」
「お前の教育方針は何か!? 性教育を施していくスタイルか!?」
「いやいや、高校生なら性交して子供が生まれることくらい、知ってるだろ。……まさか、知らなかったのか?」
「し、知ってるけれど、そういうのを堂々と息子の前で言うなよ……」
「でも、義理の妹が出来たら、ギャルゲーぽくね?」
と、そんな益体もないことを喋りながら僕と柵さんは家に上がり、僕は椅子に、柵さんは僕のベッドに座った。
「で、そろそろ本題に入りたいんですが、良いですか?」
「ああ、いいぞ。今回の件はなかなか重要なんだろう?」
そうして、今に至るという訳だ。
「な、何でですか!?」
「何でって、そんなことをしても根本的解決にならねえからだよ」
僕は今回、魔法使いである柵さんに軽く時間を止めて貰い、その間に兎鎖木ちゃんの家に侵入。そして兎鎖木ちゃんのパパを縄などでどこかに括りつけておいて、時間停止を解除。それから警察を呼んで――という作戦だったのだが、柵さんは根本的解決にならない、と言っている。
「良く考えてみろって、瓦礫。兎鎖木ちゃんの中にある人格が、それで消えるか?」
「そ、それは消えませんよ。でも、現状を保てば、皆救えるんじゃありませんか?」
僕が羽織先輩に誓った方法を実現するためには本当にこの手段しかないのだが……。
「うーん、瓦礫、凄く言い難いんだが、その兎鎖木ちゃんとか言う奴、そんなことしても意味ないぞ? だって、兎鎖木ちゃんとか言う奴に梨澄とかの人格が一人でもいたら、そのうち死ぬから」
「し、死ぬ!?」
二章目にとうとう突入しましたが、まさかのタイムスリップです。そういえばタイムスリップといえば、皆さんはどのような作品が思い浮かびますか? 私はバックトューザヒューチャーと、まどか☆マギカが思い浮かびます。
だから何だ。