臆病ウサギと勇敢なリス
どうも、今度こそ鼻血が止まりました。サバです。
しかし最近は――というか、今朝からずっと執筆をしていました。だからなのか、タイピングの速度が無駄に早くなっています。
一回帰宅したのに、また学校に来るというのはなかなかどうして面倒臭かった──僕、時標瓦礫は木々と一緒に、もう一度稲穂高校に来ていた。
それにしても、何と言うか、とことん運動系に力を入れている高校である。私立だから名前を売って生徒数を増やして儲けようとしているのかどうかは一生徒であり、しかも別にそういった情報は知らない僕の勝手な妄想になってしまうが、それにしたって、グラウンドでタイヤを引っ張っているサッカー部や、一キロ先まで届きそうな野球部のランニング時の掛け声や、そういった風景は見えるのに、文科系は皆ひっそりと活動している。無論、部費は生徒会長である羽織先輩が調整しているので、そこは平等だが。
僕はそんな事を、野球部の声を訊きつつ思っていると、隣で携帯電話を弄っていた木々が携帯電話をハンドバッグに仕舞いつつ僕に話しかけてきた。
「もう一度メールを読み返してみましたが、羽織先輩がどのような状況なのかは分かりませんでした」
「いや、あのメールから分かるのは羽織先輩の脳味噌が相当末期だということだけだと思うが……」
僕は微笑というより、引きつった笑いを浮かべつつ、自分の携帯でメールを見る。うん、完全に小学生が作りそうな暗号だな。
狸って。
た抜きって。
「それにしても、何故急に集合なのでしょうか? あ、いえ、別に羽織先輩を疑っている訳ではありませんよ」
顔の前で両手を振って否定する木々。しかし、思いっ切り疑っている僕からしてみれば何でそんな風に弁解をするのか分からないが、しかし恐らく皮肉だろうという結論に至った。しかし、本人不在なのに皮肉を言って一体何になるのだろう。
僕は首を横に振りつつ、適当に答える。
「さぁ、僕にも分からないが……。多分、何かしらのトラブルがあったんじゃないか?」
正直、あの羽織先輩なら、僕らが部室に着くまでにトラブルを解決してそうだけれど。
誇大評価かな? と思わなくも無いが、しかし不在なのだから、いつもは言えないようなことを、木々に習って言ってみるのも良いかもしれない──いや、木々と僕じゃ言ったことに天と地の差があるけれど。
「そうですね、たまにはそういうのも良いかもしれません」
といって、木々も頷いてくれた。
「例えば、羽織先輩の胸の大きさについて──とか」
「そういうんじゃねぇよ」
それに木々はいつも無表情でもっと濃い下ネタを口走っているので、羽織先輩の胸の大きさ程度の話題、言えない筈が無いのだ。
「でもでも、あれは最低でもEはありますよ?」
「ん、あれ、そこはカップじゃなくてセンチじゃないのか?」
「あぁ、全く、時標さんは分かっていませんね。このアナリスト」
「別にアナリストは悪口じゃないと思うんだが……」
「カップは、乳房全体が範囲です。しかし、胸囲は背中の肉も含まれる為、正確ではないのですよ」
「へぇ……」
また一つ、無駄な知識が増えてしまった。最悪である。
「しかし、ブラジャーを着けない男性からしたら、カップよりもセンチの方がまだ分かりやすいぜ?」
「え、着けないのですか?」
「当たり前だろ!? お前は僕を何だと思ってるんだよ……」
そう言えば男性用ブラジャーという物もあるらしいが、男性用だろうが女性用だろうが僕にそんな趣味はない。
「ふむ、左様ですか……」
そういって、ようやく納得したようだ。木々は腕を組んでしばらく思案する。が、一分程でポンと手を打った。どうやら何か思い付いたようである。
「では、羽織先輩に触らせて貰うのは?」
「却下だ!」
一分間考えた結論がそれかよ。
「大丈夫ですよ、時標さん。ちゃんと許可を取れば良いのです」
「無理に決まってんだろ……。つーか、お前なら僕が揉ませてくれと言ったら揉ませるのか?」
「当たり前です。愚問ですね、この時標瓦礫」
「僕の名前を侮蔑語みたいに扱うな!」
即答だった。
「何なら今この場で揉んでも良いですよ?」
そういって、得意気に僕へと胸を突き出す木々。しかし非常に残念なことに、羽織先輩曰く、木々はAAらしい。なので、最早悲しくなる位に小さな胸を見せ付けられても特に劣情を抱かない訳で……。
閑話休題。
タイムテーブルは少し前へと遡る。
あの後、僕と木々がまたもやギャグパートに突入しようとした瞬間、まるでそれを全力で妨害するかのようなタイミングで僕と木々の携帯電話が鳴った。その時、木々の着信メロディが某配管工の兄弟が死亡した時の音だったのは置いておいて、そのメールが羽織先輩からのもので、三次元の狸の写真と共に、『多分芸太ブタン煮た当た積まれた』という文面のメールが一斉送信で送られてきた。僕と木々は取り敢えず読み、写真を見て、それから無言で顔を見合わせた。しかし万が一ということで僕は、木々が来るまでしていた問題集の開いているスペースにボールペンで文面を平仮名で書き、それから『た』を抜いた。
『文芸部に集合』だそうだ。
……あの人、高校三年生だよな?
そうして、今に至るという訳だ。
「トラブル、ですか。何やら嫌な予感がしますね」
「嫌な……予感?」
木々のこの予感はこの後、見事的中するのだが……。そのことを知らない僕は、ただ木々の言葉を復唱するしかなかった。
「えぇ、羽織先輩のことです。もしかしたら、非常さんが火傷したとか、寝顔が超絶可愛いからとか──第二の人格が出てきたとか」
「ま、まさか。そんな、ご都合主義な展開、ある訳……」
「さて、どうでしょうね……。ですが、取り敢えず急ぎましょう」
丁度、下駄箱に着いた訳ですし。といって、木々は靴を自分の場所に入れて、上靴を取り出した。
そういえば、僕は半袖のパーカーと長ズボン。どちらも暗い色だ。そして木々は黒を基調として淵が白くなっているワンピースと、小さな白いハンドバッグ。つまり、二人ともプライベートの服のまま来てしまったのだ。流石に事情を説明すればそこまで怒られないとは思うけれど、しかしそれでも、何も考えないままに押っ取り刀で来た僕の所為で、優等生の木々まで怒られるのは忍びない。でも人がそんなにいないから、多分大丈夫だろう。そう思って靴を脱いで下駄箱の戸を開けると、一枚の茶封筒が僕の足元に落ちた。
「もしや、恋文ですか? 時標さんは血液滴る良い男ですからね」
そういいながら木々は屈むと、僕に何の断りもなく勝手に検分し始めた。しかし中身までは見ないようで、太陽に透かしたりしているだけだった。
つーか、血液って。
死んじゃうよ。
「ふむ、やはり恋文ではないようですね」
そういって、両手を拡げる。どうやら初めから恋文ではないことが分かっていたらしい。何気に失礼である。
「そういえば、さっきから言ってるけど、恋文って、言葉が古くないか?」
「そうですか? では、婚姻届に訂正しましょう」
「怖いわ」
朝、学校の下駄箱開けて婚姻届があったら恐怖だよ。
「しかし、何にせよ、開けて中を見ないと分かりませんね。百聞は一見に如かずですよ」
そう言うや否や、木々はどこからか取り出したペーパーナイフで開封した。そのことに対して言いたいことは山程あるけれど、今回は許してやろう。
そうして見事綺麗に開封した木々は、封筒の中に入っていた一枚のコピー用紙を僕に手渡してきた。
「どうぞ、時標さん。私のではなく、時標さんの下駄箱にあったのですから、これは時標さんが読むべきです。私は横からサッと読ませて貰いますので、お気遣い無く」
それなら検分するより前に僕に封筒を渡せよ。と言いたくなるが、しかし今はこの手紙の方が気になるので、僕は受け取った。流石に婚姻届は無いにしても、ラブレターなのでは? という期待をしている僕だった。しかし現実はかなり残酷で、中からはA4のコピー用紙が出てきて、中には綺麗な字でこんなことが書いてあったのだが。
『この手紙を発見出来たということは、私からのメールを解読出来たということだな。褒めて遣わす!』
と、何故か筆ペンで書かれていて、左下に羽織先輩の名前が書かれていた。どうやら、そこまで切羽詰まったトラブルではないらしい。少なくとも、この手紙を僕の下駄箱に入れる位の余裕はあるのだろう。
僕は溜息を吐いてから、手紙をもう一度木々の持っていた封筒に入れて、自分の下駄箱に入れてからドアを閉じた。
正直、今、僕の中では帰宅しても何も問題ないのでは? という考えが浮上してきている。何故なら、トラブルが仮にあったとして──百歩譲ってトラブルだったとして、羽織先輩が余裕綽々なのがこの手紙で分かったからである。というか、余裕綽々じゃない状況で、流石にこんなことはしないだろう。そう思いたい。
そんな事を心の中で願いつつ、僕も上靴を履いてから、すでに一人でてくてくと歩き出していた木々に小走りで近付き、横に並ぶ。無論、スパイのようにコソコソと、泥棒のように抜き足、差し足、忍び足で──なんて、逆に怪しまれかねないことはせず、僕と木々は普通に部室へと歩き出したのだが、しかし偶然にも廊下で誰ともすれ違う事無く、部室前に来ていた。
「やぁ、昨日振りだな。瓦礫に、木々」
私服は校則違反だぞ? と、少し眉を潜めて羽織先輩は言った。
どうやら僕らが来る前から待っていてくれたらしく、凭れていた壁から離れると、僕らの前に立つ。
「す、すいません」
僕が慌てて謝ると、羽織先輩は何故か溜息を吐いた。
「いや、今は君達に説教をする時間は無いし、それに、君達の事だ。押っ取り刀でここに駆けつけてくれたからなのだろう?」
すまない。といって微笑む羽織先輩。しかしその笑みも相当疲れ切っていて、今にも貧血で倒れそうな位だった。髪とかボサボサである。一体中で何があったのか知らないけれど、一気に部室に入りたくなくなった。
「ん? あぁ、いやいや、これは私が梨澄くんを抱きしめようとしたら暴れられただけだから、心配しなくて良いぞ?」
「貴女、まさかそれがトラブルとかじゃないですよね!?」
「はっはっは、まさかそんな訳無いだろう。私がそんなキャラクターに見えるか?」
「見えます」
「私も見えます」
「あるぇー?」
一瞬でも羽織先輩の心配をした僕が間違っていた。
閑話休題。
「で、トラブルというのは結局、何なんですか? ふざけた内容だったら、帰りますからね」
「解離性同一性症候群」
「……はい?」
「いや、だから、解離性同一性症候群」
僕がフリーズしていると、木々が横から耳元で囁いてきた。
「多重人格のことですよ……」
「分かってるよ!」
お前に散々馬鹿にされたからな!
折角閑話休題したんだから、もう一回閑話を始めないで頂きたい。
と、僕は叫んだ。しかも結構な大声で。その声に反応したらしく、文芸部の部室の中から、ゆっくりと誰かが出てきた──いや、違う。昨日は下ろしていた髪の毛を今はポニーテールなのだから分からなかったが、良く見てみれば、兎鎖木ちゃんだった。
ポニーテール……ポニーテール!? え、マジで!? うわ、可愛過ぎるだろ!
と、僕のテンションが急上昇しかけたものの、しかしすぐに僕は冷静になる。
「う、うわ、ぁああああああああ!」
兎鎖木ちゃんは目を見開くと、後ろにお尻から倒れ、その後もすぐに四つん這いになると、まるで化け物から逃げるかのように部室へと入っていった。
そう、兎鎖木ちゃんに驚かれたからである。それも本気で。
兎鎖木ちゃんはその後、部室のドアにしがみ付いてこちらをチラチラと怯えた目で見ていたが、どうやら僕と分かったらしく、目尻に溜まっていた涙を制服の袖で拭い、それからスカートに着いた埃をパンパンと手で払ってからこちらへトコトコと歩いてきた。……のだが、しかし兎鎖木ちゃんの発した一言に、僕は思わず小首を傾げていた。
「おい、紙収。瓦礫と木々が来るのなら、先に言ってくれよ!」
兎鎖木ちゃんが鋭い目つきで羽織先輩を下から睨みながら、そんな意味不明なことを言ったのだ。
パパかと思ったじゃねぇか。という兎鎖木ちゃんにまぁまぁといった風に手で宥めつつ、羽織先輩はこちらへと話し掛けてきた。
「いやはや、すまないな、二人とも。驚いただろう?」
「え、えぇ、確かに驚きましたけれど──兎鎖木ちゃん、ですよね? 彼女」
僕はそういって、何故か羽織先輩の影に隠れている兎鎖木ちゃんを指差す――よりも早く、羽織先輩は答えた。
「違うぞ?」
彼は梨澄というらしい。と、羽織先輩は言った。
……は?
「……梨澄?」
僕が思わず復唱すると、羽織先輩の影から兎鎖木ちゃん──の姿をした、梨澄が顔だけを出した。
「あ? 呼ん──まさか、パパの差し金か! や、やめろ、こっちに来るな!」
「いや、復唱しただけだよ……」
誰がパパの差し金だ。
「えっと、羽織先輩」
「ん?」
「梨澄って──」
僕は、兎鎖木ちゃんを指差す。
「兎鎖木ちゃんの……第二の人格ですか?」
後書き――といわれても、やっぱり何を書けば良いのかさっぱりわからないので、いっそ吹っ切れて、次回からは自分の好きなゲームの話でもします。




